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東京高等裁判所 平成5年(ネ)2278号 判決 1993年12月22日

控訴人(原告) 張間隆蔵

被控訴人(被告) 大映映像株式会社 外七名

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴人の当審で拡張した請求をいずれも棄却する。

三  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  控訴人に対し、被控訴人大映映像は金三万九二〇〇円(減縮)、同太陽企画株式会社は金七一四〇円(拡張)、同株式会社ジングは金二万円、同アイ・ヴィ・エス・テレビ制作株式会社は金三万三〇〇〇円(減縮)、同株式会社東北新社は金二万一五〇〇円、同株式会社シー・エー・エルは金四〇〇〇円(拡張)、同株式会社日企は金一万一五〇〇円及び同ニュー・センチュリー・プロデューサーズは金三〇〇〇円並びに右各金員に対する昭和六三年四月二七日(ただし、被控訴人ニュー・センチュリー・プロデューサーズは同年一一月六日)から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。

4  仮執行の宣言。

二  被控訴人ら

主文同旨。

第二事案の概要

次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決六頁五行目の「あやべ企画」の次に「(ただし、被控訴人日企については、有限会社日秀プロダクション)」を加え、同七頁六行目の「職安法」を職業安定法(以下「職安法」という。)」に、同八頁三行目の「1の(1)、6の(1)」を「2の昭和六一年六月一八日分、6の同年一二月一七日分、8の同月一三日分」にそれぞれ改め、同五行目の末尾に行を変えて「4 被控訴人らは、あやべ企画(ただし、被控訴人日企については有限会社日秀プロダクション)に所定のエキストラ出演料を支払った。」を加え、同九頁九行目の「原告エキストラら」を「集合した控訴人らエキストラ希望者」に、同一〇頁末行の「違法な労働者供給に当たる。」を「違法に労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させることに当たるので、このような契約は無効であり、違法な労働者供給事業を禁ずる法の趣旨からしても、控訴人と被控訴人らとの間における直接の雇用契約の成立を認め、労働者たるエキストラの権利の保護を図るべきである。」にそれぞれ改める。

二  同一一頁六行目の「原告」を「控訴人ら」に、同一三頁一行目の「原告」を「控訴人ら」にそれぞれ改め、同行の「被告との間に」の次に「何らかの」を、同一五頁の一行目の「あやべ企画」の次に「(ただし、被控訴人日企については、有限会社日秀プロダクション。以下この項において同じ。)」をそれぞれ加える。

第三争点についての判断

当裁判所も、控訴人と被控訴人らとの間において雇用契約が成立したものとは認められないので、控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「第三 争点に対する判断」に説示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決一七頁四行目の「尋問の結果」の次に「及び弁論の全趣旨」を、同一九頁六行目の末尾に「(ただし、被控訴人日企については、有限会社日秀プロダクション。以下同じ。)」を、同二二頁六行目の末尾に行を変えて「5 被控訴人日企と有限会社日秀プロダクションとの間においても被控訴人らとあやべ企画との間におけるのとほぼ同様であった。」をそれぞれ加え、同七行目の「5」を「6」に改める。

二  同二三頁一〇行目の「前記」から同二四頁二行目の「できないが、」までを次のとおりに改める。

「前記認定の事実によれば、テレビ番組及びコマーシャル番組に出演するエキストラは、原則としてその演技力を重視されることはなく、エキストラ演技という特殊な労務に一定時間従事することにより、その時間の長さによって労務の対価が決められるものであり、契約の相手方が誰であるかを暫く措くとすれば、その労務提供の契約関係は雇用契約に親しみやすい面があるということができる。しかしながら他方において、控訴人は、撮影場所においてエキストラとして出演中、被控訴人らの助監督やアシスタントディレクターの指示・指導に従って演技をしていたものであるところ、テレビ番組及びコマーシャル番組を制作するためには、エキストラといえども一定の制作・撮影方針に沿った演技をすることが必要であり、そのためには監督等の指示・指導に従うことが要求されることは事柄の性質上当然のことであって、この点では俳優の場合と異なるところはないというべきである。したがって、控訴人が演技をする際に助監督やアシスタントディレクターの指示・指導に従ったとの事実から直ちに、控訴人と被控訴人らとの間に雇用関係として評価し得る使用従属関係があったと判断することはできない。そして、」に改める。

三  同二五頁四行目の「あやべ企画」から同五行目の「としても、」までを削り、同末行の末尾に次のとおり加える。

「むしろ、弁論の全趣旨によればあやべ企画が被控訴人のほかにも多数の会社と本件におけると同様の契約を締結しているものと認められること、及び前記認定の事実関係によれば、控訴人は、被控訴人らに派遣されるに際しては、その都度あやべ企画と雇用契約を締結し、同社と被控訴人らとの間の派遣契約のもとに、あやべ企画の従業員として被控訴人らに派遣されたものと解するのが相当である。」

四  同二六頁五行目の冒頭から同二八頁末行の末尾までを次のとおり改める。

「しかし、仮に、あやべ企画と被控訴人らとの間のエキストラ確保に関する契約に職安法や労働者派遣法に違反するところがあったとしても、そのこと故に前記の認定、判断を左右することはできないし、また、労働者供給事業を禁止する法の趣旨はもとよりこれを尊重しなければならないが、前記の認定事実からすれば、なお控訴人と被控訴人らとの間における直接の雇用契約の成立を認定することはできない。」

五  同二九頁一行目の「請求は」の次に「その余の点について判断するまでもなく」を加える。

よって、原判決は相当であり、本件控訴及び控訴人が当審で拡張した請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 清水湛 瀬戸正義 小林正)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

一 原告の請求をいずれも棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一 原告に対し、被告大映映像株式会社は三万九二〇〇円、被告太陽企画株式会社は七一四〇円、被告株式会社ジングは二万円、被告アイ・ヴィ・エス・テレビ制作株式会社は三万三〇〇〇円、被告株式会社ニュー・センチュリー・プロデューサーズは三〇〇〇円、被告株式会社東北新社は二万一五〇〇円、被告株式会社シー・エー・エルは四〇〇〇円、被告株式会社日企は一万一五〇〇円をそれぞれ支払え。

二 訴訟費用は被告らの負担とする。

第二事案の概要

一 事案の要旨

原告は、綾部洋三が個人で主宰していた「あやべ企画・日本エキストラ協会」(以下「あやべ企画」という。)の会員として、被告らが制作した各番組(テレビ番組、コマーシャルフィルム)にエキストラとして出演したものであるが、本件は、原告が、このエキストラ出演は原告と被告らとの間の各雇用契約によるものであると主張して、被告らに対してその出演料を請求し、これに対し、被告らは、エキストラ出演はあやべ企画と被告らとの間の契約(エキストラの斡旋、派遣、確保等必ずしも内容は被告ら間でも一致していない)に基づくものであると主張し、右雇用契約を争っている事案である。あやべ企画は、被告らから原告のエキストラ出演料を受領した後、これを原告に支払う前に倒産した。

二 前提となる事実

次の事実は、当事者間に争いがないか、または、末尾記載の証拠によって認められる。

1 あやべ企画は、昭和五九年頃に、新聞等の広告でテレビ番組、コマーシャル映画等にエキストラとして出演する希望者を募り、希望者を入会金五〇〇〇円で会員として登録し、テレビ番組、コマーシャル映画等の制作会社から、エキストラの出演方を依頼された場合、会員の中から出演希望者を募集し、これを右制作会社に紹介することを業とし、綾部洋三が「職安法」三二条一項但し書きにより労働大臣から有料職業紹介業をすることの許可を受けた個人事業であり、原告は、昭和六一年三月二〇日、あやべ企画の会員になった(甲一三号証、一四号証の一、二、原告本人尋問の結果)。

2 被告らは、テレビ番組、コマーシャル映画の企画制作等を業とする会社である(争いがない)。

3 原告は、被告らがそれぞれ制作した別紙1ないし8の番組名欄記載の各番組(以下「本件番組」という。)につき撮影日欄記載の日にエキストラ(ただし、別紙1の(1)、6の(1)はオーディション)として群衆、通行人、サラリーマン、店員、客等の役で出演した(甲九号証、四六号証、原告本人尋問の結果)。

三 争点

原告と被告らとの間に、本件番組につきエキストラとして労務を供給する各雇用契約が黙示に締結されたものと認められるかどうか。

1 原告の主張

(一) 原告と被告らは、原告が被告ら制作の別紙1ないし8の本件番組につき、各年月日欄記載の日に、日々雇用の労働者であるエキストラとして出演し、被告らはその対価として、業界慣行賃金及び交通費(山の手線外側での交通費、公共交通機関が運行を停止した時刻まで撮影が行われたときの交通費等一定の要件を満たす場合)を支払う旨の雇用契約を黙示に締結した。

この雇用契約締結の手順は、まず、被告ら番組制作者からあやべ企画に対しエキストラの紹介の申込みがあり、次にあやべ企画からエキストラ出演を希望する原告に右エキストラ出演方が紹介され、これを受けて原告は、被告らの番組制作の監督ないし助監督が指定する集合時刻・場所に赴き、もって、黙示に被告らにエキストラとして出演する雇用契約の締結の申込みをし、他方、被告らは、集合場所で原告エキストラらの点呼を自ら行い又はあやべ企画の従業員から報告を受けた点呼結果に基づき、エキストラとしての原告に対し作業指示(出演、移動、待機等)をし、もって、黙示に原告の申込みを承諾した。

(二) あやべ企画は、職業安定法(以下「職安法」という。)三二条一項但し書きにより、有料職業紹介業をすることを許可されているに過ぎないところ、職安法四四条により労働者供給事業をすることは原則として禁止されており、また、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」(以下「労働者派遣法」という。)四条によりエキストラ出演は同法の適用対象とされていない。エキストラとしての出演は、単純な労務の提供であり、かつ、被告ら制作会社の指揮命令を受けて行われるものである。したがって、被告らがあやべ企画からエキストラの供給を受けるのは、委託契約、請負契約、準委任契約等いかなる法形式によっても、違法な労働者供給に当たる。

2 被告らの主張

(一) 被告大映映像(別紙1の番組について)

被告は、別紙1の番組制作につき、あやべ企画に対し、エキストラ出演による撮影に協力することを委託し、または、エキストラの斡旋を依頼し、あやべ企画がこれを承諾したものであり、いわば準委任的労務利用契約である。原告エキストラは、被告の指揮命令を受けて労働に従事するのではなく、あやべ企画の指示でその履行補助者として受託事務を処理したものか、または、被告の一定の指導を受けつつも自らのある程度の裁量で成し遂げるのである。当事者を含めて本件事件の関係者は、エキストラと被告との間に雇用契約が成立しているとは理解していなかった。エキストラは、一人親方ともいうべき存在であって、雇用関係にある被用者とみることはできない。

(二) 被告太陽企画(別紙2の番組について)

被告は、あやべ企画からコマーシャルフィルム撮影に必要なエキストラの派遣を受け、その場合にあやべ企画の請求によりエキストラ派遣料をあやべ企画に送金して支払ってきたのであり、あやべ企画との間で、被告の指定するコマーシャルフィルムの撮影に必要なエキストラを出演、演技させる旨の請負契約類似または労働者派遣契約類似の無名契約を締結したのであって、各エキストラとの間で、直接の雇用契約を締結したことはなく、賃金等の労働条件についての合意もなかった。被告とあやべ企画とのエキストラ派遣契約は、労働者派遣法、職安法に違反しているとしても、これが無効になるとすべき理由はない。

仮に、原告エキストラと被告との間に契約が成立しているとしても、それは、あやべ企画が原告をエキストラとして紹介すると同時に、原告が、あやべ企画を代理人として、被告との間に、原告においてエキストラとして出演して演技することを目的とする請負契約ないし準委任契約を締結したものである。エキストラは、独立した俳優であり、各人が独立の事業者として活動しているものであるから、労働基準法上の労働者ではない。

(三) 被告ジング(別紙3の番組について)

被告は、原告と賃金その他の労働条件を合意したことはなく、あやべ企画との間で、広告フィルムの制作にあたり、あやべ企画がエキストラの演技方をすることを約したものであって、原告があやべ企画の従業員として、その演技を担当したのである。

仮に、原告と被告との間に契約関係があったとしても、それはエキストラとしての出演が、その演技力が要求され、被告の指揮命令によって単なる肉体労働をするものではないから、雇用契約に当たらず、広告フィルムの制作に向けての共同作業をすることを内容とする請負契約というべきである。広告フィルムへの出演が雇用契約であるとすれば、その雇用主はあやべ企画であり、原告はエキストラとして出演先に派遣されて労務を提供したとみるべきである。

(四) 被告アイ・ヴイ・エス(別紙4の番組について)、ニュー・センチュリー(別紙5の番組について)、東北新社(別紙6の番組について)、シー・エー・エル(別紙7の番組について)、日企(別紙8の番組について)

本件における契約関係は、被告らとあやべ企画との間には、あやべ企画が被告らによる番組等の撮影に必要な人数のエキストラを確保したうえで、確保したエキストラを撮影現場においてあやべ企画の管理監督下(出欠の確認、休憩、移動、解散の指示等)で使用して被告らが制作する番組等の背景の一部を完成させるという内容の請負契約が締結され、また、あやべ企画と原告らとの間には、あやべ企画の指示する撮影現場においてエキストラとして出演するという内容の出演契約が締結されたものである。原告と被告らとの間に雇用契約が成立したといえるためには、エキストラとしては自己が労務を提供している相手が制作会社であること及び制作会社としてはエキストラの労務を自己に対するものとして受領しているという認識があることが不可欠であるが、本件では両当事者にそのような認識がなかった。したがって、エキストラは、被告らとの関係ではあやべ企画の請負契約上の義務を履行するための履行補助者にすぎないのである。

有料職業紹介や労働者供給事業が規制される趣旨は、強制労働や中間搾取の防止にあるが、原告があやべ企画から指示を受けた撮影のエキストラを引き受けるかどうかは原告の裁量に委ねられていて強制労働の防止の必要性がないし、エキストラの出演料の相場があるということであれば中間搾取の入り込む余地もない。職安法四四条は、供給先の指揮命令下に労働する労働者を供給する事業を禁止しており、原告が被告らの指揮命令下で労働しているとはいえない本件にあっては、同条が適用される余地はない。

第三争点に対する判断

一 甲一三号証、四二、四三号証、四四号証の一、二、乙イ一号証の一ないし六、イ二号証の一ないし四、ロ一号証の一、二、ロ三号証、ハ一号証の一ないし五、ハ二号証の一、二、ハ三号証、ヘ一号証の一、二、証人杉崎博久、星野高広、高橋佐知子、山田明彦、藤田知久、伊集院武志、島田開、福澤真司の各証言、菊池清治(分離)、光井シゲ子(取下げ)、原告各本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。

1 あやべ企画が昭和六一年二月に作成した会則には、(一)出演依頼は、前日にあやべ企画に電話で申込をし、先着順とすること、(二)出演が決まった者は、必ず定められた場所、時刻に集合し、欠席した場合は会員を除名し、いままでの出演料は支給しないこと、(三)出演料は、出演日の翌々月(コマーシャルフィルム等は三ヶ月後)にあやべ企画宛に書面で請求すること、(四)交通費は、山手線内のロケ現場や制作会社に集合の場合は支給されないが、午後一一時を超過した場合はタクシー代を支給すること、等が記載されている。出演料は、右会則に従ってあやべ企画から各出演者に支払われてきたが、その額自体は、番組内容、出演時間によって決められ、おおよそ半日で三〇〇〇円、一日五〇〇〇円、朝から深夜までで八〇〇〇円位の範囲内で決められていたものの、出演前に予めあやべ企画から明確に知らされることはなく、出演後にあやべ企画から告げられた額が支給されていた。会員には、会員の生年月日、住所、氏名を記載し写真を貼付した会員証を交付し、エキストラとして映画会社・テレビ局に入場するときはこれを提示すべきことを指示していた。会員は、撮影現場の雰囲気を好み、エキストラとしてこれに参加することに愛着を持つ者が多く、出演料の額、その支払遅延等には不満を現実に申し出ることが少なかった。

2 被告らは、本件番組を作成するにあたり、その一週間ないし前日までに、あやべ企画に対し、撮影に必要なエキストラの人数、年齢層、性別及び服装等のイメージを指示し、あやべ企画の判断でその条件に適うエキストラを選択して手配・確保することを求め、あやべ企画はこれを承諾し、両者間でエキストラ出演の確保の料金を合意した(なお、被告日企は有限会社日秀プロダクションとの間で右と同様の指示、合意をした。)。被告らがあやべ企画との間でエキストラの確保を依頼する契約の目的は、被告らがテレビ番組、コマーシャル番組を制作する場合、個々のエキストラの出演を必要とするのは比較的短時間であり、かつ、制作過程の最終時期にその必要性の有無・人数等が確定するうえ、エキストラの出演料は一般的に低額であるため、その都度エキストラを募集し、出演条件等を交渉して個別的に契約を締結し、出演の確保、出演料の支払い等の事務をすることは煩雑、困難であることから、これを回避するため、エキストラ出演希望者をあらかじめ会員として登録しているあやべ企画のような職業紹介業者を利用することによって、エキストラを簡易迅速に調達できるようにするものであった。被告らは、このような目的でエキストラの確保をあやべ企画に依頼しているので、被告らが原告ら会員との間で出演料について協議したり、原告ら会員に出演料を告知したことはなかった。

3 あやべ企画は、本件番組につき、原告ほか出演希望会員に対して集合時間・場所を連絡し、集合場所に派遣したあやべ企画のマネージャーが、会員の集合の有無を点呼して確認したうえで、集合人数のみを制作会社スタッフに報告し、撮影中は待機しており、助監督・マネージャーの指示を受けてエキストラに対して移動、休憩、昼食・夕食、解散の指示を行った(別紙8の番組については、有限会社日秀プロダクションの担当者が右と同様のことを行った。)。エキストラは、台詞がほとんどなく、多くは演技を練習する必要もないが、中には演技力を必要とするものもあり、総じて絶対に目立ってはならない通行人・客等いわば背景としての役者であり、原告ら会員は、制作会社の助監督・アシスタントディレクターの指導に基づいてエキストラとして右各番組で演技をした。

4 あやべ企画は、制作会社に対し、エキストラの出演につき、出演後に各エキストラごとの賃金、紹介手数料、交通費の内訳をもって合計額を記載した請求書(被告大映映像の場合)、エキストラの各氏名とその各請求額を記載した請求書(被告太陽企画の場合)等の形式で提出し、制作会社は、予め取り決めたエキストラ一人当たりの料金と当日集合を確認した人数に基づいて計算された金額と照合したうえで、エキストラ費として消費税を入れて(被告大映映像の場合)、または人件費として源泉徴収をしたうえで(被告太陽企画の場合)、あるいは源泉徴収はせずにエキストラ出演費として(被告ジング、同シー・エー・エルの場合)、あやべ企画の請求に対し、それぞれ一括してあやべ企画にその支払をしていた。

5 原告を含めてエキストラとして出演した会員は、前記会則に従い、あやべ企画に出演料振込申込書の葉書を送付し、あやべ企画から銀行振込の方法で支払を受けてきたところ、その収入について個人事業者として青色申告をしてきたもので、原告は、他の会員と共に本件番組の出演料を従前通りに方法で請求していたが、あやべ企画が昭和六二年四月頃事業閉鎖したため、その支払いを受けていない。

二 そこで考えるに、原告と被告らとの間に黙示に雇用契約が成立したといえるためには、原告と被告らとの間に、単に事実上の使用従属関係があるというだけでなく、雇用条件決定の経緯、指揮命令関係の有無・内容、労務管理の有無・程度、賃金の支払い方法等諸般の事情に照して、原告が被告らの指揮命令のもとに被告らに労務を供給する意思を有し、これに対し、被告らがその対価として原告に賃金を支払う意思を有するものと推認され、社会通念上、両者間で雇用契約を締結する旨の意思表示の合致があったと評価できるに足りる事情があることが必要である。

1 前記認定の事実によると、原告は、撮影場所においてエキストラとして出演中は被告らの助監督・アシスタントディレクターの指示・指導に基づきエキストラとして演技していたのであるから、原告と被告らとの間にその限度で事実上の使用従属関係があったことは否定できないが、原告は、あやべ企画との間で出演時期・場所、出演料等の出演条件を合意したときは、専らあやべ企画から指示を受けて出演場所に集合し、出演場所に待機しているあやべ企画の担当者から集合点呼、移動・休憩・食事・解散の指示を受けており、出演後にあやべ企画に対し出演料を請求し、あやべ企画からその支払いを受けていたものであって、無断不出演についてはあやべ企画から制裁を受けることになっていて、被告らとの間で出演条件の内容を話し合ったこともないのであり、他方、被告らは、エキストラの確保をあやべ企画に依頼し、その対価をあやべ企画に一括して支払ってきたが、エキストラとしての原告があやべ企画から受領する出演料の決定に関与しておらず、また、撮影場所に集合したエキストラに対し面接してその採否を決めたり、住所氏名を確認したりすることはなく、特定の個人に着目してエキストラとしての出演を求めているわけではなかったものということができる。

このような事情のもとにおいては、あやべ企画から支払われる原告の出演料が賃金に当たるとしても、被告らは、原告の賃金その他の雇用条件を決定しておらず、原告に対し労務提供につき全般的な指揮命令、労務管理をしていたということもできず、また、賃金の支払いに関与していたともいえないのであるから、原告が被告らの助監督・アシスタントディレクターの指示・指導に基づきエキストラとして演技していた事実があるからといって、これを根拠に原告と被告らとの間に雇用契約が黙示に成立したということは困難であるというほかない。

2 原告は、被告らとあやべ企画との間のエキストラ出演についての契約は契約の名称如何にかかわらず違法な労働者供給に当たり無効であり、あやべ企画は職業紹介を業とするものにすぎないから原告の雇用主たりえず、被告らと原告との間に雇用契約が成立したものと認められる旨主張する。

前記認定の事実関係によれば、テレビ番組、コマーシャル番組に出演するエキストラは、原則としてその演技力を重視されることがないけれども、エキストラ演技という特殊な労務に一定時間従事し、その時間の長さによって対価が決められるのであるから、エキストラ出演を目的とする契約において、指揮命令関係のもとに労務提供がされる場合は、仮に請負、委任等の法形式が採られていても、これが雇用契約であると認めることができるところ、あやべ企画は、職業紹介を業とするものにすぎず、原告との間で雇用契約を締結したわけではなく、また、原告は、あやべ企画に対してエキストラ出演の募集に応ずる義務を負うものではなく、出演するかどうかは任意の選択に委ねられていて、エキストラ出演の要否につき指揮命令関係にあるものではないから、エキストラ出演を希望した原告を被告ら指示のとおりエキストラとしての労務に従事させることが直ちに職安法四四条所定の労働者供給、労働者派遣法二条、四条所定の労働者派遣に問疑すべきことになるものではないというべきである。

もっとも、あやべ企画は、原告との間に雇用契約があるわけでもないのに、原告との間にあたかも雇用契約関係があるかのように独自に出演料を決定し、原告との間に出演料支払いの債権債務関係を有しているのであって、出演に当たって前記のとおり集合点呼、休憩・解散等の指示で原告を指揮命令していたことに照すと、出演を約した原告の労務供給につき支配従属関係にあると認めることができ、かつ、被告らがエキストラ出演につき演技の指導・命令という限度ではあるが原告に対して指揮命令関係にあることを考慮すると、あやべ企画が被告らとの間の契約により原告を被告ら指示のとおりエキストラとしての労務に従事させることは、職安法四四条所定の労働者供給あるいは労働者派遣法四条所定の適用対象業務外の労働者派遣に当たる違法なもので、是正されなければならなかった、と考えることにも一理ある。

しかしながら、仮に、あやべ企画と被告らとの間のエキストラ確保の契約が、職安法、労働者派遣法に違反するものであったとしても、それが故に被告らと原告との間に黙示の雇用契約が成立していたものと認めることができないことは前叙のとおりである。

三 以上のとおり、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

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