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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)119号 判決 1996年5月15日

東京都新宿区西新宿二丁目4番1号

原告

セイコーエプソン株式会社

代表者代表取締役

安川英昭

訴訟代理人弁理士

石井康夫

鈴木喜三郎

上柳雅誉

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

指定代理人

丸山亮

光田敦

幸長保次郎

伊藤三男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成5年審判第6648号事件について、平成6年3月17日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和57年10月1日に出願した昭和57年特許願第173513号の分割出願として、平成元年9月28日、名称を「液晶表示装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(平成1年特許願第253199号)が、平成5年3月10日に拒絶査定を受けたので、同年4月8日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成5年審判第6648号事件として審理したうえ、平成6年3月17日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年4月20日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

一対の基板間に挟持されてなる液晶層、該基板上の電極によって構成された複数の実効シャッタ部、及び、複数のカラーフィルタを有してなる液晶表示装置において、前記実効シャッタ部は、その大きさが前記カラーフィルタの大きさよりも小さく、かつ前記カラーフィルタに包含されるように配置されているとともに、前記カラーフィルタは、隣接したカラーフィルタと重なることなく配置されていることを特徴とする液晶表示装置。

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である特公昭54-18886号公報(以下「引用例1」といい、その発明を「引用例発明1」という。)及び実願昭55-136747号(実開昭57-59464号公報)の明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下「引用例2」といい、その発明を「引用例発明2」という。)及び特開昭55-166607号公報(以下「引用例3」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨及び引用例1及び3の記載事項の認定は認めるが、引用例2の記載事項の認定は争う。本願発明と引用例発明1との一致点及び相違点の認定は、審決に記載の限度においては認めるが、他に相違点があることを看過している点を争い、相違点の判断は、「引用例3において明らかなように、カラーフィルタは液晶表示装置と固体撮像装置の双方に用いられるものであり、・・・引用例1の電極パッド部と引用例2の受光領域が光を有効利用する部分であり、それ以外の部分は表示及び撮像に際し無効となる部分である」(審決書5頁11行~6頁3行)までの部分を認め、その余は争う。

審決は、引用例発明2の認定を誤り(取消事由1)、引用例発明1では光パラレライザを用いるのに対し、本願発明ではこれを用いないとの点を看過して、本願発明と引用例発明1との相違点の判断を誤り(取消事由2)、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  取消事由1(引用例発明2の認定の誤り)

審決は、引用例2について、「カラーフィルタを備えた固体撮像素子であって、各カラーフィルタ素子が対応する受光領域よりも大きく、カラーフィルタが受光領域を包含するものが示されている(第1図)。」(同4頁3~6行)と認定している。

しかし、引用例2には、カラーフィルタ8、9、10と受光領域2、3、4との大小関係について触れる記載はない。すなわち、引用例2は、カラーフィルタと受光領域の大きさを問題とする技術思想を開示したものでないことは明らかである。

審決が摘示した引用例2の第1図を見る限りにおいては、カラーフィルタ8、9、10の横の長さが、受光領域2、3、4の横の長さより大きく図示されている。しかし、同図には、同図の紙面と垂直な方向についての形状がどのようになっているかについては示されていない。

カラーフィルタについては、一般的に、引用例3(甲第7号証)に記載されているように、モザイク状あるいはストライプ状のものが知られている(同号証2頁左上欄5~20行)としても、引用例2の第1図がそのいずれのものを示しているのかすらも明らかでない。

このように、カラーフィルタと受光領域について、各カラーフィルタ素子が対応する受光領域よりも大きく、カラーフィルタが受光領域を包含するものが示されていない引用例2の第1図をもって、上記したように認定した審決は、事実を誤認したものである。

2  取消事由2(本願発明と引用例発明1との相違点の判断の誤り)

審決は、「引用例2の画素とカラーフィルタとの関係を引用例1の液晶表示装置に適用し、カラーフィルタ素子を実効シャッタ部(即ち、画素)よりも大きくしカラーフィルタ素子が画素を包含するように、即ち、『実効シャッタ部は、その大きさがカラーフィルタの大きさよりも小さく、かつカラーフィルタに包含されるように配置されている』ように構成することは当業者が容易に想到し得たことと認められる。そして、前記相違点に基づく本願発明の作用効果も格別なものとは認められない。」(審決書7頁1~11行)と判断しているが、以下に述べるとおり、誤りである。

(1)  審決は、上記判断の根拠として、「引用例1の液晶表示装置と引用例2の固体撮像装置においては、画素とカラーフィルタの関係が共通であることは明らかである。」(同6頁10~13行)と述べている。

しかし、引用例発明1においては、「光パラレライザ・・・44がカラーフイルタ36に隣接して設けられ、そしてこれが広面積光源46からの平行又は平行に近い光のみを通過させる」(甲第5号証5欄8~12行)との記載が示すように、カラーフィルタを通過する光は実質的に平行光である。引用例発明1は、光パラレライザを用いることによって、光のまわり込みが生じないように、実効シャッタ部に与える光線に工夫をしたものである。したがって、引用例発明1においては、光のまわり込みの問題は解決されており、その対策を考慮すべき必要性はない。さらに、引用例発明1においては、光パラレライザを用いずに、光のまわり込みの存在を許容した上で、別の解決を図るべき示唆もない。

また、引用例2には、平行光を入射されることを前提とする記載はないし、前示のとおり、その第1図の紙面と垂直な方向についての形状がどのようになっているかについては示されていないばかりか、カラーフィルタから受光領域に入射する光について、まわり込みを問題とする認識はない。

(2)  これに対し、光源に格別の限定をしない本願発明では、光のまわり込みを問題とするものであり、本願発明における実効シャッタ部とカラーフィルタとの配置関係については、本願明細書(甲第2~第4号証)の記載(甲第2号証14頁14行~15頁4行)及び図面第9図において説明されているとおり、モザイク状の場合には第9図(ロ)に、ストライプ状の場合には同図(ハ)に示すように、縦方向及び横方向のいずれの方向においてもカラーフィルタは実効シャッタ部より大きく、それにより、実効シャッタ部の大きさがカラーフィルタの大きさよりも小さく、かつ、実効シャッタ部がカラーフィルタに包含されており、このことによって、光のまわり込みを防止し(同号証14頁8~16行)、カラーフィルタ間の色調のにじみをなくすることができるという格別の効果を奏するものである(甲第4号証3頁13~16行)。

(3)  以上のとおり、引用例発明1における液晶層は、光パラレライザからの平行光を受けるから、光のまわり込みは問題とならないものであり、引用例2には、光のまわり込みを解決する技術思想は記載されていない。したがって、引用例発明1に引用例発明2を適用すべき理由はなく、仮に、引用例発明1に引用例発明2を適用できたとしても、それは、光パラレライザを有する構成のものとなり、光パラレライザを有しない本願発明の構成が想到できるものではない。

すなわち、審決は、引用例発明1においては、本願発明とは異なり、光パラレライザを用いて光のまわり込みの問題を解決していることを看過し、この相違点についての判断をすることなく、引用例発明1に引用例発明2を適用することができるとして、各引用例からの本願発明の容易推考性の判断を誤ったものであり、また、本願発明が、光パラレライザを用いる引用例発明1において課題とならない色調のにじみの問題を解決したという格別の効果を看過したものである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

引用例2に記載の固体撮像素子は、その明細書の記載からも明らかなように、テレビカメラに使われることを前提に設計されている。つまり、受光領域とカラーフィルタは、その第1図における紙面と平行な方向と垂直な方向の2次元配置をとるが、紙面と垂直な方向を示す断面において、同図のような受光領域とカラーフィルタ配置で両者の寸法の大小関係を異ならせる設計上の理由は何ら存在しない。

仮に、この配置関係が紙面と垂直な方向で逆になっていた場合、受光領域とカラーフィルタはいずれも縦横の長さが異なることになり、光学的な特性もそれに伴い方向によって異なることになる。このような不都合を考えれば、紙面と垂直な方向において形状が示されていないという原告の主張は、技術常識を無視した恣意的なものであるといわざるをえない。

すなわち、同図において、カラーフィルタ8、9、10の長さが紙面と垂直な方向においても、受光領域2、3、4の長さより大きいことが示唆されていることは疑いないのである。それは、カラーフィルタの配列がモザイク状、ストライプ状のいかんを問わない。

したがって、審決の認定に誤りはない。

2  取消事由2について

受光領域とカラーフィルタ配置の縦横の寸法関係を前提にすると、引用例2の画素とは受光領域2、3、4を指すことはいうまでもない。そうすると、引用例1の液晶表示装置と引用例2の固体撮像素子においては、審決のいうように、画素とカラーフィルタの関係が共通であることも明らかである。

引用例発明1では、光のまわり込みの問題を光パラレライザによって解決しているのであるから、光のまわり込みの課題の解決手段が引用例発明1に存在することは、明らかである。

原告は、引用例発明1においてカラーフィルタを通過する光は平行光であると断定しているが、引用例1の「平行又は平行に近い光のみを通過させる」(甲第5号証5欄11~12行)という記載の示すように、完全に平行ではない光がわずかでも存在する可能性があるのであるから、光のまわり込みを問題にする課題も同様に存在する。

引用例2においては、平行光を入射させることを前提とする直接の記載はないが、引用例発明2が、本願発明と同じく、各カラーフィルタ素子が対応する受光領域よりも大きく、カラーフィルタが受光領域を包含するようにした構成を採用しているのは、光のまわり込みをなくすという効果を奏するためであることは、十分に理解できるところである。

結局、光パラレライザの存在を考慮するしないにかかわらず、光のまわり込みについての課題が存する引用例発明1に、光のまわり込みをなくす効果が予測される構成の引用例発明2を適用できるとした審決の判断に誤りはない。

そして、この場合、色調のにじみの問題を解決したものとなることは明らかであり、相違点に基づく本願発明の作用効果も格別のものとは認められないとした審決の判断にも誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(引用例発明2の認定の誤り)について

審決は、引用例2について、「カラーフィルタを備えた固体撮像素子であって、各カラーフィルタ素子が対応する受光領域よりも大きく、カラーフィルタが受光領域を包含するものが示されている(第1図)。」(審決書4頁3~6行)、「引用例2にカラーフィルタ素子を受光領域(即ち、画素)よりも大きくしカラーフィルタ素子が画素を包含するようにしたものが示されており、それは必然的に画素の全部分に所定の色の光のみが入射するよう構成されているものである。」(同6頁14~19行)と認定している。

そこで、引用例2(甲第6号証の2)の図面第1図をみると、第1図は固体撮像素子の要部の断面図であり、赤色、緑色及び青色の各カラーフィルタとこれに対応する赤色、緑色及び青色のための各受光領域(画素)の大小関係は、図面の横方向の辺の長さについては、審決認定のとおり、カラーフィルタ素子が受光領域よりも大きく記載されていることが認められるが、その奥行き方向(紙面と垂直な方向)の長さの大小関係は図示されておらず、また、引用例2の記載全体を参照しても、奥行き方向に関する記載はない。

また、引用例発明2の目的をみると、「従来、このようにして形成されたフィルタ・パターンははがれ易いという欠点があった。本考案の目的は、したがって、はがれにくいカラー・フィルタを有する固体撮像素子を提供することである。」(甲第6号証の2、明細書2頁16行~3頁1行)というものであって、カラーフィルタと受光領域の関係については、実施例1に関して、「赤色のための受光領域2に対応するパターンを形成し、その後180℃で30分間熱処理後赤色染料で染色し、赤色のカラー・フィルタ8を形成した。・・・以上と全く同様の操作を繰り返して、緑色のための受光領域3に対応して緑色のカラー・フィルタ9を、青色のための受光領域4に対応して青色のカラー・フィルタ10を形成し、3色構成積層原色フィルタを形成した。その結果、パターンはがれがなく、良好なカラー・フィルタとして満足できるものが得られた。」(同4頁12行~5頁2行)との記載があるのみであり、そこには、第1図に示されているカラーフィルタと受光領域の横方向の長さの大小関係を採用した目的(あるいは機能、作用)に関する直接の記載はないと認められる。

しかし、引用例2の第1図には、固体撮像素子の要部の一断面についてしか示されていないものの、上記のとおり、各受光領域は、「赤色のための」、「緑色のための」及び「青色のための」ものとされ、かつ、赤色、緑色及び青色の各カラーフィルタは、各受光領域に「対応して」形成されるものであることが明示されており、このことからすれば、上記図面の横方向の辺の長さについて各カラーフィルタが各受光領域よりも大きく記載されている趣旨は、各受光領域に所定の色の光のみが入射することを目的とした構成を示しているものと解することができるから、図面上は横方向の辺の長さについてしか記載がなく、その奥行き方向(紙面と垂直な方向)の長さの大小関係については図示されていないとしても、奥行き方向(紙面と垂直な方向)の長さの大小関係についても、通常は、横方向と同様であるものと推認することができる。

原告は、引用例2には、本願発明の目的とする光のまわり込みの防止という目的、課題についての技術思想が開示ないし示唆されていないと主張するが、上記の各受光領域に所定の色の光のみが入射することを目的とした構成をとることによって、本願発明と同様の目的、課題についての技術思想を示唆しているものというべきであって、光のまわり込み防止という以外に、他にこの構成をとる目的があると認めるに足りる証拠もない。

そうとすると、審決の上記認定に誤りはないというべきである。

取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(本願発明と引用例発明1との相違点の判断の誤り)について

審決は、「引用例1の液晶表示装置と引用例2の固体撮:像装置においては、画素とカラーフィルタの関係が共通である」(審決書6頁10~13行)としたうえ、「引用例2の画素とカラーフィルタとの関係を引用例1の液晶表示装置に適用し、カラーフィルタ素子を実効シャッタ部(即ち、画素)よりも大きくしカラーフィルタ素子が画素を包含するように、即ち、『実効シャッタ部は、その大きさがカラーフィルタの大きさよりも小さく、かつカラーフィルタに包含されるように配置されている』ように構成することは当業者が容易に想到し得たことと認められる。」(同7頁1~9行)と判断している。

カラーフィルタは液晶表示装置と固体撮像装置の双方に用いられるものであり、引用例1の電極パッド部と引用例2の受光領域が、ともに光を有効利用する部分であり、それ以外の部分は無効となる部分であることは当事者間に争いがない。

審決が、上記「引用例1の液晶表示装置と引用例2の固体撮像装置においては、画素とカラーフィルタの関係が共通である」と述べたのは、この関係をいう趣旨であることは明らかであり、したがって、この審決の認定に誤りはない。

原告は、光源に格別の限定をしない本願発明では、光のまわり込みの問題を解決するために、相違点に係る構成を採用したものであるのに対し、引用例発明1においては、光源からの光を光パラレライザによって平行光を作り出して、この平行光を実効シャッタ部への光源としているため、光のまわり込みついて問題とする必要がなく、このように光のまわり込みついて問題とする必要がない引用例発明1に、光のまわり込みについて何らの開示も示唆もない引用例発明2を適用する余地はないのにかかわらず、審決は、この点を看過し、この相違点についての判断をすることなく、引用例発明1に引用例発明2を適用することができるとして、各引用例からの本願発明の容易推考性の判断を誤ったものと主張する。

しかし、本願発明と引用例発明1とが、審決認定のとおり、「一対の基板間に挟持されてなる液晶層、該基板上の電極によって構成された複数の実効シャッタ部、及び、複数のカラーフィルタを有してなる液晶表示装置」(審決書4頁19行~5頁2行)である点で一致することは、当事者間に争いがなく、本願発明においては、その発明の要旨に示されるとおり、光源に格別の限定はないのであるから、引用例発明1が光パラレライザを有する点は、本願発明の構成と対比するうえにおいて、相違点として取り上げるべき点ということはできず、審決がこの点を相違点として摘示しなかったことをもって、相違点の看過ということはできない。

また、引用例発明1が光パラレライザによって平行光を作り出して、この平行光を実効シャッタ部への光源としているということは、これによって、光のまわり込みの問題を解決しようとしている趣旨であることは、当業者にとって容易に理解できることであると認められ、さらに、引用例1の「光パラレライザ・・・が広面積光源46からの平行又は平行に近い光のみを通過させる」(甲第5号証5欄8~12行)という記載の示すとおり、引用例発明1においても、完全に平行ではない光がわずかでも存在する可能性があるのであるから、光のまわり込みを問題にする課題はなお存在するといってよい。

そして、取消事由1について判示したように、引用例発明2において、各カラーフィルタ素子が対応する各受光領域よりも大きく、カラーフィルタが受光領域を包含するようにした構成を採用しているのは、各受光領域に所定の色の光のみが入射することを目的とした構成を示しているものと解されるのであるから、光のまわり込みをなくすという効果は十分予測されるところである。

したがって、光のまわり込みについての課題がなお存在する引用例発明1に、光のまわり込みをなくす効果が予測される構成の引用例発明2を適用して、本願発明の構成に想到することは、当業者が容易になしうるものというべきであり、これと同旨の審決の判断に誤りはない。

さらに、この場合、原告主張の「色調のにじみの問題を解決した」とは、要するに、光のまわり込みを防止したことによる効果であることは明らかであるから、相違点に基づく本願発明の作用効果はこの構成を採用することにより当然に予測される効果であって、これを格別のものとは認められないとした審決の判断に誤りはない。

取消事由2も理由がない。

3  以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官押切瞳は転補のため、署名捺印することができない。 裁判長裁判官 牧野利秋)

平成5年審判第6648号

審決

東京都新宿区西新宿2丁目4番1号

請求人 セイコーエプソン株式会社

神奈川県小田原市東町1丁目20番34号

代理人弁理士 石井康夫

平成1年特許願第253199号「液晶表示装置」拒絶査定に対する審判事件(平成2年5月2日出願公開、特開平2-118520)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

Ⅰ. 手続の経緯・本願発明の要旨

本願は、昭和57年10月1日に出願された特願昭57-173513号の一部を平成1年9月28日に新たな特許出願としたものであって、その発明の要旨は、補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲に記載されたとおりの、

「一対の基板間に挟持されてなる液晶層、誌基板上の電極によって構成された複数の実効シャッタ部、及び、複数のカラーフィルタを有してなる液晶表示装置において、前記実効シャッタ部は、その大きさが前記カラーフィルタの大きさよりも小さく、かつ前記カラーフィルタに包含されるように配置されているとともに、前記カラーフィルタは、隣接したカラーフィルタと重なることなく配置されていることを特徴とする液晶表示装置。」にあるものと認める。

Ⅱ. 引用例

これに対し、当審において、特公昭54-18886号公報(以下、引用例1という)、実願昭55-136747号(実開昭57-59464号公報)の明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下、引用例2という)及び特開昭55-166607号公報(以下、引用例3という)を示し、本願発明は引用例1~3に基づいて当業者が容易に発明できたものである旨の拒絶の理由を通知した。

引用例1には、観察側から順に直線偏光板14、ガラス部材18、導電層20、ツイスト型のネマチック液晶層22、背面電極板24(薄膜トランジスタマトリックスアレイ26、多重透明背面電極パッド30、ガラス部材25を有する)、直線偏光板34、カラーフィルタ36および光源部を具備するカラー画像表示装置であって(第2図)、直線偏光板14と34の偏光方向は同じであり、カラーフィルタ36については赤、緑及び青の矩形のフィルタ素子が互いに接したモザイクアレイが黒い縁によって離れており、各フィルタ素子は多重透明電極パッドと位置合わせがなされており、薄膜トランジスタと多重透明背面電極パッドは1対1い対応したものが記載されている。

引用例2には、カラーフィルタを備えた固体撮像素子であって、各カラーフィルタ素子が対応する受光領域よりも大きく、カラーフィルタが受光領域を包含するものが示されている(第1図)。

引用例3には、カラーフィルタが固体撮像素子と液晶表示装置の双方に用いられることが記載されている(第1頁右下欄第10行~第19行、第2頁右下欄第10行~第17行)。

Ⅲ. 対比

本願発明と引用例1に記載のものを対比する。

引用例1の「ガラス部材18及び25」、「各多重電極パッドが形成された領域」、「黒い縁によって離れており」および「カラー画像表示装置」はそれぞれ本願発明の「一対の基板」、「実効シャッタ部」、「重なることなく」および「液晶表示装置」に相当するから、両者は、

「一対の基板間に挟持されてなる液晶層、該基板上の電極によって構成された複数の実効シャッタ部、及び、複数のカラーフィルタを有してなる液晶表示装置において、前記カラーフィルタは、隣接したカラーフィルタと重なることなく配置されている液晶表示装置。」である点で一致し、

本願発明においては、実効シャッタ部は、その大きさがカラーフィルタの大きさよりも小さく、かつカラーフィルタに包含されるように配置されているのに対し、引用例にはそのような記載がない点で、両者は相違する。

Ⅳ. 当審の判断

引用例3において明らかなように、カラーフィルタは液晶表示装置と固体撮像装置の双方に用いられるものであり、引用例1のような液晶表示装置では各電極パッド30によって表示部が区画されており電極パッドのない部分は光不透過となっている(2つの直線偏光板の偏光方向が同じだから)のに対し、引用例2のような固体撮像装置では受光領域によって受光部が区画されており、受光領域のない部分は光を利用しないものである。すなわち、引用例1の電極パッド部と引用例2の受光領域が光を有効利用する部分であり、それ以外の部分は表示及び撮像に際し無効となる部分である。また両者において、その区画された1つ1つの部分を「画素」ということも一般的である。さらに両者において、「画素」は最大限に有効利用される(液晶表示装置の場合は、画素の全部分から所定の色の光のみが出射することを意味し、固体撮像装置の場合には画素の全部分に所定の色の光のみが入射することを意味する)べきであることも当然のことである。これらのことから、引用例1の液晶表示装置と引用例2の固体撮像装置においては、画素とカラーフィルタの関係が共通であることは明らかである。

そして、引用例2にカラーフィルタ素子を受光領域(即ち、画素)よりも大きくしカラーフィルタ素子が画素を包含するようにしたものが示されており、それは必然的に画素の全部分に所定の色の光のみが入射するよう構成されているものである。前記したように、画素とカラーフィルタとの関係では、液晶表示装置と固体撮像装置は共通したものであるから、引用例2の画素とカラーフィルタとの関係を引用例1の液晶表示装置に適用し、カラーフィルタ素子を実効シャッタ部(即ち、画素)よりも大きくしカラーフィルタ素子が画素を包含するように、即ち、「実効シャッタ部は、その大きさがカラーフィルタの大きさよりも小さく、かつカラーフィルタに包含されるように配置されている」ように構成することは当業者が容易に想到し得たことと認められる。

そして、前記の相違点に基づく本願発明の作用効果も格別なものとは認められない。

Ⅴ. むすび

したがって、本願発明は、引用例1~3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成6年3月17日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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