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東京高等裁判所 平成8年(ラ)1703号 決定 1997年3月28日

抗告人 洪比呂子

主文

1  原審判を取り消す。

2  抗告人の氏「洪」を「上野」に変更することを許可する。

理由

1  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙の「抗告の趣旨」及び「抗告の理由」各欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

2  一件記録によれば、抗告人は、昭和60年3月1日に韓国国籍を有する洪正義との婚姻の届出をするに際して、戸籍法107条2項の規定による届出をして、その氏「大崎」を夫の氏である「洪」に変更することにしたが、婚姻以来、公的に必要な場合以外には、洪正義が通称氏として使用していた「上野」を通称氏として称し続け、やがては洪正義において「上野正義」の氏名で帰化した上で、夫婦の氏として「上野」を称する予定であったが、洪正義が交通事故を起こしたために、帰化することが困難となったこと、抗告人は、洪正義との間に、昭和59年8月16日に長男正一郎を、昭和61年7月19日に長女史香を、昭和63年9月12日に二男友郎を、平成6年10月8日に三男喜三郎をもうけたが、子供らには洪正義が韓国国籍であることを知らせておらず、子供らにも学校生活や日常生活において専ら通称氏の「上野」を使用させてきたこと、抗告人は、平成8年5月30日に洪正義との協議離婚の届出をし、その際、戸籍法107条3項の規定による婚姻前に称していた氏である「大崎」への復氏の届出はしなかったが、それは、右「大崎」の氏が母の再婚した相手方大崎耕一との間で昭和51年11月9日に養子縁組をしたことによって称することになったものであって馴染みが薄く、しかも母は昭和61年3月18日に大崎耕一と離婚して旧姓の「四谷」に復していたこともあり、「大崎」への復氏の届出をすることなく、むしろそのまま通称氏として「上野」を使用し続けておれば、一定の期間の経過後には「上野」への氏の変更が許可されるものと信じたことによるものであること、抗告人は、「洪」氏を称することによって外国人と間違えられることが多く、洪正義と離婚した後にあってはそのことに一層の違和感や不便を覚えていること、抗告人の氏を「上野」に変更することは、前記のような経緯に鑑みて、抗告人が親権者となっている子供らの福祉や利益にも適うところであることを認めることができる。

右事実によれば、抗告人が「洪」の氏を称し続けなければならないとすることは社会生活に重大な支障をもたらし、その使用の継承を強制することは社会観念上相当ではないと認められ、既に「上野」の通称氏を使用して10年以上を経過していることよりすれば、抗告人の氏を「洪」から「上野」に変更することには戸籍法107条1項にいうやむを得ない事由があるものということができるから、これを許可すべきものとするのが相当である。

3  したがって、本件抗告は理由があるから、家事審判規則19条2項の規定により、本件申立てを却下した原審判を取り消して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 町田顯 裁判官 村上敬一 末永進)

別紙<省略>

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