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東京高等裁判所 平成6年(ラ)907号 決定 1999年9月30日

抗告人 X

事件本人 A

主文

本件抗告を棄却する。

理由

1  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「即時抗告申立書」写し記載のとおりである。

2  本件記録によれば、次の事実が認められる。

(1)  B(大正7年○月○日生)とC(大正8年○月○日生)は、昭和30年10月15日婚姻の届出をし(戸籍筆頭者B)、事件本人は、昭和30年○月○日出生し、同月22日父であるBが出生届出をし、戸籍上、父Bと母Cとの長男と記載されている。そして、事件本人は、昭和55年4月26日Dと婚姻の届出をし(戸籍筆頭者事件本人)、その間に1男1女がいる。

(2)  Bは、平成元年4月21日死亡し、Cは、平成5年5月22日死亡した。

(3)  抗告人は、Cの弟である。

(4)  Cは、平成4年に事件本人を被告として、親子関係不存在確認の訴えを提起し、平成5年4月13日、認容判決を得た。これに対し、事件本人が控訴し、Cが死亡したため、控訴審裁判所は、同年6月15日、Cの死亡による訴訟終了宣言判決をした。

(5)  Cは、平成5年1月18日、同人所有の全財産を抗告人、Eら12名(事件本人は含まれていない。)に平等の割合で遺贈する旨のほか、「私の戸籍上、私の長男となっているA(昭和参拾年○月○日生)は私が生んだ子ではありません。私とAとの親子関係不存在確認の裁判をして戸籍を訂正して下さい」との内容の公正証書遺言をした。

(6)  抗告人は、上記(5)のCの意向に基づいて、本件戸籍訂正許可申立てをした。

(7)  事件本人は、原審の調査において、自分がCの子でないという事実関係については争わないし、Fの子であることは認めざるを得ないが、本件戸籍訂正許可申立てにより戸籍が訂正されることに反対している。なお、事件本人は、Cの遺産相続について、相続放棄した。

3  ところで、戸籍法113条による家庭裁判所の許可に基づく戸籍の訂正は、戸籍の記載自体から訂正すべき事項が明白な場合、又は戸籍の記載自体からは明白ではないものの、訂正すべき事項が軽微で親族法、相続法上の身分関係に重大な影響を及ぼす虞のない場合に許されるものであって、訂正すべき事項が戸籍上明白ではなく、身分関係に重大な影響を及ぼすべき場合には、同法116条1項により確定判決に基づくのでなければ許されないものと解するのが相当である。

本件戸籍訂正許可申立てに係る戸籍の記載事項の訂正は、事件本人にとって身分上重大な影響を伴うものであることは明らかであるから、戸籍法113条による戸籍の訂正は許されないものというべきである(なお、戸籍の訂正が事件本人にとって身分上重大な影響を伴うものであっても、関係当事者間に事実関係について争いがなく、事件本人自身が戸籍法113条による戸籍の訂正に同意している場合には、同条に定める手続による戸籍の訂正が許される余地がある(家庭裁判所が許可をすれば、戸籍実務上、これにより戸籍の訂正がされている。)としても、本件においては、事件本人が戸籍の訂正に反対していることは上記のとおりであるから、戸籍法113条に定める手続による戸籍の訂正は許されないものというほかない。)。

4  よって、本件申立てを却下した原審判は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 奥山興悦 裁判官 杉山正己 沼田寛)

(別紙) 即時抗告申立書

抗告の趣旨

原審判を取消し、本件を静岡家庭裁判所に差し戻すとの裁判を求める。

抗告の理由

1.家庭裁判所の実務例では、親子関係の存否等の身分関係について法第113条による訂正の許可がなされる場合が数多くみられ、法務省の先例としても親子関係存否確認の確定判決に基づいて戸籍を訂正すべき場合であると解される事案について法第113条による訂正の許可の審判による戸籍訂正の申請がされた場合でも受理されるという取扱である。

2.本件では、CとA間に真実親子関係が存在せず、その戸籍の記載は不適法・不真実なものであることは明白であって、Aはそのことを十分に認識しながらも、あえて戸籍の訂正に異を唱えているにすぎない。また、戸籍の父欄の訂正ほど重大な影響を伴わない。

3.原案は、当事者間に親子関係がないこと並びに戸籍訂正の方法により訂正することに合意がある場合に限り法第113条による訂正が可能である旨判示するが、法第113条はこのような合意の存在を戸籍訂正の要件としておらず法令の解釈に誤りがある。

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