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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)231号 判決 1992年5月28日

岡山県津山市高尾590番地の1

原告

日本植生株式会社

代表者代表取締役

田村勝己

訴訟代理人弁理士

安藤順一

鳥取県鳥取市弥生町217番地

被告

ユタニ緑地株式会社

代表者代表取締役

湯谷武夫

訴訟代理人弁護士

大野博昭

"

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成1年審判第12036号事件について平成3年8月1日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「植生用網体」とする登録第584506号意匠(以下、この意匠を「本件意匠」、この登録を「本件登録」という。)の意匠権者であるが、被告は、平成1年7月4日、原告を被請求人として本件登録を無効とすることについて審判を請求した。特許庁は、この請求を同年審判第12036号事件として審理した結果、平成3年8月1日、本件登録を無効とする旨の審決をした。

2  審決の理由の要点

(1)  本件意匠は、昭和55年4月8日の意匠登録出願昭和55年第14077号で、昭和57年6月29日に意匠登録第584506号として設定の登録がされたものであり、願書の記載及び添付図面代用写真によれば、意匠に係る物品を「植生用網体」とし、意匠に係る物品の説明を「本物品は、植生材料を充填した袋体を、収容部を有する網状体の収容部に収容した植生用網体である」とするものであって、その形態は別紙第一に示すとおりのものである。

(2)  本件意匠登録出願前の昭和54年7月7日より昭和55年3月29日の間、県営鳥取地区広域農道(辛川工区)工事に、植生帯Wネットとして使用された植生用網体の形態は別紙第二に示すとおりのものである(以下、この植生用網体に係る意匠を「甲号意匠」という。)。

(3)  以上のとおり、両意匠は、物品が一致し、形態も上下に連続する網状体に、植生材料を充填した略細紐状の袋体を、上下に等間隔に略横縞状に現した基本的構成態様が一致しており、この点が両意匠の形態上の特徴を最も良く現しているので、類否判断を決定する要部をなすものと認める。これに対して差異点は、本件意匠には縦方向に3本の補強紐があるのに対し、甲号意匠にはかかる補強紐はないが、甲号意匠も左右両端の縁と中央部にはネットのつぎ目ともいえるやゝ太い線が現れているので、差異点は、形態全体としてみると、前記の基本的構成態様の一致点に包摂され、部分的な差であって、類否判断を左右する要素としては微弱なものといわざるをえない。

(4)  なお、被請求人(原告)は、平成1年10月27日提出の答弁書において、「請求人(被告)の主張は事実に反している。『調査嘱託の申立てをなしたことによる鳥取地方農林振興局長からの回答によれば、甲第2号証の1<1>~<5>として提出する写真(本訴における甲第3号証の5の1ないし5、甲第6号証の5枚の写真、以下この項において同じ)に記載の植生用網体を使用した工事が本件意匠の登録出願前の昭和54年7月7日から昭和55年3月29日までの間に鳥取市辛川において行われていた事実が証明されている』とあるが、そのようなことは証明されていない。そもそも、調査嘱託の申し立て書の申立て内容に甲第2号証の1<1>~<5>の写真に現れている植生用網体との関係が最初から申し立てられていないのである。」と主張する。

そこで審案するに、乙第1号証(鳥取地方裁判所民事部に提出された「調査嘱託の申し立て書」、本訴における甲第7号証、以下この項において同じ)によると、申立ての内容は、「一 証すべき事実 昭和五四年冬期から同五五年春期にかけての県営鳥取地区広域農道辛川工区の工事において、被告が植生用網状体を用いた事実。

二 嘱託先 鳥取市東町一丁目二七一鳥取地方農林振興局耕地課。三 調査事項 昭和五四年ないし五五年頃実施した県営鳥取地区広域農道(辛川地区)について (1)工事期間、工事内容及び施工業者名並びに担当職員名(2)右工事中に法面緑化工事が含まれていたか。含まれていた場合その工事期間及び担当業者名」とされている。これに対する回答書が、甲第2号証(本訴における甲第4号証、以下この項において同じ)として提出された鳥取地方農林振興局長による「昭和62年(ワ)第87号の調査嘱託書について(回答)」である。その内容を関係項目のみあげると、1工事名 県営鳥取地区広域農道(辛川工区)工事。工事場所 鳥取市辛川。工期 昭和54年7月7日~昭和55年3月29日。2法面工 種子吹付2577m2ネット張535m2法枠121m2、法面の工期不明、担当業者下請不明と書かれ、甲第2号証の1<1>の写真中の黒板に「県営鳥取地区広域農道(辛川工区)植生帯Wネット施工中」と表示されている。

以上によると、甲第2号証の1<1>の写真中に工事日の記載はないが、甲第2号証と乙第1号証によって、昭和54年7月7日から同55年3月29日の間に、県営鳥取地区広域農道(辛川工区)と称する工事が施工され、この工事の法面工事として、種子吹付、ネット張がなされ、甲第2号証の1<1>の写真がこの工事を写していると判断されるので、被請求人の主張は失当であるといわざるをえない。

(5)  したがって、本件意匠は、その出願前に公然知られた意匠と類似し、意匠法第3条第1項第3号に該当するので、同法第3条第1項の登録要件を具備しないにもかゝわらず、登録されたものであるから、無効とする。

3  審決の取消事由

本件意匠の形態が別紙第一のとおりであり、甲号意匠の形態が別紙第二のとおりであること、両意匠がいずれも意匠に係る物品を「植生用網体」とすること、両意匠の構成及び類否が審決の認定判断のとおりであることは認めるが、甲号意匠が本件意匠の登録出願前に公然知られたものであるとの認定は争う。

審決は、甲号意匠は本件意匠の登録出願前の昭和54年7月7日より同55年3月29日までの間、県営鳥取地区広域農道工事(辛川工区)に植生帯Wネットとして使用された植生用網体であると認定しているが、上記期間中に甲号意匠に係る植生用網体が上記工事に使用されたことを認定できる証拠はない。すなわち、審判手続において、被告(請求人)から甲第2号証の1として提出された写真には撮影者名・撮影年月日・撮影場所の付記がなく、また、鳥取地方農林振興局長作成の調査嘱託に対する回答書は上記事実を証明するものではなく、上記写真の撮影日時や対象を明らかにするものでもないから、審決がこれらの証拠により上記事実を認定したことは誤りである。

なお、本訴において被告が提出した乙号各証は審判手続では提出されなかったものであるから、本訴において事実認定の証拠とすることは許されない。

したがって、甲号意匠は本件意匠の登録出願前に公然知られた意匠であるとした上、本件意匠は意匠法第3条第1項第3号に該当することを理由として本件登録を無効とした審決の認定判断は誤りであって、違法であるから取り消されるべきである。

第3  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1及び2は認める。

2  同3は争う。審決の認定判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

甲号意匠に係る植生用網体は本件意匠の登録出願前に県営鳥取地区広域農道工事(辛川工区)に使用されたものである。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求原因1及び2の各事実は当事者間に争いがない。

2  原告主張の審決の取消事由の存否について検討する。

(1)  本件意匠と甲号意匠はいずれも意匠に係る物品を「植生用網体」とすること、本件意匠の形態は別紙第一のとおりであり、甲号意匠の形態は別紙第二のとおりであって、両意匠は、上下に連続する網状体に、植生材料を充填した略細紐状の袋体を上下に等間隔に略横縞状に現した基本的構成態様が一致しており、この点が両意匠の形態上の特徴を最も良く現していて、類否判断を決定する要部をなすものであること、本件意匠には縦方向に3本の補強紐があるのに対し、甲号意匠にはかかる補強紐はなく、左右両端の縁と中央部にネットのつぎ目ともいえるやゝ太い線が現れている点で両意匠は相違しているが、その差異は、形態全体としてみると、前記基本的構成態様の一致点に包摂され、部分的な差であって、類否判断を左右する要素としては微弱なものであることは、当事者間に争いがない。

以上によれば、本件意匠は甲号意匠に類似するものと認めるのが相当である。

(2)  そこで、甲号意匠が本件意匠の登録出願前に公然知られたものであるか否かについて検討する。

成立に争いのない甲第4号証、第7号証、原本の存在ならびに成立につき争いのない乙第3号証ないし第6号証によれば、訴外富田建設有限会社は、鳥取県から県営鳥取地区広域農道工事(工事場所鳥取市辛川)を請け負い、昭和54年7月7日から同55年3月29日までの間、上記工事を施工したこと、被告は、同訴外会社から法面の緑化工事を下請けし、昭和55年3月ころ、種子吹付、ネット張りなどの緑化工事を施工したことが認められ、また、甲第3号証の5の1の写真(甲第6号証中の1枚目の写真と同じ)に撮影されている黒板には「県営鳥取地区広域農道(辛川工区)植生帯Wネット施工中」と表示されていることが認められる。そして、これらの事実に前掲乙第5号証、第6号証を総合すれば、甲第3号証の5の1ないし5の写真(甲第6号証中の写真と同じ)は、被告の従業員であった井上和江が昭和55年3月に県営鳥取地区広域農道工事(辛川工区)における緑化工事の実施状況を撮影した写真であり、甲第3号証の5の1の写真には甲号意匠に係る植生用網体が撮影されていることが認められる。

以上の認定事実によれば、被告は、本件意匠の登録出願前の昭和55年3月ころ、上記工事を施工した際、甲号意匠に係る植生用網体を使用したものと認めるのが相当であり、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

原告は、上記乙号各証は審判手続において提出されなかったものであるから、本訴において事実認定の証拠とすることは許されない旨主張するが、成立に争いのない甲第1号証、第3号証の2によれば、被告は、審判手続において、上記期間中に甲号意匠に係る植生用網体を使用して上記工事を行ったと主張し、これに沿う書証を提出していたことが認められるから、審決取消訴訟において、同主張を裏付けるため更に新たな証拠を提出することは、審判手続において審理判断を受ける原告の利益を奪うものではなく、もとより許されることであって、原告の主張は理由がない。

(3)  以上のとおり、甲号意匠は本件意匠の登録出願前に公然知られた意匠であり、本件意匠は甲号意匠に類似するものであるから、本件意匠は意匠法第3条第1項の登録要件を具備しないものとして、本件登録を無効とした審決の認定判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

3  よって、本訴請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濱崎浩一 裁判官 田中信義)

別紙第一 本件登録意匠

意匠に係る物品 植生用網体

説明 上下にのみ連続し、匠面図は平面図と、左側面図は右側面図と対称

<省略>

別紙第二 甲号意匠

意匠に係る物品 植生用網体

<省略>

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