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東京高等裁判所 平成2年(行コ)149号 判決 1991年5月27日

東京都江戸川区東小岩五丁目二一番六号

控訴人

高橋和明

東京都江戸川区平井一丁目一六番一一号

被控訴人

江戸川税務署長 横山義男

右指定代理人

若狭勝

小此木勤

砂川功

上賢清

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が昭和六三年一〇月三一日付けでした、控訴人の昭和六二年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべきでない旨の通知処分及び同年分の所得税の更正をいずれも取り消す。

第二事実の概要

事実の概要は、原判決二枚目裏七行目と同八行目との間に改行して次のとおり付加するほかは、原判決の事実及び理由欄の第二に摘示のとおりであるから、これを引用する。

「そして、右主張の根拠を具体的に述べると、次のとおりである。

(一)  主たる所得者以外の親族の資産所得の金額が、配偶者控除の額又は扶養控除の額に相当する金額を超えない場合であっても、本件特例を適用するようにしないと、同一所得であっても、課税額の異なることが生じるばかりでなく、不労所得である資産所得の少ない世帯の方が、その多い世帯よりも多額の税金を支払わなければならないという重大な誤りが生じる。

(二)  また、扶養控除の対象とならない程度の資産所得があり、かつ、その金額が扶養控除の金額を超えない場合には、資産所得が低いほど税率が高くなるという逆累進課税が生じることになり、税法の根幹を犯すことになる。

(三)  所得税法九六条ないし一〇一条の趣旨は、主たる所得者以外の親族の資産所得の金額が配偶者控除の額又は扶養控除の額に相当する金額を超えない場合には、資産合算をしなくてもよいというにすぎないものであり、その場合には資産合算をしてはならないということではない。

(四)  したがって、右資産所得の金額が配偶者控除の額や扶養控除の額に相当する金額に達していない場合であっても、納税者が前記のような不当な不利益を被るときには、本件特例の適用を認めるべきである。」

第三判断

一  当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がないから、これを棄却すべきものと判断する。そして、その理由は、原判決六枚目裏四行目の「そして、」から同七枚目表一行目の「立証もない。)。」までを次のとおり訂正するほかは、原判決の事実及び理由欄の第三に説示のとおりであるから、これを引用する。

「そして、所得税法のこのような規定の仕方と、前記した本件特例が設けられた立法趣旨とからすれば、本件特例は、あくまでも前者の場合に限り、同一世帯の親族の資産所得の金額を合算し、これに課税することによって、同一世帯の親族個人の資産所得毎に課税を行う場合よりも多額の税収を確保するとともに、課税の公平を図ることを狙いとした例外的な制度にすぎず、後者の場合には、むしろ原則にもどって、個人課税を貫くことにしたものであって、これは立法の裁量の範囲内に属する問題と解すべきである。したがって、控訴人の主張は、法が本来予定していない場合についてまで本件特例を適用すべきことを主張するものにすぎず、採用することができない。」

二  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥村長生 裁判官 鬼頭季郎 裁判官 富田善範)

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