大判例

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東京高等裁判所 平成7年(ラ)1184号 決定 1996年9月05日

《住所略》

抗告人

高橋信

右代理人弁護士

村本道夫

濱田弘幸

本田一則

水澤恒男

《住所略》

相手方

石塚巖

《住所略》

相手方

幸正智

右両名代理人弁護士

大江忠

大山政之

主文

一  本件抗告を棄却する。

ただし、原決定主文中「送達の日」を「確定の日」に更正する。

二  抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

一  抗告の趣旨及び理由並びに相手方らの反論

抗告の趣旨及び理由は、別紙一記載のとおりであり、これに対する相手方らの反論は、別紙二記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

当裁判所も、抗告人に、相手方らのために、抗告人の提起した株主代表訴訟の提起の担保として、原決定の定めた額の担保を提供させるのが相当であると判断する。その理由は、原決定の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

付言するに、以上の認定判断によれば、本件株主代表訴訟は、その請求原因に係る主張を大幅に補充、変更しない限り、その請求が認容される可能性は低いものというべきであり、しかも、その主張の重要な部分が抗告人の推測ないし正確とはいい難い伝聞に係る事実に基づくものであることが窺われるのであって、その立証の可能性が低いと予測し得る顕著な事由が認められるのであるが、それにもかかわらず、一件記録によっても、抗告人は、本件株主代表訴訟を提起するに当たり、事実関係を正確に把握するために、事前に会社に対し株主権を行使するなどして事実関係につきそれ相応の調査を行った事実は認められないのである。それゆえ、抗告人は、その請求が理由がないことを知り、又は、これを知り得べきであったのに、必要な調査をしないで、本件株主代表訴訟を提起したものというべきであり、したがって、悪意をもって本件株主代表訴訟を提起したものと推認するほかはなく、この推認を覆すに足りる的確な資料はない。

三  結論

よって、これと同旨の原決定は相当であるから、本件抗告を棄却し、なお、原決定主文中「送達の日」とあるのは「確定の日」の誤記であることが明白であるから、更正し、抗告費用の負担につき民訴法95条、89条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 丸山昌一 裁判官 小磯武男)

別紙一

抗告状

当事者の表示

別紙当事者目録記載のとおり

右当事者間の、長野地方裁判所佐久支部平成7年(モ)第64号担保提供申立事件(基本事件平成7年(ワ)第29号取締役の責任追及請求事件)について、同裁判所がなした決定は、全部不服であるから、抗告を申立てる。

原決定の表示

原告は、平成7年ワ第29号取締役の責任追及請求事件の訴え提起の担保として、この決定送達の日から14日以内に、被告ら各自についてそれぞれ金800万円を供託せよ。

抗告の趣旨

一 原決定を取消す。

二 相手方(被告)の本件申立を却下する。

三 抗告費用は相手方(被告)の負担とする。

抗告の理由

一 原決定の問題点

原決定の問題点は、次の二つに集約できる。

一つは、「原告が問題とする直接の行為は180億円の増資引受」であるとし、「第二 事案の概要」、1にも、増資引受に先行する被告両名の保証(予約)に関する行為を摘示さえしていないという点である。

しかし原告は、本案の第1回口頭弁論期日における裁判官の口頭での釈明に対しても、あるいは準備書面においても何回も、「増資引受は、ミネベアに生じた損害を確定させたという意味しかなく、問題は、それに先行する保証(予約)の過程での被告両名の任務違背行為にある」旨の主張をしている(詳細は後述する)。

従って原決定は、原告の主張の整理を誤った上で、原告に対し「本件代表訴訟は、十分な事実的、法律的根拠を有しない」と論難しているのであって、原告としては、原決定は時間に追われて手抜きをしたのか、或いは代表訴訟そのものに対して途方もない「悪意」を抱いているのか、どちらかとしか理解できない。

二つ目の問題点は、原決定の採用した「悪意」の基準は抽象的に過ぎ、「悪意」の認定基準としては有効に機能しないのではないかという点である。

まず後者の点から検討する。

二 原決定は、結論として、「本件代表訴訟は、原告の主張が十分な事実的、法律的根拠を有しないため、被告らの責任が認められる可能性が低く、かつ、原告の主観的意図にかかわらず、通常人であれば容易にそのことを知り得たと言うべきである。したがって原告の本件代表訴訟の提起については悪意を推認することができる。」とするが、「第二 事案の概要」「3 当裁判所の判断」に示した判断と右の結論がどのような関係にあるのかは全く明らかでない。

原告は右の説示と類似した、「東海銀行代表訴訟担保提供命令申立事件」の判断について、準備書面において特段の異論はないとしたが、本件のような事案までその射呈距離に含まれるという乱暴な結論が導き出されたのは、右の説示が余りにも抽象的であるからと考えられる。

従って原告としては、当審においては右の基準にかわって、より具体的な判断基準を述べた「蛇の目ミシン工業株主代表訴訟担保提供命令申立事件」に関する原審、あるいは抗告審で示された次の枠組みにそって考えるべきであると考える。(但し、このように、本来は本案で判断すべきことを担保提供命令申立事件の審理に組み込むことには強い批判があるし、ましてや本件のような事案でさえ「悪意」といってあやしまない裁判官がいるのでは、その基準はよほど厳格に適用されなければならない。)

「請求原因の重要な部分に主張自体失当の点があり、主張を大幅に補充あるいは変更しない限り請求が認容される可能性がない場合、請求原因事実の立証の見込みが低いと予測すべき顕著な事由がある場合、あるいは被告の抗弁が成立して請求が棄却される蓋然性が高い場合等に、そうした事情を認識しつつあえて訴えを提起したものと認められるとき」に「悪意」が認められる。

右の基準に照らすと、原告の本件代表訴訟の提起は右のどれに該当することになるというのであろうか。

原決定は、原告の主張につき、「具体的にどのような行為が取締役としての責任を発生させるというのか、必ずしも明確ではない」とした上、訴状記載の原告の「主張」について「具体性がない」とする。

「具体性がない」からといって「請求原因の重要な部分に主張自体失当の点がある」訳ではないが、原告は被告の右の趣旨の指摘に対し、平成7年6月15日付準備書面、同年8月28日付準備書面において、「現段階において」可能な限り、具体的な「主張」をしているのであって、原決定はこれを全く斟酌していない。即ち、

「相手方(原告)が本件において最大の問題であると考えるのは、先にも述べたようにミネベアが平成4年4月頃、ミネベア信販の保証を開始するに際し、どのような検討がなされ、どのような手続きが履践されたかである。

この点、相手方(原告)の調査によれば実際は次のようであった。

ミネベアは、平成4年4月以前にもグループ企業の債務の保証をしていたが、それらは申立人(被告)らの指示によって保証書に記名押印がなされた後で、一括して取締役会の承認を求められていたが、これらは違法であるのでミネベア内に設置された経営の合理化等について調査する委員会であらかじめ保証の是非を検討するということになり、右の委員会からミネベア信販の担当者に対してミネベア信販の経営状況等を検討をするために必要な資料を準備するように指示があったが、突然この調査は打ち切りになった。

更に、平成4年3月以前に、既にミネベアによるミネベア信販の債務の「本保証」なり「保証予約」が先行していた可能性が極めて高い(相手方(原告)は従前「有価証券報告書」の注記を信用して、ミネベアの保証は平成4年4月以降であると主張してきたが、その後の調査によって、右の事実が判明した)。

そうすると右に述べた調査が中止されたのは、既に「本保証」なり「保証予約」がなされていたからだとしか考えられないが、そうだとすれば右調査の中止を指示したのは、申立人(被告)らであるとしか考えられないのである。」

より端的に要約すれば、

<1>被告両名は、自分らが役員をつとめるミネベア信販のために、ミネベアの取締役会に事前にはかることなく、独断で保証(予約)をした

<2>ちょうどその頃、ミネベア内に設置された経営の合理化等について調査する委員会で、ミネベア信販に対する保証の是非を検討するため、ミネベア信販の経営状況を調査することになったが、この調査は被告両名の指示によって中止された(としか考えられない)

<3>そして、訴状第三項(債務保証)に記載したとおり、その後の取締役会においてミネベア信販の経営状況について十分説明することなく、強引に次々と債務保証の承認をさせた

という点が被告両名の任務違背行為だと主張しているのである。

確かに原審での原告、被告のやりとりは、被告の雑多な主張に対して、原告が逐一反論を展開したため、分かりにくかったとは思うが、原決定はもう少し丹念に散在する原告の主張を拾い、整理するべきであった。

原決定はこのような作業もせずに原告の主張に対して眼をつぶり、原告の主張を一刀両断に切り捨てたものであって、先述したように原告としては単なる手抜きか、代表訴訟そのものに対して何らかの「悪意」を抱いていたとしか思えないのである。

三 次に、右のような原告の主張は、「立証の見込みが低いと予測すべき顕著な事由がある」であろうか。

これについての原決定の最大の誤りは、原決定の「第二 事案の概要」、2、(二)の事実、即ち「ミネベアのミネベア信販に対する各保証の実行は、こうした状況を踏まえ、必要に応じてミネベア信販から経営全般について報告を受けた上、その都度取締役会で適法に審議し決議したものである。右決議にあたっては、財務担当取締役の三枝経理財務本部長がミネベア信販の状況及びこれに対する保証の必要性について報告し、ミネベア信販の取締役を兼務する被告両名は右保証決議には参加していない」を、「疎明資料によると被告らの主張する事実を認めることができる」としてしまったことである。

原告は、被告らは各金融機関への保証の開始にあたって、「経営の合理化等について調査する委員会」が進めていたミネベア信販に対して保証をすることの是非に関する検討をやめさせ、取締役会にはかることもなく、独断専行して保証(予約)を開始したと主張しているのであって、原告の右の主張が誤りであるというのであれば、被告はその疎明資料(例えば逐時の保証(予約)契約書、取締役会議事録、取締役会に提出された書類等)を容易に提出できるにも拘わらず、これが提出されず、疎乙第20号証でお茶をにごしていることの意味をよく考えるべきである。

原告としては、右の証明は、被告両名を含むミネベアの役員の本人、証人尋問、あるいは今の段階では明らかにできない証人の証人尋問、書証によっておこなう心づもりであり、右の立証ができないとする「顕著な事由」があるはずがない。

四 原決定は「東海銀行代表訴訟担保提供命令申立事件」を下書きにした結果、東海銀行対セントラルファイナンスと、ミネベア対ミネベア信販の関係を似たようなものだと感違いしたらしい。

もちろん原告は、「親会社」が「系列ノンバンク」の支援・救済をして悪いといっているのではなくて、「親会社」が「系列ノンバンク」の再建の可能性を含む現状について十分に調査した上、経営裁量権の範囲間で親会社にとって最もよい支援・救済の方法、具体的な内容を決定したというのであれば何の問題もない。

しかし被告両名のように、ミネベア信販についての調査・検討を妨害し、支援・救済策の内容、方法を取締役会にはかることなく、独断専行して保証(予約)をしてしまった(その結果、ミネベアは、全金融機関に対してミネベア信販の保証をすることを余儀なくされ、ミネベア信販の全損害をミネベアが負担することになる)ということについて「任務違背の責任が認められる可能性が低い」などというのは見当違いもはなはだしい。

なおミネベア信販は、

<1>ミネベアグループとはいえ、呉服の訪問販売のクレジット部門として設立されたものであり、ミネベアグループの営業とは全く無関係であること

<2>「ミネベア」と冠しているとはいえ、資本金はわずか9億2800万円であること

<3>ミネベアとの役員兼務は3人にすぎず、社員も数人が派遣されていたにすぎないこと

<4>被告らがミネベア信販の売上げの増加をはかったのは、ミネベア「本流」からはずされた被告らが、自らの面子のためにおこなったにすぎず、この過程でミネベアの「介入」を拒んでいたこと

等々からすれば、そもそもミネベアがミネベア信販を支援・救済する必要性は乏しいのである。

それにミネベア信販の立ち上がり時にミネベアの保証を求めていた各金融機関が、その必要がないと判断して次々と貸し込んでいった結果、バブル崩壊となって回収不能になりそうだからといって、自らの判断の誤りを棚上げし、その損害を全額ミネベアに負わせようなどというのは筋違いもはなはだしい。

その「要請」(というより、仮にそのようなものがあったとすれば「脅迫」だが)に全面的に従う理由はなく、むしろこれに従うことは、それこそミネベアに対する「任務違背」であろう。疎甲第3号証において、手塚弁護士も、「また取引先、金融機関等の第三者や関係省庁等の『言いなり』に行動したのでなく、親会社の最善の利益のため交渉した事実があるかどうかも重要なポイントとなろう。」と的確に説明している。

五 以上、述べてきたように原決定の誤りは明らかであるから、これを取消し、被告の担保提供申立を却下されたい。

平成7年9月28日

右抗告人(原告)代理人弁護士 村本道夫

同 濱田弘幸

同 本田一則

同 水澤恒男

東京高等裁判所 御中

別紙二

平成7年(ラ)1184号担保提供命令に対する抗告事件

抗告人(原告) 高橋信

相手方(被告) 石塚巖

外1名

平成7年12月19日

《住所略》

相手方(被告)両名訴訟代理人

弁護士 大江忠

同 大山政之

東京高等裁判所第19民事部 御中

答弁書

第一 抗告の趣旨に対する答弁

本件抗告をいずれも棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

との決定を求める。

第二 相手方らの主張

一 従前の裁判例に照らしての原決定の正当性

1 抗告人は、本件担保提供申立事件については東海銀行事件名古屋高裁決定(同高決平成7年3月8日金融法務事情1415号38頁)の判断基準によるのではなく、蛇の目ミシン工業事件東京地裁決定(同地決平成6年7月22日資料版商事法務125号184頁)の判断基準によって判断すべき旨を主張する。しかし、本件の場合蛇の目ミシン工業事件東京地裁決定の判断基準によろうと、東海銀行事件名古屋高裁決定によろうと、いずれにしても抗告人が悪意をもって本件代表訴訟を提起したと認められるべきことは明らかである。蛇の目ミシン工業事件東京地裁が示した判断基準(<1>請求原因の重要な部分に主張自体失当の点があって、主張を大幅に補充あるいは変更しない限り請求が認容される可能性がない場合、<2>請求原因事実の立証の見込みが低いと予測すべき顕著な事由がある場合、あるいは<3>被告の抗弁が成立して請求が棄却される蓋然性が高い場合において、原告がそうした事情を認識しつつ敢えて訴えを提起した場合等に、「悪意」に基づく提起として担保提供を命じ得るとするもの)に従って本件を検討しても、抗告人に悪意が認められるべきことにつき、相手方らは原審においてすでに詳細に指摘した(平成7年8月28日付け申立人ら準備書面第二項及び第三項)。

2 原決定は、抗告人の「悪意」を認定する過程において蛇の目ミシン工業事件等で採用された前記判断基準をも満たすかたちで判断を行っている。具体的に指摘すると以下のとおりである。

すなわち、第一に原決定は、親会社が自社と同一の名称を冠する子会社の債務について金融機関の支援要請を決めたことが責任原因となって相手方らに取締役の任務違反が認められる可能性は低いこと(原決定3(一))、責任原因として抗告人が主張する取締役の行為は具体性・明確性を欠き、かつ相手方らが取締役会に「ミネベア信販(株)の現状と今後」と題する書面(乙5)を提出させ、三枝取締役にこれに基づく説明をさせたとする点も責任原因として具体性のある主張と認められないこと(原決定3(二))、相手方らが強引に次々と保証の承認をさせたとの主張も具体性がないこと(原決定3(二))、と示して、実質的には、抗告人の右各主張がいわば請求原因として失当であると判断している。

第二に原決定は、取締役会において増資引受を決議させる際に相手方らが説明したとする主張事実について疎明がなく、今後有効に立証がなされる見込みが乏しいこと(原決定3(二))、企業の経営悪化について取締役の法的責任を問うことは一般に極めて困難であり、親会社と子会社の取締役兼務を根拠に相手方らに対し親会社の取締役としての責任を追及することはそれにも増して一層困難であること(決定3(三))、と判断したが、これらの判断は実質的には、原審が抗告人の主張する請求原因の立証見込みが低いと予測すべき顕著な事由があると判断したものにほかならない。

以上のとおり、原決定は、事実上蛇の目ミシン工業事件東京地裁決定の判断基準にも適合する判断を行っており、しかもその判断は極めて正当なものというべきである。

3 抗告人は「平成7年6月15日付準備書面、同年8月28日付準備書面において、「現段階において」可能な限り、具体的な「主張」をしているのであって、原決定はこれを全く斟酌していない」という(抗告状5頁7行目ないし10行目)。

そして抗告人は、増資引受に先行する相手方両名の保証(予約)に関する行為を原決定が摘示していないことを論難する(抗告状2頁7行目ないし9行目、6頁14、15行目)。

しかし第一に、決定書の「事案の概要」にどの程度の事実を摘示するかは裁判所の専権事項であって抗告人が論難できる性質のものではない。第二に抗告人の右主張そのものがなお具体性を欠き、かつ、その主張にかかる事実はおよそ存在しない。

二 子会社救済の必要性

子会社が親会社と同一の名称を冠している場合及び親会社と子会社の取引先(金融機関を含む。)が共通する場合に、親会社が子会社を救済する必要性と合理性のあることについて、相手方らは原審において詳細に主張した(平成7年8月28日付け申立人ら準備書面9ないし12頁。甲3の29頁、乙21の34)。

この点を補足すると、平成4年3月時点におけるミネベア信販の金融機関からの借入額は約1895億4607万円にのぼったが、これは平成4年当時のミネベアグループ全体の金融機関からの借入金額計約5008億5300万円(連結決算分)のうち約4割弱を占めるに及ぶ。また、同時期におけるミネベア信販の借入先金融機関は52社あったが(なお、親会社であるミネベアからの借入は除く。)、そのうち株式会社日本長期信用銀行、株式会社住友信託銀行等主要な取引先金融機関13社はミネベア本体の取引先と共通であり(乙20の11頁)、この13の共通の主要金融機関からの借入金は、ミネベア信販の右記借入金全体額の約半分(約910億7200万円)を占めていた。かかる状況下においてもし仮にミネベアが子会社であるミネベア信販の救済を怠ったような場合、これらミネベア及びミネベア信販共通の取引金融機関がミネベアに対する信用ないし信頼を一拳に失くしてミネベア本体に対する融資等を差止める等の行動に出る虞れがあり、またミネベアの取引金融機関のうちミネベア信販と共通しないものにあっても、子会社救済という社会的責任を全うしないミネベアに対し同社との取引を停止してくる危険があった(乙20の10頁から11頁)。

なお、抗告人はミネベア信販を救済する必要が乏しかった理由として、ミネベア信販は、<1>その営業がミネベアグループの営業と無関係であること、<2>ミネベアとの役員兼務者及びミネベアからの派遣社員が少ないこと、<3>資本金額が少ないこと等をあげるが、いずれも理由となり得ないもので失当である。

即ち、まず、親会社と子会社でその営業の内容が異っていても、ミネベアとミネベア信販がその商号を共通にして共同の信用基盤に立脚しており、かつ多くの金融機関を共通の取引先として共有しているなどの状況においては、子会社救済の必要性及び合理性が存在するのは取引社会の常識である。

また、本件のように親会社と子会社が商号及び取引先を共通とするような場合においては、子会社の資本金が親会社のそれと比して少ない場合あるいは親会社と子会社の役員の兼務が比較的少ない場合であっても、親会社が商号及び取引先の共通する子会社の救済を怠れば親会社ないしその企業グループ自体が危機に瀕することも取引通念上予想される。

したがって、抗告人が上記<1>ないし<3>にあげた点は、子会社救済の必要性及び合理性に何ら影響を及ぼすものではない。

三 保証及び増資引受の決定過程

ミネベアがミネベア信販の債務につき保証し、増資引受を決定するに当たっては、取締役会及びその前提となる稟議等で適法かつ十分に審議されており、右保証及び増資引受の決定過程において、相手方らに善管注意義務違反も忠実義務違反も認められない。

1 ミネベアがミネベア信販の債務につき保証するに当たっては、ミネベア信販からミネベアに対し、保証先の金融機関、保証金額、保証開始予定日時等を特定しミネベアによる保証の必要性を具体的に示して保証依頼をし、これに加えて保証依頼に至るまでのミネベア信販と金融機関との交渉の経緯において出てきた具体的な事実ややり取りも明らかにされた(乙20の12頁から13頁)。かかる保証依頼を踏まえて、ミネベアの各担当部及び各担当役員が保証依頼の内容及びミネベア信販の状況を検討・確認し、ミネベアの代表取締役らの決済を経て(同14頁から16頁)、ミネベア信販の債務に対する保証の件は、ミネベアの取締役会に議案として提出され、その都度適法かつ十分な審議を経て承認可決されてきた(同17頁から20頁)。

平成5年6月25日のミネベア取締役会において増資引受の承認決議がなされるに当たっても、ミネベア信販の債務保証の際の稟議手続の場合と同様、詳細な検討がなされ、増資引受を行うことがミネベアとミネベア信販にとって必要かつ合理的であることが確認された上で、ミネベアの取締役会は適法かつ十分な審議を経て増資引受の承認決議を行った(乙2、乙3、乙4の1ないし4、乙20の20頁から22頁)。しかも、慎重を期して相手方らはミネベア信販の取締役を兼任していることから、ミネベアの取締役会では決議に参加していない(乙2)。

2 また、必要に応じてミネベア及びミネベア信販の実務担当者がミネベア信販の実務上の問題について実態を報告し検討する会合を開き、この会合の参加者からミネベアに対して、ミネベア信販の営業の状況、債権の内容、金融機関からの借入れの内容等、ミネベア信販の経営全般につき詳細に報告され検討が加えられた(乙20の16頁から17頁)。

3 以上のとおりであり、ミネベアが保証及び増資引受を行なったことにつき、相手方らに善管注意義務の違反が認められないことは明らかである。抗告人は、「ミネベア信販の経営状況について十分説明することなく強引に次々と債務保証の承認をさせた」、あるいは「相手方らがミネベア内の委員会に対し、その委員会が行なうミネベア信販の経営状況の調査の中止を指示した」と主張するが、これらはいずれも証拠に基づかない一方的な主張である(「経営の合理化等について調査する委員会」なる委員会も存在したことはない。)。

以上

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