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東京高等裁判所 平成8年(ラ)2074号 決定 1997年3月26日

主文

原決定を取り消す。

理由

一  執行抗告の理由は別紙のとおりである。

二  一件記録によれば、次の各事実が認められる。

(1) 頭書基本事件の債務者兼所有者丙川松夫は、基本事件係属中の平成六年一一月一四日死亡した。

(2) 西見俊雄は、順次相続放棄の申述をし、相続人が存在しないこととなった。

(3) 抗告人は、東京協和が西見俊雄に対して有する貸金債権を事業譲渡により承継したとして、俊雄の相続人である西見進、西見勲(西見俊雄の兄弟であり、西見俊雄の妻、子及び他の兄弟の代襲相続人らが相続放棄をしたため、各二分の一の割合で相続をしていた。)を仮差押債務者として、平成七年九月二七日、本件競売物件に対する仮差押決定を得た。同年一〇月六日、本件競売物件について、西見俊雄から上記両名への相続を原因とする所有権移転登記及び仮差押えの登記がされた。

(4) 西見進及び西見勲は相続放棄の申述をし、平成七年一〇月一八日、同申述が受理された。

(5) 抗告人は、平成七年一一月一〇日、本件の配当要求をした。

(6) 本件競売物件について、平成八年四月一八日売却許可決定があり、同年六月一八日代金が納付された。

三  以上の事実に基づいて検討する。

(1) 民法九三九条は、「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初から相続人とならなかったものとみなす。」と規定している。相続放棄の効力は相続開始時にさかのぼるものであって、何人に対してもその効力を生じ、相続放棄前にその相続を前提として利害関係を持った者の地位も覆滅されると解するべきである。原決定は、この点を根拠にして、西見進らは、相続放棄をしたことにより相続債務を承継しなかったし、仮差押えの対象である本件競売物件の所有権を相続しなかったことになるから、本件における抗告人の西見進、西見勲に対する仮差押えは実体的要件を欠くことになり、その仮差押えの登記を根拠とする本件配当要求は要件を欠くものと解した。

(2) しかし、民事執行法一九四条が担保権の実行としての競売等に準用する同法四一条一項は、強制執行は、その開始後に債務者が死亡した場合においても、続行することができる旨を規定している。これによれば、民事執行においては、債務者が死亡しても民事訴訟法二〇八条の手続の中断を生ずることはなく、債権者は承継執行文を得ることなく手続の続行ができると解される。そのため、相続人として手続を引き継ぐ者が確定しないまま手続が進行する事態が生ずることは避けられないところである(民事執行法四一条二項による特別代理人は、相続人が存在する間は選任できない。)。

この手続的に不安定な時期に、配当要求の手続をとろうとする相続債権者(被相続人の債権者)は、何人を債務者と特定して申立てをするか苦慮することになるが、配当要求に終期が定められており、その終期を徒過することによって配当にあずかる道が閉ざされてしまうという結果は相当ではない。

(3) 配当要求の手続は、独立の強制執行手続ではなく、第三者の申立てによって開始される強制執行手続あるいは担保権実行としての競売手続に参加して自己の債権の回収を図る手続である。民事執行法五一条一項が不動産の執行手続に配当要求をする債権者に執行力のある債務名義の正本あるいは仮差押えの登記を要求しているのは、虚偽の配当要求を防止することにある。したがって、実体上配当にあずかる資格を有する相続債権者が相続人を債務者として仮差押えの手続をとってその登記を得た上配当要求をしたが、その相続人が相続放棄をしたためにその配当要求の効力を否定されることはない。民法九一五条一項の期間内にされた相続債務に係る仮差押命令において債務者とされている者は、将来確定すべき相続人(あるいは相続財産法人)と解することができる。そのことは、配当要求前に相続放棄の効力が生じている場合にも異なることがないと解すべきである。なお、相続人固有の債権者が、相続が開始したとして相続人を債務者として仮差押えの登記を得て配当要求をした場合に、その相続人が相続放棄をした場合には、その債権者は相続財産から配当を得る実体上の資格がないから、その配当要求はさかのぼって効力を失うことはいうまでもなく、執行裁判所としては仮差押命令の請求債権の記載から容易に相続債権者か否かを判断することができる。

(4) 抗告人は、前記のとおり西見俊雄の相続人である西見進及び西見勲が相続放棄をする以前の平成七年九月二七日、同人らを債務者として本件競売物件に対する仮差押命令を得、同年一〇月七日その登記を経ているから、同人らが相続放棄の申述を受理された後である同年一一月一〇日配当要求をしたものであるとしても、本件は配当要求の要件を満たすものと認められる。

4 よって、抗告人のした配当要求は適法であり、これを却下した原決定は相当でないから取り消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 來本笑子 裁判官 塩月秀平 裁判官 浅香紀久雄)

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