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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)216号 判決 1993年10月05日

東京都港区新橋1丁目16番4号

原告

エスエムシー株式会社

同代表者代表取締役

髙田芳行

同訴訟代理人弁理士

林宏

内山正雄

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

同指定代理人

横田和男

中村友之

長澤正夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者双方の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が昭和60年審判第490号事件について平成4年9月10日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和56年11月19日、名称を「ロッドレスシリンダ」とする考案(以下「本願考案」という。)について、実用新案登録出願(昭和56年実用新案登録願第172476号)したところ、昭和59年10月16日拒絶査定を受けたので、同年12月27日査定不服の審判を請求し、昭和60年審判第490号事件として審理された結果、平成2年3月22日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年6月2日原告代理人に送達された。これに対して、原告は、平成2年6月28日東京高等裁判所に審決取消の訴を提起し、平成2年(行ケ)第135号事件として審理され、平成3年7月9日審決取消の判決がされたが、平成4年9月10日再度「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年10月19日原告代理人に送達された。

2  本願考案の要旨

両端にヘッドカバーを取り付けたシリンダチューブの内部及び外部にそれぞれ駆動磁石列を備えた駆動体及び被駆動磁石列を備えた被駆動体を軸方向に摺動可能に配接し、駆動磁石列はシリンダチューブの内部において流体圧で軸方向に駆動されるピストンに取り付け、上記両磁石列のそれぞれにおいて、シリンダの軸方向に複数の磁石とヨークとを交互に配置するとともに、上記複数の磁石をそれらの同極同士を隣接させて、各磁石間のヨークから出る磁力線がシリンダの径方向を向くように配列させ、かつ両磁石列は各磁石の異極同士を互いに対向させて配設し、磁石とヨークとを交互に配列した前記駆動磁石列と、その駆動磁石列を両側から挟着するピストンとは、それらに穿設した中心孔にボルトを挿通し、それらの両外端面側のピストンにダンパー座を介してナットを締結することにより一体化し、上記ダンパー座によってその周囲に形成されるダンパー装着部に緩衝材料からなる環状のダンパーをピストンに当接させて嵌装し、上記ヘッドカバーにおけるシリンダチューブの取付部分の先端をストロークエンドにおいてダンパーが衝当するストッパ面とし、このヘッドカバーにおける上記取付部分内に上記ボルト・ナットが嵌入する凹部を凹設し、この凹部を通孔により高圧流体の給排ポートに連通させた、ことを特徴とするロッドレスシリンダ

(別紙第一参照)

3  審決の理由の要点

本願考案の要旨は、前項記載のとおりである。

これに対し、実用新案登録願昭和52年第59459号(昭和53年実用新案登録出願公開第154988号公報参照)の願書に添付された明細書及び図面を撮影したマイクロフィルム(以下「第一引用例」という。)には、両端にカバーを取り付けたシリンダチューブの内部及び外部にそれぞれ駆動側の永久磁石列11、13を備えたピストン及び追従側の永久磁石列20、21を備えたピストン追従体18を軸方向に摺動可能に配設し、駆動側の永久磁石列はシリンダチューブの内部において流体圧で軸方向に駆動されるピストンに取り付け、上記駆動側の永久磁石列は、シリンダの軸方向に磁石11、非磁性体製の環状中板12、磁石13の順となるように配置し、一方、上記追従側の永久磁石列は、シリンダの軸方向に磁石20、非磁性体製の中板22、磁石21の順となるように配置し、各磁石間の磁力線がシリンダの径方向を向くように配列させ、かつ両磁石列は各磁石が吸引し合うように互いに対向させて配設し、磁石と非磁性体製の環状中板12とを交互に配列した前記駆動側の永久磁石列11、13と、その駆動側の永久磁石列を両側から挟着する左側及び右側の環状挟持板10、14とは、それらに穿設した中心孔にボルトを挿通し、ナットを締結することにより一体化し、上記カバー2、3におけるシリンダチューブの取付部分の先端をストロークエンドにおいてボルトの頭部16及びナット15が衝当するストッパ面とし、このカバーにおける上記取付部分内にボルトに形成したクッション突部17及びボルト先端部が嵌入する凹部であるクッション室4、5を凹設し、この凹部を通孔により高圧流体の給排ポートに連通させた、ロッドレスシリンダが、記載されている。

また、昭和47年実用新案登録出願公告第19164号公報(以下「第二引用例」という。)には、パイプの内部及び外部にそれぞれ主動磁石体1及び従動磁石体3を軸方向に移動可能に配設し、主動磁石体がパイプの内部において軸方向に駆動されるものであって、上記両磁石体のそれぞれにおいて、パイプの軸方向に複数の磁石と強磁性体製のポールピース11、31とを交互に配置するとともに、上記複数の磁石をそれらの同極同士を隣接させて、各磁石間のポールピースから出る磁力線がパイプの径方向を向くように配列させ、かつ両磁石体は各磁石の異極同士を互いに対向させて配設した磁気結合装置が、記載されている。

さらに、昭和54年実用新案登録願第59642号(昭和55年実用新案登録出願公開第161105号公報参照)の願書に添付された明細書及び図面を撮影したマイクロフィルム(以下「第三引用例」という。)には、ピストンを摺動自在に嵌合したチューブの両端部を密閉するとともに流体の流出入口を設けた一対のキャップ12、13の内面に対向するピストンの両端面に取付座を形成し、該取付座に衝撃を緩和するための弾性体板4、5をナット7にて添着し、上記キャップにおけるチューブの取付部分の先端をストロークエンドにおいて弾性体板が衝当するストッパ面とし、このキャップにおける上記取付部分内に上記ナット7が嵌入する凹部を凹設し、この凹部を通孔により高圧流体の給排ポートに連通させた流体圧シリンダの緩衝装置が、記載されている。

そこで、本願考案と第一引用例記載のものとを対比すると、第一引用例記載のものの「カバー」、「駆動側の永久磁石列11、13」、「ピストン」、「追従側の永久磁石列20、21」、「ピストン追従体」、「左側及び右側の環状挟持板」は、それぞれ本願考案の「ヘッドカバー」、「駆動磁石列」、「駆動体」、「被駆動磁石列」、「被駆動体」、「ピストン」に相当するものと認められるから、両者は、「両端にヘッドカバーを取り付けたシリンダチューブの内部及び外部にそれぞれ駆動磁石列を備えた駆動体及び被駆動磁石列を備えた被駆動体を軸方向に摺動可能に配設し、駆動磁石列はシリンダチューブの内部において流体圧で軸方向に駆動されるピストンに取り付け、前記駆動磁石列と、その駆動磁石列を両側から挟着するピストンとは、それらに穿設した中心孔にボルトを挿通し、ナットを締結することにより一体化し、上記ヘッドカバーにおけるシリンダチューブの取付部分の先端をストロークエンドにおいてストッパ面とし、このヘッドカバーにおける上記取付部分内に凹部を凹設し、この凹部を通孔により高圧流体の給排ポートに連通させた、ロッドレスシリンダ」である点で一致し、次の点で相違している。

すなわち、(1)本願考案では、両磁石列のそれぞれにおいて、シリンダの軸方向に複数の磁石とヨークとを交互に配置するとともに、上記複数の磁石をそれらの同極同士を隣接させて、各磁石間のヨークから出る磁力線がシリンダの径方向を向くように配列させ、かつ両磁石列は各磁石の異極同士を互いに対向させて配列しているのに対して、第一引用例記載のものは、駆動側の磁石列11、13は、シリンダの軸方向に磁石11、非磁性体製の環状中板12、磁石13の順となるように配置し、一方、追従側の磁石列20、21は、シリンダの軸方向に磁石20、非磁性体製の中板22、磁石21の順となるように配置し、各磁石間の磁力線がシリンダの径方向を向くように配列させ、かつ両磁石列は各磁石が吸引し合うように互いに対向させて配設している点、(2)ダンパーに関して、本願考案では、ピストンの両外端面側のダンパー座によってその周囲に形成されるダンパー装着部に緩衝材料からなる環状のダンパーをピストンに当接させて嵌装し、ストロークエンドにおいてダンパーがストッパ面に衝当するようにしたのに対し、第一引用例には、これについて記載するところがない点、(3)本願考案では、双方のヘッドカバーにおいて、それらの取付部分内にボルト・ナットが嵌入する凹部を凹設しているのに対して、第一引用例記載のものは、一方のヘッドカバーにおける取付部分内にはボルト頭部に設けたクッション突部が嵌入する凹部であるクッション室を凹設し、他方のヘッドカバーにおける取付部分内にはボルト先端が嵌入する凹部であるクッション室を凹設している点。

次に、これらの相違点(1)ないし(3)について検討すると、相違点(1)については、第二引用例に、磁気結合装置であって、主動及び従動の両磁石体(本願考案の両磁石列に相当。以下、本願考案の相当する部材名を括弧内に記す。)のそれぞれにおいて、パイプ(シリンダ)の軸方向に複数の磁石とポールピース(ヨーク)とを交互に配置するとともに、上記複数の磁石をそれらの同極同士を隣接させて、各磁石間のポールピース(ヨーク)から出る磁力線がパイプ(シリンダ)の径方向を向くように配列させ、かつ両磁石体(両磁石列)は各磁石の異極同士を互いに対向させて配設したものが記載されており、このものは、本願考案の磁気結合機能と全く同様の機能を果すものであるから、この第二引用例に記載の磁石配列をした磁気結合装置を第一引用例記載の磁気結合構造に換えて採用することに格別の技術的困難性は認められない。そして、本願考案が相違点(1)によって奏される作用効果も、第二引用例記載のものの作用効果そのものであるから、当業者が普通に予測することができた程度のものと認められる。したがって、相違点(1)は、第二引用例記載のものから当業者がきわめて容易に想到しえた程度のものというべきである。また、相違点(2)については、第三引用例に、流体圧シリンダの緩衝装置に関するものであって、本願考案と流体圧アクチュエータという点で同様の技術分野に属するもので、ピストンの両外端面側の取付座(ダンパー座)によってその周囲に形成される弾性体板装着部(ダンパー装着部)に緩衝材料からなる環状の弾性体板(ダンパー)をピストンに当設させて嵌装し、ストロークエンドにおいて、弾性体板(ダンパー)がストッパ面に衝当するようにしたものが開示されているので、この緩衝構造を第一引用例記載のピストンのストロークエンドにおけるクッション室4、5によるクッション機能に換えて採用することは、当業者が適宜なしうる程度のことであって、これを困難にする技術的問題があるとも認められない。そして、本願考案が相違点(2)によって奏される作用効果も、第三引用例に開示された作用効果であるから、当業者が普通に予測することができたものと認められる。したがって、相違点(2)は、第三引用例記載のものから当業者がきわめて容易に想到しえたといわざるをえない。さらに、相違点(3)については、同じく第三引用例に、キャップ(ヘッドカバー)において、その取付部分内にピストンのストロークエンドではナットが嵌入する凹部を凹設したものが開示されているので、この嵌入構造を第一引用例記載のカバー3に凹設した凹部5と環状挟持板14側のナット15とのストロークエンドでの関係に採用することは、当業者が格別の考案力を要することなくなしえた設計的事項というべきである。また、その際に、第一引用例記載のカバー2に凹設した凹部4とボルト頭部側のクッション突部17との嵌入構造に凹部とボルト頭部との嵌入構造を採用することも、設計的事項というべきである。そして、本願考案が相違点(3)によって奏される作用効果も、第三引用例記載のものを適用することにより、当業者が普通に予測する範囲を超えるものでないと認められる。以上のとおり、相違点(3)も第三引用例記載のものから当業者がきわめて容易になしえたといわざるをえない。

したがって、本願考案は第一引用例ないし第三引用例記載のものに基づいて当業者がきわめて容易に考案することができものであるから、実用新案法3条2項により実用新案登録を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

各引用例に審決認定の技術内容が記載されていること、本願考案と第一引用例との一致点及び相違点が審決認定のとおりであることは認め、また、相違点(1)についての審決の判断も認めるが、審決は、本願考案及び第三引用例記載のものの技術内容を誤認し、また、本願考案の顕著な作用効果を看過して、相違点(2)及び相違点(3)の判断をそれぞれ誤ったものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1

審決は、相違点(2)について、第三引用例に開示された緩衝構造を第一引用例記載のクッション室4、5によるクッション機能に換えて採用することは、当業者が適宜なしうることであり、相違点(2)によって奏される作用効果も、当業者が普通に予測できたものと認定判断している。

しかしながら、次のとおり、第三引用例に記載の緩衝構造を第一引用例記載のクッション室4、5に換えて採用することは、当業者が適宜なしうることではなく、相違点(2)によって奏される作用効果も、第三引用例に開示された作用効果とは全く異質のもので、当業者が普通に予測できるものではなく、審決の上記判断は誤っている。

すなわち、本願考案のロッドレスシリンダのように、「両端にヘッドカバーを取り付けたシリンダチューブの内部及び外部にそれぞれ駆動磁石列を備えた駆動体及び被駆動磁石列を備えた被駆動体を軸方向に摺動可能に配接したロッドレスシリンダ」(以下これを「磁気結合型ロッドレスシリンダ」という。)においては、シリンダチューブの外側で負荷に連結される被駆動体の磁石列と、ピストンに連結した駆動体の磁石列との間では、両磁石列の磁気結合力の範囲内で力が伝達され、負荷の駆動、制動にそれ以上の力が必要な場合には、両磁石列の磁気結合が破れて動作不能になる。つまり、ストッパ面とダンパーの間に作用する力は、両磁石列が磁気結合力により相互に保持される範囲が限度であり、負荷の慣性力がすべて作用することはない。したがって、ダンパーは、両磁石列の磁気結合力に見合う程度の緩衝能力を備えていればよく、それ以上の能力を備える必要はない。

このように、本願考案の磁気結合型ロッドレスシリンダにおけるダンパーは、磁石列の磁気結合力の範囲内において、駆動体の緩衝的な停止にも有効に作用するが、むしろピストンと共働して磁気結合型ロッドレスシリンダにおける駆動体の磁石列の保護に有効に作用するものである。すなわち、一般に磁石材料は非常に脆く、衝撃により破損しやすいため、磁気結合型ロッドレスシリンダにおいては、磁石の破損からの保護を十分に考慮する必要がある。本願考案におけるダンパーは、このような磁気結合型ロッドレスシリンダにおける駆動体の磁石列の保護に有効に作用するもので、特に、本願考案においては、駆動側磁石列を一対のピストンにより挟着し、そのピストンの外端面側にそれぞれダンパーを当接するという構成を採用しているため、駆動体がストロークエンドに衝突した場合の衝撃力が、ダンパーにより緩和されてピストンに伝達され、しかもこのピストンからは磁石の周辺部等に局所的に衝撃力が伝達されるようなことはなく、磁石全面に均等化して伝わることになるので、磁石列が効果的に破損から保護される。

これに対し、第三引用例記載のものは、磁気結合型ロッドレスシリンダに関するものではなく、ロッド付の流体圧シリンダで、負荷とピストンとがロッドを介して直接的に結合されているため、負荷の駆動、制動力がピストンに直接的に作用し、磁石列の保護については全く配慮せず、またその示唆もしていない。すなわち、第三引用例記載のものは、磁気結合型ロッドレスシリンダとは全く無関係のものであり、駆動体の磁石列を保護するような弾性体板(ダンパー)の取付構造になっているものでない。

したがって、第三引用例記載の緩衝構造を第一引用例記載のものにおいて採用することによりその弾性体板(ダンパー)の機能とは全く無関係な駆動体の磁石列の保護をさせるようなことは、当業者においても適宜なしうる程度のことではない。

さらに、上述したところから明らかなように、駆動体の磁石列を効果的に破損から保護するという本願考案の作用効果は、第三引用例に開示された作用効果とは全く異質のもので、当業者が普通に予測することができたものではない。

被告が作用効果についてする主張は、磁石保護とは無関係な第三引用例記載のダンパーを第一引用例記載の緩衝構造に採用するという、極めて容易に想到しえない構造を仮定したうえのものであり、論理に著しい飛躍があって、不当というべきである。

(2)  取消事由2(相違点に対する判断の誤り)

審決は、相違点(3)について、第三引用例記載の嵌入構造を第一引用例記載のカバー3に凹設した凹部5と環状挟持板14側のナット15とのストロークエンドでの関係に採用することは、設計的事項であり、第一引用例記載のカバー2に凹設した凹部4とボルト頭部側のクッション突部17との嵌入構造に凹部とボルト頭部との嵌入構造を採用することも設計的事項で、相違点(3)によって奏される作用効果も、当業者が予測する範囲を超えない、と認定判断している。

しかしながら、次のとおり、第三引用例記載の嵌入構造を第一引用例記載のカバー2、3の凹部4、5とピストンとの間に採用することは、当業者が格別の考案力を要することなくなしえた設計的事項ではなく、相違点(3)による本願考案の作用効果も、第三引用例に開示された作用効果とは全く異質のもので、当業者が普通に予測しえたものではないから、審決の認定判断は誤りである。

すなわち、本願考案のロッドレスシリンダにおいては、駆動体がストロークエンドに達し、ダンパーがストッパ面に当接して停止した後、逆方向にストロークを開始させる場合に、当初、駆動体に対しては、ヘッドカバーの凹部内において、ストッパ面に対するダンパーの当接部の内側の圧力作用面積にしか流体圧が作用しないため、大きな駆動力を得られないが、磁石結合のロッドレスシリンダの特性の有効利用により、駆動体を円滑に駆動することができる。つまり、磁気結合型ロッドレスシリンダにおいては、流体圧によって駆動磁石列を駆動した場合、被駆動磁石列がそれに僅かな遅れで追随して駆動される。そのため、駆動体のストロークを開始させる場合においても、両磁石列の磁気結合力が十分に保持されている範囲内では、駆動磁石列を比較的小さい力で若干移動させることができる。このような磁気結合型ロッドレスシリンダの特性を考慮すると、駆動体のストローク開始に際し、凹部内においてストッパ面へのダンパーの当接部の内側部分に作用する流体圧は、ダンパーをストッパ面から若干離すに必要な駆動力を発生できるものであればよく、このダンパーの僅かな移動によりダンパーとストッパ面との間に流体が流れる隙間が生じ、それによって流体圧がピストン全体を受圧面として作用することになるので、第三引用例記載のものの弾性板体(ダンパー)のように凹溝、隆起条、突起等を設けなくても、また初期の駆動力を得るために流体圧を高めるなどの配慮を行わなくても、ピストンが常に最大駆動力によって駆動される。

これに対し、第三引用例記載のもののようなロッド付のシリンダでは、ピストンが負荷に連結されているので、ピストンの動きを開始させるためには、負荷の駆動に要する駆動力が必要であり、したがって、弾性板体(ダンパー)に、凹溝、突起条、突起等を設け、ピストンの駆動初期におけるピストン流体圧作用面積を大きくすることが必要になる。しかも、静摩擦力に抗して最も大きな力で駆動する必要があるピストン駆動開始時の力が、ダンパーの接触面積(当り面の面積)に相当する分だけ低下することになる。

そして、上記したところから、本願考案は、相違点(3)に係る構成により、第三引用例記載のものには見られない、磁気結合型ロッドレスシリンダにおいて特有の上記のとおりの作用効果を奏することは、明らかである。

なお、相違点(3)に係る被告の主張は、磁気結合型ロッドレスシリンダにおいてゴムクッションを採用するという通常では容易に想到しえない構造を仮定したうえでのもので、不当というほかはない。

第3  請求の原因の認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の審決の取消事由は争う。審決の認定、判断は正当であって、審決に原告主張の違法は存在しない。

(1)  取消事由1について

流体圧シリンダにおいて、流体圧シリンダのストローク終端にピストンが達する際、慣性エネルギーが大きいと考えられる負荷に対しては、クッション装置をシリンダ内に付加することは普通のことであり、クッション装置の構造には、大別して、エアクッション方式とゴムクッション方式との二種類の形式が使用されている。「図解油・空圧用語辞典」(乙第1号証)及び第一引用例に図示されたものは前者に該当し、本願考案及び第三引用例記載のものは後者に該当する。流体圧シリンダにおいてクッション構造として上記の二種類のうちいずれを採用するかは、シリンダの口径及び負荷の大小等により決定すべき設計的事項である。そして、ロッドレスシリンダはピストンの両端にロッドがないことから、ロッドのあるものよりクッション装置を設けることが容易であり、いずれのクッション方式を採用するにしても、格別の技術的問題があるとは考えられない。

したがって、第三引用例記載の緩衝構造(ゴムクッション方式)を第一引用例記載の緩衝構造(エアクッション方式)に換えて採用することは、当業者が適宜なしうる程度のことである。

また、相違点(2)に係る本願考案の作用効果については、シリンダに設けたクッション装置により衝撃を緩和することができれば、シリンダ及びピストンの双方とも破損から免れ耐久性が増すことは自明のことであり、原告が本願考案の作用効果として主張するものは、第三引用例記載のピストンに第一引用例記載の緩衝構造を適用した構成、すなわち駆動側磁石列を一対のピストンにより挟着し、そのピストンの外端面側に取付座を介してそれぞれ弾性体板(ダンパー)を当接した構成により奏される自明の作用効果であって、当業者が当然に予測できることであるから、格別顕著な作用効果ということができない。

(2)  取消事由2について

第三引用例記載の緩衝構造(ゴムクッション)を第一引用例記載のシリンダーに採用するに際して第三引用例記載のゴムクッションの機能を得るためには、ピストン8に取り付けた弾性体板がカバー2、3に接触する前にクッション突部17及びナット15がカバー2、3に当ってはならず、第三引用例記載のピストンの構造とともにナットの嵌入構造をも採用すべきことは、当然である。

したがって、第三引用例記載の緩衝構造を第一引用例記載の緩衝構造に換えて採用するには、第一引用例記載のカバー2、3の凹部4、5とクッション突部17、ナット15とがぶつからないよう両者の間に第三引用例記載の嵌入構造を採用することは、当業者が格別の考案力を要することなくなしえた設計的事項というべきである。

また、原告が主張する相違点(3)に係る本願考案の作用効果については、磁気結合型ロッドレスシリンダにおいては、駆動磁石列を駆動したとき被駆動磁石列がそれに僅かな遅れで追随して駆動され、駆動磁石列のストロークエンドにおいては被駆動磁石列が追いつき、両磁石列の磁気結合が最大であるS極とN極が向かい合った位置で両磁石列が安定的に静止する。このストロークエンドにおいては、両磁石列の変位に対する結合力は弱く、そのため、駆動磁石列のストロークを開始させる場合においては、当初駆動磁石列を比較的小さい力で若干移動させることができる。このように、磁気結合型ロッドレスシリンダが、前記のような特性を有することは、例えば第二引用例記載の磁気結合装置の第2図に示された変位に対する結合力の特性曲線を見れば明らかであり、当業者の技術常識である。

したがって、磁気結合型ロッドレスシリンダにおいてゴムクッションを採用した場合には、駆動磁石列のストローク開始に際し、両磁石列間の変位に対する結合力は弱いので、凹部内においてストッパ面へのダンパーの当接部の内側部分に作用させる流体圧はダンパーをストッパ面から若干離すのに必要な比較的小さな駆動力を発生できるものであればよく、ダンパーからのわずかな移動によりダンパーとストッパ面との間に流体が流れる隙間が生じ、それによって流体圧がピストン全体を受圧面として採用することになり、ピストンを最大駆動力で駆動できることは、当業者ならば普通に予測することができたということができる。また、駆動磁石列のストローク開始に際し、小さな流体圧で駆動することができる以上、弾性板体(ダンパー)に凹溝、突起条、突起等を設ける必要がないことは、当業者ならば当然に予測することができたことである。

以上のとおり、原告の主張する作用効果は、磁気結合型ロッドレスシリンダがそれ自体で有する特性に基づく自明の作用効果で、当業者が普通に予測できることであり、特有の作用効果ということができない。

第4  証拠関係

本件記録中の証拠目録の記載を引用する(後記理由中において引用する書証は、いずれも成立に争いがない。)。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願考案の要旨)及び同3(審決の理由の要点)の各事実並びに各引用例に審決認定の技術内容が記載されていること、本願考案と第一引用例との一致点及び相違点が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがなく、相違点(1)についての審決の判断についても争いがない。

2  甲第2号証の1ないし3によれば、本願明細書には、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

(1)  本願考案は、ロッドレスシリンダに関する(平成4年3月30日付手続補正書添付の明細書(以下単に「明細書」という。)2頁16行ないし17行)。

従来、シリンダチューブの外側に軸方向に摺動可能に配設した被駆動磁石列を、シリンダ内における流体圧駆動のピストンに固定した駆動磁石列に追随させて駆動するようにしたロッドレスシリンダは既に知られている。駆動磁石列及び被駆動磁石列に使用された磁石及びその磁石配列により移送能力を向上させると、ロッドレスシリンダ自体の小型高性能化を達成することができるが、それに伴って全体的な構成をも小型化することが要求されることになる。特にロッドレスシリンダにおいては、ロッドにより出力動作を伝達するロッド付シリンダと異なり、ピストンと駆動磁石列とを一体化した駆動体が流体圧により駆動され、その駆動体の動作を規制するための部材が機械的に連結されていないので、負荷にその動きを制限するストッパ等を別途設けるとしても、ストロークエンドにおけるピストンの緩衝的な停止を考慮する必要があり、そのための構成を機能的で、簡単、小型、耐久性のあるものとして設置する必要がある。また、一般に磁石材料は非常に脆く、衝撃により破損し易いため、ロッドレスシリンダの小型化に際して磁石の破損からの保護を十分に考慮する必要がある。本願考案は、ロッドレスシリンダの駆動磁石列及び被駆動磁石列のそれぞれにおける磁石の極の配列を適切なものとすることにより、より大きな磁気結合力が得られるようにしたものにおいて、全体的な構成、特に、ストロークエンドにおけるピストンの緩衝的な停止のための構成を、機能的で、簡単、小型、耐久性のあるものとし、かつ磁石の破損からの保護に関して十分に考慮した構成を得ること(同2頁18行ないし5頁15行)を技術的課題(目的)とするものである。

(2)  本願考案は、前記技術的課題を解決するために本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲)記載の構成(明細書1頁5行ないし2頁14行)を採用した。

(3)  本願考案は、前記構成により、両磁石列間の磁力線をヨークの対向面に集中させて、両磁石間の保持力を著しく大きなものとすることができ、また、全体的な構成、特にストロークエンドにおけるピストンの緩衝的な停止のための構成を、機能的で、簡単、小型、耐久性のあるものとし、さらに、駆動体をストローク端において緩衝的に停止させるためのダンパーを有効に利用し、ピストンと協働して、駆動体の磁石の破損からの保護に有効に機能させることができる(明細書20頁10行ないし21頁2行)という作用効果を奏するものである。

3  取消事由1について

(1)  甲第3号証によれば、第一引用例は、考案の名称を「シリンダ」とする実用新案登録願書に添付された明細書及び図面を撮影したマイクロフィルムであるが、第一引用例には、第一引用例記載のものの技術的課題(目的)について、「本考案は、ピストンロッドがなくともピストンの動力をシリンダ本体外部へ取り出すことができ、それによりピストンロッドの行程長さ分だけ専有設置スペースを短かくできるようにしたシリンダに係る。」(2枚目15行ないし3枚目1行)との記載があり、その実用新案登録請求の範囲として、「シリンダチューブを非磁性体で構成するとともに、そのシリンダチューブ中に摺動自在に嵌装したピストンとそのシリンダチューブの外側にそれに沿って摺動し得るように装備したピストン追従体とを、その双方に永久磁石を備えるかあるいはまた一方に永久磁石を備えて他方を磁性体で構成することにより、吸引あるいは反発による磁力で同時に一体的摺動できるようにしてなることを特徴とするシリンダ」(2枚目5行ないし13行)と記載され、その作用効果について、「本考案シリンダによれば、ピストンロッドがなくともピストンの動力をシリンダ本体外部へ取り出すことができ、それによりピストンロッドの行程長さ分だけ専有設置スペースを短かくできる。」(6枚目15行ないし20行)との記載があり、末尾に別紙第二の図面が添付されていることが認められる。

(2)  また、甲第5号証によれば、第三引用例は、考案の名称を「流体圧シリンダの緩衝装置」とする実用新案登録願書に添付された明細書及び図面を撮影したマイクロフィルムであるが、第三引用例には、第三引用例記載のものの技術的課題(目的)について、「エアシリンダにおいて、ピストンがシリンダの端部のキャップに撃突すると騒音を発生すると共にシリンダの耐久性が損われる。このためキャップ内面またはシリンダの端面にゴムのような弾性体板を添着して衝撃を緩和する手段がとられる。しかし流体圧でキャップとピストンとが密着するとピストンの外周部が気密状態となるから、この状態で次にキャップの中心部から圧力流体を送り込んでピストンを逆向きに移動させようとすると、その流体圧がピストンの中央部に加わるだけであるために受圧面積が小さく高い圧力を必要とする。かつピストンがキャップから離れると同時にその受圧面積が突然増大するために該ピストンが急激に移動し始めて、いわゆる飛出し現象を生ずる欠点がある。本考案はこの欠点を除去しようとするものである。」(2枚目15行ないし3枚目10行)との記載があり、その実用新案登録請求の範囲として、「ピストンを摺動自在に嵌合したチューブの端部を密閉すると共に流体の流出入口を設けたキャップの内面に対向するピストンの端面にそれらが高速度で衝突した場合の衝撃を緩和するための弾性体板を添着し、かつ上記キャップとピストンとが密着した状態で前記流出入口から送り込まれた流体がピストンの全面に拡散するように前記弾性体板の表面に凹凸を形成した流体圧シリンダの緩衝装置」(2枚目5行ないし13行)と記載され、その考案の作用効果に関して、「弾性板4の表面には半径方向の凹溝8を設けて、内周部と外周部とを連結してあるから、次に流出入口15から高圧の流体を送り込んだ場合に、その流体が直ちにピストンの周縁部まで拡散して、このため該ピストンが大きい受圧面積をもって流体圧を受ける。従って比較的低い圧力でピストン1が容易に移動し始めると共にその移動によって該ピストンの受圧面積が突然拡大するようなおそれがないから、前述の飛出し現象を生ずるような欠点がないもので、ピストンがキャップ13に密着した場合も同様の効果がある。しかもピストン1が高速度でキャップ12または13に衝突した場合は、表面の凹凸によって緩衝作用も向上する。」(4枚目20行ないし5枚目13行)との記載があり、末尾に別紙第三の図面が添付されていることが認められる。

(3)  一般に、流体シリンダをロッド形式による差異により分類すると、片ロッド、両ロッド、ロッドレスの三種類の形式に分けられることは、技術上自明である。

前記(1)の認定事実殊に第一引用例記載のものの技術的課題に関する記載によれば、第一引用例には、ロッドレスシリンダとロッド付シリンダとの間の技術的親近性及び技術の転用性が示唆されているということができる。

また、乙第1号証によれば、「図解油・空圧用語辞典」(日刊工業新聞社、昭和46年9月20日初版1刷発行、昭和55年12月25日初版6刷発行)には、「油空圧シリンダのストローク終端にピストンが達するさい慣性エネルギーが大きいと考えられる負荷に対してはクッション装置をシリンダ内に付加する場合がある。これにより慣性力を適当に吸収して衝撃を緩和することができる。」(58頁12行ないし15行)との記載があることが認められ、流体圧シリンダにおいてストローク終端にピストンが達する際衝撃緩和のためシリンダ内にクッション装置を付加することは、本件出願当時技術常識であったと認められる。

ところで、乙第1号証によれば、前記「図解油・空圧用語辞典」(58頁図及び図下1行ないし4行)には、上記クッション装置として、絞り弁及びクッションチャンバを設け、クッションチャンバ内の流体の流出を絞り弁を用いて制限することによってピストンの速度を減速させて衝撃を緩和させる流体クッション方式が記載されていることが認められ、また流体圧シリンダの構造機能からみて、そのクッション装置の構造としてはゴムのような弾性体を設けピストンの持つ運動のエネルギーをゴムのたわみ(変形抵抗力)により吸収させるゴムクッション方式を採用し得ることは技術的に自明であり、前記(2)認定事実によれば、第三引用例記載のものはこのようなゴムクッション方式を採用したものと認められる。

そうであれば、流体圧シリンダのクッション装置として流体クッション方式とゴムクッション方式とがあることは本件出願当時当業者にとって広く知られた技術的事項であり、したがって、流体圧シリンダのクッション装置としてそのいずれを採用するかは、シリンダの口径及び負荷の大小等をも考慮して決定すべき設計的事項というほかはない。

甲第3号証と前記(1)における認定事実によれば、第一引用例には、磁気結合型ロッドレスシリンダが開示されているが、第一引用例記載の磁気結合型ロッドレスシリンダは、クッション室(クッションチャンバ)4、5を備えていることから、上記の従来慣用の技術手段である流体クッション機能を有しており、したがって、当然にピストン8を構成している磁石列(永久磁石板11、13)の保護に有効に作用している、と認めることができる。

そして、前記(2)の認定事実によれば、第三引用例には、ピストン1の端面に弾性体板を設けたもの、すなわち、クッション機能をピストンの端面に設けた弾性体板で作用させているゴムクッション方式のものが記載されていることが明らかである。

他方、磁気結合型ロッドレスシリンダにおいては、磁気結合力以上の負荷がかかった場合、当該磁気結合型ロッドレスシリンダが正常に作動しないことは技術上当然の事項であり、磁気結合力以内で種々の設計を行うことは、磁気結合型ロッドレスシリンダが有している属性にすぎないというべきである。したがって、クッション機能の設計にあたって上記属性を考慮に入れることは、当然のことであるといわなければならない。

以上のとおり、ロッドレスシリンダとロッド付シリンダとは技術的に親近性があり、クッション構造として二種類のものがあり、そのうちいずれを採用するかは設計的事項というべきであるが、本件全証拠によっても、二種類のクッション構造のうちいずれを採用するかにより何らかの技術的問題が生ずることは認められない。

そうすると、第三引用例記載のゴムクッション方式の緩衝構造を第一引用例記載の緩衝構造(流体クッション方式)に換えて採用することは、当業者が適宜なしうる程度のことであって、これを困難にする技術的問題があるとも認められない、とした審決の認定判断は、正当というほかはない。

(4)  なお、原告は、相違点(2)に係る本願考案の駆動体の磁石列を効果的に破損から保護するという作用効果は、第三引用例に開示された作用効果とは全く異質のものであり、当業者が普通に予測することができたものではない、と主張している。

しかしながら、前記(2)における認定事実によれば、第三引用例記載の弾性体板は、衝撃を緩和するために設けられており、したがって、当然両衝突物、すなわちピストンとキャップの衝撃からの保護を図ったものであることが、明らかである。このような弾性体板を磁気結合型ロッドレスシリンダのピストンの端面に設けた場合、ピストンすなわち磁石列が衝撃から保護されるであろうことは、当業者において容易に予測できることというべきである。

また、甲第3号証と前記(1)における認定事実によれば、第一引用例には、ピストン構造を挟持板、永久磁石、中板、永久磁石、挟持板をサンドイッチ構造にして、ボルト、ナットで挟着したものが示されていることが認められ、これにクッション機能を持たせるため弾性体板(緩衝材料からなるダンパー)を設ける場合、必然的に本願考案のようなピストン構造となると考えられ、その場合、ピストンに緩和されて伝達された衝撃力が、挟持板により磁石の周辺部等に局所的に伝わるようなことはなく、磁石全面に均等化して伝わり、磁石列が効果的に破損から保護されるであろうことは、自明の作用効果であって、当業者が当然に予測することができたというべきである。

そうすると、原告の主張は理由がないというほかはない。

4  取消事由2について

(1)  一般に、ピストンとシリンダ端面又はキャップ面とが衝合する面は広い平坦面であることが望ましく、ピストンに突出部がある場合、ストロークを稼ぎ、又は局所的な強い衝撃を避けるなどの理由から当該突出部が衝合することを避けるべきことは、技術上自明な事項に属する。

甲第3号証、第5号証に前記3(1)及び(2)における認定事実を併せて考えると、第一引用例記載のものでは、単にクッション機能を持たせる意味だけでなく、上記の技術上自明な事項に適合させる観点からも、ピストン8のクッション突部17及びボルト9がカバー2、3こ衝突するのを防止する構造になっており、第三引用例記載のものも、同様の理由で、ナット7がキャップ12に衝突するのを防止する構造になっている、と認めることができる。

したがって、第三引用例記載の緩衝構造(ゴムクッション)を第一引用例記載のシリンダに採用するに際して、第三引用例記載のゴムクッション機能を得るためには、ピストン8に取り付けた弾性体板がカバー2、3に接触する前にクッション突部17及びナット15がカバー2、3に当ってはならず、第三引用例記載のピストンの構造とともにナットの嵌入構造をも採用すべきことは、当然であるといわなければならない。すなわち、第三引用例記載の緩衝構造を第一引用例記載の緩衝構造に換えて採用するには、第一引用例記載のカバー2、3の凹部4、5とクッション突部17、ナット15とが衝突しないよう、両者の間に第三引用例記載の嵌入構造を採用することは、当業者が格別の考案力を要することなくしてなしえた設計的事項というべきである。

(2)  原告は、本願考案は、相違点(3)に係る構成により、第三引用例記載のものには見られない、磁気結合型ロッドレスシリンダにおいて特有の作用効果を奏する、と主張する。

しかしながら、甲第4号証によれば、第二引用例は、昭和47年6月30日公告された実用新案登録出願公告公報(別紙第四参照)であるが、第二引用例には、第二引用例記載のものの実用新案登録請求の範囲として、「複数の永久磁石をその同極性の磁極面同志が強磁性体板のポールピースを介して向き合うように連結してなる磁石体と、それとほぼ同様の構成で空隙をへだてて前記磁石体と磁気的に結合する他の磁石体とを具備した磁気結合装置」(4欄7行ないし11行)と記載され、第二引用例記載のものの実施例を示す別紙第四の第1図とともにその特性の一例として変位に対する結合力を示す別紙第四の第2図が添付されていることが認められ、第二引用例の公告された時期を考慮しつつ前記2並びに前記3の(1)及び(2)の認定事実のもとでこの変位に対する結合力の特性曲線を詳細に検討すれば、駆動磁石列と被駆動磁石列との磁気結合により動作する磁気結合型ロッドレスシリンダにおいては、駆動磁石列を駆動した場合、被駆動磁石列がそれにわずかな遅れで追随して駆動され、駆動磁石列のストロークエンドにおいて被駆動磁石列が追いつき、両磁石列の磁気結合力が最大であるS極とN極が向い合った位置において、両磁石列は安定的に静止すること、このストロークエンドにおいては、両磁石列の変位に対する結合力が弱く、そのため駆動磁石列のストロークを開始させる場合には、当初、駆動磁石列を比較的小さい力で若干移動させることができることは、いずれも本件出願時において既に技術常識であったということができる。

そうすると、磁気結合型ロッドレスシリンダにおいてゴムクッションを採用した場合、駆動磁石列のストローク開始に際し、両磁石列間の変位に対する結合力は弱いから、凹部内においてストッパ面へのダンパーの当接部の内側部分に作用させる流体圧は、ダンパーをストッパ面から若干離すに必要な比較的小さい駆動力を発生できるものであればよく、このダンパーのわずかな移動により、ダンパーとストッパ面との間に流体が流れる隙間が生じ、それによって流体圧がピストン全体を受圧面として作用することとなり、ピストンを最大駆動力で駆動できることは、本件出願当時当業者ならば普通に予測することができたといわなければならない。

また、甲第5号証と前記3(2)の認定事実によれば、第三引用例記載の弾性体板(ダンパー)は、確かに表面に凹溝、突起条、突起等を設けるように改良したものではあるが、表面に凹溝、突起条、突起等を設けていない弾性体板を前提として、これを改良したものであることが認められ、表面にこれらを設けない弾性体板も従来公知であることが明らかである。したがって、上記のように駆動磁石列のストローク開始に際し、小さな流体圧で駆動することができる以上、弾性体板(ダンパー)に凹溝、突起条、突起等を設けないものを度用できるであろうことは、当業者ならば、当然に予測することができたというほかはない。

そうすると、原告主張の相違点(3)に係る本願考案の作用効果は、磁気結合型ロッドレスシリンダがそれ自体で有する固有の特性に基づく自明の作用効果であって、当業者が普通に予測することができたものであるから、原告の主張は理由がない。

5  よって、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

別紙第一

<省略>

別紙第二

<省略>

別紙第三

<省略>

別紙第四

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