大判例

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東京高等裁判所 平成4年(ネ)2876号 判決 1993年4月14日

控訴人

東京都

右代表者知事

鈴木俊一

右指定代理人

小林紀歳

外三名

被控訴人

嶋田道子

右訴訟代理人弁護士

山下幸夫

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一控訴の趣旨

1  原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二控訴の趣旨に対する答弁

控訴棄却

第二当事者の主張、証拠及び当裁判所の判断

当事者の主張及び当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の「事実」(「事実及び理由」の誤記と認める。)欄の第二ないし第四のうち、控訴人に関する部分に記載のとおりである。

また、証拠の関係は、原審及び当審記録中の証拠目録記載のとおりである。

一自白の撤回とこれに対する判断

控訴人は、「原判決写真撮影目録六の物件を滝野川署司法警察員が撮影したことを認めたが、これは真実に反する陳述で錯誤に基づいてしたものであるから、その自白を撤回し、否認する。」と述べ、被控訴人は、「右自白の撤回に異議がある。」と述べた。

そして、原審において被告小嶋了一は、右目録六の物件は撮影していないと供述しているが、この供述だけでは右自白が真実に反しているものと断定することはできないし、控訴人の当初の陳述が錯誤に基づいてされたものであることについては何ら立証がない。

したがって、右自白の撤回は許されないというべきである。

二原判決四四頁一行目に「三七ないし四八頁」とあるのを「三七ないし四八頁及び七九頁」と改める。

三当事者の当審における主張とこれに対する判断

1  控訴人の主張

国家賠償法一条にいう違法性の有無の判断に当たっては、単に当該行為が法的要件を充足しているか否かを審理するだけでは足りず、さらに侵害行為の目的及び必要性、被侵害利益の程度などの諸般の事情を総合的に判断しなければならない。

これを本件写真撮影についてみれば、次のとおりである。

(一) 本件写真撮影の目的、必要性及びその撮影対象

本件写真撮影は、被控訴人が本件捜索差押の執行に対して様々な異議を申し立て、後に裁判で争う態度を示したので、本件捜索差押の必要性を明らかにするとともに、後日紛失や毀損があったと言われないようにするためにも、捜索差押許可状の請求及び捜索差押の執行がそれぞれ適法に行われたことをより慎重に担保しようとして、行われたものである。具体的には、捜索の経過を明らかにすること、押収物の存否及び所在を明らかにすること、押収した押収物の証拠価値を担保すること、被控訴人方居室に高橋のものが多数あり、本件捜索差押の必要性があったことを明らかにすること、後日紛失や毀損があったと言われないようにすることなどがその目的である。

また、その撮影対象物は、通常一般市民が所持している日常用品であり、かつ、高橋名義の物品又は高橋所有の物と認められる物品である。そして、撮影の方法は、外形を概括的に撮影したものであって、これらの内容を撮影したものではない。

(二) 被控訴人の被った損害の程度

右のような撮影対象、撮影方法であり、かつ、特に知られたくない情報が写真に保存されたものではなく、知られたくない情報が第三者に伝わり何らかの損害を受けたわけでもないから、被控訴人の被った損害の程度は極めて軽微である。

(三) 記憶情報と写真撮影との差異

見たことを記憶にとどめるか、見た結果を報告書等に文章で書きとどめるか、あるいは、写真にしてとどめるかは、正確性に濃淡はあっても、質的に異なるとまではいえない。

しかも、見ることが合法的にできるのに、見たものを写真撮影したことのみをもってプライバシーの侵害があり、違法であると評価することはできない。

2  被控訴人の認否

以下のとおり、控訴人の主張は争う。

(一) 本件写真撮影の目的、必要性及び撮影対象について

本件写真撮影は、わざわざ対象物を特定する形で撮影され、しかも、一部の物は床に並べられて撮影されている。このような撮影が、本件捜索差押えの手続きが適正にされたことを担保する目的でされたとは到底考えられない。

また、被控訴人が後に訴訟等で争う態度を示したと主張するが、撮影された写真は本件訴訟において一枚も提出されていない。この事実は、本件写真撮影が捜索差押許可状に記載されていない物を撮影するためにされたことを推測させるものである。

さらに、被捜索者がいかなる物を所持しているかという情報こそがプライバシーの内容をなすものであり、それがたまたま一般市民が所持している日常用品であっても、やはりプライバシーの侵害になるというべきである。なお、明らかに高橋名義又は高橋所有でない物も撮影している。

そもそも捜索差押の現場での調査は、あくまでも差押物の発見ないしその選別に必要な限度でだけ予定され許容されているのであって、この限度を超えて、本来差押ができない物に含まれた情報を、捜索差押の機会を利用してついでに収集・記録することは、捜索差押許可状によって正当化されたプライバシー侵害の範囲を逸脱するものである。そして、住居の中にある物は通常他人の目には触れず、プライバシーの権利によって保護されるから、捜索差押許可状によって許される範囲を逸脱した写真撮影は、プライバシーの侵害となる。本件写真撮影は、この意味において違法である。

(二) 本件写真撮影による損害について

控訴人の主張は、被侵害利益と損害とを混同するものである。

また、被控訴人の主観としては、被控訴人が撮影された物を所持していたことについての情報が、国家権力の捜索差押手続きにおいて、強制力を受忍しつつ、全く無関係の第三者である捜査官に知られること自体が耐えがたい苦痛であったのであり、決してそれを軽微などと評価すべきものではない。

3  当裁判所の判断

(一) 控訴人は、本件写真撮影の目的は不当なものではなく、また、その必要性があったと主張する。

しかし、写真撮影の目的が不当なものではなく、その必要性もあったとしても、いかなる写真撮影も許されるというものではない。前記のとおり(引用にかかる原判決)、他人の目に触れない住居の内部の状況や所持品等を写真撮影することは、原則としてプライバシーの侵害として違法性を有するものであり(したがって、現に犯罪が行われもしくは行われた後間がないと認められる場合であって、証拠保全の必要性及び緊急性がある場合における警察官による犯人の容ぼう等の撮影が許される要件とは全く異なる。)、その例外の一つの場合として、捜索差押手続きに付随する処分として適法性を有し、違法性が阻却されることがあるにすぎない。

(二) また、控訴人の主張する本件写真撮影の必要性なるものも、本件写真撮影の対象、態様などにかんがみると、首肯することができない。

① 「捜索の経過を明らかにすること」について

この主張の趣旨は明らかではないが、仮に、捜索差押許可状の呈示、押収品目録交付書の交付等の法定の手続きが履践された証拠を保全することであると解するとしても、本件撮影物件のうち、どの物件がこれに該当するのか明らかではない。本件撮影物件の中にはこのような目的に関わるものはないと思われる。

また、捜索差押手続きの適法性を担保するためにその執行状況を撮影する必要があるという趣旨であるとしても、これに該当するのは、箪笥や引出しを開けた状態(原判決の別紙写真撮影目録の番号一三及び一四)及び冷蔵庫を開けた状態(同番号一二)をそのまま撮影した点だけである。

② 「押収物の存否及び所在を明らかにすること」について

被控訴人名義のUCカードの使用控え(原判決の別紙写真撮影目録の番号一)、被控訴人の財布(同番号四)及び高橋の手帳(同番号一〇)は、差し押さえた高橋名義の預金通帳があったセカンドバッグに入っていたので、右バッグの中身を一括して床の上に並べて右預金通帳とともに撮影しているから、このような目的であったということができるが、それ以外の本件撮影物件は押収物と一緒に撮影されてはおらず、このような目的であったとはいえない。

③ 「押収した押収物の証拠価値を担保すること」について

これも、預金通帳とともに撮影した物件だけに該当するものというべきである。

④ 「被控訴人方居室に高橋のものが多数あり、本件捜索差押の必要性があったことを明らかにすること」について

捜査機関は、被疑者以外の者の住居等については、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索をすることができるのであり(刑事訴訟法二二二条、一〇二条二項)、差し押さえることができるのは証拠物及び没収すべき物と思料するものである(同法二二二条、九九条一項)。本件令状請求及び捜索差押許可状においても、差し押さえるべき物は「本件被疑事件犯行を計画したメモ類並びに被疑者の生活状況を示す預金通帳、領収証、請求書、金銭出納帳及び日記帳」と特定されていたものである。

したがって、単に被疑者である高橋所有のものが多数あるからといって、捜索差押の必要性を裏付けることにはならない。

⑤ 「後日紛失や毀損があったと言われないようにすること」について

もしもこのような目的で写真撮影をするとすれば、居室内の紛失や毀損の可能性のあるすべての物件(少なくとも捜査機関が捜索をした箇所に存在するこのような可能性のあるすべての物件)を撮影しておかなければその目的を達しないことになる(そして、そのような写真撮影が許容されるとは到底考えられない。)。

しかし、本件においてはそのような網羅的な写真撮影は行われていないから、本件写真撮影においては実際にはこのような目的はなかったものと推認される。

(三) 本件写真撮影の対象物が一般市民が所持している日常用品であって、格別その存在を秘密にしておく必要がない物品であるからといって、被控訴人のプライバシーに関わりのないことであって、その撮影が違法ではないということはできない。

また、プライバシーとして保護されるのは、人が何を所有しているかということに限定されるものではないことは明らかであるから、本件撮影物件がすべて高橋名義又は高橋所有のものであったとしても、本件写真撮影が被控訴人のプライバシーを侵害しないとはいえない。

(四) 本件写真撮影によって特に知られたくない情報が写真に保存されたという事実はなく、また、その写真によって知られたくない情報が第三者に伝わり、具体的に被控訴人が何らかの損害を受けたという事実はないとしても、被控訴人の受けた損害が軽微であるといいうるにとどまるのであって、その損害が法的に損害賠償の対象とはならないと評価すべき程度の極めて僅かなものであるとまではいえない。

(五)  住居の内部の状況や所持品等の情報を単に記憶にとどめることと、これを写真撮影することとは、やはり質的に異なるものというべきである。

また、捜索差押の過程において、捜査機関が、捜索に必要な限度において、差し押さえるべき物とされている物以外の物を見ること及びこれを記憶にとどめることは、捜索差押に必然的に伴うことであり、禁止しようとしても実際上不可能であって、防ぎようのない事柄である。そして、これは、捜索差押が適法である以上、やむをえないことなのであって、これらの行為が積極的に許容されているわけではないし、これらの行為によってプライバシーが侵害されないというものでもない。したがって、これらの行為が禁止されていないことを理由に、写真撮影も実質的にこれらの行為と差異がないとして(差異がないとはいえないことは前記のとおりである。)、捜索差押の際に見ることができる物の写真撮影はすべて違法ではないというのは、本末を転倒した議論である。

(六) 以上述べたとおり、控訴人の主張はいずれも採用することができない。

第三結論

以上のとおり、原判決中、控訴人敗訴の部分は相当であるから、民訴法三八四条により本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担について同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官髙橋欣一 裁判官矢崎秀一 裁判官及川憲夫)

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