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東京高等裁判所 平成3年(ネ)4628号 判決 1994年6月29日

主文

1  控訴人らと被控訴人丁原冬子との関係でなされた原判決及び控訴人らと丁原冬子を除くその余の被控訴人らとの関係でなされた原判決をいずれも取り消す。

2  別紙物件目録記載一の建物及びその敷地の借地権に関する請求にかかる訴えを却下する。

3  別紙物件目録記載二の建物及び同記載六の土地の借地権、有限会社甲田製作所の社員持分権のうち一五八〇口がいずれも被相続人亡甲野太郎の遺産であることを確認する。

4  控訴人らのその余の請求を棄却する。

5  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その二を控訴人らの、その余を被控訴人らの各負担とする。

理由

一  本件記録によれば、原審裁判所は、第三回口頭弁論期日において、原審原告らと原審被告丁原冬子との間の弁論と、原審原告らと原審被告甲野花子及び同甲野二郎との間の弁論とを分離した上で、前者の関係で口頭弁論を終結し、その後後者の関係で弁論手続を進め、平成三年一二月一七日に両者の関係で別々に判決を言い渡したことが認められる。しかしながら、本件における原審原告らの請求は、共同相続人間で特定の財産が遺産に属することの確認を求めるというものであり、その性質上共同相続人全員が当事者となり、全員の関係で合一にのみ確定すべき必要的共同訴訟であるから(最高裁判所平成元年三月二八日第三小法廷判決・民集四三巻三号一六七頁参照)、一部の者に関して弁論を分離することは許されず、弁論を分離したまま別々に言い渡された判決もまた違法な手続によるものとして取消しを免れない。

弁論を分離することが許されず、従つて別々の判決をすべきでないのに誤つて別々の判決がなされた場合には、いずれかの判決につき、いずれかの当事者から不服の申立てがあれば、事件は全員に対する関係で上級審に移審すると解すべきである。

本件の控訴状には、第一審判決主文の表示としては、原審原告らと原審被告甲野花子及び同甲野二郎との間で言渡された判決が掲げられているが、右に述べたところにより、控訴人らが甲野花子、甲野二郎を被控訴人として申し立てた本件控訴により、丁原冬子に対する関係でも確定が遮断され、移審の効力を生ずるものとして取り扱うべきである(控訴人らと原審被告丁原冬子との間でなされた判決は、控訴人らの請求を全部認容したのであるから、全部勝訴した当事者からの控訴という形になるが、これは原審が誤つて違法な手続をしたことによるものであつて、合一確定の必要性という、より基本的な要請を満たすためには止むを得ないところであり、控訴人もこのような扱いに異議はないとしているところである。)。

なお、被控訴人甲野花子は平成四年一二月一七日死亡し、控訴人両名、被控訴人甲野二郎、同丁原冬子のほか甲野花子の養女甲野桜子が相続し、訴訟手続を承継した。

二  以下本案について判断する。

当裁判所の判断については、原判決書八頁以下の理由一、二の項に次のとおり付加してこれを引用する。

1  原判決書八頁一一行目及び九頁一行目を削る。

2  原判決書九頁二行目の「三〇」を「二九」に、「本件建物二を」を「自ら賃借した本件土地六の上に本件建物二を」にそれぞれ改め、「ここで」の次に「同三〇年ころから」を加える。

3  原判決書一〇頁三行目の「機械類であつたこと」を「機械類であり、定款上は、太郎の現物出資に対して六九五口が、二郎の現物出資に対して一〇〇口がそれぞれ与えられたこと(なお本件建物一及びその敷地の借地権は現物出資の目的とはされなかつた。)」に改める。

4  原判決書一一頁三行目から六行目までを「被控訴人甲野二郎は、有限会社甲田製作所所有の本件土地三、四、五を、昭和四五年三月一九日に真正な登記名義回復を原因として甲田工業株式会社に名義変更した上、昭和五二年に本件土地三を乙田松夫に、本件土地五を戊原竹夫にそれぞれ売却したこと、」に改める。

5  原判決書一二頁五行目及び六行目を次のとおり改める。

「被控訴人甲野二郎は、本人尋問において、本件建物二が自分の所有であり、敷地は自分が借りたものであると供述するが、他方で平成元年以降の土地の賃料は甲野花子が支払つていたと自認していること、登記簿上の建物の所有者は被相続人甲野太郎となつていること等に照らして信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。」

三  右のとおり、本件建物一及びその敷地の借地権は、被相続人甲野太郎の遺産であつたと認めるべきであるが、《証拠略》によれば、本件建物一は本件相続開始後に被控訴人甲野二郎の手によつて取壊されて現存しないことが認められ、この事実と、控訴人らも賃貸借契約に明確な期間の定めがある等、本件建物一の敷地にかかわる太郎の借地権(その範囲は取調べ済の証拠によつてもはつきりしないが、本件土地三、四、五の全部に及ぶものでないことは《証拠略》等によつて明らかである。)の存続につき、当裁判所の求めにもかかわらずなんらの主張もしないことからすれば、この借地権も同時に消滅したものと判断するほかない。そうすると、すでに存在しないものを目的として、遺産であることの確認を求めることに帰し、その訴えは不適法であるといわざるを得ず、却下を免れない。

四  被控訴人甲野二郎の提出した準備書面の中には、同被控訴人が被相続人から有限会社甲田製作所の株を全部譲り受けた、との主張がみえるので念のため触れておくが、これまでの同被控訴人の主張経過及び同被控訴人本人尋問の結果に照らしていかにも無理な主張であり、本件で取調べ済の証拠によつても到底そのような事実をうかがうことはできない。

五  以上のとおりで、控訴人らの請求は、被相続人甲野太郎夫婦の自宅となつていた本件建物二及び本件土地六の借地権、有限会社甲田製作所の太郎名義の社員持分権一五八〇口については理由があるが、本件建物一及びその敷地の借地権にかかる訴えは不適法であるから却下すべきであり、遺産であると主張されている本件土地三、四、五のうちその余の部分(その範囲は先に触れたとおり明らかではないが)の借地権についての請求、有限会社甲田製作所の社員持分のうち一五八〇口を超える部分についての請求はいずれも理由がない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上谷 清 裁判官 小川英明 裁判官 曽我大三郎)

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