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東京高等裁判所 平成7年(行コ)50号 判決 1996年1月30日

東京都北区志茂五丁目三一番二号

控訴人

生駒文俊

右訴訟代理人弁護士

橋本栄三

東京都北区王子三丁目二二番一五号

被控訴人

王子税務署長 森田東輔

右指定代理人

新堀敏彦

古川敞

太田泰暢

石黒邦夫

江口庸祐

主文

本件控訴を棄却する。

訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成四年一二月一八日付けで控訴人に対してした控訴人の平成二年分の所得税の更正処分のうち、総所得金額九六三万五三一五円を超える部分を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

一  本件は、控訴人が被控訴人に対し、被控訴人が平成四年一二月一八日付けで控訴人に対してした控訴人の平成二年分の総所得金額を一億三一八八万五三一五円とする所得税の更正処分(以下「本件処分」という。)のうち、事業所得の金額を九六三万五三一五円とする部分を超える部分、すなわち、総所得金額に算入すべき一時所得の金額を一億二二二五万円とする部分の取消を求めている事案である。

二  当事者間に争いのない事実等及び本件処分の適法性に関する被控訴人の主張は、原判決の事実摘示(原判決二枚目表六行目から同五枚目表五行目まで)のとおりであるから、これを引用するが、被控訴人の右主張によると、本件処分において控訴人の一時所得の金額とされた一億二二二五万円は、次のとおりに算定されたものである。すなわち、控訴人と共栄プランニングとの間で平成二年一二月七日に作成された基本合意書においては、控訴人がその父である生駒元紀から受領すべき本件建物部分の立退料二億五〇〇〇万円を共栄プランニングが控訴人に支払う旨の合意がされているところ、控訴人は共栄プランニングから基本合意書が作成された右同日に二五〇〇万円、共栄プランニング、控訴人及び元紀の間で即決和解が成立した平成三年一月三〇日に一億七五〇〇万円、控訴人が共栄プランニングに本件建物部分を明け渡した同年九月二日に五〇〇〇万円、以上合計二億五〇〇〇万円(原判決にいう本件金員)を受領しているので、本件金員を控訴人の平成二年分の一時所得に係る総収入金額とみたうえ、これから必要経費の額、一時所得に係る特別控除額を控除した一時所得の金額に所得税法二二条二項二号に基づく二分の一を乗じて一億二二二五万円が算定されたものであるというのである。

三  本件における争点は、本件金員が控訴人の平成二年分の一時所得に係る総収入金額に算入されるべきものであるのか否かであるが、この点に関する当事者双方の主張は、当審における主張を次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示(原判決五枚目表終わりより二行目から同六枚目裏四行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人の主張

本件金員は、控訴人に対する本件建物部分の立退料として支払われたものであるが、控訴人に立退料を支払うべき者は本件建物部分の所有者であった元紀である。基本合意書では、共栄プランニングが控訴人に立退料を支払う旨の記載があるが、元紀から本件建物部分を含む本件不動産を買い受けた共栄プランニングが元紀に売買代金を支払い、元紀がその受領した売買代金から控訴人に立退料を支払う手間を省略し、共栄プランニングが元紀に支払うべき売買代金にのうちから元紀が控訴人に支払うべき立退料を控除し、これを控訴人に直接支払うこととしたものにすぎない。

本件金員は、右のとおり、元紀が控訴人に支払うべき立退料であったところ、その支払義務が確定したのは元紀と控訴人との間で平成四年二月一三日に成立した千葉家庭裁判所八日市場支部における本件調停においてであって、それ以前には、控訴人が元紀に立退料の支払を要求していたとしても、その支払義務が確定していたわけではなく、基本合意書においては、立退料の額を二億五〇〇〇万円とし、これを共栄プランニングが控訴人に支払うこととしたのは、控訴人と元紀との間の今後の折衡において、立退料の額が二億五〇〇〇万円を下回ることはないものと予想して暫定的に支払うことにしたにすぎず、控訴人と元紀との間で立退料の支払義務が確定した本件調停が成立する前においては、共栄プランニングから受領した二億五〇〇〇万円は、預かり金であって、控訴人の一時所得となるべきものではない。

したがって、本件金員を控訴人の平成二年分の一時所得に係る総収入金額に算入されるべきものであるとして被控訴人が控訴人に対してした本件処分は違法であって、取り消されるべきものである。

2  被控訴人の主張

本件金員は、基本合意書において、元紀と共栄プランニングとの間で本件不動産の売買契約が締結された平成二年八月三〇日を基準に、その翌日以降、控訴人が本件建物部分に対して何ら占有権原を有しないことを確認するなどしたため、共栄プランニングが控訴人に支払うことにしたものであって、基本合意書には、後日の精算を予定した不確定な支払であるとか、控訴人にとって預かり金であるとか、控訴人の主張に沿う記載はない。

控訴人は、基本合意書の成立後、本件建物部分の立退料などの支払を元紀に対しても請求することができなくなったのに、父の元紀に再三にわたって資金援助を要請したが、その資金援助を受けることはできなかった。

控訴人主張の本件調停も、そのようにして成立したものであって、基本合意書で確定していた控訴人に対する立退料の支払を確認したものにとどまり、基本合意書に基づき支払われた本件金員が、本件調停が成立する以前においては、控訴人にとって預かり金であったという根拠にはならない。

第三証拠

証拠関係は、原審及び当審記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人が共栄プランニングから受領した本件金員は控訴人の平成二年分の一時所得に係る総収入金額に算入されるべきもので、本件処分は適法であったと判断するものであるが、その理由は、当審における控訴人の主張に対する判断を次の二のとおり附加するほか、原判決の理由(原判決六枚目裏六行目から同一一枚目表終わりより三行目まで)と同一であるから、これを引用する。

二  当審における控訴人の主張に対する判断

1  控訴人は、控訴人が本件建物部分の立退料の支払を受けるべき相手方は当該建物部分を含む本件不動産の所有者であった元紀であると主張するが、控訴人の本件建物部分に対する占有権原の有無・態様はともかく、第三者が占有中の不動産を売買する場合に、当該第三者に不動産の明渡しを求めるため立退料を支払う必要があるときは、その支払は、一般的には、売主の買主に対する目的物の引渡義務の前提として行われるものであるから、その義務者は、買主ではなく、売主であるところ、基本合意書においては、控訴人に対する本件建物部分の立退料を支払うのは、本件不動産の売主である元紀ではなく、買主である共栄プランニングとされているが、当該合意書(成立の真正に争いのない甲第二号証)によれば、共栄プランニングは、控訴人と元紀との間の合意に基づく元紀の控訴人に対する金二億五〇〇〇万円の違約金の支払義務を含む元紀の契約上の地位を同人から引き継ぐものとし、控訴人もこれを承諾して、基本合意書は成立しているものであって、以後、控訴人の本件建物部分に対する占有権原が元紀との契約関係に基づいたものであったとしても、当該契約関係が共栄プランニングに引き継がれることにより、控訴人が元紀に対して契約上の請求をする余地はなく、基本合意書にも、控訴人は元紀に対して両者の合意に基づく一切の権利を主張しない旨が明記されているところである。

2  控訴人は、本件金員が控訴人と元紀との間でその後に予定されていた折衝によって立退料の支払義務が確定するまで暫定的に支払われたものであって、その支払の時点では、控訴人にとって預かり金であったと主張するが、基本合意書は、控訴人が元紀に対してその後に立退料の折衝をすることを予定していないばかりか、前示のとおり、その折衝ができないことを前提に成り立っているものであって、本件金員は、元紀の控訴人に対する立退料の支払義務を共栄プランニングが引き継ぎ、その支払義務の履行として確定的に行われたものであるといわなければならない。

三  以上説示したとおりであるから、本件金員につき、これが控訴人の平成二年分の一時所得に係る総収入金額に算入されるべきものであるとして被控訴人が控訴人に対してした本件処分は適法であるから、その取消を求める本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当というべきである。

よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柴田保幸 裁判官 小林亘 裁判官 滝澤孝臣)

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