大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成5年(行コ)90号 判決 1995年1月30日

東京都港区青山一丁目二二番五号

控訴人

松本正人

右訴訟代理人弁護士

大宮竹彦

宮崎良昭

内田成宣

塩生三郎

東京都港区西麻布三丁目三番五号

被控訴人

麻布税務署長 大西幸策

右指定代理人

山田知司

田部井敏雄

齋藤春治

實川嘉晴

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が昭和六三年一月二九日付けで控訴人の昭和六一年分の所得税についてした更正のうち総所得金額三二九万四〇九二円及び還付金の額に相当する税額一五六万一〇〇〇円(納付すべき税額マイナス一五六万一〇〇〇円)を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定を取り消す。

被控訴人が平成三年三月一日付けで控訴人の昭和六二年分の所得税についてした更正(ただし、平成四年一〇月一四日付け再更正による減額後のもの)のうち総所得欠損金八五六万一〇四七円(総所得金額マイナス八五六万一〇四七円)及び還付金の額に相当する税額五九四万一二四三円(納付すべき税額マイナス五九四万一二四三円)を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定(ただし、平成四年一〇月一四日付け変更賦課決定による減額後のもの)を取り消す。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二事案の概要

一  本件課税の経緯(この事実については当事者間に争いがない。)

原判決記載のとおりであるから、これを引用する。

二  本件課税根拠に関する被控訴人の主張

原判決三枚目裏六行目から九行目の株式等の横領による損失金に関する控訴人の主張を削除するほかは、原判決記載のとおりであるから、これを引用する。

三  争点

1  控訴人の当審における補充主張として2のとおり加え、撤回された主張を3のとおり削除するほかは、原判決記載のとおりであるから、これを引用する。

2  当審における補充主張

昭和六一年分の不動産譲渡による所得について、雑所得であると被控訴人が主張する五八〇七万〇〇一五円は、いずれも後記事情により雑所得ではなく譲渡所得であり、そのうち原判決別表(以下単に「別表」という。)2の1記載の物件番号6及び7の物権譲渡による所得計一四四万三八七三円は分離短期譲渡所得で、その余の物件の譲渡は租税特別措置法三七条一項により非課税となるものである。

昭和六二年分の不動産譲渡による所得について、雑所得であると被控訴人が主張する二億五三三五万八九五八円は、いずれも後記事情により雑所得ではなく譲渡所得であり、そのうち別表2の2記載の物件番号19及び20の物件譲渡による所得計八九六万一六二二円は分離短期譲渡所得で、その余の物件の譲渡は租税特別措置法三七条一項により非課税となるものである。

控訴人は、控訴人所有の西麻布貸スタジオビル(東京都港区西麻布三丁目五番二所在地一八一・八一平方メートル、同番地二所在鉄筋コンクリート鉄骨造陸屋根四階建)を控訴人が代表者である株式会社スタジオユーに賃貸し、同社は貸スタジオ業を営んでいたが、昭和五五年ごろからの近隣の再開発にともなってスタジオ経営を諦めざるをえなくなった。そこで控訴人は妻玲子とともに、従来から行ってきた建物の賃貸業を拡張すべく、とりあえずワンルームマンションを借入金で取得し、賃料収入によって金利の返済等に充て、西麻布貸スタジオビルの売却代金をもって借入金に充当し、徐徐に大型マンションの賃貸に移行していくことを目的としてマンション賃貸を始めた。しかし、賃料収入が予定どおり得られないばかりか、西麻布貸スタジオビルも予期した金額では売却できず、ローンの返済に窮し、倒産必至の状況に追い込まれたため、賃貸効率の悪い物件を売却処分してより効率の良い物件に買い換えて賃貸業を維持する必要から、賃貸効率の悪い物件を売却したものであって、物件の譲渡は営利を目的として行われた譲渡ではないから、控訴人の不動産譲渡による所得は雑所得ではなく譲渡所得である。

3  同五枚目裏七行目から同六枚目表五行目の「2」の項を削除する(この項の主張は当審において撤回された。)。

第三証拠

原審及び当審記録中の証拠関係目録各記載のとおりであるから、これを引用する。

第四争点に対する判断

一  当裁判所も控訴人の請求は理由がないものと判断するが、その理由は原判決一〇枚目裏六行目から一二枚目裏初行までを削除し、次の二を加えるほかは、原判決記載のとおりであるからこれを引用する。

二  当審における補充主張について

控訴人の本件不動産の保有状況、譲渡の経過等に照らすと、控訴人は、不動産の賃貸から生ずる損益ないしそれを保有し続けることから生ずる損益とその譲渡から生ずる損益とを比較して、不動産の賃貸と譲渡との総合収支上の利益を求めて、本件不動産の譲渡を行ったものと推認することができることは前記引用にかかる原判決認定のとおりである。

賃貸効率の悪い不動産を譲渡したものである等の控訴人主張の事情は、全体としてみれば営利を目的として行われた譲渡であるとの認定と矛盾するものではない。

なお、租税特別措置法三七条一項による非課税特別措置は、譲渡による所得が雑所得である場合には適用されないものであるから、控訴人の主張は前提において失当である。

三  よって、原判決は相当で、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三宅弘人 裁判官 谷澤忠弘 裁判官 松田清)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例