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東京高等裁判所 平成4年(ネ)4914号 判決 1993年8月25日

控訴人 株式会社シー・エル・シー・エンタープライズ

被控訴人 国

代理人 伊藤一夫 深井剛良 ほか二名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一請求

一  原判決を取り消す。

二  東京地方裁判所平成元年ケ第一一八三号及び同裁判所平成二年ケ第三六六号不動産競売事件について、同裁判所が平成四年五月二九日に作成した配当表中、被控訴人(東京国税局)の配当額一億〇八八九万八八四八円とあるのを零円に、控訴人の配当額七五億四八九五万三八九四円とあるのを七六億五七八五万二七四二円に、それぞれ変更する。

第二事案の概要

原判決事案の概要記載のとおりである。但し、以下のとおり付加訂正する。

一  原判決五枚目表四行目と五行目の間に以下のとおり付加する。

「なお、この場合、控訴人は、本件配当表に計上された新建物売却代金額を前提としたうえ、その内容を構成する法定地上権価額相当分及び建築材料が敷地上で有機的に合体して一個の不動産となることにより生じる付加価値相当分について、控訴人が被控訴人に優先して配当を受けるべきことを主張するものであるから、配当異議の訴えとして適法であることは明らかである。」

二  同六枚目表二行目と三行目の間に以下のとおり付加する。

「控訴人は、全体価値考慮説によれば、新建物には法定地上権は成立せず、新建物に設定された抵当権が把握するのは建物自体の価額であり、それは取壊し後の廃材価額に等しく無価値であって、被控訴人に配当される金額はなくなることを理由に、本件配当表の変更を求めている。

しかし、不動産執行における配当手続は、既に確定している売却代金を手続費用や各債権者の債権に割当てる手続であり、配当異議の申出は、配当手続の右のような性格を前提に、配当表に記載された各債権者の債権又は配当額について不服のあるときになされるものであるから、競売の結果としての売却代金の額それ自体についての不服申出は、配当異議の予定する異議事由には当たらず、これらは執行異議の申立てによって争われるべきものである。」

三  同六枚目表八行目と九行目の間に以下のとおり付加する。

「3 本件で、新建物に法定地上権が成立しないとした場合、控訴人はそのことを理由に本件配当表の変更を求めることができるか。」

第三争点に対する判断

原判決争点に対する判断記載のとおりである。但し、原判決八枚目表三行目の「原告は、」の次に「いわゆる全体価値考慮説の立場から、」を付加し、同裏八行目の「原則として」から同九枚目表六行目の末尾までを以下のとおり訂正する。

「原則として法定地上権が成立しないとする考え方は十分成り立ち得るものである。

しかし、このような場合でも、土地の所有者が新建物を建築し、かつ、新建物に土地の抵当権と同順位の共同抵当権が設定された場合には、新建物について法定地上権が発生するというべきであるところ、本件では、前記のとおり、控訴人は、新建物について、訴外会社から旧建物につき設定された旧抵当権等と実質的に同一の順位、内容の新抵当権等を従前どおり敷地との共同抵当権として新たに設定を受けたのであるから、右全体価値考慮説の立場に立っても、新建物について法定地上権の成立が認められることは明らかである。なお、本件では、民事執行法六一条の規定により一括売却の決定がなされた結果、法定地上権の成否が現実の問題とならず、その換価価値の帰属のみが問題となっているものであるが、そのことが右法定地上権成立の判断に影響を及ぼすものでないことはいうまでもない。

控訴人は、全体価値考慮説において、再築後の新建物に土地と同順位の共同抵当権が設定された場合、法定地上権の成立が認められるのは、土地と旧建物への共同抵当権設定時において抵当権者が有する土地の交換価値全体を把握したという合理的期待が、右の場合には同様に保護されることによるものであるから、本件のように、旧建物取壊し後、新建物建築前に国税債権の法定納期限等が到来して国税債権との優劣関係が逆転し、右期待が保護されなくなった場合には、法定地上権が成立しない旨主張する。

しかし、前記の場合、全体価値考慮説が法定地上権の成立を認めるのは、旧建物の滅失後、新建物が建築され、かつ、それに土地と同順位の共同抵当権が設定された場合、同一所有者に属する土地建物について通常の共同抵当権が設定された場合と同じ状況となるから、この場合は新建物のため法定地上権の成立を認めるべきであるとするものであって、必ずしも控訴人主張のような抵当権者の期待が保護されるという理由によるものではないと解される。なお、民法三八八条の法意は、抵当権実行の場合に建物のための土地使用の権利が存しなければ、建物所有者や、抵当権者の損失のみにとどまらず、国家経済上も不利益であるというところにあるのであるから、控訴人主張のような抵当権者の期待のみによってその成否が左右されると解すべき合理的根拠はないし、実際上も、右のような抵当権者の期待を常に保護するとすれば、租税債権の滞納の有無や、その法定納期限の時期、さらに、交付要求の有無という不明確かつ不確定な要素によって物権である法定地上権の成否が左右されることになり、取引の安全を害し、著しく不合理な結果をもたらすことは明らかである。」

第四結論

よって、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却する。

(裁判官 高橋欣一 杉山伸顕 及川憲夫)

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