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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)326号 判決 1993年12月21日

新潟県西蒲原郡吉田町大保町7番37号

原告

皆川功

新潟県西蒲原郡吉田町日之出町22番7号

原告

飯岡毅

原告両名訴訟代理人弁理士

黒田勇治

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

麻生渡

同指定代理人

藤文夫

小山茂

中村友之

長澤正夫

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告ら

「特許庁が昭和61年審判第6420号事件について平成3年10月24日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告らは、昭和57年4月30日、名称を「整畦機における畦叩き装置」とする考案について実用新案登録出願をし、昭和59年6月6日、特許法46条1項の規定により特許出願(昭和59年特許願第116857号)に変更したが(以下、この特許出願に係る発明を「本願発明」という。)、昭和61年2月7日、拒絶査定を受けたので、同年4月7日、審判を請求し、同年審判第6420号事件として審理され、平成3年10月24日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年12月5日、原告らに送達された。

2  本願発明の要旨

トラクタに機枠を設け、該機枠に複数の掻上刃をもち、該トラクタの動力取出軸により回転して旧畦上に土を跳ね上げる回転ロータを設け、該機枠に回転ロータの上方及び畦上方を覆うカバー部材を設け、該カバー部材の畦側に側部カバー部材を設け、回転ロータの進行方向後方位置に畦上面及び畦一方側面に適合させた形状の畦叩体を設け、該畦叩体の畦叩面全面で畦を叩接可能に設け、該トラクタの動力取出軸を駆動源とする油圧機構を設け、該油圧機構により駆動される油圧往復振動具の往復動作軸に畦叩体を連接し、該油圧往復振動具の往復動作軸によって畦叩体を往復畦叩動作させるように構成したことを特徴とする整畦機における畦叩き装置(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  昭和56年特許出願公開第96603号公報(以下「引用例1」という。)には、トラクタに機枠を設け、該機枠に土を掻き上げる土起こし刃17からなる複数の掻上刃をもち、該トラクタの動力取出軸により回転して旧畦上に土を飛ばして盛り上げる土起こしローター7からなる回転ロータを設け、該機枠に回転ロータの上方及び畦上方を覆う土飛散防止カバー6と土溜めカバー9等からなるカバー部材を設け、該カバー部材の畦側に側壁下部板36等からなる側部カバー部材を設け、回転ロータの進行方向後方位置に畦上面及び畦一方側面に適合させた形状の畦叩き板11からなる畦叩体を設け、該畦叩体の畦叩面全面で畦を叩接可能に設け、該トラクタの動力取出軸を駆動源として駆動されるクランク盤25等からなるクランク式往復振動具の連杆26からなる往復動作軸に畦叩体を連接し、該クランク式往復振動具の往復動作軸によって畦叩体を往復畦叩動作させるように構成した整畦機における畦叩き装置が図面とともに記載されている(別紙図面2参照)。

本願発明と引用例1記載の発明とを比較すると、両者は、トラクタに機枠を設け、該機枠に複数の掻上刃をもち、該トラクタの動力取出軸により回転して旧畦上に土を跳ね上げる回転ロータを設け、該機枠に回転ロータの上方及び畦上方を覆うカバー部材を設け、該カバー部材の畦側に側部カバー部材を設け、回転ロータの進行方向後方位置の畦上面及び畦一方側面に適合させた形状の畦叩体を設け、該畦叩体の畦叩面全面で畦を叩接可能に設け、該トラクタの動力取出軸を駆動源として駆動される往復振動具の往復動作軸に畦叩体を連接し、該往復振動具の往復動作軸によって畦叩体を往復畦叩動作させるように構成した整畦機における畦叩き装置である点で一致し、前者が、往復振動具を、トラクタの動力取出軸を駆動源とする油圧機構を設けて、これにより駆動される油圧式のものとしているのに対して、後者が、往復振動具を、油圧機構を設けずにクランク式のものとしている点で相違する。

そこで、前記相違点について検討する。

本願発明及び引用例1記載の発明の整畦機は共に往復振動具を備えて畦の土を叩き締める土作業機でもあるが、やはり土を叩き締めるための往復振動具を備えた土作業機において往復振動具を油圧式としたものは、昭和55年実用新案登録願第23133号(昭和56年実用新案出願公開第125420号公報)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和56年9月24日発行、以下「引用例2」という。)に記載されており、かつこれに記載されたものは、水平地面や斜面等あるいはいかなる土質の土地も叩き締めるようにできているものである。

しかも、往復動作技術一般においてはクランク式も油圧式も共に周知であって、いずれの方式を採用するかは種々の技術分野で必要に応じて適宜選択決定されていたものである。

そうすると、引用例1記載の発明のクランク式の往復振動具を本願発明のように油圧式のものとすることは引用例2記載の発明(考案)から当業者が容易に想到し得たものと認められる。

また、油圧式作業具を駆動するための駆動用の油圧機構を設けることは当然の設計的事項であって、かつトラクタに連接される作業機一般において作業機における油圧式作業具の駆動用油圧機構の駆動源をトラクタの動力取出軸とすることは周知にすぎないため(周知の一例として昭和54年実用新案出願公開第99967号公報(以下「周知例」という。)等参照)、前記相違点における本願発明のようにトラクタの動力取出軸を駆動源とする油圧機構を設けたことは往復振動具を油圧式とするに際して単に周知技術を付加したにすぎないものと認められる。

そして、本願発明の要旨とする構成によってもたらされる効果も、引用例1及び引用例2に記載された発明から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

(3)  したがって、本願発明は引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の本願発明の要旨、引用例1の記載事項、本願発明と引用例1記載の発明との一致点及び相違点の認定は認めるが、審決は、引用例2記載の発明が本願発明と技術分野を異にし、また技術的課題、構成及び作用効果を異にすることを看過して相違点に対する判断を誤り、また本願発明の奏する顕著な作用効果を看過し、もって本願発明の進歩性を誤って否定したもので、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1-相違点に対する判断の誤り

審決は、引用例2に土を叩き締めるための往復振動具を備えた土木作業機において往復振動具を油圧式としたものが記載されており、かつ、これは水平地面や斜面等あるいはいかなる土質の土も叩き締めるようにできているとし、また、往復動作技術一般においてクランク式も油圧式も共に周知であり、いずれの方式を採用するかは種々の技術分野で必要に応じ適宜選択決定されていたとして、引用例1記載の発明のクランク式の往復振動具を本願発明のように油圧式のものとすることは当業者が容易に想到することができたものと判断している。

往復動作技術一般においてクランク式も油圧式も共に周知であることは認めるが、前記の判断は、以下の点において誤りである。

<1> 本願発明は田圃の畦を作る整畦機に関する発明である。

一方、引用例2記載の発明は、明細書の考案の詳細な説明において、従来技術として振動プレート、ランマを挙げていること及び図面からして、土木作業における道路の側溝等の地面を締め固める機械に関する発明である。

即ち、一方は農業機械、他方は土木、鉱山機械の分野に属し、製造業者も販売ルートも異なることから、開発技術者、生産技術者も異なるものであり、両者は、全く異なる技術分野に属するものであるが(甲第6号証ないし第8号証)、審決はこの点を看過している。

<2> 引用例2記載の発明の締固め板は、地面を打撃する際には台車は停止し、打撃が終わったら加圧シリンダにより締固め板を地面から離し、その後台車を動かして打撃位置を変え、そして新たな打撃位置を定めた状態で加圧シリンダにより締固め板を下降して打撃するするものである。

また、引用例2記載の発明の締固め板は、先ず加圧シリンダで締固め板を地面に加圧せしめた後油圧発振機により締固め板を振動させて地面を打撃するものであり、本来的に締固めは振動によるものである。

したがって、引用例2記載の発明は、本願発明のように「連続進行しつつ叩き締める」ものではない。

審決は、引用例2には「土を叩き締めるための往復振動具を備えたもの」が記載されていると認定したが、この認定は誤りであるとともに、本願発明との構成上の相違を看過しているものである。

<3> 審決は、往復動作技術一般においてはクランク式も油圧式も共に周知であって、いずれの方式を採用するかは種々の技術分野で必要に応じて適宜選択決定されていたものであると認定しているが、整畦機の分野においてそれが周知のものであることの根拠は何ら示されていない。

審決には、以上のような誤りがあり、その結果、引用例1記載の発明のクランク式の往復振動具を油圧式とすることは引用例2記載の発明から当業者が容易に想到し得たと誤って判断したものである。

(2)  取消事由2-相違点に対する判断の誤り

審決は、本願発明の油圧機構がトラクタの動力取出軸を駆動源としていることについて、周知例を挙げて、トラクタに連接される作業機一般において作業機における油圧式作業具の駆動用油圧機構の駆動源をトラクタの動力取出軸とすることは周知であるとして、本願発明の前記構成は、往復振動具を油圧式とするに際して単に周知技術を付加したものにすぎないと判断する。

しかし、周知例記載の考案は、ギア機構に代えて油圧ポンプ、油圧モータからなる伝動機構を用い、油圧によりロータリー装置を駆動する構造に係るものであり、本願発明とは技術分野を異にするものである。

審決は、このように本願発明とは技術分野の異なる周知例をもって、本願発明の前記構成は往復振動具を油圧式とするに際して単に周知技術を付加したもにすぎないと判断したものであり、誤りである。

(3)  取消事由3-本願発明の奏する顕著な作用効果の看過

本願発明は、油圧構造のものとしたことにより、畦を叩き締めるに要する畦叩き力を容易に可変し得るとともに、畦叩き力の向上も容易にでき、かつ畦叩体の畦叩き回数の可変、向上も容易にでき、畦の土壌の状態や形状に合った畦叩き状態が得られ、それだけ畦を強く叩き締めることができ、更にはクランク機構のものよりも機枠内での振動を抑制でき、畦を効率よく強く締めることができて強固な畦を得ることができ、また、回転ロータの回転のみならず油圧機構の駆動源もトラクタの動力取出軸より得ているから、構造が簡素化されて装置全体の小型、軽量化を容易にできて取扱い易くできるという、格別の作用効果を奏するものである。

これに対し、引用例2記載の発明は、土木作業における振動プレートやランマといった締固め機械に代わる特殊な構造を備えた振動締固め機であり、押付力、打撃力、打撃数の調節を容易なものとし、かつ狭隘でかつ深い溝底の締め固めを可能とするという作用効果を奏するにすぎないものであり、この引用例2記載の発明からは本願発明の前記作用効果を奏することは全く期待できず、引用例2にはそのような作用効果を示唆する記載すらない。

しかるに、審決は、本願発明の作用効果は引用例1及び引用例2に記載された発明から当業者が予測することができたものと判断したもので、誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認める。

2  同4は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告ら主張の違法はない。

(1)取消事由1について

<1> 耕土改良用及び農地造成用作業機が、耕耘用作業機や本願発明の整畦機が属する畦畔造成機を含む整地作用業機と共に、農用作業機の範疇にあり(乙第1号証)、また、地均し機具(ブルドーザ)、土工機具(鑿岩機)等一般的には土木・鉱山機械に属するものが農用作業機における農地土工用機具の範疇にあること(乙第2号証)はいずれも周知のことであるが、このように、一般的には土木・鉱山機械に属するものであっても、農業の土作業に用いれば、農業機械といえるのであり、農業機械、土木・鉱山機械は、土作業機の分野においては技術的に共通しているのである。

したがって、本願発明と引用例2記載の発明とは技術分野を異にするものではない。

したがって、また、本願発明と引用例2記載の発明とが技術分野を異にすることを前提に、それらが技術的課題及び作用効果を異にするとの原告らの主張も理由がない。

<2> 原告らは、引用例2記載の発明は「移動しつつ叩き締める」ものではないと主張するが、その点の構成は、引用例1記載の発明が備えているものであり、本願発明と引用例1記載の発明との一致点の認定に含まれているものである。

そして、審決は、引用例2記載の発明からは、往復振動具の振動機構の技術を引用しているものにすぎないのであるから、審決に原告ら主張のような誤りはない。

<3> 往復動作技術一般においてクランク機構、油圧機構が周知であることは、原告らも認めるところであるが、本願発明の整畦機と共通の技術分野にある農業機械の土作業機において往復動作具にクランク機構、油圧機構を用いることが周知であることは、乙第5号証ないし乙第7号証の各公報により明らかである。

以上のとおり、原告らが前記<1>ないし<3>で主張する点は全て理由がなく、審決が引用例1記載の発明のクランク式の往復振動具を本願発明のように油圧式とすることは引用例2記載の発明から当業者が容易に想到し得たものと判断したことに誤りはない。

(2)  取消事由2について

原告らは、周知例記載の考案は本願発明と技術分野を異にする旨主張する。

しかし、本願発明のトラクタの動力取出軸を油圧式の往復振動具の駆動源とする構成を採用することの容易性を判断するに当たっては、その背景技術としては農用トラクタの動力取出軸を駆動源とする油圧式作業機が存すれば充分であり、周知例は、油圧式作業具の駆動用油圧機構の駆動源をトラクタの動力取出軸とすることの観点からの例示にすぎないのであり、それ以上の技術内容は前記判断には係わらないものである。

したがって、原告らの主張は理由がない。

(3)  取消事由3について

前記(1)(2)のとおり、本願発明と引用例1、引用例2記載の発明は技術分野を共通にしているものであり、その相違点に係る構成は容易に想到できるものであるから、審決が本願発明の効果は引用例1及び引用例2記載の発明から容易に予測することができる程度のものであり、格別のものではないと判断したことに誤りはない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを準用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

また、引用例1に審決認定の事項が記載されていること、本願発明と引用例1記載の発明とに審決認定の一致点及び相違点があることは、当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告ら主張の審決の取消事由について検討する。

1  本願発明について

成立に争いのない甲第2号証(手続補正書)によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果として次のとおり記載されていることを認めることができる。

(1)  本願発明は、畦造成、修復作業等に用いられる整畦機における畦叩き装置に関するものである。

従来、この種の整畦機における畦叩き装置としては、引用例1記載の発明のものの他いくつかのものが知られている。

それら従来のものの構造は、トラクタの後部に連結機構により機枠を連結し、機枠に土盛ロータを設け、トラクタを旧畦に沿って走行させ、土盛ロータで圃場中の泥土を旧畦上に盛り上げ、この盛土を固定的に畦塗板で撫で付ける構造のもの、または進行方向前縁を螺着した畦塗板を設けてクランク機構により回転運動を往復運動に運動変換してその往復運動によって畦塗板の後縁により押し付ける構造のもの、またはスキ体で旧畦際の泥土を旧畦上に盛土し、クランク機構により回転運動を往復運動に運動変換してその往復運動によって叩き体を往復動作させて盛土を叩き付ける構造として構成されている。

しかし、これらの従来構造の場合、その畦叩構造が前記のクランク機構によって叩き体を往復畦叩運動させる純機械的構造となっており、このため構造上の制約を受けて畦を叩き締めるに要する畦叩き力の向上に一定の限界があり、更には装置全体の小型、軽量化、保守保全の取扱いさに不向きな面を有しているという不都合がある。

本願発明は、前記の知見に基づき、向上した畦叩き力が得られ、構造が簡素化されて小型、軽量化が図られ、取扱いが容易な整畦機における畦叩き装置を提供することを技術的課題(目的)とする(明細書2頁1行ないし3頁11行)。

(2)  本願発明は、前項の技術的課題を解決するために、その要旨とする構成(特許請求の範囲記載)を採用した(明細書1頁6行ないし19行)。

(3)  本願発明は、前項の構成を採用したことにより、トラクタにより機枠を畦に沿って走行すると、トラクタの動力取出軸により回転ロータは回転してその複数の掻上刃は旧畦上に泥土を跳ね上げて盛り上がり、カバー部材は回転ロータの上方及び畦上方を覆いかつ側部カバー部材は畦の側方を覆い泥土の外方飛散を防止し、トラクタの動力取出軸を駆動源として油圧機構が駆動し、油圧機構により油圧往復振動具の往復動作軸が往復動作し、油圧往復振動具の往復動作軸により畦上面及び畦一方側面に適合させた形状の畦叩体が往復畦叩動作し、畦叩体の畦叩面全面は畦に叩接されて盛土は叩き締められることになり、油圧構造としているため畦を叩き締めるに要する畦叩き力を容易に可変し得るとともに畦叩き力の向上も容易にでき、かつ畦叩体の畦叩き回数の可変、向上も容易にでき、畦の土壌の状態や形状に合った畦叩き状態が得られ、それだけ畦を強く叩き締めることができ、更には従来構造の如き畦叩き構造がクランク機構のものよりも機枠側での振動を抑制でき、畦を効率良く強く締めることができて強固な畦を得ることができて、良好な畦の造成、修復が可能となり、また、回転ロータの回転のみならず油圧機構の駆動源もトラクタの動力取出軸より得ているから、構造が簡素化されて装置全体の小型、軽量化を容易にできて取扱い易くできるという作用効果を奏する(明細書10頁4行ないし11頁9行)。

2  引用例2記載の発明について

成立に争いのない甲第4号証によれば、引用例2は、名称を「油圧式振動締固め機」(明細書1頁3行)とする発明(考案)に係るものであるが、実用新案登録請求の範囲(1)には「油圧源1を搭載した台車2に加圧シリンダ3を設け、該加圧シリンダ3の加圧ピストン4にスプール5と油圧ピストン6との相互作用で該油圧ピストン6を振動せしめる油圧発振機7を設け、前記油圧ピストン6の一端に締固め板8を設けたことを特徴とする油圧振動締固め機。」(明細書1頁5行ないし11行)と、考案の詳細な説明には「本考案は、スプールと油圧ピストンの相互作用で該油圧ピストンを振動せしめる油圧発振機を用いた油圧振動締固め機に関するものである。

従来より用いられてきた振動プレート、ランマは大きさの割には締固め力が弱い。また狭隘な溝底の締固めは不可能であった。一方工事においては対象となる土質は多様であり、締固め機の振動数、締固め力は可変であることが望ましいが、これらの条件を満たすことはできなかった。

本考案はかかる欠点を解消せんとするもので、いかなる土質にも対応しうる小型で強力な油圧発振機を用いた油圧振動締固め機を提供せんとするものである。」(明細書3頁14行ないし4頁6行)、「かくして第1図に示すごとく本考案による油圧振動締固め機を溝上に位置せしめ、加圧シリンダ3で加圧ピストン4および油圧発振機7を介して締固め板8を所定の押付力で地面30に加圧せしめた後油圧源1より圧油を油圧発振機7に供給することにより前述したように油圧ピストン6は振動し、該油圧ピストン6の一端に設けた締固め板8により地面30を打撃締め固める。」(明細書8頁7行ないし15行)、「以上述べた作動から明らかなように締固め板に加えられる押付力、打撃力、打撃数は油圧源より供給される圧油の圧力、流量によって容易に調整することが可能で、対象となる土質、撤厚、締固め板の接地面積に応じた最適な圧力、流量で作動せしめることは容易であり、従来の締固め機に対し本考案による油圧振動締固め機は小型強力である。

また従来不可能であった狭隘で、かつ深い溝底の締固めも可能になる。

なお本機によれば水平地面、斜面も締固め可能なことは構造上明らかである。」(明細書9頁8行ないし18行)と記載されていることが認められる(別紙図面3参照)。

3  取消事由1について

原告らは、審決は、<1>引用例2記載の発明と本願発明とは技術分野、したがって、また、技術的課題及び作用効果を異にし、<2>引用例2記載の発明は本願発明とは構成を異にし、更に<3>整畦機の分野において往復動作技術について油圧式のものを用いることは周知ではないとして、審決が、引用例1記載の発明のクランク式の往復振動具を油圧式のものとすることは当業者が容易に想到し得たと判断したことの誤りを主張する。

(1)  先ず<1>について検討する。

原告らは、本願発明の整畦機は農業機械であるのに対し、引用例2記載の発明の油圧振動締固め機は土木、鉱山機械の分野に属するので技術分野を異にする旨主張する。

本願発明の整畦機が農業機械であること自体は否定し得ないが、農業機械といっても、田植機、刈取機、脱穀機等のように純然たる農作物の生産、収穫のための機械ではなく、農地の造成のための機械であり、その点で土地の造成、整地等のための土木機械と技術的に異なるものではなく、単に用いられる場所、目的が異なるにすぎず、本願発明と引用例2記載の発明とは、共に往復振動具等がトラクタあるいは台車という車両に備えつけられ、油圧機構により締固め板に押付力、打撃力を与えて土を締め固める技術として共通しており、技術的に極めて高い親近性を有するものである。

なお、甲第6号証の社団法人日本機械学会編「機械工学便覧」(同会昭和52年3月18日発行)等により認められる機械についての学術上の分類や商標についての商品区分は、当業者がある発明から他の発明の構成を想到することが容易か否かの判断において問題となる「技術分野」の異同の判断には直接係わるものではないので、ここでは立ち入らない。

また、取消事由3において検討するように、本願発明と引用例2記載の発明は、共に油圧機構を用いて小型の装置で強力な締固め力を得るようにするというものであり、技術的課題や作用効果に共通性を有するものである。

したがって、引用例2記載の発明は、引用例1記載の発明のクランク式の往復振動具を油圧式のものとすることについて当業者に示唆を与え得るものであり、本願発明との技術分野等の相違を理由に審決の前記判断の誤りをいう原告らの<1>の主張は理由がない。

(2)  次に、原告らは、<2>において、引用例2記載の発明は、本願発明のように、「連続進行しつつ叩き締める」ものではないとして、本願発明との構成の相違を主張する。

本願発明の要旨からすると、本願発明においては、畦の土を「連続進行しつつ叩き締める」ものと認められるが、その構成は引用例1記載の発明も有するものであり、審決は、その点は本願発明と引用例1記載の発明との一致点として認定していることは審決の理由の要点から明らかであるから、原告らの主張は、連続進行しつつ叩き締めるものではない引用例2記載の発明が油圧式の往復振動具を採用していても、当業者はそれをもって連続進行しつつ叩き締める引用例1記載の発明のクランク式の往復振動具を油圧式のものに代えることを想到することは容易ではないという趣旨であると認めることができる。

引用例2記載の発明の締固めの方法に関しては、前記2認定のとおり、引用例2には「油圧ピストン6の一端に設けた締固め板8により地面30を打撃締め固める。」(明細書8頁12行ないし15行)と記載されているように、締固めは締固め板の「打撃」により行うものであり、この点で叩き締める本願発明(本願発明においても、畦叩体を往復畦叩動作させるものは「往復振動具」と記載されている。)とで差異はない。

一方、前記2で認定した引用例2の記載事項からすると、引用例2記載の発明の締固めは「連続進行しつつ」行うものとは認められない。

しかし、引用例2記載の発明の締固めが「連続進行しつつ」行われるものではないとしても、それは、トラクタの動力の回転運動を往復運動に変換する方法をどうするか、即ち往復振動具をクランク式のものとするか油圧式のものとするかの判断には何ら関係のないことであって、その点は、当業者が引用例2記載の発明から引用例1記載の発明のクランク式の往復振動具を油圧式のものとすることを想到することを何ら困難にするものではない。

したがって、原告らの<2>の主張も理由がない。

(3)  また、原告らは、<3>において、整畦機の分野において「往復動作技術一般においてクランク式も油圧式もともに周知である」ことは根拠がない旨主張する。

しかし、成立に争いのない乙第5号証によれば、昭和38年実用新案出願公告第18910号公報は、名称を「犂」(1頁1行)とし、実用新案登録請求の範囲を「犂先先端振動子のみを犂先の耕進作用方向に強制的に進退振動させて犂先先端部の土壌を破砕扛起することを特徴とする犂」(2頁右欄19行ないし21行)とする考案に係るものであるが、考案の詳細な説明に「本考案の一実施例を第1図乃至第3図について説明すると、(略)すなわち第1図に示すようにトラクタ12のエンジン13を動力源とする場合には、その動力をVベルト14で犂身1の上部に取付けた支台の中間回転軸に取付けたプーリー15に伝え、さらにこのプーリー15より駆動回転軸3に取付けたプーリー16にチェーン、Vベルト17等で伝動して駆動回転軸3を回転し、ついでクランクアーム4及びリンク5を介して摺動杆7を連続的に耕進作用方向に進退摺動させて犂先振動子8を振動させる。」(1頁左欄14行ないし右欄3行)、「つぎに本考案の他の態様の実施例を第4図乃至第6図について説明すると、犂身1の下部に回転動力、圧縮空気、油圧等の動力源によって連動する動力機構および圧縮気体噴出機構を内部に装置した犂床室20を設け、この犂床室20の前部に先端に犂先振動子8を有する摺動杆7を犂床室20内の圧力によつて進退するように嵌挿し」(1頁右欄9行ないし15行)と記載されており、トラクタの機体に装着した犂の進退摺動の動作をクランク式のものとしたものと、油圧式のものとしたものとが示されていることが認められる。

また、成立に争いのない乙第6号証によれば、昭和55年実用新案出願公開第160122号公報は、名称を「掘取機」(1頁左欄1行)とする考案に係るものであるが、実用新案登録請求の範囲には「機枠の下部に主杆を垂下固着し、該主杆下端に掘取刃物を上下揺動自在に嵌着させ、その揺動を機枠上部に載置させた油圧シリンダーにて制御するようにした、トラクタ機体に装着されてなる掘取機。」(1頁左欄6行ないし10行)と記載されており、トラクタの機体に装着し掘取機の掘取刃物の揺動を油圧シリンダーで制御することが示されていることが認められる。

更に、成立に争いのない乙第7号証によれば、昭和53年実用新案出願公開第102411号公報は、名称を「水田の畦作り機」(1頁左欄1行)とする考案に係るものであるが、実用新案登録請求の範囲(1)には「トラクターのPTOより動力(回転運動)を取り、クランク及び連接棒により振動に変え、振動棒の先端に取り付けられた副及び主叩き板により畦を形成せしめる機構。」(1頁左欄5ないし8行)と記載されており、トラクターのPTO(動力取出軸)の回転運動をクランクを用いて振動に変えて叩き板を振動させて畦を形成することが示されていることが認められる。

このように、本件出願前、農業機械であるトラクタの回転運動を犂、掘取刃物、畦の叩き板の振動、揺動、摺動等の運動に変換させる機構としてクランク式、油圧式の双方のものが周知のものとなっていたものである。

そして、本願発明の整畦機という限定された技術分野においてクランク式、油圧式の双方が適宜選択されていたことを認めることのできる証拠はないが、整畦機と技術分野を同じくする農業機械である前記乙第5号証ないし第7号証の各公報記載の考案に係る機械において、油圧式、クランク式とも周知であり、当業者はそれらを適宜選択決定していたのであるから、審決が引用例1記載の発明のクランク式の往復振動具を本願発明のように油圧式とすることは引用例2記載の発明から当業者が容易に想到し得たと判断したことに誤りはない。

4  取消事由2について

原告らは、審決が挙げた周知例は本願発明と技術分野を異にするとして、審決が本願発明の油圧機構がトラクタの動力取出軸を駆動源としていることは往復振動具を油圧式とするに際して単に周知技術を付加したにすぎないと判断したことの誤りをいう。

成立に争いのない甲第5号証によれば、周知例は、名称を「油圧駆動ロータリ装置」(1頁左欄1行)とし、実用新案登録請求の範囲を「入力用ギアーケースと伝動ケースとを備えたロータリ装置において、入力用ギアーケースにギアー機構に代えて油圧ポンプを内蔵し、伝動ケースの下端部に伝動機構に代えて爪軸駆動用の油圧モータを内蔵し、油圧ポンプと油圧モータとを結ぶ油圧パイプを伝動ケース内に収めたことを特徴とする油圧駆動ロータリ装置。」(1頁左欄8行ないし14行)とする考案に係るものであることを認めることができる。

その考案は、原告らが主張するとおり、ギア機構に代えて油圧ポンプ、油圧モータからなる伝動機構を設ける技術に係るものであり、油圧機構により往復振動具を作動させるものではないが、その油圧駆動ロータリ装置の油圧機構の駆動源をトラクタの動力取出軸としたものであることは原告らも争わないところであり、油圧機構による動作こそ異なれ、その点で本願発明とは技術的に親近性があるものである。

更に、前記2(3)で認定したとおり、乙第5号証の昭和38年実用新案出願公告第18910号公報記載の考案の犂は、その油圧式の往復動作具の駆動源をトラクタの動力取出軸としているものと認められ(トラクタのエンジンを駆動源としているのであるから、その動力取出軸を駆動源としているものと認められる。)、このことも、審決の周知事項の認定を裏付けるものである。

このように、本願発明と技術分野を同じくする考案において、油圧機構の動力源をトラクタの動力取出軸とする構成が開示されているのであるから、審決が、本願発明の油圧機構がトラクタの動力取出軸を駆動源としていることは往復振動具を油圧式とするに際して単に周知技術を付加したにすぎないと判断したことに誤りはない。

5  取消事由3について

原告らは、審決は引用例2記載の発明は本願明細書に記載されたような本願発明の作用効果を奏するものではなく、また、引用例2にそのような作用効果を示唆する記載がないにもかかわらず、本願発明の作用効果は引用例1及び引用例2に記載された発明から当業者が予測することができたと判断したことは誤りであると主張する。

前記1(3)において認定した本願発明の作用効果に関する本願明細書の記載からすると、本願発明の作用効果は、<1>畦叩き力と畦叩き回数が容易に可変、向上できる、<2>機枠側での振動を抑制できる、<3>構造を簡素化、小型化、軽量化でき、取扱いが容易となるというものである。

一方、前記2認定の引用例2の記載からすると、引用例2記載の発明は、いかなる土質にも対応し得る小型で協力な油圧発振機を用いた油圧振動締固め機を提供することを技術的課題としたもので、その発明の構成を採用することにより、押付力、打撃力、打撃数が調整可能で、小型であっても締固め力を強力なものとすることができるという本願発明の<1>、<3>に相当する作用効果を奏することが開示されている。

また、本願明細書には、従来例のクランク式のものと対比するため<2>の作用効果が記載されているが、油圧式のものがクランク式のものと比べ振動を少なくすることができることは自明のことであり、引用例2記載の発明においても、そのような作用効果を当然に奏するものと認められる。

以上のことからすると、本願発明の作用効果は、引用例1記載の発明のクランク式の往復動作具を油圧式のものとしたことにより当然に奏する作用効果であって、何ら格別のものではなく、審決が本願発明の作用効果は引用例1及び引用例2に記載された発明から当業者が予測することができたと判断したことに誤りはない。

6  以上のとおり、原告らの審決の取消事由の主張はいずれも理由がなく、審決に原告ら主張の違法はない。

第3  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告らの本訴請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条1項本文の規定を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

別紙図面1

<省略>

別紙図面2

<省略>

別紙図面3

<省略>

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