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東京高等裁判所 平成7年(ラ)649号 決定 1995年7月31日

抗告人 フリージアホーム株式会社

代表者代表取締役 奥山治郎

上記代理人弁護士 野中信敬

佐伯美砂紀

相手方 日本建設株式会社

代表者代表取締役 久保松寿

上記代理人弁護士 山川洋一郎

中川明

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

1  抗告人は、原決定を取り消し、相手方の本件申立てを却下する旨の裁判を求めた。その理由は、別紙1≪省略≫のとおりである。

相手方は、本件抗告を棄却する旨の裁判を求めた。その理由は、別紙2≪省略≫のとおりである。

2  記録によると、次の事実が認められる。

(1)  株式会社フレンズオブフリージア(以下「フレンズ」という。)は、平成元年七月二八日、株式会社住宅ローンサービスから三〇億七〇〇〇万円を借り入れ、その担保として、その所有に係る原決定別紙物件目録≪省略≫(2)の1ないし4記載の各土地(以下「本件土地」という。なお、個別には「本件土地1」のようにいう。)に抵当権を設定し(以下「本件抵当権」という。)、同日、その登記を経た。右に際して作成された抵当権設定契約証書において、フレンズは、抵当権者の書面による承諾がなければ、抵当物件の現状を変更し、あるいは価値の減少を来すようなことはしない旨約した。

相手方は、前同日、フレンズの住宅ローンサービスに対する上記貸金債務につき連帯保証した。

フレンズは、平成三年一月頃から利息金の支払いを遅滞するようになり、相手方は、住宅ローンサービスに対し、平成四年三月三一日から平成五年七月三〇日にかけて、フレンズの上記元利金債務につき代位弁済をし、同日、住宅ローンサービスから、上記代位弁済を原因とする本件抵当権の移転を受け、その登記を経た。

(2)  本件抵当権設定当時、本件土地は、フレンズが運営する住宅展示場として利用されており、本件土地上には、木造スレート葺二階建のログハウス一棟(本件土地1及び2の上に所在。以下「甲建物」という。)、旧国鉄から払下げを受けた貨車を改造し、別荘用としたいわゆるワムハウス三棟(一棟は本件土地1の上に所在。以下「乙物件」という。一棟は本件土地2及び4の上に所在。以下「丁物件」という。)が所在していた。これらは、いずれもフレンズの所有に属していたが、建物登記がされることもなく、本件抵当権の目的(共同担保)に供されることもなかった。

(3)  平成二年五月三〇日、抗告人が設立された。抗告人は、フレンズの事業のうちログハウス等の販売部門を独立させたものである。フレンズと抗告人は、支配株主を共通にし、両社の代表取締役は実の兄弟の関係にある、いわゆる同族会社である。

抗告人は、上記会社設立に伴い、フレンズから、甲建物及び乙ないし丁物件を譲り受けた。

(4)  抗告人は、その後、本件土地を住宅展示場として使用してきた。その間、平成三年八月には、丙物件および丁物件を撤去し、同年九月、丙物件を撤去した跡地に新たに原決定別紙物件目録(1)の3記載の物件(以下「本件3物件」という。これも貨車を別荘用に改造したもので、ログマリンハウスと称するタイプである。)を設置した。また、同年九月、乙物件を撤去し、その跡地にワムハウス一棟を設置したが、平成五年五月、これを撤去し、同年七月、その跡地に原決定別紙物件目録(1)の1記載のログハウス一棟(以下、「本件1建物」という。)を建築した。

抗告人は、平成四年一一月五日付で、甲建物について、表示の登記(平成二年六月三〇日新築、裏面の所有者の表示・抗告人)を経た上、平成五年二月二八日、これを相手方に譲渡し(代金五四〇万円とし、支払いは、相手方に支払うべき賃借料月額三〇万円一八か月分の支払いと相殺処理)、さらに、その明渡等について、相手方との間で、同年九月八日に即決和解を成立させた(甲建物についての相手方の所有権確認、平成六年九月末日まで一時賃貸借・同日明渡、使用損害金月額三〇万円、一時賃貸借期間中の第三者の占有、増改築、販売展示目的以外の使用禁止等を内容とする。)。なお、相手方は、前記の甲建物の買取りに際して、本件土地の所有者であるフレンズと念書を交わし、フレンズは、上記買取りを承認し、相手方が甲建物の敷地を無償使用することに異議ないこと、本件3物件は、甲建物の上記一時賃貸借終了と同時に撤去し、フレンズにおいて撤去しないときは、相手方において撤去することに異議ないことを約した。

(5)  抗告人は、平成六年二月一〇日、甲建物を所有者である相手方に無断で撤去し、同年三月、その跡地部分に外観が甲建物に酷似する原決定別紙物件目録(1)の2記載のログハウス(以下「本件2建物」という。)を建築した(このため、相手方は、本件2建物の建築に気付かなかった。なお、相手方は、本件1建物の建築についても気付かなかった。)。

(6)  相手方は、平成六年六月二七日、本件抵当権に基づいて、本件土地につき上記不動産競売の申立てを行い、同月二九日、不動産競売開始決定に基づく差押登記がされた。

(7)  抗告人は、平成六年八月五日、本件1、2建物及び本件3物件につき、表示の登記(所有者の表示・抗告人)を経た上、同月一〇日、抗告人を所有者とする所有権保存登記手続をした。

3  以上の事実関係によると、本件抵当権設定時において、本件土地上には甲建物及び乙ないし丁物件が存在していたものである。

しかしながら、これらの建物等は、もともと建物本来の用に供する目的で本件土地上に設置されたものではなく、専ら本件土地を住宅展示場として用いる場合における展示物(モデルハウス)として用いるために存在していたのであって、販売目的に応じて頻繁にモデルチェンジ・建替えを行うことが予定されていたものである(現に、何回も建替えが実施されたことは、前記のとおりである。)。記録によると、本件抵当権設定に当たり、フレンズの担当者は、住宅ローンサービスの担当者に対し、この趣旨を説明し、このため、住宅ローンサービスとしても、これらは不動産ではなく、したがって、共同担保に取る必要はないものと判断して(金融機関が、融資を行うに際し、抵当権の目的である土地の上に建物が存在する場合には、土地と建物の双方を共同担保とするのが原則であって、土地のみを抵当権の目的とするのは特別の理由が認められる場合に限られるものというべきである。)、本件土地のみを抵当権の目的としたものであることが明らかである。

この事実関係によれば、甲建物及び乙ないし丁物件は、展示用の物件であって通常の建物のように継続して一定の土地に付着させて使用されることが予定されたものではないから、社会通念上、土地の定着物としての建物に当たると認めるべきものではない。そして、法定地上権は、継続的に一定の土地に付着させて使用することが予定された建物に対する資本の投下を保護するために、特別に法律によって定められた制度であるから、上記のような展示用の物件について発生することは予定されていないのであって、これらの跡地に設置された本件1、2建物及び本件3物件のために、本件抵当権の実行に伴って法定地上権を生じる余地はないものというべきである。

のみならず、相手方が、本件抵当権を取得するに際し、甲建物の所有権を取得し、本件3物件の撤去を約させたことは前記のとおりであるところ(前記の即決和解が詐欺によるものであるとか、錯誤により無効であるとかいう抗告人の主張は、全く認められない。)、これらの事実関係のもとにおいて、抗告人とフレンズとが同族会社の関係にあることを考慮すると、抗告人が上記の法定地上権の存在を主張することは、著しく信義に反し許されないものと判断される。

4  そして、前記の事実関係によれば、抗告人は、フレンズが巨額の債務につき履行遅滞の状態に陥り、本件抵当権の実行が間近に迫った時点において、本件1、2建物及び本件3物件につき一斉に表示の登記及び所有権保存登記を経由したものであり、この行為は、競売により売却される土地の買受人に対し、存在しない法定地上権を存在するかのように主張する行為の一環としてされたものであって、フレンズと意を通じて執行妨害の目的でしたものであることが推認できるものというべきであるところ、本件抵当権の目的である本件土地の価格を著しく減少させるものと評価するのが相当である。

そして、このような執行妨害の目的でされた登記のある建物や物件を存置したまま本件土地を売却する場合には、買受希望者が大幅に減少して、土地の買受価格の著しい下落を免れないから、売却前にこれらの建物や物件の収去を命ずる必要があり、民事執行法五五条はこのような収去命令を許容しているものと考えられる。

したがって、抗告人に対し、原決定主文記載の保全処分を命ずるのが相当である。

5  以上の次第で、原決定は、結論において正当ということができるから、本件抗告は結局理由がないものというべきである。

よって、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 田中壮太 杉山正士)

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