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東京高等裁判所 平成3年(ネ)1783号 判決 1993年9月29日

控訴人

株式会社大隅

右代表者代表清算人

須永恒

控訴人

株式会社信越エンタープライズ

右代表者代表清算人

須永恒

控訴人

須永恒

右三名訴訟代理人弁護士

永田恒治

被控訴人

川口町農業協同組合

右代表者理事

綱富兵

右訴訟代理人弁護士

中澤利秋

大塚勝

神山博之

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

二被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二事案の概要

本件は被控訴人が、(一)控訴人株式会社大隅に対し、(1)賃貸借契約解除に基づき原判決別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の明渡し並びに昭和五八年一〇月一日から右建物明渡済みまで月額五万円の割合による賃料及び賃料相当損害金の支払いを、(2)売掛代金六〇万八一三三円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和六〇年八月一六日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ求め、(二)控訴人株式会社信越エンタープライズ(以下「控訴人信越」という。)に対し、売掛代金六五万七〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和六〇年八月一三日から完済まで前同様の遅延損害金の支払いを求め、(三)控訴人須永に対し、貸金七〇〇万円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和五八年九月九日から完済まで約定の年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求めたところ、原審が、被控訴人の請求をいずれも認容したので、控訴人らが控訴した事案である。

以下の事実(ただし、催告の点を除く。)は当事者間に争いがない。

一  控訴人大隅への本件建物明渡請求につき

(被控訴人の請求原因)

1 被控訴人は、控訴人大隅に昭和五八年一〇月一日、本件建物を期間二年、賃料月額五万円、毎月一〇日限り前月分払いの約定で賃貸して、引き渡した。

2 被控訴人は控訴人大隅に対し、昭和五九年七月二三日到達の内容証明郵便で、昭和五八年一〇月分から同五九年六月分までの延滞賃料合計四五万円を右郵便到達後五日以内に支払うよう催告した上(<書証番号略>により認める。)、昭和六〇年八月一五日送達の本件訴状により本件建物の賃貸借契約を解除する意思表示をした。

二控訴人大隅及び控訴人信越への各売掛代金請求につき

(被控訴人の請求原因)

1 被控訴人は、控訴人大隅に対し昭和五九年九月一日から昭和六〇年一月二三日までに食品類を売り渡し、その売掛代金合計は六〇万八一三三円である。

2 被控訴人は、控訴人信越に対し昭和五八年八月一九日から同年一二月二四日までにガソリン等を売渡し、その売掛代金合計は六五万七〇〇〇円である。

3 被控訴人は、右各控訴人に対し本件訴状により右の支払いを求めた。本件訴状は控訴人大隅に対しては前記の日に、控訴人信越に対しては昭和六〇年八月一二日に、それぞれ送達された。

第三争点

一控訴人大隅への本件建物明渡請求につき

(控訴人大隅の抗弁)

1 控訴人信越は、株式会社大地(代表取締役野中隆夫、以下「大地」という。)が被控訴人のため振出した本判決別紙手形目録(一)、(二)記載の約束手形二通(以下「本件約束手形」という。)の手形金合計六五〇万円を被控訴人のために立替払し、右求償債権と本件建物の賃料債権を相殺するとの合意により、それまで有限会社武尊(代表者取締役野中隆夫、以下「武尊」という。)が賃借していた本件建物を借り受けた。

2 控訴人大隅は、昭和五八年一〇月一日被控訴人から本件建物を借り受けるに際し、控訴人信越から右求償債権を譲受け、被控訴人との間に、右求償債権と本件建物の賃料債権を相殺し、右譲受債権を本件建物の賃料に充当する旨合意した(以下「本件充当契約」という。)。

(被控訴人の反論)

被控訴人は、本件約束手形につき手形債務を負ってなく、控訴人信越に本件約束手形の決済を依頼して立替払を受けたことはない。

二控訴人大隅への売掛代金請求につき

(控訴人大隅の抗弁)

1 控訴人大隅は、被控訴人の依頼により振出し、被控訴人が光和運輸有限会社で割引を受けた本判決別紙手形目録(三)記載の為替手形(以下「本件為替手形」という。)の手形金三一五万円を決済して、被控訴人のために立替払した。

2 控訴人大隅は、被控訴人に対し、昭和六一年二月一八日の原審口頭弁論期日に、右立替金の求償債権と被控訴人の本件売掛債権を対当額で相殺した。

(被控訴人の再抗弁)

1 被控訴人は、定款所定の事業を行うことにより組合員の農業生産力の増進と経済的社会的地位の向上を目的とする非営利法人であるところ、被控訴人の上村一夫組合長(以下「上村組合長」という。)は自己又は控訴人大隅らの利益を図るため本件為替手形に裏書をしたから、右裏書は被控訴人の事業目的の範囲外であり無効である。

2 被控訴人の上村組合長は、代表権を濫用して本件為替手形に裏書をしたものであり、控訴人大隅の代表者須永恒は、上村組合長の右権限濫用の事実を知っていたか、あるいは当然に知り得べきであったから、民法九三条但書より被控訴人が本件為替手形につき手形債務を負うことはない。

三控訴人信越への売掛代金請求につき

(控訴人信越の抗弁)

1 控訴人信越は、被控訴人に昭和五七年一一月一七日三〇〇万円を弁済期昭和五八年一月一六日として貸し付けた。

2 控訴人信越は、被控訴人に対し、昭和六一年二月一八日の原審口頭弁論期日に、右貸付金と被控訴人の本件売掛債権を対当額で相殺した。

四控訴人須永への貸金請求につき

(被控訴人の請求原因)

被控訴人は、控訴人須永に対し昭和五八年八月一九日七〇〇万円を、弁済期同年九月八日、利息年9.25パーセント、遅延損害金年14.6パーセントの割合による約定で貸し付けた(以下「本件貸付」という。)。

(控訴人須永の反論)

本件貸付は、控訴人須永が、上村組合長の要請で被控訴人の利益のため、借主として名義貸しを行ったものであり、控訴人須永に返済義務はない。

第四争点に対する判断

一控訴人大隅への本件建物明渡請求につき

1  原判決の「第三 判断」のうち、原判決四枚目裏五行目の「本件建物は」から同五枚目表末行の末尾までを引用する。

ただし、原判決四枚目裏七行目の「組合長が、」の次に「同年夏ころ」を加え、同裏一〇行目及び同五枚目表六行目の各「解除」の前にそれぞれ「合意」を加え、同表一行目の「右同日」を「昭和五六年一二月二二日」に改め、同表一一行目の「黒島二郎、」の次に「同野中隆夫、」を加える。

2  控訴人大隅は、被控訴人には控訴人須永が上村組合長と知り合う前から組織ぐるみの不正融資、不正貸付による不良債権があったが、武尊の代表者である野中隆夫は、上村組合長の求めに応じて、野中が代表者をしている大地が振出した本件約束手形を、右不良債権の穴埋めのため上村組合長に交付して合計六五〇万円を融通し、その後、控訴人信越が被控訴人のために本件約束手形金を立替払いし、右求償債権と本件建物の賃料債権を相殺充当する合意をして、それまで武尊が賃借していた本件建物を借り受け、さらに控訴人大隅が、昭和五八年一〇月一日被控訴人から本件建物を借り受けるに際し、控訴人信越から右求償債権を譲受け、被控訴人との間に、右求償債権と本件建物の賃料債権を相殺充当する旨合意した(本件充当契約)と主張し、控訴人須永はその旨供述する。

しかし、<書証番号略>、及び証人野中隆夫の証言によると、野中は昭和五六年末ころ、上村組合長から手形割引の依頼を受け、武尊では当座口座がなかったので、当座口座のある大地の名義で本件約束手形を振出して融通し、本件約束手形の決済は、被控訴人ではなく、控訴人須永が経営する控訴人信越が行ったが、控訴人信越が右決済するに至った経緯は分からないというのであり、また当時、控訴人主張どおり被控訴人の組織ぐるみの不正融資があったとの事実は証拠上認めることができない。その他、被控訴人は本件約束手形に手形行為をしていないから、本件約束手形につき手形債務は負担していないこと、さらに被控訴人は農業協同組合として定款所定の事業を行うことにより組合員の農業生産力の増進と経済的社会的地位の向上を目的とする非営利法人であり、金員の借入先等については厳しい規制を受けているのに、被控訴人と控訴人信越間の本件約束手形金の立替払の依頼書、及び右求償債権と本件建物の賃料債権を相殺充当する旨の合意書、並びに控訴人信越と控訴人大隅の債権譲渡契約書、控訴人大隅と被控訴人間の右求償債権と本件建物の賃料債権を相殺充当する旨の合意書等が一切作成されていないことに徴すると、控訴人須永の前記供述部分は信用することができない。したがって、本件充当契約が成立したとの控訴人大隅の前記主張は採用できない。

3  よって、被控訴人の控訴人大隅への本件建物明渡請求は理由がある。

二控訴人大隅への売掛代金請求につき

1 控訴人大隅は、被控訴人の本件売掛代金請求に対し、同控訴人が振出し、被控訴人が裏書のうえ光和運輸有限会社で割引を受けた本件為替手形の手形金三一五万円を、同控訴人が被控訴人のために立替払して決済したと主張して右立替金の求償債権を自働債権として、昭和六一年二月一八日の原審口頭弁論期日に、対当額で相殺する旨意思表示をした。

一方、控訴人大隅は、右相殺の意思表示をする前の昭和五九年一二月二七日、長野地方裁判所松本支部に被控訴人を被告として、買い戻した本件為替手形金の請求訴訟[同裁判所昭和五九年(ワ)第一八一号]を提起した事実は当裁判所に顕著である。

ところで、係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは許されないと解するのが相当であるところ(最高裁平成三年一二月一七日判決・民集四五巻九号一四三五頁参照)、控訴人大隅が提起した右手形金請求訴訟の請求原因は、同控訴人の前記相殺の抗弁事実と実質上同一である(その後、右請求原因が右手形金の立替金請求に変更されている事実は当裁判所に顕著である。)から、同控訴人の前記相殺の抗弁は、民事訴訟法二三一条の重複起訴の禁止の趣旨から許されない。したがって、控訴人大隅の前記相殺の抗弁は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

2  よって、被控訴人の控訴人大隅への本件売掛代金請求はすべて理由がある。

三控訴人信越への売掛代金請求につき

1  控訴人信越は、被控訴人の本件売掛代金請求に対し、同控訴人が被控訴人との昭和五七年一一月一七日付消費貸借契約(弁済期昭和五八年一月一六日)により貸し付けた三〇〇万円の返還請求権を自働債権として、昭和六一年二月一八日の原審口頭弁論期日に、対当額で相殺する旨意思表示をした。

一方、控訴人信越は、右相殺の意思表示をする前の昭和六〇年四月一六日、長野地方裁判所松本支部に被控訴人を被告として、右消費貸借契約に基づく三〇〇万円ほかの貸金返還請求訴訟[一審長野地方裁判所松本支部昭和六〇年(ワ)第五七号、二審東京高等裁判所平成三年(ネ)第四四三九号]を提起した事実は当裁判所に顕著である。

そうすると、控訴人信越の前記相殺の抗弁は、前同様、民事訴訟法二三一条の重複起訴の禁止の趣旨から許されないので、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

2  よって、被控訴人の控訴人信越への本件売掛代金請求はすべて理由がある。

四控訴人須永への貸金請求につき

1  <書証番号略>及び証人米山文男の証言によると、被控訴人と控訴人須永との間に、昭和五八年八月一九日被控訴人が同控訴人に七〇〇万円を、弁済期同年九月八日、利息年9.25パーセント、遅延損害金年14.6パーセントの割合による約定で貸し付けた旨の借用証書が作成され、控訴人須永の貯金口座に右金員が振り込まれた事実(本件貸付)が認められる。

これに対し控訴人須永は、被控訴人は武尊を川口町に招請する条件として、武尊が本件建物に設置した機械設備代金七〇〇万円を負担することにしていたが、本件建物を武尊に替わり控訴人信越が賃借した際、控訴人須永が右代金を立て替えて武尊に支払い、被控訴人は控訴人須永への右立替金の返済のため、形式上借入という形式をとって処理したものであるから、本件貸付は名義貸しとして無効であり、同控訴人に返済義務はないと主張し、その旨供述する。

しかしながら、<書証番号略>、及び証人野中隆夫の証言によると、武尊が昭和五六年に本件建物に饅頭製造工場を設置するために要した費用は、当初武尊が負担することになっていたが、武尊が昭和五七年に本件建物から撤退する際、控訴人須永に工場の権利と機械設備を七〇〇万円で買い取ってもらったが、武尊の代表者である野中は、これらの費用を被控訴人が負担することになっていたということは知らないというのであり、他に控訴人須永の主張を裏付けるに足りる、被控訴人が右代金を負担することを約した書証等は提出されていないから、控訴人須永の前記供述部分は信用できない。したがって、控訴人須永の前記主張は採用できない。

2  よって、被控訴人の控訴人須永への本件貸金返還請求は理由がある。

第五結論

以上によると、被控訴人の控訴人らに対する本訴請求は、いずれも理由がある。よって、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は正当であり、控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官伊藤滋夫 裁判官宗方武 裁判官水谷正俊)

別紙手形目録

(一) 金額 金三〇〇万円

振出日 昭和五六年一二月七日

振出地及び支払地 群馬県沼田市

振出人 株式会社大地

満期 昭和五七年三月三一日

支払場所

利根郡信用金庫本店営業部

受取人兼第一裏書人 黒島二郎

右被裏書人

被控訴人川口町農業協同組合

(二) 金額 金三五〇万円

振出日 昭和五六年一二月七日

振出地及び支払地 群馬県沼田市

振出人 株式会社大地

満期 昭和五七年四月二〇日

支払場所

利根郡信用金庫本店営業部

受取人兼第一裏書人 黒島二郎

右被裏書人

被控訴人川口町農業協同組合

(三) 金額 金三一五万円

振出日 昭和五八年一〇月一九日

振出地

長野市大字鶴賀七瀬三六二番地

振出人 控訴人大隅

満期 昭和五八年一二月二八日

支払地 新潟県北魚沼郡川口町

支払場所

被控訴人川口町農業協同組合

支払人兼引受人 上村一夫

受取人兼第一裏書人 控訴人大隅

右被裏書人 白地

第二裏書人

被控訴人川口町農業協同組合

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