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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)235号 判決 1994年9月13日

神奈川県津久井郡津久井町長竹240番地

原告

日本電気オートメーション株式会社

(変更前の商号 日本精密工業株式会社)

同代表者代表取締役

椿桂三

同訴訟代理人弁理士

澤木誠一

澤木紀一

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 高島章

同指定代理人

関口博

唐沢勇吉

佐野遵

井上元廣

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が、平成1年審判第17884号事件について、平成4年10月1日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

2  被告

主文と同旨の判決。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和59年2月27日、名称を「集塵装置」とする考案(以下「本願考案」という。)につき、特許庁に対し、実用新案登録出願(以下「本願」という。)をしたところ、平成1年8月22日、拒絶査定がなされたので、同年10月27日、審判を請求した。

特許庁は、上記請求を平成1年審判第17884号事件として審理の上、平成4年10月1日、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決をし、その謄本は、同年11月16日、原告に送達された。

2  実用新案登録請求の範囲第1項の記載

真空発生部の上流の配管内の風量又は気圧変化によって吸込口の使用個数を検知する機構と、前記吸込口の使用個数の減、増に応じて前記真空発生部の駆動用交流モータの電源周波数を変え前記真空発生部の容量を減、増して、吸込口の使用個数に最適な値ならしめる機構とより成ることを特徴とする集塵装置(別紙図面1参照)。

3  審決の理由

(1)  本願は、

<1> 「吸込口の使用個数」の「少ない使用でも、真空発生部の容量は同一の為、動力が無駄に消費される」(明細書2頁3行ないし5行)との従来装置の「欠点を除去した集塵装置を得る」(明細書2頁6行ないし7行)ことを目的とし、

<2> 前項2記載のとおりの構成を考案の要旨とするものである。また、

<3> 「図面に依って本考案の実施例を説明」した、「本考案に於いては上記駆動用モータとして交流モータを用い、真空発生部5の上流、例えば集塵部1と真空発生部5間を接続する配管7に風量又は気圧センサー8を介挿し、…配管7の風量又は気圧変化に応じて電源周波数を変化し、真空発生部5の容量を制御せしめる」(明細書2頁18行ないし3頁5行、平成元年2月3日付け手続補正書により補正)との記載によれば、本願考案の「集塵装置」の「真空発生部の上流の配管内の風量又は気圧変化によって吸込口の使用個数を検知する機構」は「集塵部1と真空発生部5間を接続する配管7」の途中に設けられた「気圧センサー8」からなるものを含むものであることが認められる。

(2)  実願昭57-201266号(昭和57年12月30日出願、昭和59年7月16日出願公開、以下、「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、単に「先願明細書」という。先願の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム参照。)には、

<1> 「使用される吸引口数の増減に関係なく、ブロアーを全吸引口数に相当する最大設定値の風量で常時連続運転しなくてはならず、従って、使用吸引口数が少ない場合にはブロアに大きな負荷が加わり、ブロア用モータの機械的損失が大きくなると共に、消費電力が増加してランニングコストが増大する等、甚だ不経済であった」(明細書2頁12行ないし19行)「従来装置の欠点を除去し、特に経済性の優れた集中式クリーニング装置を提供することを目的とする(明細書6頁3行ないし5行)、」「集中式クリーニング装置」の考案が記載されている(別紙図面2参照)。

<2> 先願の「考案に係る集中式クリーニング装置の一実施例を示すブロック図」である第4図について、「24は例えば脈動が極めて少ない容積式三葉ルーツブロア、26はこのブロア24を駆動制御するモータ、28はこのモータ26の回転数を制御するサイリスタ等により構成されるインバータ装置(可変周波数電源)である。30は装置内部の負圧を測定する圧力センサ」(明細書6頁11行ないし17行)であること、

<3> その動作について「例えば、第5図のように最大使用口数が4ヶ所の場合について説明する。図示の如く4ヶ所の場合の使用点をA、3ヶ所の場合の使用点をBとすれば、吸引空気の静圧を圧力センサ30で計測する。今使用口数が4ヶ所から3ヶ所に減少した場合、使用口数4ヶ所の時のブロア性能曲線fAを見るとその時の回転数は1500rpmであり、この回転数のままであると静圧が設定値PO以上になってしまう。従って、圧力センサ30の変化に応じて、圧力/電気変換器32を介してインバータ装置28によりモータ26の周波数制御を行い、ブロア24の回転数が1300rpmになるように、即ち、使用箇所3ヶ所に対応したブロア性能曲線fB上の3点で使用されるようにする」(明細書8頁8行ないし9頁1行、「fB上の3点」((9頁1行))は「fB上のB点」の誤記と認められる。)こと

が記載されている。また、

<4> 第4図には「バッグフィルタ12」と「ブロア24」とを接続する配管の途中に「圧力センサ30」が設けられていることが示されていること、

<5> 第5図によれば、「使用される吸引口数」が減少した場合「ブロア24」の回転数が減少させられる結果、風量(横軸で示されている)も「使用される吸引口数」に応じた風量に減少させられること、

<6> 「ブロア24」の回転数が減少させられるため動力も減少する結果「…特に経済性の優れた集中式クリーニング装置を提供する」との目的(上記<1>)が達せられること

は先願明細書の記載から当業者が理解し得ることと認められる。

(3)  本願考案と先願考案との対比

両者はともにセントラル方式の電気掃除機に関し、「動力が無駄に消費される」欠点を除き「経済性の優れた」ものを提供しようとする点で目的において共通する(上記(1)<1>、(2)<1>参照)ものであって、次の(イ)、(ロ)のことを考えれば先願考案は本願考案の構成要件をすべて備えるものであると認められる。

(イ) 先願考案の第4図には「バッグフィルタ12」と「ブロア24」とを接続する配管の途中に設けられた「圧力センサ30」(上記(2)<4>)は、本願考案の「集塵部1と真空発生部5間を接続する配管7」の途中に設けられた「気圧センサー8」(上記(1)<3>)に相当するものと認められることを考えれば、本願考案の、「真空発生部の上流の配管内の風量又は気圧変化によって吸込口の使用個数を検知する機構」に含まれるものであると認あられること。

(ロ)先願考案の「圧力センサ30の変化に応じて、圧力/電気変換器32を介してインバータ装置28によりモータ26の周波数制御を行」う機構(上記(2)<2>、<3>)は、本願考案の「配管7の」「気圧変化に応じて電源周波数を変化し」て「駆動モータ6」の回転を制御する機構(上記(1)<3>)に相当するものであって、その動作を説明する記載(上記(2)<3>)によれば、例えば、「使用口数が4ヶ所から3ヶ所に減少した場合、…使用箇所3ヶ所に対応したブロア性能曲線fB上の」「B」「点で使用されるようにする」ためのものであるので、吸込口の使用数に応じた静圧・風量で、すなわち吸込口の使用数に適合した吸込状態で「ブロア24」が運転されるように制御するものであることを考えれば、本願考案の「吸込口の使用個数の減、増に応じて前記真空発生部の駆動用交流モータの電源周波数を変え前記真空発生部の容量を減、増して、吸込口の使用個数に最適な値ならしめる機構」に含まれるものであると認められること。

先願考案はこのように本願考案の構成要件をすべて備えるものである以上効果においても本願考案と差異はない(例えば、吸込口の使用数が減少した場合「ブロア24」の吸引風量も吸込口の減少した使用数に応じた風量に減らされる((上記(2)<5>))のであるから、各吸込口での風量はそれぞれ集塵に適する範囲に維持され、動力も使用数に応じて小さくなる((上記(2)<5>、<6>)))ものと認められる。

(4)  以上の検討によれば、本願考案は先願考案と同一のものであると認められる。そして、先願考案の考案者が本願考案の考案者と同一の者であるとも、本願出願時にその出願人と先願の出願人とが同一の者であったとも認めることができない。したがって、本願考案は実用新案法3条の2第1項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。

4  審決を取り消すべき事由

(1)  審決の理由中、(1)及び(2)の<1>ないし<4>は認め、(2)の<5>及び<6>は否認し、(4)及び(5)は争う。

(2)  取消事由

先願考案は、本願考案とはその構成、効果を全く異にするものであるにもかかわらず、審決は、先願考案の認定を誤り、両者の相違点を看過して、両者が同一であると誤って判断した(取消事由1及び2)。

<1> 取消事由1

(a) 先願明細書には、本願考案と対比すべき考案としては、実用新案登録請求の範囲に記載された考案以外の考案は記載されていないところ、審決は、先願考案の認定において、従来装置の欠点と先願構成の目的を認定したのみで、如何なる構成を有しているか全く認定していない。したがって、審決が先願考案として認定した考案の構成は、「静圧が一定になるように」する構成を含む先願明細書の実用新案登録請求の範囲第1項に記載された考案に限定され、本願考案とは、その構成及び効果を全く異にするものである。

(b) 審決は、「<5>第5図によれば、『使用される吸引口数』が減少した場合『ブロア24』の回転数が減少させられる結果、風量(横軸で示されている)も『使用される吸引口数』に応じた風量に減少させられる」ことが記載されていると認定した(甲第1号証6頁4行ないし8行)が、先願明細書にはかかる記載はないから、審決の上記認定は誤りである。すなわち、

先願明細書の第5図には、「使用される吸引口数」が減少した場合「ブロア24」の回転数を減少せしめて、吸入空気の静圧がB点となるように、すなわち、一定の静圧POとなるようにすることが記載されているのであって、「使用される吸引口数」に応じた風量に減少されることは記載されていない。

上記の静圧とは、各ホース入口の負圧ではなく、ブロア24の入口の負圧である。このことは、先願明細書(甲第6号証)の「前記吸入空気の静圧を測定する圧力センサ」(1頁9行ないし10行)、「前記圧力センサによる静圧測定」(1頁18行ないし19行)、「装置内部の負圧を測定する圧力センサ」(6頁16行ないし17行)、「吸引される空気の負圧を圧力センサ30で測定し」(7頁16行ないし17行)、「吸引空気の静圧を圧力センサ30で計測する」(8頁11行ないし12行)旨の記載から明らかである。

一般に集中式の集塵装置では管路を枝管と主管とに分類している。枝管は各吸込口と主管とを結ぶ配管で、基本的には吸込口から流入した風量のみ流れる。主管は各枝管からの風量を集め集塵装置まで導く配管で、内部を流れる風量は吸込口の使用個数により変化する。ここで吸込口での最適状態として、使用個数が変化しても各枝管に対する吸込み風量は変化しないものとすると、枝管には、一定の風量が流れるので管路抵抗も一定になるが主管を流れる風量は吸込口の使用個数により変化し、使用個数が少ないときは、管路抵抗も小さく、多いときは管路抵抗は大きくなる。そして、ブロア入口での必要真空圧は枝管と主管の管路抵抗を加えた値に対応し、使用個数が少ないときは小さく、多いときは大きくなり一定とならない。したがって、「静圧が一定のレベルPOを維持しながら吸引口変化に応じた風量が得られるタイプ」のものはあり得ない。

(c) 審決は、「<6> 『ブロア24』の回転数が減少させられるため動力も減少する結果『…特に経済性の優れた集中式クリーニング装置を提供する』との目的(上記<1>)が達せられることは先願明細書の記載から当業者が理解しうる」と認定した(甲第1号証6頁9行ないし14行)が、先願考案では、「ブロア24」の回転数は「使用される吸引口数」に最適な値ではなく、吸引口数の変化にかかわらず「吸引空気の静圧が一定値POとなるような値に制御される」ものであり、したがって、「特に経済性の優れた集中式クリーニング装置を提供する」との目的は本願考案との対比において達成されたとはいい難いから、審決の上記認定は誤りである。

(d) 審決は、「『使用口数が4ヶ所から3ヶ所に減少した場合、…使用箇所3ヶ所に対応したブロア性能曲線fB上の』『B』『点で使用されるようにする』ためのものであるので、吸込口の使用数に応じた静圧・風量で、すなわち吸込口の使用数に適合した吸込状態で『ブロア24』が運転されるように制御するものであることを考えれば」と認定した(甲第1号証8頁2行ないし8行)が、上記のとおり、「ブロア24」は、吸込口の使用数に対する適合度をある程度犠牲にして吸引空気の静圧が一定値POとなるように制御されているものであり、「ブロア24」は吸込口の使用数に適合した吸込状態で運転されているものではないから、審決の上記認定は誤りである。

<2> 取消事由2

審決が先願考案が本願考案の構成要件をすべて備えるものであると判断し、その理由として(イ)及び(ロ)を挙げた(甲第1号証7頁4行ないし8頁13行)が誤りである。

(a) (イ)の誤り

先願明細書(甲第6号証)には「圧力センサ30」について次のような記載がある。

(ⅰ) 前記吸入空気の静圧を測定する圧力センサ(1頁9行ないし10行)

(ⅱ) 30は装置内部の負圧を測定する圧力センサ(6頁16行)

(ⅲ) 吸引される空気の負圧を圧力センサ30で測定し(7頁16行ないし17行)

(ⅳ) 吸引空気の静圧を圧力センサ30で計測する(8頁11行ないし12行)

以上の記載及び第4図から「圧力センサ30」は「吸引空気の静圧すなわち負圧を測定するセンサ」であり、本願考案の「気圧センサー8」に相当するものであることは理解できるが、その目的は大きく異なる。すなわち、先願考案の「圧力センサ30」の目的は、「ブロア24の回転数を制御して装置内部の負圧を一定値POとすること」にあり、本願考案の「気圧センサー8」のように「真空発生部の上流の配管内の風量又は気圧変化によって吸込口の使用個数を検知するもの」ではない。本願考案では、上記使用個数を「気圧センサー8」による風量又は気圧変化をコントローラ9で読み取ることによって求めている。

したがって、審決の、先願考案の「圧力センサ30」が本願考案の「真空発生部の上流の配管内の風量又は気圧変化によって吸込口の使用個数を検知する機構」に含まれるとした判断は誤りである。

(b) (ロ)の誤り

先願考案の「モータ26の周波数制御を行う機構」はブロア24の回転数を制御し、吸引空気の静圧が一定値POとなるようにするものである。

すなわち、先願明細書(甲第6号証)には、「吸塵ホースの使用口数が変化しても前記吸入空気の静圧が常に一定になるように前記インバータ装置によりブロアの回転数を制御する」(1頁12行ないし15行)と記載され、「吸引される空気の負圧を圧力センサ30で測定し、圧力/電気変換器32で対応した電気出力に変換しインバータ装置28のサイリスタの導通率を変化させモータ26を周波数制御する。これによって吸塵ホースの使用数が変化しても吸入負圧(吸入空気の静圧)が一定になるようにブロア24の回転数が制御される」(7頁16行ないし8頁2行)と記載されている。

上記の記載によれば、圧力センサ30の出力、すなわち負圧が変化すればこの負圧変化を補償して、上記負圧が常時一定となるようにブロアの回転数を変えるということである。換言すれば、先願考案では、ホース使用数が変わっても変わらなくても負圧が変化すれば直ちに一定値POに制御する構成となっており、吸込口では吸込口の使用個数を検知することはできず、吸込口の使用個数に応じてモータを制御するものではない。

これに対して、本願考案の「吸込口の使用個数の減、増に応じて前記真空発生部の駆動用交流モータの電源周波数を変え前記真空発生部の容量を減、増して、吸込口の使用個数に最適な値ならしめる機構」は上記負圧を一定値とする機構ではない。

本願考案は、真空発生部の容量を使用される吸引口数に応じた「最適な値」とする構成としたものである。

この「最適な値」とは、発生する騒音レベルを考慮しながらできるだけ風量を多くするということであり、具体的には、次のことを意味する。

原告は甲第7号証の表2に示す基準によって、使用吸込口が1個の場合の使用場所毎の吸込風量と発生する騒音レベルを定めこれを「最適な値」とし、このようになる駆動モータの回転数を定めている。そして、使用吸込口が増加すると、増加した数に応じて風量が増加するべく駆動モータが回転するようコントローラ9によって予め設定されている。(なお、本願考案の実用新案登録請求の範囲に記載された「吸込口の使用個数に最適な値ならしめる機構」にコントローラ9が含まれることは実施例の説明から明らかである。)

また、集塵装置では集塵部の真空発生部(ブロア)の容量は、最大使用風量に合わせて設定する(甲第2号証1頁末行ないし2頁2行)。

風量最大の運転ポイントは甲第2号証の第2図のA点である。この位置で運転するときの駆動モータの動力がA’点である。

上記A点及びA’点は集塵装置を使用する環境の種類により予め設定されるが、これが総ての吸込口を使用したときの最適な値である。

そして、使用吸込口が減少すると、コントローラ9から周波数変換器10に対する命令信号により、減少した使用吸込口の数が1~4となるに応じて、B~Eの各点の風量で運転されるよう、駆動モータの回転数が下げられB’~E’の各点の動力で駆動モータが運転される。

このように、使用吸込口が減少して、それに正比例して風量が減少すると、配管7内の気圧も変化する。但し気圧の変化は正比例の関係にはない。

本願考案は、「真空発生部の容量を使用される吸引口数に応じた最適な値とする」構成により、上記のように甲第2号証の第2図に示された吸込口の使用個数の最適ポイントA、B、…に設定された風量に必要な動力で運転されるよう予めコントローラに定めておき、コントローラから周波数変換器に対する命令信号により、駆動モータの回転数を下げることによって、集塵装置の集塵能力を低下させることなく、電力消費を節約し、所望値以下の騒音として「経済性の優れたものを提供するという目的」を達成するものである。

したがって、審決の、先願考案の「モータ26の周波数制御を行う機構」は本願考案の「吸込口の使用個数の減増に応じて前記真空発生部の駆動用交流モータの電源周波数を変え前記真空発生部の容量を減、増して、吸込口の使用個数に最適な値ならしめる機構」に含まれるとした判断は誤りである。

(c) 仮に、前記(イ)及び(ロ)の点で本願考案及び先願考案が一致するとしても、先願考案の「使用口数が変化しても吸入空気の静圧が常に一定になるよう制御する」という構成は、本願考案にはなく、単なる慣用手段の付加ともいえないから、本願考案と先願考案はこの構成において相違する。

先願考案の「使用口数が変化しても吸入空気の静圧が常に一定になるよう制御する」構成では、集塵装置毎に吸塵ホースの使用個数の最適ポイントA、B、…を予めコントローラに定めておく必要がない反面、使用個数変化の際は必ずしも吸込口における風量、騒音が最適な値とならない欠点がある。

これに対して、本願考案は、ポイントA、B、…を予めコントローラに定めておく必要があるが、最適な風量、騒音で運転できる最も経済的な集塵装置を得ることができるものである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の反論

1  請求原因1ないし3は認め、同4は争う。

2(1)  取消事由1について

<1> 先願考案の構成について

審決の理由(2)<1>において、従来装置の欠点と先願考案の目的を認定したのみで、先願考案が如何なる構成を有しているか認定していないことは認める。しかしながら、審決が先願考案として認定した考案は、先願明細書の第4図及び第5図を参照して明細書6頁8行ないし7頁11行に記載された考案であることは、審決の理由の他の部分の記載から明らかである。

実用新案法3条の2に規定されている先願の考案は、先願明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された考案に限定されるものではなく、先願明細書に開示された考案であればよい。すなわち、先願明細書に開示された考案には、実用新案登録請求の範囲第1項に記載された装置及びその下位概念の装置としての同第2項記載の装置のみならず、第1ないし第3図に示された構成及び動作を有する従来装置、第4及び第5図に示された構成及び動作を有する装置等が含まれるものであり、審決は、このような多くの考案の中から、先願考案を認定したものである。

第4及び第5図に示された構成及び動作を有する装置が、風量が使用吸込口数に応じて減少する構成を有していることは、以下のとおり、先願明細書の記載から明らかである。

先願明細書の7頁12行ないし9頁13行には、使用口数が減少すれば、ブロアの回転数が一定のままであれば、静圧が設定値より増加するので、その圧力の増加をセンサで検知し、圧力/電気変換器で圧力を電気信号に変換し、その信号によりインバータの周波数を制御し、使用口数の減少に応じてブロアの回転数を減少し、真空発生部上流の静圧を一定にしていることが記載されているが、使用口数が増加する場合には、当然静圧が設定値より低下するので、ブロアの回転数の増加をインバータの周波数制御によって行なうことも、当業者にとって自明のことである。

上記第5図は、ブロア性能曲線、同曲線と交差し左下から右上の方向に延びる抵抗曲線、及び、一定の静圧レベルPO線を描いており、同図において、該抵抗曲線と静圧レベルPO線とによって、ブロア回転数切替えの際の二つの圧力観点を明確にし、静圧が一定のレベルのPOのとき吸込口変化に応じた風量が得られるタイプの集中式クリーニング装置を開示している。すなわち、第5図に開示された考案において、ブロア容量つまりブロア回転数が曲線fAから曲線fBに沿い一旦減少させられる際に、曲線fBに沿って一定の静圧レベルPOから減少した静圧レベルへの切替えあるいはその逆の切替えは行なわれない。曲線fBに沿った回転数は一定の回転数1300rpmであり、吸引口数が再び変化しない限り、回転数は切り替わらない。つまり、風量は、吸引口数変化とブロア回転数の変化により調節されるものであり、一方、静圧は、調節の対象ではなく、所与値である。送風装置の運転における「静圧」は、「全圧」と「動圧」との差であって、送風装置のブロアは、気体を流動させるのに必要な運動エネルギーとしての、変化する動的抵抗に抗し得る「動圧」と、個々の装置に固有のものであり、かつ気体の流速や風量に無関係である静的抵抗に抗し得る「静圧」との和としての「全圧」に打ち勝つ圧力を出す必要があることは当業者にとって自明のことである。そして、先願考案のような、静圧が一定のPOレベルのとき吸込口変化に応じた風量が得られるタイプの装置は、吸込口変化に応じ風量変化があってもブロアの「全圧」が変化しないことを意味するものではないことも当業者にとって自明のことである。結局、上記第5図においては、「ブロア回転数を一つのブロア性能曲線からのにブロア性能曲線へ変化させること」及び「全圧は当然変化すること」が前提である。

したがって、審決の、「第5図によれば、『使用される吸引口数』が減少した場合『ブロア24』の回転数が減少させられる結果、風量(横軸で示されている)も『使用される吸引口数』に応じた風量に減少させられること」が記載されているとした認定に誤りはなく、先願考案は、風量が、使用吸込口数に応じて減少する構成を有するとした審決の認定に誤りはない。

<2> 先願考案は、「ブロア回転数を一つのブロア性能曲線から次ブロア性能曲線へ変化させること」及び「全圧は当然変化すること」を前提として、静圧レベルについては、これが変化しないような一定値PO上での切替えを開示するものであり、上記二つの観点からブロア回転数を使用される吸引口数に最適な値にする点を開示するものである。すなわち、吸引口の使用個数が変化してもブロア上流の静圧を一定にする」ことが「吸引口の使用個数に最適な値」である。したがって、審決の、「特に経済性の優れた集中式クリーニング装置を提供するとの目的が達せられることは先願明細書の記載から当業者が理解しうる」の認定に誤りはない。

(2)  取消事由2について

<1> (イ)の誤りについて

前記(1)のとおり、先願考案においては、ブロア回転数を使用される吸引口数に最適な値にする点を開示するものであるから、静圧レベルが変化しないような一定値PO上でのブロア回転数切替えの開示は少なくともそのような切替えのための制御手段を当然包含するものである先願考案は静圧を一定とすることで風量が使用個数に応じて変わるものであり、これは、静圧を一定とすることにより使用個数を検知していることに他ならない。したがって、審決の、本願考案における「圧力センサ30」が本願考案の「真空発生部の上流の配管内の風量又は気圧変化によって吸込口の使用個数を検知する機構」に含まれるとした判断に誤りはない。

<2> (ロ)の誤りについて

本願考案は、前記(1)のとおり、ブロア回転数を使用される吸引口数に最適な値にする点を示すものであるから審決の、先願考案の「モータ26の周波数制御を行う機構」が、本願考案の「吸込口の使用個数の減、増に応じて前記真空発生部の駆動用交流モータの電源周波数を変え前記真空発生部の容量を減、増して、吸込口の使用個数に最適な値ならしめる機構」に含まれるものであるとの判断に誤りはない。

なお、本願考案のコントローラ9自体は、本願考案の要旨ではなく、コントローラ9自体と先願考案のブロア24の回転数切替機構との比較は無意味である。

また、原告の「最適な値」についての主張は、本願明細書の記載に基づくものではないから、失当である。

<3> 先願考案は、「使用口数が変化しても吸入空気の静圧が常に一定になるよう制御する」という構成に限定されるものではなく、前記(1)のとおり、先願考案においては、ブロア回転数を使用される吸引口数に最適な値にする点を開示するものであるから、ブロア回転数を使用される吸引口数に最適な値にする制御手段を包含するものである。したがって、先願考案のブロア回転数を使用される吸引口数に最適な値にする制御手段の構成と本願考案の制御手段の構成とを対比して、「使用口数が変化しても吸入空気の静圧が常に一定になるよう制御する」という構成と本願考案の構成を対比しなかった審決に相違点の看過はない。

第4  証拠関係

証拠関係は記録中の証拠目録の記載を引用する(書証の成立についてはすべて当事者間に争いがない。)。

理由

1(1)  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(実用新案登録請求の範囲第1項の記載)及び同3(審決の理由)は当事者間に争いがない。

(2)  審決の理由中、本願考案の目的((1)<1>)、本願考案の要旨((1)<2>)、本願考案の実施例の説明((1)<3>)、先願明細書の記載事項((2))のうち、<1>ないし<4>は、当事者間に争いがない。

2  本願考案の概要

甲第2ないし第5号証(以下、総称して、「本願明細書」という。)によれば、本願考案は、集塵装置に関するもので従来集塵部を固定設置し、そこから必要各所に配管し、この配管に吸込口及び弁を設置し、その弁を開閉操作することによりその周辺の集塵ができるようにした集塵装置は既知であること、実際の運転では、使用風量は0から最大と常に変化しているにもかかわらず、集塵部の真空発生部の容量は、最大使用風量に合わせて設定してあるため、少ない使用の場合動力が無駄に使用されるという従来の集塵装置の欠点を除去した集塵装置を得ることを目的として、本願考案は、本願明細書の実用新案登録請求の範囲第1項記載の構成(「真空発生部の上流の配管内の風量又は気圧変化によって吸込口の使用個数を検知する機構と、前記吸込口の使用個数の減、増に応じて前記真空発生部の駆動用交流モータの電源周波数を変え前記真空発生部の容量を減、増して、吸込口の使用個数に最適な値ならしめる機構とより成ることを特徴とする」)を採択したもので(甲第2号証1頁10行ないし2頁13行、同第5号証、6(2))あること、本願考案は、使用数に見合った能力で運転するので、動力が無駄にならず、配管内が最大真空圧である従来の装置の場合には、最初のホースを差し込むため差込弁を開けたときに急激に空気を吸い込み大きな騒音を発生させるが、本願考案では使用していないときは低圧に保持されているため、差込弁を開けるのに容易で開けたときの騒音も小さいという作用効果を奏する(同2号証4頁7行ないし15行)ことが認められる。

3  取消事由について検討する。

(1)  取消事由1について

(a)  原告は、まず、先願明細書には、実用新案登録請求の範囲に記載された考案以外の考案は記載されておらず、審決は、先願考案の認定において、従来装置の欠点と先願考案の目的を認定したのみで、如何なる構成を有しているか全く認定していないから、審決が先願考案として認定した考案の構成は、「静圧が一定になるように」する構成を含む先願明細書の実用新案登録請求の範囲第1項に記載された考案に限定され、本願考案とは、その構成及び効果を全く異にするものであると主張する。

実用新案法3条の2第1項に規定する先願明細書に記載された考案とは、先願明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された考案のみを指すものではなく、先願明細書に記載された従来例、実施例も含まれるものである。そして、従来例が先願明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された構成要件をすべて備えるものではないことは明らかであり、先願明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された考案の下位概念としての実施例が、同考案とは別個の構成を備えた考案を開示している場合には、かかる構成の考案もまた、先願明細書に記載された考案といえるものである。

したがって、先願考案が先願明細書の実用新案登録請求の範囲第1項に記載された構成要件をすべて備える必要はなく、審決が先願考案として認定した考案が、先願明細書に記載されているか否かのみを検討すれば足りるものである。

次に、審決が認定した先願考案の構成について検討する。

審決が、審決の理由(3審決の理由(2)<1>参照。)において、従来装置の欠点と先願考案の目的を認定したのみで、先願考案が如何なる構成を有しているか明示的には、認定していないことは当事者間に争いがない。しかしながら、前記審決の理由(2)<1>ないし<5>(甲第1号証4頁2行ないし6頁8行)によれば、審決が先願考案として認定した考案は、先願明細書の第4図及び第5図を参照して明細書6頁8行ないし7頁10行に記載された構成の考案であって、使用される吸引口数の増減に関係なく、ブロアーを全吸引口数に相当する最大設定値の風量で常時連続運転しなくてはならず、従って、使用吸引口数が少ない場合にはブロアに大きな負荷が加わり、ブロア用モータの機械的損失が大きくなるとともに、消費電力が増加してランニングコストが増大する等、甚だ不経済であった従来装置の欠点を除去し、特に経済性の優れた集中式クリーニング装置を提供することを目的とする集中式クリーニング装置であるものと認められる。

(b)  原告は、先願明細書の第5図には、「使用される吸引口数」が減少した場合「ブロア24」の回転数を減少せしめて、吸入空気の静圧がB点となるように、すなわち、一定の静圧POとなるようにすることが記載されているのであって、「使用される吸引口数」に応じた風量に減少されることは記載されていないと主張する。

甲第6号証(先願明細書)によれば、第4図は先願明細書の実用新案登録請求の範囲第1項に記載された考案の一実施例を示すブロック図、第5図は同実施例の風量と静圧に対するブロア性能曲線の関係を示す特性図であることが認められる。しかして、先願明細書の「クリーニング作業に必要な静圧を第5図に示されるように最大使用口数(図では4ヶ所)時の静圧に一致させ、使用口数が変化した場合にもブロア24の回転数を変更することにより一定の静圧POに維持するようにしている。」(8頁3行ないし7行)との記載、第5図に示された、縦軸に静圧を、横軸に風量をとったグラフ、前記審決摘示の先願明細書の記載事項(3審決の理由(2)<3>参照。)によれば、第5図には、使用口数の4ヶ所の場合には使用点Aで、すなわち、静圧PO、ブロアの回転数が1500rpmで、3ヶ所の場合には風量が少なくされた使用点Bで、すなわち、静圧PO、ブロアの回転数が1300rpmで、それぞれ、運転されることが記載されていると認められる。

上記記載によれば、第5図には、使用口数が減少した場合に、ブロアの回転数を減少させることによって、風量を減少させて、クリーニング作業に必要な静圧を常に最大使用口数(図では4ヶ所)時の静圧に一致させることが開示されていると認められるから、風量が使用される吸引口数に応じて減少させられることが開示されていると認められる。原告が主張するように「使用される吸引口数」が減少した場合「ブロア24」の回転数を減少せしめて、吸入空気の静圧がB点となるように、すなわち、一定の静圧POとなるようにすることのみが開示されているとの主張は採用できない。

なお、原告は、上記の静圧とは、各ホース入口の負圧ではなく、ブロア24の入口の負圧であると主張し、さらに、静圧についての上記の解釈を前提として、ブロア入口での必要真空圧は枝管と主管の管路抵抗を加えた値に対応し、使用個数が少ないときは小さく、多いときは大きくなり一定とならないから、「静圧が一定のレベルPOを維持しながら吸引口変化に応じた風量が得られるタイプ」のものはあり得ないと主張する。

たしかに、先願明細書(甲第6号証)の「前記吸入空気の静圧を測定する圧力センサ」(1頁9行ないし10行)「前記圧力センサによる静圧測定」(1頁18行ないし19行)、「装置内部の負圧を測定する圧力センサ」(6頁16行ないし17行)、「吸引される空気の負圧を圧力センサ30で測定し」(7頁16行ないし17行)、「吸引空気の静圧を圧力センサ30で計測する」(8頁11行ないし12行)旨の各記載によれば、上記に記載された静圧とは各ホース入口の負圧ではなく、ブロア24の入口の負圧であると認められる。

しかしながら、仮に、原告主張のとおり、ブロア入口での必要真空圧は枝管と主管の管路抵抗を加えた値に対応し使用個数が少ないときは小さく、多いときは大きくなり一定とならないとしても、先願明細書の「これによって吸塵ホースの使用数が変化しても吸入負圧(吸入空気の静圧)が一定になるようにブロア24の回転数が制御される。即ち本実施例では、クリーニング作業に必要な静圧を第5図に示されるように最大使用口数(図では4ヶ所)時の静圧に一致させ、使用口数が変化した場合にもブロア24の回転数を変更することにより一定の静圧POに維持するようにしている。」(甲第6号証7頁末行ないし8頁7行)、「使用口数に応じて回転数を制御することにより、各使用口数毎にブロアを設置した場合に略近い運転ができる。」(同号証9頁7行ないし9行)との各記載及び第4図及び第5図を合理的に解釈すれば、使用口数の変化に応じてブロア24の回転数を変更することにより一定の静圧POに維持できるようなブロア入口での静圧の値POを設定できるものと解される。原告主張のように、管路抵抗のために、ブロア入口での必要真空圧が、個々の吸塵ホースのクリーニング作業に必要な静圧より、高くなるとしても、吸入空気の静圧の変化が、吸塵ホースの使用数の変化に対応するような静圧の値POを設定できないほど、管路抵抗が大きいものと認めるに足る証拠はない。

したがって、原告の上記主張は、第5図において、使用される吸引口数に応じた風量に減少されることが開示されているとの認定を妨げるものでない。

(c)  原告は、先願考案では、「ブロア24」の回転数は「使用される吸引口数」に最適な値ではなく、吸引口数の変化にかかわらず「吸引空気の静圧が一定値POとなるような値に制御される」ものであり、したがって、「特に経済性の優れた集中式クリーニング装置を提供する」との目的は本願考案との対比において達成されたとはいい難いから、審決の認定(甲第1号証6頁9行ないし11行)は誤りであると主張する。

前記(b)のとおり、第5図には、使用口数が減少した場合に、ブロアの回転数を減少させることによって、風量を減少させて、クリーニング作業に必要な静圧を常に最大使用口数(図では4ヶ所)時の静圧に一致させることが開示されているから、先願考案において、「使用される吸引口数」が減少した場合「ブロア24」の回転数が減少させられるため動力も減少することが認められ、上記及び先願明細書の「従来装置の欠点を除去し、特に経済性の優れた集中式クリーニング装置を提供することを目的とする(明細書6頁3行ないし5行)、」旨の記載(当事者間に争いがない。)から、「ブロア24」の回転数が減少させられるため動力も減少する結果先願考案の上記目的が達せられることは当業者が理解し得るものと認められ、したがって、審決の上記認定に誤りはなく、原告の上記主張は理由がない。

なお、先願考案の目的が本願考案との対比において達成されたか否かは、先願考案の奏する作用効果の認定とは関係のないものであるから、原告のこの点についての主張は失当である。

(d)  原告は、さらに、先願考案における「ブロア24」は適合度をある程度犠牲にして吸引空気の静圧が一定値POとなるように制御されているものであり、吸込口の使用数に適合した吸込状態で運転されているものではないから、審決の認定(甲第1号証8頁2行ないし8行)は誤りであると主張する。

先願考案においては、前記(b)のとおり、風量が使用される吸引口数に応じて減少させられるものであり、前記(c)のとおり、「使用される吸引口数」が減少した場合「ブロア24」の回転数が減少させられるため動力も減少するのであるから、先願考案は、「吸込口の使用数に応じた静圧・風量で『ブロア24』が運転され」るものであると認められるそして、先願明細書の「使用口数に応じて回転数を制御することにより、各使用口数毎にブロアを設置した場合に略近い運転ができる。」(甲第6号証9頁7行ないし9行)との記載によれば、「吸込口の使用数に応じた静圧・風量」とは、「吸込口の使用数に適合した吸込状態で『ブロア24』が運転される」ものであることが開示されていると認められる。しかして、かかる開示は少なくとも「ブロア24」の回転数の減少のための制御手段の開示を当然含むものと解される。したがって、審決の上記認定に誤りはなく、原告のこの点についての主張は理由がない。

なお、原告は、先願考案における「ブロア24」は吸込口の使用数に対する適合度をある程度犠牲にして吸引空気の静圧が一定値POとなるように制御されていることは、適合といえないと主張するが、先願考案において、吸込口の使用数に対する適合度をある程度犠牲にして、吸引空気の静圧が一定値POとなるように設定されているとしても、上記のとおり、先願考案において、「使用口数に応じて回転数を制御することにより、各使用口数毎にブロアを設置した場合に略近い運転ができる。」のであるから、「吸込口の使用数に適合した吸込状態で『ブロア24』が運転される」ものであることに変わりはない。

(2)  取消事由2について

(a)  本願考案における「吸込口の使用個数を検知する機構」の有無について

先願明細書の第4図には、「バッグフィルタ12」と「ブロア24」とを接続する配管の途中に「圧力センサ30」が設けられていることが示されていることは当事者間に争いがない。

先願明細書の「例えば、第5図のように最大使用口数が4ヶ所の場合について説明する。図示の如く4ヶ所の場合の使用点をA、3ヶ所の場合の使用点をBとすれば、吸引空気の静圧を圧力センサ30で計測する。今使用口数が4ヶ所から3ヶ所に減少した場合、使用口数4ヶ所の時のブロア性能曲線fAを見るとその時の回転数は1500rpmであり、この回転数のままであると、静圧が設定値PO以上になってしまう。従って、圧力センサ30の変化に応じて、圧力/電気変換器32を介してインバータ装置28によりモータ26の周波数制御を行い、ブロア24の回転数が1300rpmになるように、即ち、使用箇所3ヶ所に対応したブロア性能曲線fB上の3点で使用されるようにする」(明細書8頁8行ないし9頁1行、「fB上の3点」(9頁1行)はfB上のB点」の誤記と認められる。)との記載(当事者間に争いがない。)によれば、先願考案は、使用口数が4ヶ所から3ヶ所に減少した場合、使用口数4ヶ所の時の回転数のままであると、静圧が設定値PO以上になってしまうところ、圧力センサ30がかかる静圧の変化を検知して、圧力/電気変換器32を介してインバータ装置28によりモータ26の周波数制御を行い、ブロア24の回転数を使用口数が3ヶ所の場合に適したものになるように制御する構成となっているものと認められる。そうすると、「圧力センサ30」は、静圧の変化によって吸引口数(先願考案の吸引口が本願考案の吸込口に相当することは原告も明らかに争わない。)の減少を検知するものと認められ、また、当業者にとって、「圧力センサ30」は、静圧の変化によって吸引口数の増加もまた検知するものであることは明らかである。

したがって、先願考案の「圧力センサ30」は、「バッグフィルタ12」と「ブロア24」とを接続する配管の途中に設けられて、静圧の変化によって吸引口の使用個数を検知する機構であると認められる。

一方、本願明細書の「集塵部1と真空発生部5間を接続する配管7に風量又は気圧センサー8を介挿し」との記載(甲第2号証2頁19行ないし3頁1行)及び「配管7内の風量又は気圧変化をセンサー8を介してコントローラ9で読み取り」(同号証3頁9行ないし11行)との記載によれば、気圧センサー8は、集塵部1(先願考案のバッグフィルタ12が本願考案の集塵部1に相当することは原告も明らかに争わない。)と真空発生部5(先願考案のブロア24が本願考案の真空発生部5に相当することは原告も明らかに争わない。)間を接続する配管7に設けられて、配管7内の風量又は気圧変化を検知するものであると認められる。

以上によれば、先願考案の「圧力センサ30」は、本願考案の「気圧センサー8」に相当し、本願考案の「真空発生部の上流の配管内の風量又は気圧変化によって吸込口の使用個数を検知する機構」に含まれるものであるとの審決の判断に誤りはなく、原告のこの点に関する主張は理由がない。

(b)  本願考案における「吸込口の使用個数に最適な値ならしめる機構」の有無について

先願明細書の「本実施例では、クリーニング作業に必要な静圧を第5図に示されるように最大使用口数(図では4ヶ所)時の静圧に一致させ、使用口数が変化した場合にもブロア24の回転数を変更することにより一定の静圧POに維持するようにしている。例えば、第5図のように最大使用口数が4ヶ所の場合について説明する。図示の如く4ヶ所の場合の使用点をA、3ヶ所の場合の使用点をBとすれば、吸引空気の静圧を圧力センサ30で計測する。今使用口数が4ヶ所から3ヶ所に減少した場合、使用口数4ヶ所の時のブロア性能曲線fAを見るとその時の回転数は1500rpmであり、この回転数のままであると、静圧が設定値PO以上になってしまう。従って、圧力センサ30の変化に応じて、圧力/電気変換器32を介してインバータ装置28によりモータ26の周波数制御を行い、ブロア24の回転数が1300rpmになるように、即ち、使用箇所3ヶ所に対応したブロア性能曲線fB上の3点(「B点」の誤記)で使用されるようにする。同様に、使用箇所の減少に応じてブロア24の回転数をインバータ装置28の周波数制御によって行い、使用箇所零の場合には、対応したブロア性能曲線上のE点で使用されるようにすればよい。一般にブロア24のパワーは回転数の3乗に比例するため、上述したように使用口数に応じて回転数を制御することにより、各使用口数毎にブロアを設置した場合に略近い運転ができる。」

(甲第6号証8頁3行ないし9頁9行)との記載によれば先願考案の「圧力センサ30の変化に応じて、圧力/電気変換器32を介してインバータ装置28によりモータ26の周波数制御を行」う機構が、本願考案の「配管7の」「気圧変化に応じて電源周波数を変化し」て「駆動モータ6」の回転を制御する機構に相当し、「吸込口の使用個数の減、増に応じて前記真空発生部の駆動用交流モータ(先願考案のモータ26が本願考案の駆動用交流モータに相当することは原告も明らかに争わない。)の電源周波数を変え前記真空発生部の容量を減、増して、吸込口の使用個数に最適な値ならしめる機構」に含まれるものであると認められる。

もっとも、原告は、先願考案では、ホース使用数が変わっても変わらなくても負圧が変化すれば直ちに一定値POに制御する構成となっており、吸込口では吸込口の使用個数を検知することはできず、吸込口の使用個数に応じてモータを制御するものではないと主張するが、前記(1)(b)のとおり、第5図に開示された先願考案の制御方式は、原告主張のような、ホース使用数が変わっても変わらなくても負圧が変化すれば直ちに一定値POに制御するものではなく使用口数が減少した場合に、ブロアの回転数を減少させることによって、風量を減少させるものであり、前記(a)のとおり、「圧力センサ30」によって、吸込口の使用個数を検知するものであるから、原告の上記主張の理由のないことは、明らかである。

さらに、原告は、先願考案の上記機構は、本願考案の構成における「真空発生部」の容量を使用される吸引口数に応じた「最適な値」とするものではないと主張する。

しかしながら、本願考案の実用新案登録請求の範囲の記載には、本願考案の構成要件である「吸込口の使用個数に最適な値ならしめる機構」の具体化に関する規定がない。のみならず、本願明細書の、考案の詳細な説明の項において、実施例の説明として「本考案装置に於いては第2図に於いて最大同時使用時の運転ポイントA点の状態から使用数が1個減じた場合の配管7内の風量又は気圧変化をセンサー8を介してコントローラ9で読み取り、コントローラ9から周波数変換器10に対し前記A点より低い風量、気圧のB点で運転するよう命令信号を与え、周波数変換器10からB点で運転するに適する周波数の電源をモータ6に加えB点での運転状態を維持せしめる。この時、動力はA’点からB’点に移動し、動力の節約がなされる。」(甲第2号証3頁7行ないし17行)、「本考案装置に於いては使用数に見合った能力で運転するので、動力が無駄にならない。」(同号証4頁7行ないし9行)とのみ記載されているだけであり、他に「吸込口の使用個数に最適な値ならしめる機構」について具体的に言及する記載はないと認められる。

そうすると、本願考案の実施例においては、「吸込口の使用個数に最適な値ならしめる機構」として、最大使用時の運転ポイントA点の状態から使用数が1個減ずる毎にそれよりも低い風量、気圧のB、C、D、E点で真空発生部を運転するよう命令信号を与える機構が開示されているけれども、かかる機構のみに、「吸込口の使用個数に最適な値ならしめる機構」が限定されると解することはできない。

原告は甲第7号証の表2に記載された基準によって、使用吸込口が1個の場合の使用場所毎の吸込風量と発生する騒音レベルを定めこれを「最適な値」とすると主張するがそもそも、本願考案のような装置において、「最適」とはある条件のもとでの相対的の意味での最適を意味するものと解され、与えられる条件によって「最適な値」というものは複数存在することは明らかであり、原告の主張するような基準によって算出された値(その算出根拠については明らかでない。)が「最適な値」であるとしても、かかる値のみが唯一の「最適な値」と解することはできない。しかも、本願明細書には、「最適な値」について、原告主張のように定められるとの記載はない。

一方、先願明細書の、「一般にブロア24のパワーは回転数の3乗に比例するため、上述したように使用口数に応じて回転数を制御することにより、各使用口数ごとにブロアを設置した場合に近い運転ができる。」(甲第6号証9頁6行ないし9行)、「本考案は以上のようにブロアの回転数をインバータ装置を使って制御することにより、吸塵ホースの使用口数が変化してもクリーニング作業に必要な静圧を常時維持するように構成したので、作業者の希望に対し応答性が良く、運転エネルギが経済的で且つ機器に損傷を与えることのないブロアの運転を実現できるという特長を有する。」(同号証10頁1行ないし7行)との記載によれば、先願考案は、使用口数が変化してもクリーニング作業に必要な静圧を常時維持するように吸込口の使用個数の変化に応じてブロアの回転数をインバータ装置を使って制御することにより、従来装置の欠点を除去し特に経済性の優れた運転エネルギが経済的で且つ機器に損傷を与えることのないという作用効果を奏することが認められる。

以上によれば、確かに、本願考案の実施例の制御方法と先願考案の制御方法とは、異なる制御方法であるが、前記のとおり、本願明細書において、「吸込口の使用個数に最適な値」ならしめる機構の具体化について、何ら特定されておらず、その最適化に関する記載がない以上、制御とはある目的に適合するように対象となっているものに所要の操作を加えるものであってみれば、本願考案も先願考案も、真空発生部(ブロア)の動力(運転エネルギ)を経済的にするという目的をもってその吸込口(吸引口)の使用個数に適合した真空発生部(ブロア)の回転数で運転する構成であることは明らかであり、結局、両者は、「吸込口の使用個数に最適な値ならしめる機構」を持つことに変わりはないものである。

したがって、先願考案の「圧力センサ30の変化に応じて、圧力/電気変換器32を介してインバータ装置28によりモータ26の周波数制御を行」う機構は、本願考案の「吸込口の使用個数の減、増に応じて前記真空発生部の駆動用交流モータの電源周波数を変え前記真空発生部の容量を減、増して、吸込口の使用個数に最適な値ならしめる機構」に含まれるものであると審決の判断に誤りはなく、原告にこの点についての主張は理由がない。

(c)  原告は、さらに、先願考案の「使用口数が変化しても吸入空気の静圧が常に一定になるよう制御する」という構成は、本願考案にはないと主張する。

しかしながら、前記(b)のとおり、先願考案において、使用口数が変化してもクリーニング作業に必要な静圧を常時維持するように吸込口の使用個数の変化に応じてブロアの回転数をインバータ装置を使って制御する機構が本願考案における「吸込口の使用個数に最適な値ならしめる機構」に含まれるのであるから、先願考案の「使用口数が変化しても吸入空気の静圧が常に一定になるよう制御する」の構成が本願考案の「吸込口の使用個数に最適な値ならしめる」ように制御する構成の一形態に他ならず、原告の上記主張は理由がない。

(d)  したがって、原告の取消事由の主張は、いずれも理由がなく、先願考案は、本願考案の構成要件をすべて備えるものであると認められ、先願考案の考案者が本願考案の考案者と同一の者であるとも、本願出願時にその出願人と先願の出願人とが同一の者であったとも認めることができない。

(3)  よって、本願考案は実用新案法3条の2第1項の規定により、実用新案登録を受けることができないものであるとの審決の判断に誤りはなく、他に取り消すべき違法はない。

4  以上のとおり、原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙図面1

<省略>

別紙図面2

<省略>

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