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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)32号 判決 1995年7月20日

新潟県新潟市新田219番地1

原告

渡辺工業株式会社

同代表者代表取締役

渡辺郡治

同訴訟代理人弁理士

牛木護

薄田長四郎

神奈川県藤沢市湘南台5丁目36番地の5

被告

元旦ビューティ工業株式会社

同代表者代表取締役

舩木元旦

同訴訟代理人弁理士

島田義勝

水谷安男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者が求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成5年審判第19954号事件について平成6年12月5日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

2  被告

主文と同旨の判決。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は登録第604074号意匠(以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。

原告は特許庁に対し、平成5年10月8日、本件登録意匠の登録を無効とすることについて審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成5年審判第19954号事件として審理をした結果、平成6年12月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をなし、その謄本は、平成7年1月19日、原告に送達された。

2  審決の理由の要点

(1)  本件登録意匠

本件登録意匠は、昭和55年7月1日に意匠登録出願をし、同58年4月18日に設定の登録がなされたものであり、その意匠は、願書の記載及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品を「建築用板材」とし、形態を別紙第1に示すとおりとしたものである。すなわち、基本構成を、横方向に連続する長尺の板材の棟側寄りの部分を平坦とした棟側平坦部、及び、この棟側平坦部から上向きに傾斜する傾斜部からなる面板部、並びに、この面板部の両端部に相互に組み手構造をなす凸状の棟側折曲部とこれを包み込む構造のコ字状の軒側折曲部とをそれぞれ形成したものである。次に、その構成各部の具体的態様をみると、棟側折曲部については、棟側平坦部の端部からまず斜め上方に直線的に折り返して山型の突起部を形成し、続いてその山型部の下先端部を軒側方向に向けて延設し、棟側平坦部と略平行となるように2つ折りに折り重ねたU字状の水平突起部を形成し、軒側折曲部については、コ字状部分を僅かに下方に傾斜したものである。さらに、各部を仔細にみると、棟側折曲部においては、U字状の水平突起部の基部下端に、僅かに逆U字状に折り返した小片を形成し、軒側折曲部においては、下隅部に稍丸みを持たせ、コ字状部の下部をへ字状に彎曲させ、先端を上側に折り返して差込み片を形成したものである。

(2)  甲号意匠

登録第351778号の類似第1号意匠(以下「甲号意匠」という。)は、本件登録意匠の意匠登録出願前、昭和52年8月16日に特許庁より発行された意匠公報に記載された意匠登録第351778号の類似第1号であって、同公報の記載によれば、意匠に係る物品を「型材」とし、形態を別紙第2に示すとおりとしたものである。すなわち、基本構成を、横方向に連続する長尺の板材の棟側寄りの部分を平坦とした棟側平坦部、及び、この棟側平坦部から上向きに傾斜する傾斜部からなる面板部、並びに、この面板部の両端部に相互に組み手構造をなす凸状の棟側折曲部とこれを包み込む構造のコ字状の軒側折曲部とをそれぞれ形成したものである。次に、その構成各部の具体的態様をみると、棟側折曲部については、棟側平坦部の先端から斜め上方にく字状に屈曲させて折り返し山型の突起部を形成したに止め、軒側折曲部については、コ字状部を僅かに下方に傾斜させ下隅部を稍開いた鈍角状に、かつ、直線的に形成したものである(3) 本件登録意匠と甲号意匠との比較検討

両意匠は、横方向に連続する長尺の板材の棟側部分を平坦とした棟側平坦部、及び、この棟側平坦部から上向きに傾斜する傾斜部からなる面板部を有する屋根板材において、面板部の両端部に相互に組み手構造をなす凸状の棟側折曲部とこれを包み込む構造のコ字状の軒側折曲部とをそれぞれ形成した点においては、基本構成を同じくするものである。他方、その構成冬部の具体的態様においては、<1>本件登録意匠の棟側折曲部は、棟側平坦部の先端から斜め上方に直線的に折り返しているのに対して、甲号意匠ではく字状に屈曲している点、<2>本件登録意匠の棟側折曲部には、棟側平坦部と略平行となるように2つ折りに折り重ねたU字状の水平突起部を有しているのに対して、甲号意匠にはこれがない点、に差異が認められる。さらに、仔細にみると、<3>U字状の水平突起部の下面に僅かな逆U字状折返し片があるのに対し、甲号意匠にはこの部分がないという差異、本件登録意匠の軒側折曲部におけるコ字状部は、下隅部に丸みを持たせたのに対して、甲号意匠では、丸みはなく鈍角状に稍開いているという差異、本件登録意匠の軒側折曲部における差込み片は、へ字状に彎曲し、先端を折り返しているのに対して、甲号意匠では、下方側に直線的に傾斜し、先端を折り返していないという差異が認められる。そこで、上記の一致点及び差異点を総合し、両意匠を全体として観察すると、前記一致するとした基本構成は、この種の建築用板材においては広く知られた態様のものといえるものであるので(例えば、昭和45年12月11日に登録された意匠登録第325017号「屋根板」の意匠、昭和51年9月25日に登録された意匠登録第438985号「屋根材」の意匠)、形態上の特徴として特に取り上げる程のものではなく、類否判断を左右する要部とはなり得ないものである。これに対して、<1>の棟側折曲部の端部が、直線的に折り返しているか、く字状に屈曲しているかの差異、及び、<2>のU字状の水平突起部の有無の差異は、形態上かなり看者の注意を惹くものといえ、また、同部位は、この種の物品にあっては意匠の創作の主要部をなすものといえるので、これらの差異は、類否判断に大きな影響を与えるものといわざるを得ない。以上のとおり、意匠の創作の主要部において前記のごとき大きな差異が認められる本件登録意匠は、甲号意匠に類似するものとは到底いえない。

したがって、本件登録意匠は、意匠法3条1項3号に該当するものとすることはできないので、本件登録意匠を無効とすることはできない。

3  審決の理由の要点の認否

(1)(本件登録意匠)及び(2)(甲号意匠)は認める。(3)(本件登録意匠と甲号意匠との比較検討)のうち、一致点及び差異点の認定は認め、その余は争う。

4  取消事由

(1)  類否判断の誤り(取消事由1)

審決は、「前記一致するとした基本構成は、この種の建築用板材においては広く知られた態様のものといえるものであるので(例えば、昭和45年12月11日に登録された意匠登録第325017号((甲第4号証))「屋根板」の意匠、昭和51年9月25日に登録された意匠登録第438985号((甲第5号証))「屋根材」の意匠)、形態上の特徴として特に取り上げる程のものではなく、類否判断を左右する要部とはなり得ないものである。」(甲第1号証10頁1行ないし9行)と判断しているが、審決が、「前記一致するとした基本構成」と認定した構成は、「横方向に連続する長尺の板材の棟側部分を平坦とした棟側平坦部、及び、この棟側平坦部から上向きに傾斜する傾斜部からなる面板部を有する屋根板材において、面板部の両端部に相互に組み手構造をなす凸状の棟側折曲部とこれを包み込む構造のコ字状の軒側折曲部とをそれぞれ形成した点」(同号証8頁15行ないし9頁1行)であるから、甲第4号証の意匠と甲号意匠(甲第3号証)とは、棟側折曲部の最初の折り返しラインが直線的に折り返されているか、く字状に折り返されているのかの相違点により、非類似と判断され、それぞれ独立して登録されたことになる。

しかるところ、本件登録意匠の類似範囲の確認のため登録された類似第5号の意匠(甲第6号証記載の意匠、以下「本件類似第5号意匠」という。)の棟側折曲部の意匠と本件登録意匠(甲第2号証)の棟側折曲部の意匠との相違点は、甲第4号証の意匠と甲号意匠との上記相違点よりもはるかに大きい。

その上、審決が本件登録意匠と甲号意匠との差異点とした本件登録意匠の棟側折曲部の意匠と本件類似第5号意匠の棟側折曲部の意匠とは相違する。

したがって、本件登録意匠と本件類似第5号意匠とは本来非類似であると判断されるべきであるのに類似登録されたものである。このように本件登録意匠の類似範囲が拡張されて判断された以上、それ以上に類似の域に入る甲号意匠とは類似と考えるべきである。

したがって、審決の、本件登録意匠は甲号意匠に類似するものとはいえないとした判断は誤りである。

(2)  類否判断の遺脱(取消事由2)

特開昭48-95022号公報(甲第7号証の1、審判手続では甲第10号証として提出。)に記載された意匠(以下「第2甲号意匠」という。)は、本件登録意匠の類似範囲の確認のため登録された類似第4号の意匠(甲第8号証記載の意匠、以下「本件類似第4号意匠」という。)及び本件類似第5号意匠と類似する。

すなわち、本件類似第4号及び第5号意匠は、その基本構成を、横方向に連続する長尺の板材の棟側部分を平坦とした棟側平坦部、及び、この棟側平坦部から上向きに傾斜する傾斜部からなる面板部を有する屋根板材において、面板部の両端部に相互に組み手構造をなす凸状の棟側折曲部とこれを包み込む構造のコ字状の軒側折曲部とをそれぞれ形成したものであるところ、第2甲号意匠の面板部は全体を平坦部とし、棟側折曲部にやや棟側を傾けた立上り部を介して棟側折曲部が形成されている点で本件類似第4号及び第5号意匠の面板部と相違するが、本件類似第4号及び第5号意匠の上記のとおりの基本構成は、この種の建築用板材においては広く知られた態様のものといえるものであるので(例えば、昭和45年12月11日に登録された意匠登録第325017号「屋根板」の意匠、昭和51年9月25日に登録された意匠登録第438985号「屋根材」の意匠)、形態上の特徴として特に取り上げる程のものではなく、類否判断を左右する要部とはなり得ないものである(甲第1号証10頁1行ないし9行)から、両者が基本構成を共通にすることに変わりはなく、また、具体的構成態様も要部である棟側折曲部の形態において類似する。

しかるところ、類似意匠は、本意匠にのみ類似する意匠であり(意匠法10条1項)、それが登録されることによって、本意匠権の効力と合体するものであり(同法22条)、本意匠権から独立した類似意匠権という権利が設定されるものではないから、類似意匠の登録がなされてもそれによって本来の本意匠権の権利範囲が確認されるにすぎない。

したがって、第2甲号意匠と類似する本件類似第4号及び第5号意匠が本件登録意匠の類似範囲の確認として存在する以上、本件登録意匠は第2甲号意匠と類似するから、意匠法3条1項3号に該当し、同法48条1項1号の規定により無効とされるべきであるところ、原告は、審判手続において、原告の主張事実を立証する証拠として、第2甲号意匠が記載された上記公報を提出したにもかかわらず、審決は、これを看過して、第2甲号意匠についての類否の判断を遺脱した。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の反論

1  請求の原因1及び2は認め、4は争う。

2  被告の反論

(1)  取消事由1について

原告は審決の判断のどこに誤りがあるのかについて全く主張していない。

本件登録意匠と類似第5号意匠との類否の問題と、本件登録意匠と甲号意匠との類否の問題とは、無関係である。

(2)  取消事由2について

原告は、審判手続において、第2甲号意匠が本件登録意匠と類似するものであるとの主張はしていない。

すなわち、甲第7号証の1(審判手続においては甲第10号証)は、本件登録意匠の「面板部」において「中央平坦部」と「傾斜部」を備えた形状は、従来より知られていたことを立証するために提出された(乙第1号証10頁参照)ものであり、本件登録意匠の登録の無効原因となり得る意匠を示す証拠として提出されたものではない。

審決において、審理判断されなかった無効原因は、審決を違法とし、又はこれを適法とする理由として主張することは許されない(最判昭51・3・10大判民集30・2・79)から、原告の上記主張は失当である。

第4  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立については、いずれも争いがない。)。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

2  原告主張の審決の取消事由について検討する。

(1)  取消事由1(類否判断の誤り)について

<1>  原告は、審決の本件登録意匠と甲号意匠との一致点及び差異点の認定は認めている。

<2>  審決が本件登録意匠と甲号意匠との一致点として認定した基本構成、すなわち「横方向に連続する長尺の板材の棟側部分を平坦とした棟側平坦部、及び、この棟側平坦部から上向きに傾斜する傾斜部からなる面板部を有する屋根板材において、面板部の両端部に相互に組み手構造をなす凸状の棟側折曲部とこれを包み込む構造のコ字状の軒側折曲部とをそれぞれ形成した点」(甲第1号証8頁15行ないし9頁1行)は「この種の建築用板材においては広く知られた態様のものといえるものであるので(例えば、昭和45年12月11日に登録きれた意匠登録第325017号「屋根板」の意匠、昭和51年9月25日に登録された意匠登録第438985号「屋根材」の意匠)、形態上の特徴として特に取り上げる程のものではなく、類否判断を左右する要部とはなり得ないものである。」(同号証10頁2行ないし9行)ことは、原告は明らかに争っていない。

<3>  審決摘示の本件登録意匠と甲号意匠との<1>及び<2>の差異は、形態上看者の注意を惹くものであって、また、<1>及び<2>の差異が存する部位は、この種の物品にあっては意匠の要部をなすものといえるので、上記差異は、類否判断に大きな影響を与えるものと認められるから、本件登録意匠は、甲号意匠に類似するものとは認められない。

したがって、審決の、本件登録意匠は、甲号意匠に類似するものとはいえないとの判断に誤りはなく、取消事由1は理由がない。

<4>  原告は、本件登録意匠と本件類似第5号意匠とは本来非類似であると判断されるべきであるのに類似登録されたものであり、このように、特許庁において、本件登録意匠の類似範囲が拡張されて判断された以上、それ以上に類似の域に入る甲号意匠とは類似と考えるべきであると主張する。

しかしながら、類似意匠の意匠登録に際して、本意匠との類似の範囲を広く解する判断が特許庁においてなされたとしても、かかる判断が審決における本意匠と他の意匠との類否判断を拘束するものでないことは当然のことであり、原告の上記主張は失当である。

(2)  取消事由2(類否判断の看過)について

原告は、審決が第2甲号意匠について類否判断を行なわなかったことは判断の遺脱であると主張する。

しかしながら、乙第1号証(平成5年10月8日付け無効審判請求書)によれば、本件無効審判請求書の「7.請求の理由」の「(1)請求の理由の要点」の項には、本件登録意匠は甲号意匠と類似するとの主張のみ記載され(2頁)、甲第7号証の1(上記審判請求書においては甲第10号証)については、同じく「(5)本件登録意匠の要部の認定について」の項に「金属製板材を折り曲げて中央平坦部と傾斜部を備えた形状は、従来より知られていたし(甲第10号証乃至甲第13号証)」(10頁)と記載されているだけと認められる。そして、被告は、上記審判請求書に対する答弁書(乙第2号証)では、甲第7号証の1(上記審判請求書においては甲第10号証)あるいは第2甲号意匠については何ら言及していないと認められる。

以上によれば、原告は、本件審判手続において、第2甲号意匠が本件登録意匠と類似するものであるとの主張はしておらず、甲第7号証の1(上記審判請求書においては甲第10号証)は、金属製板材を折り曲げて中央平坦部と傾斜部を備えた形状が従来より知られていたことを立証するために提出されたものであって、本件登録意匠の登録の無効原因となり得る意匠を示す証拠として提出されたものではないと認められるから、本件審判手続において、本件登録意匠の無効原因としては、甲号意匠との類似のみ主張され、第2甲号意匠との類似は主張されておらず、第2甲号意匠と本件登録意匠とが類似するか否かは審理の対象とされていなかったことは明らかであるので、この点について審決が判断しなかったからといって何ら判断の遺脱はない。

また、仮に原告の主張が、第2甲号意匠を証拠として提出している以上、職権をもって第2甲号意匠と本件登録意匠との類否を審理すべき義務があるのにこれを怠ったとの審理義務違反の主張を含むとしても、意匠登録無効審判手続は当事者対立の構造がとられているうえ、第2甲号意匠が証拠として提出された前記経緯に徴すると、これを類否に関する審理の対象にしなかったことが審理義務違反の違法に当たるとは解されない。

したがって、取消事由2は理由がない。

3  以上のとおり、取消事由はいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき違法はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙第1

意匠に係る物品建築用板材

説明 この意匠は正面図において左右にのみ連続するものである。

左側面図は右側面図と対称にあらわれる.

<省略>

別紙第2

意匠に係る物品型材

説明 この意匠は平面図に於いて上下にのみ連続するものである。

背面図は正面図と対称にあらわれる。

<省略>

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