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東京高等裁判所 平成4年(ネ)1286号 判決 1993年3月31日

平成四年(ネ)第一二八六号事件控訴人、

千代田化工建設株式会社

同年(ネ)第三九二三号事件附帯被控訴人

(以下「第一審被告」又は「第一審被告会社」ともいう。)

右代表者代表取締役

玉置正和

右訴訟代理人弁護士

小倉隆志

平成四年(ネ)第一二八六号事件被控訴人、

越智康雄

同年(ネ)第三九二三号事件附帯控訴人

(以下「第一審原告」という。)

右訴訟代理人弁護士

荒井新二

前川雄二

星野秀紀

伊藤幹郎

星山輝男

小島周一

堤浩一郎

船尾徹

主文

一  附帯控訴に基づき、原判決主文第二項を次のとおり変更する。

第一審被告は第一審原告に対し、九一八万八二二〇円及び昭和六三年五月二一日以降一か月四五万七五五七円の割合による金員を毎月二〇日限り支払え。

二  第一審被告の本件控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも(控訴費用及び附帯控訴費用も含めて)すべて第一審被告の負担とする。

四  この判決の主文第一、第三項は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  平成四年(ネ)第一二八六号控訴事件

1  第一審被告

(一) 原判決を取り消す。

(二) 第一次的に第一審原告の請求を却下する。第二次的に第一審原告の請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも第一審原告の負担とする。

2  第一審原告

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は、第一審被告の負担とする。

二  平成四年(ネ)第三九二三号附帯控訴事件

1  第一審原告

(一) 原判決を次のとおり変更する。

第一審被告は第一審原告に対し、九一八万八二二〇円及び昭和六三年五月二一日以降一か月四五万七五五七円の割合による金員を毎月二〇日限り支払え

(二) 訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告の負担とする。

(三) 仮執行宣言

2  第一審被告

本件附帯控訴を棄却する。

第二  当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(略)。

(第一審原告の追加的主張)

第一審原告は、原審口頭弁論終結後、平成三年の年末賞与として基準内賃金(四一万五一二〇円の)三ケ月分一二四万五四〇〇円及び平成四年の中元賞与として基準内賃金(四三万四三一〇円)の三か月分一三〇万二九〇〇円の賃金請求権を取得した。これを原審で認められた昭和六三年から平成二年までの各年の中元、年末賞与、平成三年中元賞与の合計六六三万九九二〇円に加えると九一八万八二二〇円となる。

(第一審被告の追加的主張)

1  第一審原告は神奈川県地方労働委員会に本件解雇に関して不当労働行為救済命令の申立てをし、同委員会は、「被申立人は、申立人に対し、昭和六三年五月二〇日付解雇がなかったものとして取扱い、解雇の翌日以降同人が受けるはずであった賃金相当額に年五分の割合による金額を加算して支払わなければならない。」との命令を発した。この命令と原判決の主文とを比較してもほとんど変わらないといえる。これよりしても明らかなように、被解雇者は、二通りの権利保護手段に恵まれており、過当な保護といえる。このようにみれば、被解雇者が労働委員会に提訴したからには、同一被解雇者の提訴を裁判所が受訴ないし審理するのは不合理であり、憲法一四条に違反するというべきである。

2  本件解雇は、就業規則二二条一項七号にいう「会社が経営規模の縮小を余儀なくされ、または会社の合併等により他の職種への配置転換その他の方法によっても雇用を継続できないとき。」の条項に該当することを理由として行われたものであるところ、右にいう「配置転換その他の方法」とは就業規則二〇条一項の「配置転換、出向、職種転換」などをいうものである。会社は、業績不振または業務縮小にともない、右配置転換、出向、職種転換のいずれによっても仕事を与える業務上の必要が生じなければ、労働者の雇用継続に関して万策が尽きたことになり、本件解雇条項により、解雇権が発生し、解雇できることになる。すなわち、本件解雇条項該当事実は第一審原告に与える仕事があるかどうかであって、それに加えて人員削減の必要があったかとか人員削減の目的を概ね達していたかどうかということは全く無関係である。

本来、会社は移籍まで配慮しなくても解雇できる、最も重要なことは、移籍は、解雇権が発生した後の解雇回避努力だということである。そうであるから、移籍拒否者には、解雇の運命しか待っていないことは当然のことである。したがって、本件解雇が移籍拒否を理由とするとの第一審原告の主張は論理的に誤っている。

3  また、第一審被告会社は、第一次及び第二次非常時対策遂行の過程で、移籍を拒否した場合には、会社としては、社内に与える仕事がない以上解雇せざるを得ないことを明らかにしている。

すなわち、第一次非常時対策において、移籍の対象となった技能職で移籍を拒否したのは、第一審原告一人であった。この時点で既に本件解雇条項により解雇権が発生していたが、会社は解雇を猶予し、本社に引き取ったうえファブリコン等で仕事の研修をさせた。まさに解雇回避策としての移籍の機会を再び第一審原告に与えようとしたことにほかならない。なお、会社は、研修に派遣するにあたって(証拠略)のとおり昭和六二年一〇月一三日付人事部長名の文書によって、会社には第一審原告の仕事がないことを通告している。そして、第一審被告会社は、昭和六三年二月二二日の団体交渉で、移籍拒否者の取扱いに関し「千代田の中には仕事がないと考えている。」と述べている。このように、第一審被告会社としては、移籍対象となった第一審原告を含む技能職労働者には、移籍拒否の場合、会社内に仕事がないことを明言し、会社の指定する子会社の移籍を拒否すれば、雇用が不可能になることを示唆したのであるから、第一審原告としても移籍を拒否すれば解雇されることを十分承知していたはずである。

理由

第一  第一審原告の本件請求が憲法一四条違反であるとの第一審被告の主張について

労働委員会の行う不当労働行為救済命令手続と司法裁判所の民事訴訟とは、それぞれ制度の趣旨目的を異にし、一方の申立てがある場合、他方の申立てができないとする定めはなく(もっとも、労働組合法二七条六項、七項等の明文規定のある場合は別である)、憲法上もそのような解釈を採用することは相当とはいえない。

第一審被告の憲法違反の主張はひっきょう独自の見解であって失当である。

第二  本件の概要

本件解雇に至るまでの一連の経過については、原判決の「事実及び理由」の「第三 本件解雇に至る経緯」及び「第四 本件解雇」(原判決二枚目裏七行目から一三枚目裏九行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用するが、その概要は次のとおりである。

一  当事者

第一審被告は、石油、ガス等の産業用設備の設計、設置、管理等を目的とし、昭和六三年四月一日当時、資本金約一〇〇億円、従業員数約三〇〇〇人を擁する東京、大阪、名古屋各証券取引所各一部上場の日本有数の産業用設備建設株式会社である。

第一審原告(昭和一六年生)は、中学校卒業後職業訓練校で溶接の技術を学び、昭和三九年第一審被告会社に入社し、以後昭和六二年一〇月まで第一審被告川崎工場で溶接工として勤務してきた。

二  第一次非常時対策

1  第一審被告は、石油プラント建設に必要な圧力容器等を製造するため設備建設工場として川崎工場を操業してきたが、昭和五〇年代に入り、同業他社の追い上げを受けたことや割高となった人件費の固定経費に圧迫されて価格競争力が低下したことなどが重なって、業績が悪化し、一部の年を除き恒常的に毎年一〇億円程度の赤字を出すに至った。

2  このため、第一審被告は昭和五四年当時四六九名であった川崎工場の従業員を技能系従業員を中心に他部門に配置転換するなどして昭和六二年四月には二六一名までに人員を減らしたほか、設備更新をするなどして同工場の経営改善を図ったが、その赤字体質は改まらなかった。第一審被告会社全体の業績も、国内外の需要の減退、受注競争の激化、急激な円高等の影響を受け、第五五期(昭和五七年一〇月から昭和五八年九月まで)以降次第に悪化し、第五八期(昭和六〇年一〇月から昭和六一年九月まで)には、一五〇億円を越える営業損失を計上し、さらに、第五九期(昭和六一年一〇月から昭和六二年九月まで)には、二〇〇億円を越える営業損失を計上し、経常収支も約八億円の損失を計上する状態であった。

3  このような中で、第一審被告は、経営改善のため第一次非常時対策として、川崎工場を第一審被告会社から分離し、子会社化することを計画し、昭和六二年三月二六日、組合にその内容を提示した。その要旨は、川崎工場を本社と別法人の子会社(名称千代田プロテック株式会社、以下「千代田プロテック」という。)とし、従業員を幹部職員、技術・事務系従業員五〇名、技能系従業員一五〇名の二〇〇人体制とし、川崎工場の技能系従業員は原則とし移籍対象とする、移籍者には退職金を加算する、移籍した後の従業員の賃金は三〇パーセント減とする、というものであった。

4  組合は、第一次非常時対策の提案について、第一審被告会社と多数回にわたり協議した結果、退職金、特別加算金、福利厚生などについて改善が図られたとして会社側の提案を受け入れ、同年八月二一日、第一審被告会社との間で千代田プロテックへの移籍に関する協定を締結した。そして、その後川崎工場の従業員の意思確認が行われたところ、移籍希望者は技能系従業員一七五名のうち一六八名に及び、移籍に同意しない六名は退職を希望し、第一審原告だけが移籍を拒否して第一審被告会社への残留を希望した。

5  そして、同年一〇月一日、千代田プロテックが設立され、移籍に同意した従業員の移籍が行われたが、第一審被告会社は、第一審原告を同日付けで本社人事課に配属した上、同月六日から同年一二月二〇日までセースイ工業株式会社において、パイプライニング業務の研修を行わせた。

三  第二次非常時対策

1  第一審被告会社は、第一次非常時対策に引き続き、経営改善のため更に第二次非常時対策を実施することとし、昭和六二年一一月二四日、社長書簡をもって従業員にこの対策への協力を呼びかけた。第二次非常時対策の骨子は、第六二期(平成元年一〇月から平成二年九月まで)の営業収支を黒字とすることを目標とし、付加価値率を一五パーセント以上とし、固定費を三〇〇億円以下に抑えることが必要であるとの前提の下に、昭和六三年三月までに本社要員を二七〇〇名から二五〇〇名以下に削減し、余剰人員は、関連会社への出向または移籍を行うとするものであった。そして、移籍者については第一次非常時対策の場合と同様、特別支給金の支給、賃金の三割減などが条件として示された。

2  こうした第二次非常時対策は、第一審被告会社がプラントの設計・建設といった費用がかさみ利益率の低い業務から、より付加価値率の高い技術援助、技術管理、設計業務を中心とするエンジニアリング・コンストラクターとしての業務を重視する企業戦略が根底にあった。このため、第一審被告会社は昭和六一年ころから株式会社ファブリコン、アローマネージメントサービス株式会社(A・M・S)、セントラル千代田株式会社などの子会社を設立して、建設、製作などの現業部門はできるだけこれらの子会社に受け持たせ、本社から従業員を出向させ、本社の賃金と出向先の賃金との差額は組合との協定により第一審被告会社が負担してきたが、第二次非常時対策では、特に他の子会社より賃金格差の大きい右三社については、現に出向中の技能系従業員全員をそのまま出向先に移籍させるほか、かつて川崎工場から本社事務系部門に配置転換させていた技能系従業員の大部分も右三社に出向させたうえ移籍させることが原則とされた。

また、これに合わせて、第一審被告会社は余剰人員のうち配置転換などによって雇用吸収を図ることが困難と判断した従業員について、休職扱いとして子会社のアローヒューマンリソース株式会社に雇用し、休職期間中、第一審被告会社が平均賃金の六割を支給し、アローヒューマンリソース株式会社が三割を支給するという、職務開発休職制度を提案したが、後にこの提案は撤回された。

3  第一審被告会社は、昭和六二年一一月二六日、前記第二次非常時対策を組合に提案した。そして、第一審被告会社は第一審原告を移籍対象者とし、昭和六三年一月一三日、同月二〇日付でファブリコンへ出向するよう命じた。第一審原告は右出向は同社への移籍を前提とするものであったから、同年二月一六日横浜地方裁判所へ右命令に従う義務を負わない地位にあることを仮に定める旨の仮処分命令の申請をしたが、後に右仮処分を取り下げた。

4  組合は、第一審被告会社と多数回協議した結果、職務開発休職制度には同意できないが、子会社への移籍には受け入れざるを得ないとして、昭和六三年三月一一日移籍に関する協定書が締結され、四月一日移籍に同意した出向者、すなわちファブリコン約一二〇名、AMS三七名、セントラル千代田二九名等について移籍が実施された。移籍を拒否した第一審原告は、右同日、ファブリコンへの出向を解除され、本社人事部に配属された。

四  第一審原告と第一審被告会社との面談

1  第一審被告会社は人事部第一課長鹿児島彰を担当者として、昭和六三年四月一日以降、同月二〇日までの間に六回にわたって第一審原告と面談した。第一審被告会社では、現在の溶接の職種では第一審原告に与える仕事はないとし、第一審原告は、今後は溶接の技術を生かせる部門か、川崎工場の技能系従業員であった者が多数在籍している本社内のプロジェクト業務部、検査部、品質保証部、分析技術センターなどでの仕事を希望した。鹿児島課長は、これらの部署に対して欠員補充または増員の必要の有無を照会したが、いずれもその必要はないとの回答であった。また、第一審原告は賃金切り下げには応じないという意向であったので、その後鹿児島課長は、従来並みの処遇で出来る仕事を同業他社や職業安定所に照会したが、第一審原告の現在得ている賃金レベルで第一審原告に適当な仕事は見つからなかった。

2  以上の面談後、第一審被告会社は、第一審原告が移籍に応じない以上解雇するほかないとし、同月二一日、第一審原告に対し、就業規則二二条一項七号に基づき、同年五月二〇日付で解雇することの予告をした。その後第一審被告会社は解雇の事前協議を定めた労働協約七七条に基づき、組合に第一審原告の解雇予告を行ったことを通知し、数回協議をしたが、第一審原告が同年五月一二日仮処分の申請をして裁判で決着する姿勢を示したことで組合との協議は打ち切られた。そして、同年五月二〇日、第一審被告会社は平均賃金の三〇日分にあたる四八万四三〇四円を提供して、第一審原告に対し解雇の意思表示をした。

第三  以上の事実を前提に本件解雇の効力を判断する。

一  企業の業績不振または業務縮小に伴う人員削減が、希望退職、出向、配置転換、自然減による欠員の不補充などの任意的手段で行われるのでなく、解雇という方法で行われるときは、労働者はその責任のない事由により意に反して職を失い、生活上重大な不利益を受けることになるので、そのような事態が肯認され得るには、解雇時点において使用者側に合理的かつ客観的に首肯し得る程度の人員削減の必要性があり、解雇に至るまでに解雇を回避するための諸措置をはかる努力が十分なされたこと、経営危機の実態や人員整理の必要等について労働者側に十分な説明をし、協議が尽くされたこと等の条件が満たされなければならないと解される。なぜなら、わが国の場合、一般に労働者は、特段の事情がなければ、企業に終身雇用されることを期待して就労するのが通例であり、途中退職のばあい、特に中高年齢層労働者にとっては、再就職は困難か著しく不利な条件を余儀なくされることは公知の事実であり、一方企業の側でも、特段の事情のない限り、このような労働者側の意識を十分認識のうえ採用するものである以上、このような労働者の期待に出来る限り応え雇用維持を図ることが、継続的法律関係である労働契約における信義則上要請されているものというべきであるからである。したがって、使用者側における業務縮小に伴い、ある時期に一定の職種の労働者の労働力が不要になったからといって、直ちにその者の解雇がなんらの制約なしに許容されるものではなく、当該企業の規模、業績、人員削減の必要性・緊急性の程度、希望退職や自然減による他の職種・職場における欠員の可能性、本人の職種転換の能力、職種転換に要する訓練等の費用・時間などを総合勘案し、その者を雇用し続けることが企業経営上なお相当に困難であり、その者の解雇が労働契約上の信義則を考慮してもやむを得ないと認められる場合であれば格別、右要件に該当しない解雇は、前記のいわゆる整理解雇の要件を欠くものであり、解雇権を濫用するものとして無効となると解せられる。そして、このことは、本件の場合のように、会社は、業務縮小あるいは職種転換等によっても雇用継続困難の場合解雇することができる旨就業規則及び労働協約で定められ、特にそのような要件が明示されていない場合であっても、その解釈適用にあたっては、上記のような考慮を及ぼすことが条理上要請されているというべきである。

二  これを本件についてみるに、川崎工場は昭和五〇年代以降、長期にわたって経営不振が続き、第一審被告会社としても設備投資や人員削減などの合理化を進めてきたもののその成果が現れず、同社全体の業績としては第五八期(昭和六〇年一〇月から同六一年九月迄)以降一五〇億円を越える営業損失を計上し、第五九期には経常収支も赤字となっていたから、川崎工場の赤字体質を長く放置することは第一審被告会社全体の経営にも重大な支障を及ぼしかねず、同工場の人員整理を含む立て直し策が強く要請されていたことは明らかである。

そして、その方策として、第一審被告は第一次非常時対策及び第二次非常時対策として、川崎工場の子会社化及び余剰人員(主として技能系職員)のファブリコン等子会社への移籍等を行ったものである。ところで、右方策は従業員の賃金が約三割減額されるなどの不利な労働条件の変更があるものの、川崎工場の子会社化についてみれば、同工場を不採算工場として全面閉鎖したり、従業員の原則全員解雇という方法と比べると、基準内賃金月額の九か月から二四か月分に相当する特別加算金による退職金の大幅割増制度が採用されていること、賃金の三割ダウンをした場合でも、他の同業他社における同種技能系従業員との賃金と比べ、ほぼ遜色がない賃金レベルであると認められること等を考慮すると、第一審被告としては会社全体の経営改善と従業員の雇用確保との調和を図ったひとつのやむを得ない解雇回避策として相応に評価できるものである。このことは、第一審被告と組合が多数回にわたり協議を尽くし、組合が同意し、最終的に第一審原告を除く移籍対象技能系従業員全部(希望退職した者を除く)が移籍に応じたことからも裏づけられるところである。

そして、もともと第一審被告の第一次及び第二次非常時対策の目的は、赤字の原因となっていた川崎工場の子会社化、人件費の削減とともに、経営の重点を施設建設などの現業業務から、より付加価値の高い技術援助、技術管理、設計業務などの高度技術中心の設計・管理的業務に移行するということを志向していたものである。したがって、上記のような経緯からやむを得ず技能系従業員のほぼ全員を千代田プロテックやファブリコン等子会社へ移籍させるに至ったこのような状況下において、会社の方針に従わない第一審原告のような技能系従業員を従前の賃金のまま引き続き第一審被告会社で抱えておくことは、移籍に応じた他の従業員が会社に対し協力した手前もあるし、計画の完璧な遂行のためという、あるいはまた、何より今後はそのような技能系従業員に与えるべき仕事がないから解雇するしかないという第一審被告会社の主張も、心情的にはあながち理解できないものではない。

しかしながら、移籍に応じた他の技能系従業員との間に賃金格差の生ずることを別とすれば、第一審原告がなし得る仕事が現職のままあるいは職種転換により本社内(例えば、第一、第二プロジェクト事業部や分析・材料技術センター、いくつかのプラント本部など)や出向先に存在することは第一審被告会社の自認するところであるし、また第一審原告が職種転換に適応力がないという事実も本件証拠上認められない。

更に、第一審被告会社において第一次及び第二次非常時対策に伴う移籍制度を強力に推進した結果、第一審原告及び任意退職した者を除くと、昭和六二年一〇月一日及び昭和六三年四月一日の段階で、移籍対象とされた技能系従業員のほぼ全員が移籍に応じたことからすると、この段階で、第一審被告会社としては川崎工場の子会社化、人員削減、事業内容の高度化のための本社人員のスリム化等の前記目的はほぼ達成されたものと推測され得るのである。

そうすると、本件の場合は、結局のところ、業務縮小あるいは現業部門の子会社化ないし外注化に伴なう中高年技能労働者の余剰人員活用の余地があるのかどうかという問題に帰着する。そして、前記のとおり、労働者は一般に終身雇用への期待を強く抱いていることを考慮すると、本件においても、現在その者の賃金に見合う仕事があるかどうかということだけでなく、自然減による欠員の可能性、景気の動向、本人の職種転換の能力、職種転換に要する訓練の時間・費用などもにらみながら、可能な限り雇用継続の道を探ることが使用者たる第一審被告会社に信義則上要請されていたと考えられるのである。そして、そのうえで、雇用継続あるいは解雇回避のための諸努力を尽くしたか、余剰人員の数、費用からして企業として抱え切れず、解雇による人員削減もやむを得ないものとされるか否か等が判断されるべきなのである。

しかるところ、本件の場合、第一審被告会社の規模・人員からして第一審原告がなし得る仕事を受け持つ部署・部門において遠からず自然減などによる欠員を生ずることは容易に推測できるところであるし、(証拠略)によれば、昭和六三年後半から第一審被告会社の業績は回復し、平成元年九月期の受注高は昭和六三年九月期のそれの約二倍になるなど、それ以降数年の間、第一審被告会社は受注高を大幅に伸ばし、社員の残業や子会社からの派遣社員の数も増えるなどその経営環境は極めて順調であったことが窺えるのであって、これら第一審被告会社の規模、経営内容からして、第一審原告を直ちに解雇しなければならないほどの経営上の切迫性、緊急性があったとは本件証拠上認めがたいのである(<証拠略>によれば、本件解雇の意思表示とほぼ同時期である昭和六三年四月二〇日ころ、従業員宛発出された第一審被告会社の社長書簡には、「体制を立て直す期間をまかなう内部留保も確保されている。」との記載があることが認められる。)。

三  そうすると、第一審被告会社の本件解雇の正当性の主張の重点はむしろ、他の移籍に応じた者との人事の公平を図ることにあるものとみられるので、以下検討する。

たしかに、第一次及び第二次非常時対策の過程において、移籍の対象となった技能系労働者は(希望退職した者は別として)、第一審原告を除き全てが賃金三割低下の不利な条件にもかかわらず会社の要請に協力し移籍に応じたのに、第一審原告一人が移籍を拒否し、第一審被告会社社員として従前の賃金を維持したまま居続けることは、これら移籍に応じた従業員からみれば、不公平とうつる面があるかもしれない。

しかしながら、移籍同意者と移籍拒否者との処遇の公平についていえば、もともと同意による移籍は、労働契約の当該労働者と旧使用者との双方合意に基づく解約と新使用者との労働契約の締結であって(そうであるからこそ退職金などの上積みなどに関し様々な交渉の余地があり、整理解雇のような厳格な制限を課せられない。)、人員削減の相当の必要がある場合に限り使用者の一方的意思表示により認められる整理解雇とは本質を異にするものであるから、単に移籍者と移籍に同意しない者との待遇を比較し、その均質化のために整理解雇が許容されるということにはならないことはいうまでもないところである。

そして、本来、法律的には本人の同意を得ない移籍は基本的にあり得ないし、第一審被告としても、第一次非常時対策及び第二次非常時対策の「移籍」の実施に当たり、従業員に対し、基本的に本人の同意を前提として行うものであるということを述べているし、しかもその意思決定選択の一つの判断材料として相当高額の「特別加算金」という代償を用意して移籍に応ずるかどうかの選択を各従業員に任せていたのである。たしかに、(証拠略)等によれば、移籍に応じない場合はどうなるかの労働者の質問に対して、第一審被告会社の側で、その場合は社内に仕事がないので社外で仕事を見つけてもらうほかない、などと暗に解雇を示唆した発言をしていたことも認められる。しかし、先に述べたとおり、整理解雇の場合は、その認められる要件が条理上厳格に制限されるのであり、使用者の側で移籍に応じない者は解雇することを仄めかしたからといって整理解雇の要件が何ら緩和されるものではないし、逆に右のような状況の下で第一審原告の側で移籍を拒否することが労働契約上の信義にもとり、被用者としての権利を濫用するものであるとも認めがたいのである。なぜなら、業務縮小などに伴う整理解雇が許容される要件は、前述のとおり客観的に定まるものであって、労働者として移籍か解雇かの二者択一を迫られるものではないからである。

そうだとすれば、処遇の公平の貫徹という第一審被告会社の利益が大きいことは否定できないが、これをもって第一審原告の労働契約上の信義則に基づく雇用継続への期待を失わせる理由としては未だ十分ではないと言わなければならない。

さらに言えば、ある処遇が有利か不利かということは、単に賃金の問題だけでなく、仕事の種類、内容、労働条件にも関わり、それ自体相対的なものである。本件についていえば、ファブリコン移籍者は賃金は下がるが、仕事の内容としては従前とほぼ同種のプラント建設中心の現場作業が継続的に与えられることとなると予想されるのに対し、第一審原告のように、移籍を拒否し本社内に止どまった場合は、従前のような溶接関連の仕事がないという以上に、新たな職場環境ないし仕事そのものに慣れるまでは相当の精神的肉体的苦労が伴うと予測されるのである。であればこそ、移籍の対象となった大半の技能系労働者は移籍の道を選択したのであって、第一審被告会社が主張するように、総合的にみて移籍者が一方的に不利で移籍拒否者が一方的に有利であることが明らかというのであれば、大方の技能系労働者が会社の方針に大いに協力したからといって、このような結果が一気に実現したとは考えられないのである。

また、第一審被告としては、第一審原告のように最後まで移籍に同意しない者の出てくることは当然予見できたものであり、これによって生ずる問題点は、別途適切な対応策も不可能ではないと考えられる。例えば、移籍拒否者の数が多数で、同意による移籍だけでは当初の人員削減の計画を達成できない場合は、更に広範囲の従業員を対象とした希望退職の募集や、配置転換、出向などの措置を講じ、このような解雇以外の手段を講じても、なお経常上解雇による人員減による人件費削減の策を採らざるを得ないという場合は、そのときはじめて一定の合理的な整理基準を定めての整理解雇の問題が俎上にのぼるであろう。その場合には、年齢、家族構成、勤務年数、本人の能力などを総合的に勘案して出来るかぎり解雇による犠牲の少ない者から解雇がなされるような合理的な選定基準が定められるべきであり、使用者の側で任意に解雇者の指名が許されるものではない。

このようにして、本件の場合、第一審原告を解雇することが唯一適当な解決策であったとは到底認めがたいのである。

そうすると、移籍に応じた他の従業員と比べて不公平だからという第一審被告の主張は理由がないものといわざるを得ない。

また、第一審被告は、第一審原告を解雇しなければ、移籍に応じた他の従業員が移籍の無効を主張して収拾がつかなくなるとの主張をするが、そうした不測の事態が生ずる恐れがあるとは認めがたいものであり、その理由としては原判決二六枚目表末行目から裏八行目までと同一であるから、これを引用する。

第四  以上によれば、第一審被告会社の就業規則二二条一項七号を理由とした本件解雇は、いわゆる整理解雇の要件を満たさぬもので解雇権を濫用したものとして無効であり、第一審原告は、現に第一審被告会社会社との労働契約に基づく被用者としての地位を有し、弁論の全趣旨並びに(証拠略)によれば、その主張(附帯控訴で主張した平成三年の年末賞与一二四万五四〇〇円及び平成四年の中元賞与一三〇万二九〇〇円を含む。)の賃金請求権を有しているというべきである。そして、本件地位存在確認請求が不明確とは言えず、また現実に第一審原告は労務に服していないが、その主張の賃金請求権を有することの理由は、原判決二七枚目表四行目から裏一〇行目までと同一であるから、これを引用する。

そうすると、第一審原告の附帯控訴は理由があるから、これと異なる原判決主文第二項を主文第一項のとおり変更し、第一審被告の本件控訴は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下薫 裁判官 並木茂 裁判官 豊田建夫)

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