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東京高等裁判所 平成4年(行コ)13号 判決 1993年10月06日

控訴人

小久保汽船有限会社

右代表者代表取締役

野口勝己

右訴訟代理人弁護士

山下豊二

根岸隆

被控訴人

日本内航海運組合総連合会

右代表者代表理事

松本泰徳

右訴訟代理人弁護士

阿部三夫

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一原判決を取り消す。

二被控訴人が控訴人の船舶建造承認申請に対して平成二年五月一〇日付けでした不承認の決定を取り消す。

三被控訴人は控訴人に対し、金一億五八三九万七〇〇〇円及びこれに対する平成二年七月五日から支払済まで年五分の割合による金員並びに同年五月一一日から前項の船舶建造申請に対して承認予定の決定をするまで一日当たり金一四万二七〇一円の割合による金員を支払え。

四訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

五第三項につき仮執行の宣言

第二当事者の事実の主張及び証拠

一当事者双方の事実に関する主張は、損害賠償請求につき控訴人が当審において次のとおり主張したことを付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるからこれを引用する(ただし、原判決書一三枚目表二行目末尾の「及びこれ」と三行目の「又はバルブ」を削り、一三枚目裏五行目の「キングストンバルブ等」を「キングストンバルブに接続するパイプ」に、一五枚目裏七行目の「その不承認に過失はない。」を「不承認決定をし、承認予定の決定ないし承認決定をしなかったことに故意、過失はない。」に、それぞれ改める。)。

1  控訴人

なち丸は、当日の風速毎秒一四ないし一六メートルという局地的異常海象のため、六ないし9.5メートルという高波(<書証番号略>)によって船底を強打され(スラミング)、船底に亀裂を生じたことによって沈没したものであって、本件事故は不可抗力海難である。このことは被控訴人において容易に知り得ることであるから、被控訴人が本件不承認決定をしたこと、承認予定の決定をしないことについて少なくとも過失がある。

2  被控訴人

控訴人の主張は争う。控訴人の当審での主張は、原審での事故原因の主張とも全く違っているだけではなく、波高の計算に基本的な誤りを犯しているほか、最大瞬間風速と風力をとり違えるなど、前提事実を誤るものである。

二証拠の関係は本件記録中の証拠目録(原審及び当審)のとおりであるから、それぞれこれを引用する。

第三判断

一当裁判所も控訴人の本件訴えのうち不承認決定取消請求にかかる訴えは不適法であり、損害賠償請求は理由がないものと判断する。その理由は、当審における控訴人の前記主張にかんがみ、損害賠償請求につき二のとおり当裁判所の判断を付加するほか、原判決の理由説示と同じであるから、これを引用する(ただし、原判決書二四枚目裏八行目の「相当の理由があるというような場合にまで右と同様に」を「相当の理由があるからといって、それだけの理由で直ちに不承認決定をしてよいと」に、二七枚目表六行目の「バルブ等が破損していれば、」を「バルブに接続するパイプが破壊されるようなことがあれば、」に、三二枚目表四行目の「は存在せず、」から五行目の「決定をしなかったことについて」を「があったとは認められず、したがって被控訴人の不承認決定をしたこと及び被控訴人が承認予定決定をしなかったことが適法であったということはできず、被控訴人が承認予定の決定をしなかったことにつき」に、三三枚目裏七行目の「キングストンバルブを開放するなど」を「キングストンバルブに接続するパイプに人為的な損傷を加えるなど」に、三四枚目表一行目の「政志」を「勝己」に、それぞれ改める。)。

二<書証番号略>には、なるほど当日の日最大瞬間風速は17.1メートル、日最大風速は13.9メートルであった旨記載されている。しかし、<書証番号略>(気象庁発行の日本気候表)によれば、一九六一年から一九九〇年までの三〇年間の室戸岬測候所における日最大風速が一五メートルの日は、年間平均114.7日あり、一〇メートル以上の日は257.7日もあることが認められるところ、前掲<書証番号略>には同日の日平均風速は4.5メートルであった旨の記載もあり、<書証番号略>(佐々木幸康の報告書)にも当時の風速四メートルと記載されているのであって、これによれば本件当日の海象が特に異常であったとは認め難い。

控訴人が援用する<書証番号略>(ビューフォート風力階級)によれば、風速13.9ないし17.1メートルでは参考波高が四メートル、最大波高5.5メートルとされ、<書証番号略>の気象庁うねり階級表によれば、うねり階級三ないし五ではやや高いうねり(波高二メートル以上四メートル未満)と記載されている。しかし、<書証番号略>には、これが適用できるのは「自船から風上側に一五〇浬以上の間海面が続いている場合」であり、「参考波高の欄は陸岸から遠く離れた外洋において生ずる波の高さのおおよその目安を与えるだけのものである。」とも記載されているところ、当時なち丸が沿岸区域を航行していたことは原判決の認定説示しているとおりであるから、前記参考波高をそのまま採用することはできない。

また、証人久保田季廣の証言によれば、控訴人が当時の波高が六メートルないし9.5メートルであったと主張する根拠は、右の<書証番号略>の参考波高四メートル、最大波高5.5メートルと<書証番号略>のうねり階級表にある波高二メートル以上四メートル未満を単純に合算したものと認められるが、同証言も波高とうねりを合算する場合には、従来波高の二乗とうねりの高さの二乗を加算してルートで開く方法が常識とされていることを認めていて、単純に両者を合算したことを追及されると、経験によるとしか説明できないのであって、控訴人の主張はこれだけでも客観的根拠に基づかないことが明らかである上、弁論の全趣旨によれば、最近の実証的研究の結果では、これまで常識とされてきた計算方法でもなお過大な数値となるため、波高かうねりの高さかいずれか大きい方の数値をとるのが正しいとの指摘もあるくらいであることが窺われることをも考えると、当時の波高についての控訴人の主張は採用の限りではない。

なお、<書証番号略>の久保田季廣の鑑定書と題する書面には、本件事故の原因につき控訴人主張にそう趣旨の意見が記載されている(控訴人の当審における主張は、右久保田の意見を主要な論拠としている。)。しかし、右意見は、当時の海象について前記の控訴人主張と同じく異常な海象であったことを前提とし、かつ同人がなち丸の乗組員から聴取した当時の状況に関する供述(<書証番号略>)を前提としたものであるところ、当時の海象が特に異常であったとは認め難いことは前記のとおりであるほか、同乗組員らの右各供述も、本事件発生後約二か月後に作成された同人らの供述書面の記載内容や別件訴訟における供述内容(<書証番号略>)との間に食い違いがあって、にわかに採用し難いものであり、これら採用し難い事実を根拠とする右久保田季廣の意見もまた採用することはできない。

以上のとおり控訴人が本件を不可抗力海難であるとする主張の根拠となる前提事実及びこれを裏付けるという証拠がいずれも採用し難い以上別件保険金請求訴訟の確定していない現在、被控訴人が、本件事故について自傷海難の疑いがあると判断し、その真否につき公の機関による判断が確定されるのをまつこととし、承認予定の決定をしてないことについて、被控訴人に故意、過失があると認めることはできない。

三以上のとおりであるから、本件控訴は理由がないので棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官上谷清 裁判官小川英明 裁判官滿田明彦)

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