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東京高等裁判所 平成6年(ネ)2632号 判決 1995年7月20日

主文

原判決を取り消す。

被控訴人は、控訴人に対し、金八一万二四四九円及びこれに対する平成六年二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

理由

一  控訴人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、原判決二枚目表三行目の「日光重機株式会社」を「株式会社日光重機」に改め、同五枚目裏一行目の「済しない。」の次に改行して「11」を加えるほかは、原判決事実摘示及び当審書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

三  当裁判所の判断

1  請求原因のうち、1、2、6は弁論の全趣旨により認められ、3ないし5、7ないし10は当事者間に争いがない。

右の事実関係の下において、控訴人は、本件差押命令の差押債権は、本件更生手続開始事件の更生計画によるすべての弁済金を目的とし、したがつて、現更生計画による弁済金を含むと主張し、被控訴人は、本件差押命令の対象は旧更生計画によつて定められた旧更生債権のみであり、旧更生計画の失効により、本件差押命令の対象債権も消滅したものであると主張する。債権差押えの目的物はあくまで債権そのものであつて、弁済金そのものでないことは当然であり、控訴人の主張も本件差押命令の効力が現更生計画による債権に及ぶという趣旨と解される。よつて、以下、この点について検討する。

2  ところで、更生計画認可の決定があつたときは、更生債権者の認可前の権利は右計画の定めに従い変更されるものであるが、少なくとも認可前の権利が金銭債権である場合は、この変更によつて認可前の金銭債権と認可後の金銭債権が同一性を失うものではなく、両者は同一性を保持するものと解するのが相当である。この理は、一旦認可された更生計画がその後取り消されたために認可後の金銭債権が消滅し、その結果更生計画により変更される前の更生債権たる金銭債権が復活した場合、さらには右復活した更生債権について新たな更生計画が定められた場合においても同様であるというべきである。

そして、債権差押えの効力は当該差押えに係る債権と同一性のある債権に及ぶことは当然であるから、先にみた更生計画により変更される前の更生債権たる金銭債権についてされた差押えの効力は、これと同一性のある更生計画によつて定められた金銭債権に及ぶと解すべきであり、また、同様に更生計画によつて定められた金銭債権に対する差押えの効力は、これと同一性のある当該更生計画が取り消されたため復活した更生債権たる金銭債権に及び、その範囲は当該差押えに係る債権の金額の範囲にとどまるものと解するのが相当である。

これを本件についてみるのに、前示のとおり、本件においては、現更生計画認可前には旧更生計画が認可されていたところ、旧更生計画においては、更生債権たる金銭債権の一部が免除され、かつ、一五回にわたる年賦弁済に変更されたが、金銭債権であることには変わりがないものであつたこと、そして、旧更生計画に基づく旧更生債権全額につき本件差押えが執行されたこと、その後に旧更生計画が取り消され、現更生計画が認可されるに至つたところ、右認可された現更生計画における現更生債権は、免除額は旧更生計画のそれと同じで、ただ一五回の年賦弁済が一六回の年賦弁済に変更されただけの金銭債権であることが明らかである。これによれば、旧更生計画の認可が取り消され、これにより旧更生計画は元来の債権に戻つたうえ、さらにこの債権が現更生計画における現更生債権に変わつたとしても、その間には、同一性を失うことはないものとみることができる。そして、先にみた旧更生計画に基づき定められた金銭債権たる旧更生債権に対してされた本件差押えの効力は、旧更生債権が取り消された後に作成され認可された現更生計画によつて定められた金銭債権たる現更生債権に及ぶものというべきである。このように解しても、会社更生手続上各別の支障が生じるものとは認められない。

3  以上によれば、本件差押命令が現更生計画によつて定められた金銭債権に及ぶことを前提として、現更生計画に基づく弁済金八一万二四四九円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成六年二月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める控訴人の請求は理由がある。

四  よつて、右と結論を異にする原判決は相当でないから、これを取り消して、控訴人の本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 伊藤瑩子 裁判官 西尾 進)

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