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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)70号 判決 1995年7月05日

大阪市西淀川区野里3丁目6番12号

原告

株式会社河野プラテック

代表者代表取締役

河野素代

訴訟代理人弁理士

森本義弘

原田洋平

笹原敏司

大阪市中央区平野町2丁目4番7号

被告

株式会社ライオン事務器

代表者代表取締役

山田元雄

訴訟代理人弁護士

牛木理一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成4年審判第1665号事件について、平成5年3月10日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告(旧商号河野化成株式会社)は、発明の名称を「バインダーまたはフアイルの表紙」とする特許第1396940号発明(以下「本件発明」という。)の特許権者である。

上記特許は、昭和56年12月19日に出願され(特願昭56-205717号)、昭和62年1月29日に公告され(特公昭62-4221号)、同年8月24日に設定登録されたものである。

被告は、平成4年1月30日、原告を被請求人として、上記特許につき無効審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成4年審判第1665号として審理し、平成5年3月10日、「特許第1396940号発明の特許を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年4月30日、原告に送達された。

2  本件発明の要旨

接着剤を塗布した厚紙の両面に、該厚紙より若干大きく周縁部が厚紙より外方へ張り出した樹脂シートを配置し、圧着して樹脂シートと厚紙とを接着剤で接着し、かつ樹脂シートの周縁部間を融着すると共に、少なくとも一方の樹脂シート側から先端が厚紙内部に達する微孔を多数あけた樹脂被覆紙で構成されたことを特徴とするバインダーまたはフアイルの表紙。

3  審決の理由

審決は、本件発明は、別添審決書写し記載のとおり、本件出願前独国において頒布された刊行物である独国実用新案第7509766号公告明細書(1975年8月14日実用新案公告、以下「引用例」という。)記載の発明(以下「引用例発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、その特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであって、同法123条1項1号に該当するから、無効であるとした。

第3  原告主張の審決取消事由

審決の理由中、本件発明の要旨、引用例の記載内容、本件発明と引用例発明の一致点及び相違点の各認定は認め、相違点の判断については、引用例発明において「接着剤の層を貫通する」とした目的は、製品化後に厚紙内部に発生する蒸気を脱出させることにある点で本件発明と同じであることは認め、その余は争う。

審決は、本件発明と引用例発明との相違点の判断において、容易推考性の判断を誤り、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  審決は、「甲第4号証記載のもの(注・引用例発明)において『接着剤の層を貫通する』とした目的は、・・・穿孔部分において厚紙が外気と接していることにより達成されることは極めて容易に理解しうるところであるから、接着剤の層を貫通する穿孔の先端をさらに厚紙内部に達するようにした場合にも同様の目的が達せられることは容易に予測が可能である。したがって、甲第4号証記載の『接着剤の層を貫通する』のに代えて『先端が厚紙内部に達する』とすることは、当業者が容易になし得るということができる。しかも、本件特許発明が、この点により格別の効果を奏しえたものとも認められない。」(審決書5頁4~18行)と認定判断しているが、以下に述べるとおり、誤りである。

厚紙の表面に液状の接着剤が塗布されると、この接着剤の一部が厚紙の表面に含浸し、その含浸部で接着剤の成分であるポリマー粒子が融合固化して、樹脂含浸層を形成するに至る。すなわち、この樹脂含浸層は、厚紙の表面からこの厚紙内にわずかに入り込んだ部分までの範囲、つまり、この厚紙自体の表面に形成されて、この厚紙自体の表面を疎水性に転化させるものである。

本件発明の要旨には、「先端が厚紙内部に達する微孔」が構成要件として示されているが、ここにいう「厚紙内部に達する」とは、上述の厚紙の表面に形成された樹脂含浸層を通り過ぎて、微孔の先端がこの樹脂含浸層よりも深い部分の厚紙内部まで到達することを意味する。なぜなら、微孔の先端が樹脂含浸層の途中までしか到達しない場合には、この微孔は樹脂含浸層よりも深い部分の厚紙内部と連通せず、それでは所期の水分排出効果が達成できないからである。このことは、本件明細書中に「先端が厚紙内部に達する微孔を多数あけることによつて、高強度でかつふくれのない樹脂被覆紙で構成されたバインダーまたはフアイルの表紙を提供した」(甲第3号証1頁2欄16~19行)との記載によって裏付けられている。

一方、引用例発明には、芯地となる厚紙に表装となる樹脂シートを接着剤によって貼り付けたバインダー又はファイルの表紙において、「接着剤の層を貫通する」細小の穿孔を樹脂シートに設けたものが開示されており、このような樹脂シートと接着剤層とにわたる細小の穿孔を通して、厚紙から発生するガスの脱出を図ろうとしている。

しかし、現実には、このような樹脂シートと接着剤層とに穿孔を形成しただけでは、十分な脱気効果は期待できない。なぜなら、前記のとおり、接着剤は多量に水分を含んでおり、これが厚紙の表面に含浸され、接着剤の固化時に抜けた水分は樹脂シートを通らないために厚紙内部にしみ込むが、厚紙の表面は含浸した接着剤のポリマー粒子の固化により疎水性になっているため、引用例考案のように樹脂シートと接着剤とに穿孔しただけでは脱気効果が十分ではなく、本件発明のように厚紙の内部にまで穿孔しなければならないからである(甲第7、第8号証)。

2  以上のように、本件発明と引用例発明は、厚紙から発生するガスの脱出を図ろうとする目的においては共通性があるものの、樹脂含浸層を通り過ぎて深く「先端が厚紙内部に達する微孔」を設けるか、あるいは、厚紙内部まで深く到達しない「接着剤の層を貫通する穿孔」を設けるかという構成において異なるうえ、脱気効果においても、本件発明が引用例発明より優れていることは明らかであるから、本件発明を引用例発明に基づいて当業者が容易に発明することができるとした審決の判断は誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。

1  本件発明にいう「先端が厚紙内部に達する微孔」を、原告主張のように、厚紙の樹脂含浸層を通り過ぎて、この樹脂含浸層よりも深い部分の厚紙内部まで到達する微孔を意味すると解する根拠はない。

本件明細書(甲第3号証)には、その主張を示唆するような構成の記載はなく、「先端が厚紙内部に達する微孔」としか明細書にも図面にも記載されていない。かえって、図面(第2、第3図)によれば、微孔の先端は厚紙の表面部である樹脂含浸層付近に止まっており、それ以上深くは侵入していない。樹脂含浸層の厚さはミクロン単位のものであるから実質的には接着剤層の一部とみなすことができる。

一方、引用例発明において、穿孔を接着剤の層を貫通するようにした目的は、製品化後に厚紙内部に発生する蒸気を脱出させることにある点で、本件発明と同じである。引用例(甲第5号証)には、針による穿孔がシートと接着剤層を貫通して図示されている(第3図)が、接着剤層の厚さは、上記樹脂含浸層と同じくミクロン単位のものであり、機械的に行われる針による現実の穿孔作業を考えると、針の先端が厚紙の表面に接する接着剤層の下面で正確に停止し、それ以上に厚紙の表面下に達することは起こりえないと考えることは常識的に無理である。

したがって、本件発明の構成と効果は、実質的には、引用例において開示されているといわなければならない。

原告は、引用例発明について、このような樹脂シートと接着剤層とに穿孔を形成しただけでは、十分な脱気効果は期待できない旨主張するが、原告の援用する「報告書」(甲第8号証)による試験は、本件発明と引用例発明との各構成を同じ条件のもとでなしているものとはいえないから、これを根拠とすることはできない。

2  以上のとおり、本件発明は、引用例発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明が引用例発明と比べて格別の効果を奏するものとはいえないから、審決の判断に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  容易推考性の判断について

(1)  本件明細書及び図面(甲第3号証)の記載によれば、本件発明は、従来「樹脂シートと厚紙とを接着剤で接着しておくことが提案されているが、製品化後、高温中に放置されると、接着剤塗布の際に厚紙に泌み込んだ水分が気化して、樹脂シートをふくれあがらせるという欠点があり、必らずしも好ましいものとはいえない。」(同号証2欄4~9行)との認識のもとに、その欠点を解消するため、本件発明の要旨に示す構成、特に、その「先端が厚紙内部に達する微孔を多数あけた」構成を採用し、厚紙内部に発生する蒸気を脱出させることとしたため、「このような樹脂被覆紙で構成された本発明のバインダーまたはフアイルの表紙によれば、樹脂シートのふくれをほぼ完全に防止できると共に、樹脂シートと厚紙とが接着剤で強力に接着されているので、全体としての強度が向上し、使用する樹脂シートの厚さを薄くすることができる。」(同2頁4欄17~23行)との作用効果を奏するようにしたものであると認められる。

本件発明は、その要旨に「接着剤を塗布した厚紙の両面に、・・・樹脂シートを配置し」と示されているように、樹脂シートと厚紙とを接着剤で接着するに際して、まず、厚紙の両表面に接着剤を塗布している。

原告は、この際樹脂含浸層が厚紙自体の表面に形成されて、厚紙自体の表面を疎水性に転化させるので、微孔の先端が樹脂含浸層の途中までしか到達しない場合には、所期の水分排出効果が達成できないから、本件発明における「先端が厚紙内部に達する微孔」とは、樹脂含浸層を通り過ぎて、微孔の先端がその層よりも深い部分の厚紙内部まで到達することを意味すると主張する。

しかし、本件明細書及び図面(甲第3号証)には、特許請求の範囲の記載を含め、樹脂含浸層の形成については何ら記載されておらず、本件明細書及び図面の記載による限り、本件発明の「先端が厚紙内部に達する微孔を多数あけ」とは、多数の微孔が樹脂シート及び接着剤層を貫いて、その先端が接着剤層に接する厚紙自体の表面を越え内部に至ることを意味するものと認められ、それ以上の意味を有するものとは認められない。

したがって、仮に原告主張のように厚紙自体の表面に樹脂含浸層が形成されるとしても、その層は依然として厚紙の一部であることは明らかであるから、原告主張のように微孔の先端が樹脂含浸層を通り過ぎて樹脂含浸層よりも深い部分の厚紙内部まで到達する場合に限られず、微孔の先端が樹脂含浸層を貫いても厚紙の樹脂を含浸していない内部にまでは達しない場合、あるいは、樹脂含浸層の途中までしか到達しない場合も、本件発明の「先端が厚紙内部に達する微孔」に該当すると解するほかはない。

この微孔の先端が樹脂含浸層を貫いても厚紙の樹脂を含浸していない内部にまでは達しない場合、樹脂含浸層を貫く微孔が接着剤層及び樹脂シートを貫通する微孔に連通することから、この微孔を通じ、厚紙内部の水分排出効果が達成されるものと認められ、また、微孔の先端が樹脂含浸層の途中までしか到達しない場合にも、厚紙表面のパルプ繊維の間隙が樹脂の含浸により完全に閉塞されるとは考えられないから、樹脂含浸層のため水分排出効果が低下するとしても、それなりに同効果はあるものと認められ、この点からしても、本件発明における「先端が厚紙内部に達する微孔」から、上記のような場合が排除されているとはいうことはできない。

(2)  一方、引用例に審決認定の技術事項(審決書2頁末行~4頁3行)が記載されており、特に「穿孔」については、「接着層(24)を貫通する細小の穿孔(21)」(同3頁4~5行)、「穿孔21は接着剤24の層も貫いて伸張する」(同3頁14~15行)と記載されており、このように、引用例発明において「接着剤の層を貫通する」穿孔を設けた目的が、製品化後に厚紙内部に発生する蒸気を脱出させることにある点で本件発明と異なるところがないことは当事者間に争いがない。

そして、引用例(甲第5号証)には、その図面(第3図)に、穿孔21が、プラスチックシート23及び接着剤24を貫通し、厚紙の表面に達しているが、厚紙の内部にまでは達していない実施例が示されていることが認められる。

以上の事実に基づけば、本件発明において、仮に原告主張のように厚紙表面に樹脂含浸層が形成されるとしても、上記のように、微孔の先端が樹脂含浸層を貫いても厚紙の樹脂を含浸していない内部にまでは達しない場合も本件発明の構成に該当すると解すべきであるから、この場合、本件発明の「微孔」と引用例発明の「穿孔」とは、共に厚紙の樹脂を含浸していない部分を外気と接触させる作用を行うという意味で、水分排出効果に差異はないものと認められる。また、引用例発明においても厚紙表面に樹脂含浸層が形成されるとすると、その穿孔の先端は樹脂含浸層に達していることになり、一方、微孔の先端が樹脂含浸層の途中までしか達しない場合も本件発明の構成に該当すると解すべきこと前示のとおりであるから、両発明は、上記穿孔又は微孔の先端が樹脂含浸層を貫いておらず、樹脂含浸層よりも深い部分の厚紙内部まで到達していない点においては同一であるから、この場合も、水分排水効果に差異はないものと認められる。

したがって、両者の差異を樹脂含浸層に関連させて根拠づけようとする原告の主張は、その前提において相当でないから、採用できない。

そうすると、引用例発明における「穿孔」がプラスチックシート及び接着剤を貫通するのみで、厚紙内部にまで達していないものとしても、引用例発明において「接着剤の層を貫通する」穿孔を設けた目的が、本件発明の微孔と同様に、厚紙からのガスの脱出を図るものであり、この目的は穿孔部分において厚紙が外気と接していることにより達成されることはきわめて容易に理解されるところであるから、引用例発明の「穿孔」の先端を接着剤層からさらに厚紙内部に達するようにして、気化した水分の脱出を一層容易にして樹脂シートのふくれを防止することは、当業者が容易に推考しうる事柄ということができ、その効果も予測外のものとは認められない。

2  以上によれば、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

平成4年審判第1665号

審決

大阪府大阪市中央区平野町2丁目4番7号

請求人 株式会社 ライオン事務器

東京都千代田区神田平河町1 第三東ビル7階

代理人弁理士 牛木理一

大阪府大阪市西淀川区野里3丁目6番12号

被請求人 河野化成 株式会社

大阪府大阪市西区西本町1丁目10番10号 西本町全日空ビル4階 森本特許事務所

代理人弁理士 森本義弘

大阪府大阪市西区西本町1-10-10 西本町全日空ビル4階 森本特許事務所

代理人弁理士 原田洋平

大阪府大阪市中央区谷町3丁目4番5号 中央谷町ビル 玉田特許事務所

代理人弁理士 笹原敏司

上記当事者間の特許第1396940号発明「バインダーまたはファイルの表紙」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

特許第1396940号発明の特許を無効とする。

審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

本件特許第1396940号発明(昭和56年12月19日特許出願、昭和62年8月24日設定登録。)(以下、「本件特許発明」という。)の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「接着剤を塗布した厚紙の両面に、該厚紙より若干大きく周縁部が厚紙より外方へ張り出した樹脂シートを配置し、圧着して樹脂シートと厚紙とを接着剤で接着し、かつ樹脂シートの周縁部間を融着すると共に、少なくとも一方の樹脂シート側から先端が厚紙内部に達する微孔を多数あけた樹脂被覆紙で構成されたことを特徴とするバインダーまたはフアイルの表紙。」

これに対して、請求人が甲第4号証として提出した上記特許出願前に独国において頒布された刊行物である独国実用新案第7509766号公告明細書(1975年8月14日実用新案公告)には、厚紙から成る表表紙、背表紙、裏表紙の内外両面をプラスチックシートで覆い、プラスチックシートの縁端区域を溶接し、・・・・・・、厚紙の両面に薄いシートを接着して成るルーズリーフ式ノート用バインダにおいて、接着層(24)を貫通する細小の穿孔(21)をシート(23、33)に設けたことを特徴とするバインダ(実用新案登録請求の範囲)について記載されており、さらに、「穿孔をバインダの面に分配して設けるのが適当である。その場合、穿孔は極めて細かいので、局部的に発生するガス、特に厚紙が熱せられて発生する蒸気の脱出を許すが、・・・・・穿孔は見えず、またはバインダの全体的印象が穿孔によって視覚的にまったく阻害されないような大きさである。」、「穿孔21は接着剤24の層も貫いて伸張するから、例えば日射を受けるショーウインドに陳列した場合、バインダの過度の加熱で厚紙に発生するガスが脱出することができる。」との記載がなされており、前記細小の穿孔がバインダの面に設けられている実施例を示す図2、厚紙25の両面にプラスチックシート23及び33を接着剤24で接着し、プラスチックシート側から穿孔21が接着剤24の層を貫通していることを示す図3が記載されていることが認められる。

本件特許発明と甲第4号証記載のものとを対比すると、接着剤を塗布した厚紙の両面に樹脂シートを圧着することは、樹脂シートと厚紙とを接着剤で接着する手法として自明であるから、前者における「接着剤を塗布した厚紙の両面に、・・・・・、圧着して樹脂シートと厚紙とを接着剤で接着」は、後者における「厚紙の両面にプラスチックシートを接着剤で接着」と実質的に差異はなく、また、前者における「融着」は、後者における「溶接」と同義と認められるから、両者は、接着剤を塗布した厚紙の両面に、該厚紙より若干大きく周縁部が厚紙より外方へ張り出した樹脂シートを配置し、圧着して樹脂シートと厚紙とを接着剤で接着し、かつ樹脂シートの周縁部間を融着すると共に、少なくとも一方の樹脂シート側から微孔を多数あけた樹脂被覆紙で構成されたことを特徴とするバインダーまたはフアイルの表紙である点で一致し、ただ、微孔が、前者は「先端が厚紙内部に達する」のに対し、後者は「接着剤の層を貫通する」点で相違するものと認められる。

相違点を検討すると、甲第4号証記載のものにおいて「接着剤の層を貫通する」とした目的は、製品化後に厚紙内部に発生する蒸気を脱出させることにある点で本件特許発明と同じである。そして、かかる目的は、穿孔部分において厚紙が外気と接していることにより達成されることは極めて容易に理解しうるところであるから、接着剤の層を貫通する穿孔の先端をさらに厚紙内部に達するようにした場合にも同様の目的が達せられることは容易に予測が可能である。したがって、甲第4号証記載の「接着剤の層を貫通する」のに代えて「先端が厚紙内部に達する」とすることは、当業者が容易になし得るということができる。しかも、本件特許発明が、この点により格別の効果を奏しえたものとも認められない。

以上のとおりであるから、本件特許発明は、甲第4号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、同法第123条第1項第1号に該当する。

よって、結論のとおり審決する。

平成5年3月10日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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