大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成7年(ネ)4833号 判決 1996年11月07日

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

理由

【事実及び理由】

一  控訴の趣旨

1  原判決中、控訴人らに関する部分を取り消す。

2  被控訴人らの控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人らの負担とする。

二  事案の概要

次のように付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由の第二の一のうち、控訴人らと被控訴人らとに関する部分のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決五枚目裏四行目の「少なくとも」を「遅くとも」に改める。

2  控訴人らの当審における新主張

訴外株式会社甲野百貨店は、平成元年一〇月二七日丙川銀行丙田支店から五〇〇〇万円を借り入れ、花子は同訴外会社の債務を連帯保証した。また、訴外丁原商事株式会社は、平成二年三月一日戊田抵当証券株式会社から五〇〇〇万円を借り入れ、花子は同訴外会社の債務を連帯保証した。そして、右の花子の連帯保証債務について、前者につき平成五年五月二一日花子の遺産から五〇〇〇万円の弁済がなされ、後者につき平成六年八月二三日花子の遺産から一〇〇〇万円の弁済がされた。

したがって、被控訴人らの遺留分計算の基礎となる純資産は原審認定額より六〇〇〇万円少ない一億三三七九万六三六六円となり、その結果被控訴人らを除く控訴人らが取得した遺産の純資産額は、原審被告甲野夏子が原審認定額より一〇〇〇万円少ない二八六一万一五九四円、控訴人秋子が原審認定額より五〇〇〇万円少ない三〇三三万七九一六円、控訴人春夫及び同夏夫が各三七四二万三四二八円となる。そして、これに基づき計算すると、被控訴人らが遺留分減殺により花子の遺産に対して取得する持分は、別紙遺留分侵害割合算出表のとおり、原審被告甲野夏子に対し、一万分の五五四、控訴人秋子に対し、一万分の五七〇、控訴人春夫及び同夏夫に対し、各一万分の八三三となる。

三  当裁判所の判断

控訴人らの当審における新主張に対する判断を付加するほかは、原判決の事実及び理由の第二の二のうち、控訴人らと被控訴人らとに関する部分のとおりであるから、これを引用する。

控訴人らは、右純資産のほかに花子が丙川銀行に対する五〇〇〇万円の連帯保証債務及び戊田抵当証券株式会社に対する五〇〇〇万円の連帯保証債務(そのうちの花子の分として弁済した一〇〇〇万円)を負担していたから、これらを花子の純資産の額から控除すべきであると主張する。

しかしながら、保証債務(連帯保証債務を含む)は、保証人において将来現実にその債務を履行するか否か不確実であるばかりでなく、保証人が複数存在する場合もあり、その場合は履行の額も主たる債務の額と同額であるとは限らず、仮に将来その債務を履行した場合であっても、その履行による出捐は、法律上は主たる債務者に対する求償権の行使によって返還を受けうるものであるから、主たる債務者が弁済不能の状態にあるため保証人がその債務を履行しなければならなず、かつ、その履行による出捐を主たる債務者に求償しても返還を受けられる見込みがないような特段の事情が存在する場合でない限り、民法一〇二九条所定の「債務」に含まれないものと解するのが相当である。これを本件についてみるに、仮に花子が相続開始時において控訴人ら主張の連帯保証債務を負担していたとしても、当時、右の特段の事情が存在したことを認めるに足りる証拠は全くない。そうすると、控訴人ら主張の債務額を純資産額から控除することはできない。

なお、控訴人らは花子の遺産から右連帯保証債務につき弁済がされた旨を主張するが、右の特段の事情が本件の相続開始時に存在すると認められない以上、右弁済は、右認定判断を左右しない。

四  結論

よって、原判決は相当であって、本件控訴は棄却を免れない。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 丸山昌一 裁判官 小磯武男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例