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東京高等裁判所 平成5年(行コ)94号 判決 1995年5月30日

神奈川県横浜市中区福富町東通三番地の九

控訴人

大進建設株式会社

右代表者代表取締役

守屋新一

右訴訟代理人弁護士

新堀富士夫

河野孝之

谷口享

神奈川県横浜市中区山下町三七番地九

横浜地方合同庁舎

被控訴人

横浜中税務署長 西山吉洋

右訴訟代理人弁護士

川合重男

被控訴人指定代理人

信太勲

阿部武夫

岩崎広海

江口庸祐

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和六一年四月三〇日付けでした控訴人の昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日までの事業年度の法人税に係る更正のうち所得金額二九〇八万二二〇八円、納付すべき税額七二一万五三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加、補充、敷衍するほか、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決一八枚目表一行目の「実行をしない」を「実行しない」に改め、同二〇枚目表一〇行目の「責任追求」を「責任追及」に改める。)。

(控訴人の主張)

1  更正の理由附記の不備

本件更正の通知書に記載された更正理由は、別紙記載のとおりである。

右記載は、法人税法一三〇条二項の要求する更正理由として不備がある。すなわち、法人税法が更正理由の附記を必要としたのは、更正の根拠を具体的に明示することにより行政庁の恣意を抑制し、かつ被処分者の不服申立ての便宜をはかることにあるから、そのような目的を充足する程度に理由を具体的に明示していると言い得るためには、その更正理由が、対象となっている事柄の性質に即して、その判断過程を省略することなく、その過程を逐一検証できる程度に記載されていなければならないとともに、不服申立てのために必要な材料を提供するものでなければならない。しかるに、本件更正処分では、控訴人に債務放棄をすべき事情が存在したか否か及び控訴人の本件債権放棄が法人税基本通達九-四-一に該当するか否かについて、十分な記載がされていない。

2  法人税基本通達の適用

本件債権放棄は、法人税基本通達九-六-一、九-六-二及び九-四-一に該当するから、その金額を貸倒損失として損金の額に算入すべきである。

3  信義誠実の原則違背

控訴人代表者は、昭和五九年二月三日被控訴人を訪れ、国税調査官矢崎剛一に面会して、同人から法人税基本通達九-四-一による償却方法を教示された。控訴人代表者は、これを信用して、その説明のとおり本件債権放棄をして損金処理をし、確定申告を行ったものであるから、被控訴人がこれを否認して本件課税処分をしたことは、信義誠実の原則に反し、無効である。

(被控訴人の認否)

1  控訴人の主張1のうち、本件更正の通知書に記載された更正理由が別紙記載のとおりであることは認め、その余は争う。右記載の更正理由は十分なものである。

2  控訴人の主張2及び3は争う。

三  当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、補充、敷衍するほか、原判決の「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決三三枚目裏一行目、三五枚目裏二行目及び四八枚目表一、二行目の各「二一億三六〇〇円」を「二一億三六〇〇万円」に改める。)。

1  更正の理由附記について

法人税法一三〇条二項が青色申告にかかる法人税について更正をする場合には更正通知書に更正の理由を附記すべきものとしているのは、同法が、青色申告制度を採用し、青色申告にかかる所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨にかんがみ、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものというべきである(最高裁判所昭和六〇年四月二三日判決、民集三九巻三号八五〇頁)。これを本件についてみるに、本件更正の通知書には、緑建に対する債権放棄は貸倒損失とは認められないとして、その理由として、緑建の貸借対照表によれば控訴人に対する債務以外の債務を全部弁済しても控訴人に対する弁済が可能であること、本件ゴルフ場はオープンしたばかりで、債権放棄すべき特段の事情は存在しないこと、緑建に対する債権を放棄しなければ控訴人が今後より大きな損失を被ることとなる相当な理由が存在するとは認められないこと等が記載されており(当事者間に争いがない)、右記載内容に照らせば、処分庁たる被控訴人の判断の恣意を抑制する趣旨からも、処分の相手方たる控訴人に不服申立ての便宜を与える趣旨からも、法人税法所定の更正理由の記載として十分であることが認められるから、控訴人の主張は理由がない。

2  法人税基本通達の適用について

控訴人は、本件債権放棄が、法人税基本通達九-六-一、九-六-二に該当する旨主張する。しかしながら、同通達九-六-一の(4)に該当する((1)ないし(3)に該当しないことは明らかである。)ためには、債務超過の状態が相当期間継続し、その貸金等の弁済を受けることができないと認められることが必要であるから、特定時点の計算書類の数額が債務超過の状態を示していることのみをもって直ちに同規定に該当するということはできないこと、また同通達九-六-二にいう債務者の資産状況の判断に当たっても、計算書類の数額が決定的意味をもつものではなく、支払能力を判断するについても、信用や労力を考慮すべきであること、しかして、本件においては、右各通達の要件に該当するとは認められず、かえって、緑建が解散しないで存続していれば、本件ゴルフ場を通じて順調に利益をあげることが十分に考えられるところであったことは、原判決判示のとおりである。

また、控訴人は、法人税法基本通達九-四-一に該当する旨主張する。しかしながら、控訴人は本件債権放棄が寄付金にあたると認定された場合にはこれを撤回する旨を債権放棄通知書(乙第一三号証)に明記しているものであるし、また、控訴人が緑建のためにとりうる措置として、債権放棄をする理由が十分でないことも、原判決判示のとおりである。

当審における控訴人代表者尋問の結果その他の証拠調べの結果に徴しても、右判断は左右されない。したがって、この点に関する控訴人の主張も理由がない。

3  本件処分の信義則違反について

控訴人は、矢崎が本件債権放棄に係る金額が損金として認められる旨の明確な回答をしたことを前提にして、本件処分が信義則に違反する旨主張するが、そもそも矢崎がそのような回答をした事実が認められないことは、原判決判示のとおりであるから、控訴人の右主張はその前提を欠き、失当である。

四  よって、本件処分は適法であり、控訴人の請求を棄却した原判決は相当で本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 西尾進 裁判官福島節男は転勤につき署名捺印できない。裁判長裁判官 宍戸達徳)

別紙

損金と認められない貸倒損失2,026,836,212円

子会社株式会社緑建に対する債権金額2,026,836,212円を債権放棄し貸倒損失として計上した金額は次の理由により株式会社緑建に対する寄付金と認められ、貸倒損失とは認められませんので所得金額に加算します。

(1) 株式会社緑建の貸借対照表(昭和59年3月27日)によれば同社の換価し得る資産の額は貴社に対する債務以外の債務の額を上回っており貴社に対する債務以外の債務を全て弁済しても貴社に対する弁済は可能であり、また株式会社緑建の有するゴルフ場は昭和58年8月にオープンしたばかりであり、会社整理、破産、和議、強制執行、会社更正などの事実もなく債権放棄すべき特段の事情は存在しない。

(2) 株式会社緑建に対する債権を放棄しなければ貴社が今後より大きな損失を被ることとなる相当な理由が存在することは認められない。

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