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東京高等裁判所 平成7年(ネ)4324号 判決 1996年9月18日

控訴人 久保田福一

右訴訟代理人弁護士 渡邊脩

櫻木和代

被控訴人 明治生命保険相互会社

右代表者代表取締役 波多健治郎

右訴訟代理人弁護士 上山一知

被控訴人 株式会社東京三菱銀行

右代表者代表取締役 若井恒雄

右訴訟代理人弁護士 吉永光夫

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して一億五四二六万四一七八円及びこれに対する平成五年一〇月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  被控訴人ら

主文同旨

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二枚目表三行目の末尾に「原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したので、控訴人から控訴の提起がされた。」を加える。

二  原判決一〇枚目裏七行目の次に改行して、次のとおり加える。

「以上のように、被控訴人らは、本件保険契約及び融資契約を締結するに当たり、本件融資契約の元利累計債務について、控訴人の自己資金による返済の必要がないなどと勧誘し、その結果、控訴人は、それを信用して本件保険契約及び融資契約を締結したものである。したがって、そのような場合には、被控訴人らは、変額保険の運用実績について正確な説明をしなければならないのみならず、本件融資契約の融資期限の更新の条件等についても的確な説明をすべきであったが、被控訴人らは、右の義務を怠ったものである。」

三  原判決一一枚目表三行目の次に改行して、次のとおり加える。

「(四) 被控訴人らは、相続税対策の必要性について、嘘の説明をし、その有効性についても、正確な説明をしなかった。」

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の本件請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一七枚目裏四行目の「加入月別」の次に「全」を加える。

2  原判決二六枚目表七行目の次に改行して、次のとおり加える。

「なお、控訴人は、被控訴人らが、本件保険契約及び融資契約の締結に当たって、本件融資契約の元利累計債務について、控訴人の自己資金による返済の必要がないなどと勧誘した旨主張し、それに沿う≪証拠省略≫(久保田明美の陳述書)を提出し、証人久保田明美も、原審における証人尋問において、右主張に沿う証言をする。

しかし、前掲設計書(≪証拠省略≫)の運用実績欄の「死亡・高度障害保険金」の各金額と前記シュミレーション表の「資金収支」欄の「借入金」の金額を対比すると、控訴人は、運用実績によっては、保険金で借入金を返済できなくなることを容易に理解できたものと認められる。右事実に、反対趣旨の≪証拠省略≫(和田正信の陳述書)及び原審における和田正信の証言を併せると、前掲≪証拠省略≫及び証人久保田明美の証言は、にわかに信用できず、他に控訴人の右主張を認めるに足りる証拠はない。

また、控訴人は、銀行融資付き変額保険においては、契約者である控訴人が投資リスクと融資債務負担のリスクという二重のリスクを負担することを被控訴人らは認識していなかったものであり、そのために説明義務を果たすこともできなかった旨主張する。しかし、前掲≪証拠省略≫(ご契約のしおり・定款・約款)には、契約者が株価の低下等による投資リスクを負う旨明記されているし、また、本件融資契約締結に際して控訴人がその所有の各不動産に根抵当権まで設定しているのであるから、控訴人が融資債務負担のリスクを負担することは控訴人においても容易に理解できたものと認められる。右事実に、前掲≪証拠省略≫(小池正憲の陳述書)、原審における証人和田正信及び同小池正憲の各証言を併せると、和田らが控訴人主張の二重のリスクを認識していなかったとは到底認められない。他に控訴人の右主張を認めるに足りる証拠はない。

さらに、控訴人は、平成二年四月二日の再度の生命保険申込みの際、被控訴人明治生命の変額保険の特別勘定の運用実績の低下について説明すべきであったにもかかわらず、右説明を怠った旨主張する。確かに、≪証拠省略≫(変額保険Q&A)によれば、平成二年四月当時の被控訴人明治生命の変額保険運用利回りが約五パーセントであったことが認められ、また、和田らが勧誘に当たって用いた前掲日経マネー誌の記事「会社別・加入月別全運用成績」(≪証拠省略≫)によれば、保険会社によっては変額保険の運用成績の変動の幅は大きく、一般的には、運用成績が漸次低下する傾向にあること(被控訴人明治生命についてみれば、運用成績は、五五・三パーセントから一四・九パーセントへと漸次低下している。)が認められるが、前記認定の右勧誘に際しての和田の変額保険についての説明(保険金を株式等に投資するので、変動保険等は変動する旨の説明)と当時の変額保険の運用実績の見通し(≪証拠省略≫によれば、平成二年二月当時、総体的に株価の上昇傾向が続くとの見通しを持っていたことが認められる。)を併せると、被控訴人らが平成二年四月二日当時の被控訴人明治生命の変額保険の運用実績が低下していることを説明しなかったとしても、直ちに被控訴人らが説明義務を怠ったことにはならないというべきである。」

原判決二六枚目裏七行目の次に改行して、次のとおり加える。

「なお、控訴人は、被控訴人らは、本件融資契約締結に際して、融資期限の更新の可否や担保権実行の時期等についての説明を怠った旨主張する。しかし、そもそも、前記認定のとおり、本件融資契約の元利累計債務について控訴人の自己資金による返済の必要性がないなどと勧誘した事実は認められない上、融資期限の更新等についても、変額保険の運用実績の悪化等によって本件融資金の返済が計画どおりされなかった場合には、融資期限の更新が認められず、根抵当権が実行されることは、前記認定のとおり、常識的なことであるし、前記認定のとおり控訴人の交渉窓口になっていた久保田明美の経歴(原審における証人久保田明美の証言によれば、同人は、明治大学法学部を卒業後、日本通運やその関連会社で、総務、経理等を担当し、役員にまで昇進したことが認められる。)に照らしても、小池らが本件融資契約の融資期限の更新等について特段の説明をしなかったとしても、直ちに被控訴人らが説明義務を怠ったことにはならないというべきである。」

3  原判決二七枚目表一行目の次に「なお、控訴人は、設計書(≪証拠省略≫)の運用実績の利回りは、特別勘定のそれであって、保険料全体の運用利回りではないから、設計書による説明は、解約返戻金が銀行債務を上回るとの誤解を与える不正確な説明である旨主張する。しかし、≪証拠省略≫には、例示の運用実績は、特別勘定にかかわるものであり、保険料全体に対するものではない旨明記されているし、前掲シュミレーション表(≪証拠省略≫)と設計書を対比すれば、解約返戻金が銀行の借入金を下回っていることは容易に理解できたものと認められるから、控訴人の右主張は、採用の限りではない。」を加え、同行の次に改行して、次のとおり加え、同二行目の「(四)」を「(五)」に改める。

「(四) 加えて、控訴人は、被控訴人らが相続税対策の必要性について嘘の説明をし、その有効性についても、正確な説明をしなかった旨主張する。しかし、前記認定のとおり、和田が示した前掲シュミレーション表(≪証拠省略≫)は、配偶者控除を考慮していない点で相続税の計算が必ずしも正確ではなく、また、運用利回り九パーセントを前提とするものではあるものの、少なくとも変額保険に加入することによって資金収支面におけるプラス効果があること自体はこれを明らかにしたものと認められ、右事実に、前掲シュミレーション表の説明をするに当たり、配偶者控除を考慮していないので必ずしも正確な相続税額ではないと断った旨の原審における証人和田正信の証言を併せると、和田らが相続税対策の必要性について嘘の説明をしたとはいえず、他に和田らが相続税対策について嘘の説明をしたと認めるに足りる証拠はない。」

二  以上によれば、控訴人の本件請求の棄却をした原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 瀬戸正義 西口元)

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