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東京高等裁判所 平成7年(ツ)51号 判決 1999年9月30日

上告人

日本中央競馬会

右代表者理事長

高橋政行

右訴訟代理人弁護士

松崎正躬

奥毅

被上告人

山口静子

右当事者間の東京地方裁判所平成六年(レ)第七一号事件について、同裁判所が平成七年七月一二日に言い渡した判決に対し、上告人から破棄を求める旨の上告申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一  本件上告を棄却する。

二  上告費用は上告人の負担とする。

理由

第一上告人代理人松崎正躬、同奥毅の上告理由第一点について

一  上告理由第一点は、原判決が上告人の勝馬投票券発売所に勤務している被上告人について平成五年法七九号改正前の労働基準法(以下「法」という。)三九条一項に規定する「一年間継続勤務」するとした判断が、同法の解釈、適用を誤ったというものである。

二  法三九条一項所定の「一年間継続勤務」とは、雇用契約に基づき労働者が同一使用者の下で一年間被使用者たる地位を継続して保有することを意味するが、同一使用人の下で多数回に分けて雇用契約が締結され、当該雇用契約に基づき労働者が勤務しているような場合においては、右の継続勤務か否かについては、当該雇用契約の期間が形式的に継続しているか否かを判断するのではなく、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るという年次有給休暇の制度趣旨を踏まえ、勤務の実態、当該雇用契約の期間、各雇用契約毎に契約終了させて、新たに雇用契約を締結する形態をとる理由、雇用契約と次に締結される雇用契約との間隔、雇用契約締結の際の採用手続及び有給休暇が付与されている他の労働者との均衡等を総合して、雇用関係が継続しているか否かを実質的に判断すべきである。

ところで、原審が適法に確定したところによれば、<1>上告人が開催する競馬事業は、競馬法三条、同施行規則一条の二により、年間開催回数を三六回、一競馬場当たりの回数を一二回の範囲内に規制され、具体的な開催時期については、上告人の運営審議会の議決を経た後農林水産大臣の認可を受ける必要がある、<2>上告人は、各競馬を開催する場合には各開催ごとに、開催時である土曜日、日曜日に大量の勝馬投票券の発売及び払戻等の業務を担当するための開催従事員を採用しており、開催従事員の雇用期間について、上告人の就業規則は、「一競馬開催(競馬が連続して開催される場合はその連続した競馬の開催)を単位とし、その回の全日または特に指定する日」と規定している、<3>被上告人は、昭和四八年四月から東京競馬場内投票所において、同年九月から後楽園場外投票所(中山競馬)において現在に至るまで、開催従事員として開催時である土曜日、日曜日に勝馬投票券の発売及び払戻等の業務に従事してきた者であるが、各競馬開催期間における労働条件はほぼ同一であり、開催従事員において次回不就労の意思を表示しない限り、格別の不都合がなければ上告人において当該開催従事員を次回開催時にも面接等の考査を実施することなくそのまま就労させており、それが上告人の競馬開催業務の運営にとっても望ましいものとされ、原則として六〇歳又は六五歳まで採用が継続され、その給与制度(日給、特別手当、慰労金)は、継続勤務をする従事員を優遇する仕組みになっている、<4>被上告人の属する関東地区における開催従事員が勤務する勤務日は、法の規制の範囲内で、土曜、日曜等の概ね二日間ずつの八日間を一単位として、本件当時、一年間に東京競馬五開催(四〇日)、中山競馬五開催(四〇日)、新潟競馬二開催(一六日)、福島競馬一開催(八日)の合計一〇四日で、右開催従事員は、東京競馬及び中山競馬について夏季(概ね七月及び八月)を除く期間を勤務し、新潟競馬及び福島競馬について右夏季期間に勤務するという年間勤務体制をとり、これらの組合せによる勤務形態は、開催日に応じて三八通りに分けられ、夏季に開催される新潟競馬については募集される開催従事員数が少ないため、希望しても夏季に勤務できない開催従事員が多く生じていた、<5>東京及び中山競馬の開催時期は昭和四八年は七月及び八月が、昭和四九年から昭和五二年は八月が、昭和五四年から平成二年は七月及び八月(ただし、昭和六三年は七月ないし九月)が、いずれも全く開催されなかった、<6>被上告人が加入する総評全国一般労働組合千葉地方本部日本中央競馬会従事員労働組合は、昭和六〇年三月一五日、上告人との間で、東京又は中山競馬について採用されている開催従事員につき、次年度の福島競馬開催時の開催従事員として採用されることの希望調査を二年に一度行い、希望者について原則として当該年度か翌年度に採用する旨の協定を締結した、<7>被上告人が最初に就労して以降、平成三年四月一四日までに上告人から勤務すべきとして指定された各年の日数は、昭和四八年が東京、中山競馬開催時に合計五〇日、昭和四九年から昭和五三年までが東京、中山競馬開催時に合計八八日、昭和五四年から昭和六二年までが東京、中山競馬開催時に合計八〇日、昭和六三年が東京、中山競馬及び第二回福島競馬開催時に合計八八日、昭和六四年及び平成元年が東京、中山競馬開催時に合計八二日、平成二年が東京、中山競馬及び第二回福島競馬開催時に合計八四日、平成三年が第一回東京、第一回ないし第三回中山競馬開催時の合計三二日であり、被上告人は少なくともその八割以上につき勤務をした、<8>被上告人は、毎年末に決定される全国一〇か所の競馬場の年間計画開催日を記載した開催日割表を上告人から配布されている、というのである。

二  原判決は、右の各事実を前提として、被上告人においては、法三九条一項の適用上、少なくとも昭和五六年以降平成三年四月一四日まで実質的に労働者としての勤務関係が継続していると認められるとしたものであるが、被上告人については、夏季七、八月は東京及び中山競馬が開催されないため、その間雇用契約が締結されていない場合が多いといっても、福島、新潟競馬において稼働することにより右夏季の期間中でも雇用契約が締結される可能性があり、また、各競馬場の開催日の年間スケジュールの組み方によっては、被上告人より年間の勤務数が少ない者でも毎月就労すべき日が存する可能性があることになるのであるから、夏季期間に一月以上雇用契約が締結されていない期間があるからといって、本件各雇用契約が実態として同一性がないと判断することは相当ではなく、前記認定の事実及び原判決掲記の証拠によれば、上告人と被上告人間において、昭和五六年以降平成三年四月一四日までの間実態として各雇用関係が同一性を維持して継続していたものし(ママ)た原審の判断は正当として是認することができる。上告理由第一点は、前記説示と異なる見解に立って原判決を非難するか、又は原審の専断に属する事実の認定の不当をいうものであり、採用することができない。

第二同上告理由第二点について

上告理由第二点は、原判決が雇用契約が存在しない時点において休暇請求権の成立を認めるなど理由不備の違法があるというにある。しかしながら、形式的に雇用契約が締結されていない期間があっても、本件においては実質的に本件雇用契約が実態として同一性を維持し継続していると評価できることは前記説示のとおりであり、上告人と被上告人は一個の雇用契約が存在すると同様な法律関係に立つものと解されるのであるから、原判決には上告人主張の違法はなく、上告理由第二点は、結局、前記説示と異なる見解に立って原判決を非難するか、又は原審の専断に属する事実の認定の不当をいうに帰し、採用できない。

よって、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六七条、六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 筧康生 裁判官 滿田忠彦 裁判官 鶴岡稔彦)

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