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東京高等裁判所 平成4年(ネ)4417号 判決 1993年12月08日

東京都台東区根岸三丁目一三番八号

控訴人

株式会社東京義髪整形

右代表者代表取締役

中山泰輔

右訴訟代理人弁護士

市川巌

右輔佐人弁理士

小山輝晃

東京都新宿区新宿一丁目六番三号

被控訴人

株式会社アデランス

右代表者代表取締役

大北春男

右訴訟代理人弁護士

本間崇

右輔佐人弁理士

平山一幸

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた判決

一  控訴人

原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

被控訴人の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二  当事者双方の主張は、当審における主張として次のとおり加えるほか、原判決「第二 事案の概要」記載のとおりであり、証拠の関係は、原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。

一  控訴人

1  争点1(二)について

「櫛歯状に形成された多数の突片」の「櫛歯状」とは、多数の突片が先端から根本まで一本一本独立して他の突片と接触することなく一定の間隔を保ちながら連続し、独立した突片のすべてが根本で本体に固定されている、あるいは、本体と一体となっている状態と解することができる(乙第二七ないし第三二号証、同第四三号証)。これを控訴人製品のM型突片62’に当てはめると、M型突片62’のU字状先端部分の一脚片は支持部57’に固定されているが、他の一片は逆方向のM型の一脚をも構成しており、支持部57’に固定されてはいない。原判決のようにU字状の先端部分が櫛歯状の突片であるというのであれば、U字を構成する二本の脚片がそれぞれ支持部57’に固定されていなければならないはずである。原判決は、「櫛歯状に形成された」ことの判断において、右の点を看過したものである。

また、「彎曲反転部材に連設され」の「連設」につき、原判決は、その目的が、多数の突片を反転部材の反転運動に連動させて摩擦部と係脱させることにあるとし、「連設」概念には、多数の突片が彎曲反転部材に直接固着されるかどうかは含まれないとするが、そうであるならば、反転部材の反転運動に連動して多数の突片が摩擦部と係脱するものでありさえすれば、すべて右の要件を充足することになり、特許請求の範囲を広範囲に解釈しすぎることになる。右の要件は、「倒伏」との要件と一体的に判断すべきであり、倒伏の作用を生み出すためには、突片そのものが全部反転部材に直接固着されることが必要である。これに対し、控訴人製品のM3ピンのM型突片62’は、反転部材ではない前記支持部57’に取りつけられていることにより、反転部材の反転運動により、倒伏ではなく、水平状態を保ちつつ、下動して摩擦部と係脱するのである。したがって、M型突片62’は、彎曲反転部材に連設されているということはできない。

さらに、控訴人出願に係る特公平四-七一四八号公報(甲第三九号証)によっても、控訴人製品のM型突片62’からなる止着部材が、従来技術である本件発明の止着部材とは技術思想上の差異を有することが明らかである。

2  争点1(四)について

原判決は、「倒伏」とは、「各突片がその根部を中心としてその先端が少なくとも斜め上方に向いていたのが、斜め下方に向くこと」と解し、これを控訴人製品目録の第6図、第7図のX線を基準線として判断しているが、X線は「倒伏」の要件を判断するために引かれた線ではなく、これを基準とすることは誤りである。

部分かつらを頭に確実に装着させるためには、止着部材により相当量の毛髪を挟圧保持しなければならず、このためには、彎曲反転部材の反転前に多数の突片の先端部と摩擦部との間には所定の間隔が予め存在しなければならない。この間隔が狭いと毛髪の挟圧保持量が少なくなり、装着した部分かつらが脱落するおそれがある。したがって、所定の間隔の状態から毛髪を挟圧保持させることを多数の突片の倒伏作用のみで達成するためには、突片は仰起状態から倒伏状態への所定の大きさの角度以上の倒伏角度を必要とし、本件発明のいう「倒伏」とは、各突片が所定の大きさの角度以上に斜め上方に向いていたのが、斜め下方に向くように回転することと解すべきである。

これに対し、控訴人製品においては、M型突片62’は、下動に際してその先端が斜め下方に傾斜してもその角度は僅かであり、この傾斜による角度では毛髪をほとんど保持することは不可能であって、毛髪を保持する働きは、M型突片62’がほぼ水平状態を保持して下動する動作によるのであり、これをもって、本件発明の「倒伏」に該当するものということはできない。

3  争点3について

損害金について、止着部材に相当する部分の利益のみをもって算定すべきであるとの主張が認められないとしても、当該特許発明が製品に占める割合、すなわち利用率を考慮すべきである。本件発明は、「止着部材付き部分かつら」であるが、部分かつら自体には何らの特許性はなく、止着部材の特徴構成により特許されたものにすぎず、一方、被告製品についていえば、M3ピンは止着部材として必要不可欠のものではなく、M3ピン付き部分かつらの販売数量が部分かつら全体の販売数量の年平均四・五パーセントにすぎないこと、価格も従来から存在する部分かつらにM3ピンを単に付着させたのと同様に設定されていることからも明らかなように、これがなくとも市場性がなくなることも、商品としての価値を失うこともない。このように、同ピンが重要な要素とはいえないことを考えると、M3ピンの利用率は、全体の利益である六四四万七〇〇〇円のせいぜい二〇パーセントとみるのが相当であり、その金額は一二八万九四〇〇円である。

二  被控訴人

控訴人の右主張については、いずれも争う。

第三  当裁判所も被控訴人の本訴請求は、原判決認容の限度で理由があるものと判断する。その理由は、当審における控訴人の主張につき以下のとおり加えるほかは、原判決「第三 争点に対する判断」のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人の主張一について

成立に争いのない乙第二七ないし第三二号証により認められる各実用新案公報には、多数の突片が先端から根本まで一本一本独立して他の突片と接触することなく一定の間隔を保ちながら連続し、独立した突片のすべてが根本で本体に固定されている、あるいは、本体と一体となっている形態のものが櫛又は櫛歯と称されて図示されているが、他方、成立に争いのない甲第一一ないし第一八号証により認められる各意匠公報、公開実用新案公報には、多数の突片が一本一本独立しておらず隣の突片と根元において繋がっていて、独立した突片のすべてが根元で本体に固定されていない形態のものが櫛又は櫛歯と称されており、このことからすると、当業者において、右両者の形状を併せて「櫛歯状」と称しているものと認められ、控訴人製品のM型突片62’の形態が、この意味での「櫛歯状」に当たることは明らかである。乙第四三号証によっては、右認定を覆すに足りない。

控訴人は、本件発明の「連設」の要件は、「倒伏」の要件と一体的に判断すべきであり、倒伏の作用を生み出すためには、突片そのものが全部反転部材に直接固着されることが必要である旨主張するが、本件発明の特許請求の範囲の記載及び本件公報(甲第二号証)の発明の詳細な説明の記載に照らし、本件発明の「連設」及び「倒伏」の要件の意味は原判決理由に述べられているとおりと解することができるから、これと異なる前提に立つ控訴人の右主張は採用できない。

二  同二について

控訴人は、控訴人製品目録の第6図、第7図のX線を基準とすることは誤りであると主張する。しかし、本件発明の要件(二)(3)と同(三)、すなわち特許請求の範囲の「前記彎曲反転部材5の反転運動に伴い前記多数の突片6と係脱する摩擦部7とからなり、各突片6が彎曲反転部材5の反転に伴い倒伏したとき摩擦部7との間に脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持する構成とした」との記載によれば、多数の突片は、彎曲反転部材の反転運動に伴い摩擦部材と係脱するものであり、各突片は倒伏したとき摩擦部との間に脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持するものであるから、各突片が倒伏したかどうかは、摩擦部との関係で各突片が毛髪を挟圧保持する状態となるかどうかにより決するべきであるということができる。そして、前示X線は、控訴人製品において摩擦部に該当する軟質合成樹脂筒体7’との関係でM型突片62’の係脱時の状態を見るために引かれた線であることは同各図面から明らかであるから、控訴人の右主張は採用できない。

また、X線を基準線としなくとも、控訴人製品目録の記載によれば、控訴人製品におけるM型突片62’は、反転前には軟質合成樹脂筒体7’との間に、相当量の毛髪を挟圧保持することのできる所定の間隔を置いた位置にあり、反転運動に伴い軟質合成樹脂筒体7’との間で、脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持する状態となる構造を有していることは明らかであるから、控訴人製品は、本件発明の要件(三)を充足すると認められる。

三  同三について

控訴人は、損害金の算定につき、本件発明は部分かつら自体には何らの特許性はなく、止着部材の特徴構成により特許されたものにすぎないから、止着部分に相当する部分の利用率に基づくべき旨を主張するが、原判決理由説示に照らせば、この主張もまた、採用できないことが明らかである。

第四  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 木本洋子)

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