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東京高等裁判所 平成3年(ネ)1265号 判決 1991年11月26日

控訴人 株式会社 三博モンタボー

右代表者代表取締役 竹井博康

右訴訟代理人弁護士 田淵智久

同 小林啓文

控訴人補助参加人 株式会社日活スペースデザイン

右代表者代表取締役 山田安邦

右訴訟代理人弁護士 遠藤義一

控訴人補助参加人 株式会社東洋社

右代表者代表取締役 阿萬新吾

右訴訟代理人弁護士 井波理朗

同 太田秀哉

同 柴崎伸一郎

控訴人補助参加人 ネップー橋本機械株式会社

右代表者代表取締役 橋本栄一

右訴訟代理人弁護士 船戸実

同 中城重光

被控訴人 鈴木晴美

右訴訟代理人弁護士 川又昭

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、金五二〇万二八〇〇円及びこれに対する平成元年一二月二三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、これを五分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とし、参加によって生じた費用は全部補助参加人らの負担とする。

三  この判決は、第一項1に限り、仮に執行することができる。

事実

一  控訴人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の控訴人に対する請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決事実摘示記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四枚目表九行目から同末行までを次のとおり改める。

「(三) 休業損害金二一一万五八八四円

被控訴人は、本件火災当時、被控訴人店舗の経営を従業員の浅野肇に任せ、浅野は、売上げから被控訴人に対し毎月一五万円を支払い、経費を除いたその余の利益を給料として取得していた。しかして、昭和六三年度一年間の被控訴人店舗の総売上は合計金九八二万五四二〇円であり、そのうち、被控訴人が直接取得した金員は合計金一八〇万円、浅野が取得した金員は合計金四八六万三五三七円であった。被控訴人と浅野との契約関係は本件火災により終了したが、被控訴人は、浅野との間で支払を約しているわけではないものの、浅野に対し、給料補償を考えている。このような事情を考慮すれば、被控訴人は、本件火災により、被控訴人取得金額の六ケ月分金九〇万円と、浅野に対する給料補償費として浅野取得金額の三ケ月分金一二一万五八八四円の合計金二一一万五八八四円の損害を被ったとみるのが相当である。」

2  同四枚目裏八行目の次に以下のとおり加える。

「休業損害に関していえば、被控訴人が昭和六三年度中に浅野が取得したと主張する合計金四八六万三五三七円は、浅野と三人のパートタイマーの給料の総額であるから、これを浅野がすべて取得していたものではない。また、被控訴人が法律上浅野に対し給料を補償する義務は存在せず、本件火災後両者間に補償に関する話し合いもないのであるから、浅野に対する給料補償は、本件火災と相当因果関係にある損害とはいえない。

三  《証拠関係省略》

理由

一  当裁判所は、被控訴人の本訴請求は、主文第一項1掲記の限度で理由があり、その余は理由がなく、失当として棄却さるべきものと判断するが、その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一一枚目裏一〇行目から同一二枚目裏三行目までを次のとおり改める。

「本件パン焼機は、右のように高温多量の排気を発生させ火災発生の危険性が高いものであるため、その設置に当たっては、茅ヶ崎市火災予防条例上からも、火災防止策をとることが要請されていた(同条例三条(22))。しかるに、本件パン焼機の燃焼熱の排気筒は、右のような高温多量の排気が出ることを想定して工事が行われず、同条同号の要求にも反するものであった。すなわち、同条同号によれば、本件の如き炉に付属する排気筒については、金属又は石綿セメント製のものは木材その他の可燃物から一〇センチメートル以上(炉又はかまどから長さ一・八メートル以内のものにあっては一五センチメートル以上)離して設置するか、厚さ一〇センチメートル以上の金属以外の不燃材料で被覆するか(キ)、又は、可燃性の壁を貫通する部分は眼鏡石その他これに準ずる物をはめ込むことを要し(ク)、可燃性の壁を貫通する部分及びその付近において接続しないこと(ケ)とされているのであるが、本件パン焼機の排気筒には防火被覆が施されておらず、これが板壁を貫通する部分は壁材と一定の距離が保たれておらず、眼鏡石等の不燃物もはめこまれていなかった。このため排気筒が直接板壁に接した状態になっており、また、排気筒が寸足らずで壁の中を貫通しておらず、排気が壁の中を進入するようになっていた。加えて、排気筒の排出口に七二度で溶解されるヒューズ付の防火ダンパーが設置され、ダンパーが閉じられた場合は排気がそこで遮断され、煙突構造が阻害されるようになっていた。なお、右防火ダンパーは、建物内部で火災が発生した場合、温度ヒューズが溶断されてダンパーが閉じられ、炎が外部に出ないようにするものであり、本件パン焼機のような高温排気の排気筒には設置してはならないものであった。」

2  《証拠付加省略》

3  同一三枚目表一行目の次に行を改め以下のとおり加える。

「なお、被控訴人の従業員浅野肇は、平成元年六月二三日朝出勤した際、二階に通ずる階段付近で異常な熱さと異様な臭いを感じ、本件パン焼機が稼働し始めたことによるものであると考えていた。ところが、翌日もこれが続いた上、被控訴人店舗の床や壁までも熱くなってきたため、浅野は、同日午後、控訴人店舗を訪れ、従業員の佐々木と補助参加人株式会社日活スペースデザインの従業員に対し、その旨を指摘し、熱くなっている壁や床に手を触れてもらい善処を促したが、同人らは、臭いは石綿のせいであり、熱さは一階の控訴人店舗の空調機が壊れているせいであると即断して、本件パン焼機になんら注意を払わず、営業運転を継続させ、その結果、右のとおり、二日後に本件火災が発生するに至ったものである。」

4  同一三枚目裏三行目の「明らかであり、」の次に「また、その管理に十全を欠く点があったのであるから、」を加える。

5  同一三枚目裏六行目から同一四枚目裏一行目までを次のとおり改める。

「(二) ところで、控訴人は、本件火災には失火責任法の適用があり、控訴人は重過失がない限り被控訴人に対し損害賠償責任を負うものではないと主張する。しかしながら、民法七一七条が、いわゆる危険責任の法理に基づき、土地の工作物を管理又は所有する者に対し、その設置又は保存の瑕疵により他人に与えた損害につき無過失の賠償責任を負わせていることに鑑みれば、いやしくも右工作物の設置保存の瑕疵に起因して火災が発生した以上、同条が優先的に適用されるとみるべきものである。このように解すると、工作物の設置保存の瑕疵により火災が生じた場合は、それ以外の失火の場合と対比して、工作物の管理又は所有者の責任が大きくなることは否めないが、そのような結果は、前記のような危険責任の法理からしてやむをえないものというべきである。また、もとより、工作物責任といえども、設置保存の瑕疵と相当因果関係にある損害のみが賠償の対象になるのであって、その責任の及ぶ範囲が無限定なものとなるわけのものではない。本件の場合、被控訴人店舗と控訴人店舗とは、前記のとおり、同一木造建物の中の一階と二階に存し、両者の間は木造の天井、床で区画され、特別の防火設備は施されていなかったというのであるから、本件火災により被控訴人店舗に生じた損害は、これと相当因果関係にある損害として、賠償の対象になるものというべきである。」

6  同一五枚目裏九行目の「一ないし四」の次に「並びに弁論の全趣旨」を加え、同一六枚目表三行目の「原告」から同九行目末尾までを「被控訴人と浅野との契約関係は、本件火災によりやむなく終了せざるをえなくなったが、被控訴人は、浅野に対し、格別給料補償等の支払をすべき法律上の義務はなく、また、かかる支払をすべき契約上の取り決めについてはなんらの主張がない上、現実の支払もしていないことが認められる。そうすると、被控訴人は、本件火災により、休業損害として、右被控訴人取得金額の六ケ月分金九〇万円の損害を被ったものとみることはできるが、それ以上に、控訴人に対し、浅野に対する給料補償等の支払を求めることは相当でない。」と改める。

二  よって、被控訴人の本訴請求は、損害金五二〇万二八〇〇円及びこれに対する訴状送達の日であることが記録上明らかな平成元年一二月二三日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべきであるから、これと異なる原判決を右の趣旨に変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 伊藤瑩子 近藤壽邦)

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