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東京高等裁判所 平成7年(ネ)3353号 判決 1996年10月30日

主文

一  原判決主文一項を次のとおり変更する。

1  控訴人は被控訴人板野學に対し金八〇万円及びこれに対する平成五年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人板野學のその余の請求を棄却する。

二  控訴人のその余の控訴をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、第二審を通じ、これを五分し、その三を控訴人の負担とし、その余は被控訴人板野學の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人板野學の請求をいずれも棄却する。

3  被控訴人板野學は、控訴人に対し、金七〇〇万円及びこれに対する平成五年九月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被控訴人五十嵐二葉は、控訴人に対し、金七〇〇万円及びこれに対する平成五年九月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

控訴棄却

第二  当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり改め、付加訂正するほかは、原判決の「第二 事案の概要」記載のとおりである。

一  原判決三枚目表八行目の次に改行して次のとおり付加する。

「被控訴人板野は、昭和五五年四月二六日にいわゆるKDD事件により業務上横領罪により起訴され、昭和六〇年四月二六日に言い渡された一審判決において一部無罪となり、平成三年三月一二日の二審判決では、さらに一審判決が一部有罪にした交際費による物品購入についてはすべて無罪となり、KDD所有の美術品等を自宅に持ち帰っていたとされる起訴事実の一部が有罪となり、その後平成六年一〇月二五日までに上告審の決定により、右の有罪が確定した(乙二二ないし二六)。」

二  同七枚目表四行目の「良識を」を「良識をすら」と訂正する。

第三  証拠(省略)

第四  当裁判所の判断

当裁判所の判断は次に改め、付加削除するほかは原判決「第三 争点に対する判断」記載のとおりである。

一  原判決八枚目表一一行目の「交際費」を「右交際費」と改め、同裏一行目の「抱かせる」の次から同二行目末尾までを次のとおり改める。

「おそれが強い不正確な記載である。したがって、右記事の冒頭から右「交際費で落としていた。」までは被控訴人板野の社会的評価を低下させる事実の摘示というべきである。しかし、「このように会社の経費を自分のために使ったり、不正で会社に大きな損失を与えたりすると業務上横領罪、特別背任罪に問われる。」との記載は、一般論として、例示のような行為が右各罪に該当する旨述べたものと解するのが相当であり、これはおよそ名誉毀損の対象となるものではない。」

二  同九枚目裏一行目の「掲載されたもの」の次に「(日本大学教授板倉宏執筆にかかるものであることの表示がされ、その顔写真、経歴等も記載されている。)」を、同一〇行目の「できる」の次に「(いわゆるゴーストライターの執筆による著作であっても、これについて自らを執筆者として表示することを許諾した者が、その内容について責任を負うべきことは論をまたない。)」をそれぞれ付加する。

三  同一一枚目表四行目の「記事の文脈に照らせば」を「前記のとおり」と改め、同七行目の「及び」から同九行目の「)」までを削除し、同裏一行目の「<1>」の次に「の」を加え、同四行目の「資料にすぎない。」を「新聞記事にすぎず、これをもって真実の証明があったとはいえず、他に右事実について真実であると認めるに足りる証拠はない(およそ新聞記事の内容が真実に合致するとの経験則は存在せず、このような不正確な情報源による記述をする際には、そのニュースソースを明らかにすべきものである。)。」と改め、同四行目の「<2>」の次に「の」を加え、同五行目の「第一審判決」から同九行目の「二六)、」までを「第一審判決の量刑理由の中で述べられている(乙二三の二〇四頁)にすぎない。」と改め、同一一行目の二六頁の次に「)。」を加える。

四  同一二枚目表四行目の「確定している。)。」を「確定しているところであるが、婦人肌着の事実が「自分の下着云々」と同一性があるとはいえず、かつ、このような表現に言い換えることが許されるような事由は認められない。したがって、<2>の「下着まで云々」の記載については、真実の証明があったと認められず、その余の記事は第一審判決の量刑理由で述べられているところ、これをもって、真実の証明があったものとは認めがたく、かつ、真実であると信ずべき相当の理由があるともいえない。」と改め、同五行目の冒頭から同一一行目末尾までを次のとおり改める。

「(2) SAPIOの記事につき、控訴人は、後記のとおり、右記事の内容を真実であると信ずることに相当の理由があると主張するが、未確定の一審判決があったというだけでその認定事実について真実の証明があったといえないことはもちろん、これを明記して引用することは格別、直ちにこれを真実と信じることについて相当の理由があるものでもない(しかも、前記認定のとおり、第一審判決認定事実とも異なった事実の記述があることは明白である。)。」

同裏八行目の「証拠がない」の次から同一〇行目末尾までを「ことは、前記のとおりである。」と改める。

五  同一三行目表四行目の「ろ、」の次から同七行目末尾までを次のとおり改める。

「右記事前段の「ネグリジェ、ハンドバック、紳士靴、時計のバンド、牛肉、洋酒、冷蔵庫」についての事実は、第一審判決で有罪となり(乙二三)、控訴審で無罪とされ(これらのレシートの持込み自体は否定されなかったが、そのうちネグリジェ、紳士靴、時計のバンド、牛肉については、会社の業務に関する贈答品でないとは言い切れないとされ、その他のレシートについては妻から小封筒に入れて交付されていたレシート類をそのまま会社に持込んで現金を受け取っていたもので、不法領得の意思を認め難いとしたものである。乙二四の四四頁ないし五〇頁)、上告審で確定している(乙二五、二六)。後段の記事中「妻との海外旅行の支度金」についての事実は、第一審判決で無罪となり、その余の記載の事実は、同判決の量刑理由で述べられている(乙二三)。

右のうち、第一審で無罪となった事実及び量刑理由で述べられた事実は、その事実が真実であるとも真実と信じるにつき相当の理由があったとも認めることができないことは明らかであるが、第一審で有罪となった事実について念のために検討する。右記事記載当時、被控訴人板野の刑事事件は第一審判決が言い渡され、控訴審に係属していたものであるところ、右第一審判決で有罪となった事実が控訴されて争われている以上、無罪の推定を受けるものであり、右記事は、その前後の記載から、その事実が、あたかも横領罪に該当する行為であったことを内容としているものと認められるから、真実の証明があったと認めることはできない。さらに、控訴人は刑法学者である上、第一審判決に対し控訴がなされていることも知っていたものであるから(甲二)、控訴人において、右記事の内容を真実であると信じることに相当の理由があるとはいえない。右執筆に際し、その当時のKDD事件あるいは被控訴人板野に関する新聞記事等を資料にしたとしても(原審における控訴人の供述)、その旨の記載を欠き、客観的な事実として記載したものであって、右認定を妨げる事由にはなりえない。」

六  同一三枚目裏九行目冒頭から同一四枚目裏二行目末尾までを削除する。

七  同一五枚目表四行目の「有罪」を「一部有罪」と改め、同行目の末尾に次のとおり付加する。

「SAPIO誌は月二回発行されている雑誌であるが、平成四年七月九日号は、発行部数一〇万部で実販売部数は六万三〇一八部であり(甲二六、乙二九)、同誌の総頁数は八四頁で(争いがない)、本件掲載記事は「バブルの後のサラリーマンの倫理心得」というフレーズを付した「シミュレーションリポート部長・課長の犯罪」という標題の特集の一部で、その七七頁から七八頁にわたる一・五頁分であること(甲一)、中公新書の「賄賂の話」は、単行本で、発行部数は初版と再販との合計二万二〇〇〇部で、平成五年一月二五日の在庫が二三四四部であり(乙三一)、本件掲載記事は、その総頁数一九七頁(争いがない)のうちの二六頁と二七頁の二頁分であること(甲二)、」

同一〇行目の「一二〇万円」を「五〇万円」と、同裏一行目の「一五〇万円」を「八〇万円」とそれぞれ改め、同三行目の冒頭から同八行目末尾までを削除する。

八  同一六枚目表七行目の「内容と」の次に「決定的に」を加え、同裏一一行目の次に改行して次のとおり付加する。「さらに、右訴状記載中「一般市民として他人の名誉を不必要に傷つけてはならないという良識をすら忘れて、被疑者、被告人と呼ばれる人々をみずから断罪することが許される地位にあると誤信するに至っているのではないか。」との記載は、訴状の控訴人の責任に関する記述であり、その前提となる名誉毀損行為に対する評価すなわち一種の論評であって、かつ、控訴人をその記載のような人物であると断定しているものでもないから、真実の証明の対象となる事実とはいえない。」

九  同一七行目裏二行目の次に改行して次のとおり加える。

「ちなみに、本件甲事件請求は前記認定のとおり額はともかく、不法行為として損害賠償請求が認容されるべきものである。およそこのような行為について謝罪を求め、あるいは訴訟を提起することが不法行為となる余地はない。」

第五  結論

以上により、被控訴人板野の控訴人に対する請求のうち、損害賠償を求める部分は、控訴人に対し金八〇万円とこれに対する本件各記事掲載日の後である平成五年一月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において認容すべきであるが、その余は理由がないので棄却すべきであるから、これと異なる原判決主文第一項を右のとおり変更し、控訴人のその余の控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとする。

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