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東京高等裁判所 平成11年(ネ)511号 判決 1999年7月19日

主文

一  一審被告らの控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。

1  一審被告らは、一審原告らに対し、各自金二四九九万二二六三円ずつ及びこれに対する平成八年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  一審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

二  一審原告らの控訴をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審ともこれを五分し、その三を一審原告らの、その二を一審被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項1に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一申立て

(一審原告ら控訴事件)

一  一審原告ら

1 原判決中、一審原告ら敗訴部分を取り消す。

2 一審被告らは、一審原告らに対し、各自金二〇七九万六七一五円ずつ及びこれに対する平成八年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は第一、二審とも一審被告らの負担とする。

4 2、3につき仮執行の宣言

二  一審被告ら

控訴棄却

(一審被告ら控訴事件)

一  一審被告ら

1 原判決中、一審被告ら敗訴部分を取り消す。

2 一審原告らの請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は、第一、二審とも一審原告らの負担とする。

二  一審原告ら

控訴棄却

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決「事実及び理由」第二に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決五頁初行の「智子は、」の次に「側溝に脱輪して」を、同六頁四行目の「受傷した」の次に「(以下、この事故を「本件事故」という。)」を各加え、同五行目の「病院」を「福島県会津若松市所在の財団法人日楡総合会津中央病院(以下「総合会津中央病院」という。)」に改め、同五行目から同六行目にかけての「一六日、」の次に「同病院で、」を加え、同一〇行目の「自賠法」を「自動車損害賠償保障法」に改め、同七頁初行の「髙畑忠德」の次に「(以下「忠德」という。)」を、同行目の「髙畑周子」の次に「(以下「周子」という。)」を各加え、同七頁四行目の「自賠責保険」を「自動車損害賠償責任保険」に改める。

2  原判決八頁三行目の「衝突回避」を「衝突を回避」に、同四行目の「結果」を「本件事故」に各改め、同一〇行目の「滑走して」の次に「反対側道路の側溝に脱輪して」を加え、同行目の「松嶋にとって」を「松嶋が」に、同八頁末行から同九頁初行にかけての「松嶋車は、」を削り、同九頁初行の「ばかりであり、この車両」を「ばかりの松嶋車」に改める。

3  原判決一一頁九行目の冒頭に「本件事故後、智子は直ちに総合会津中央病院に緊急入院したが、」を、同一〇行目の「高く、」の次に「家族が協力し総動員で待機する必要があり、」を、同一二頁五行目の次に改行して「智子は交際範囲が広く、社内で上司、部下双方から人望が厚く、その死は多くの者に悼まれ、多数の葬儀参列者があったため葬儀費用も高額にならざるを得ず、また、遠隔地会津市で死亡したため、搬送関係費として一二万三〇八六円の支出を余儀なくされ、現実に合計五六二万七二五四円を支出した。」を各加える。

4  原判決一二頁九行目の「給与規定」を「給与規程」に、同一三頁一〇行目の「確からしさ」を「確実性」に、同一四頁一〇行目の「基礎収入とし」を「基礎収入とするのが相当であり、そして」に、同末行の「したものである」を「すべきである」に各改める。

5  原判決一五頁三行目の「当事者の公平の観点から、利率は」を「智子の就労可能期間を通じ一審原告らが取得できるであろう利息の利率を平均しても」に、同四行目の「考える」を「考えられ、当事者の公平という観点からみても右利率が相当である。」に各改め、同六行目の「である。」の次に「仮に、一率に三パーセントと解することができないとしても、今後三八年間の利率を段階的に考えるべきである。」を、同一〇行目の「方式」を「ホフマン」を各加える。

6  原判決一六頁初行の「退職金規定」を「退職金規程」に改め、同一七頁三行目の「同率」の次に「の五〇パーセント」を加え、同九行目の「その」を「智子の」に改め、同一〇行目の末尾の次に「また、一審被告らは一審原告らに対し、心底から謝罪する姿勢はなく、反省の色は全くみられない。」を加える。

7  原判決一九頁六行目の「遅延損害金」から同七行目の「行われており」までを「一審原告らが主張するように」に改め、同八行目の「確かであるが、」の次に「遅延損害金の民事法定利率は年五パーセントと規定されており、」を、同九行目の「当たっては」の次に「右」を各加える。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決「事実及び理由」第三に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二一頁八行目の「凍結していたが」を「凍結し滑りやすい状態であったが」に改め、同二二頁七行目の「智子は、」の次に「側溝に脱輪して」を、同一〇行目の「走行状態で」の次に「スリップすることなく」を各加え、同二三頁九行目の「はきかえた」を「交換した」に改め、同末行の「カーブ」の前に「右」を加え、同行目から同二四頁初行にかけての「道路は」を「道路が」に改める。

2  原判決二四頁九行目の「松嶋車の事故の」を「松嶋車の前記スリップ事故の」に改め、同末行の「認められ、」の次に「本件事故現場付近を」を、同二五頁二行目の「道路」の前に「本件」を各加え、同四行目の「高度」から同六行目の「予想は」までを「通常の運転操作によれば、その可能性は高いものとはいえず、また、仮に若干のスリップがあったとしても、それにより本件のような事故の発生を予想することは」に、同七行目から同八行目にかけての「ないと」を「なかったと」に、同九行目の「あったと」を「あったことは」に各改め、同一〇行目の「事故」の前に「本件」を加える。

3  原判決二六頁三行目の末尾に次のとおり加える。

「一審被告らは、智子が本件事故のあった場所から何メートルか離れた場所に回避していれば本件事故は避け得た趣旨の主張をするが、前記説示の本件事故現場付近の状況から智子らはライトをつけた松嶋車の脇で救援を待っていたのであり、他の暗い場所に立つよりは安全であると考えられ、一審被告らの右主張は採用しない。」

4  原判決二六頁一〇行目の「三三日」を「三三日間」に改め、同末行の「(甲四)」の次に「及び弁論の全趣旨」を、同二七頁三行目の「できるが、」の次に「支出自体によって入院期間後も若干の残存価値のある物も含まれており、本件全証拠によるも」を各加え、同四行目の「のは相当ではない」を「ことはできない」に改める。

5  原判決二七頁七行目及び同九行目の「原告髙畑周子」を「一審原告周子」に、同一〇行目の「原告髙畑忠德」を「一審原告忠德」に各改め、同末行の「入院期間中、」の次に「智子は集中治療室で完全看護体制で治療を受けていたこと(甲三四、一審原告髙畑周子)を考慮すると」を加え、同二八頁三行目の「経験則上、」を「弁論の全趣旨によれば」に改め、同九行目の「一五四円」の次に「(消費税込み)」を加える。

6  原判決二八頁末行の「一万一九〇〇円」を「四八万〇六四〇円」に改め、同二九頁二行目の「ために」の次に「現実に」を加え、同三行目の「、このうち」から同六行目の末尾までを「が認められ、担当医師からは家族の一名が付添待機するよう指示があったことは前記認定のとおりであるが、右証拠によれば、智子の入院先が一審原告らの住所地から離れた遠隔地の病院でありその付添も家族全員の協力の下になされる必要があったこと、智子は瀕死の重傷を負って緊急入院したものであり、家族の情愛としてその安否を気遣い見舞うのは当然であること、右四八万〇四六四円の中に特段不必要な支出は存しないことが認められ、これによると右四八万〇四六四円は本件付添看護等に必要な交通費と認めるのが相当である。」に改める。

7  原判決二九頁七行目の「五〇万円」を「一〇〇万円」に、同八行目の「智子の」を「智子が瀕死の重傷を負い緊急入院し、意識が回復しないままに死亡したこと及びその」に、同八行目から同九行目にかけての「五〇万円」を「一〇〇万円」に、同三〇頁初行の「経験則上、」を「弁論の全趣旨によれば」に各改め、同二行目の「葬儀費用は、」の次に「遺体搬送料を含め」を加える。

8  原判決三〇頁四行目の「七一三二万八八〇五円」を「四七六三万六一〇二円」に改め、同五行目の「証人田本)」の次に「及び弁論の全趣旨」を加え、同七行目の「訴外会社」から同八行目の「こと」までを「いわゆる外資系企業である訴外会社に入社し、システムエンジニア候補生として、情報管理部門に配置され、約一年間社内の訓練機関においてシステムエンジニアの訓練を受け、システムエンジニアになり、入社四年目には副主任になったこと、情報管理部のうち智子の所属部門の仕事は、社内の業務のコンピューターシステムの開発及び保守で、智子はそこで訴外会社の開発したコンピューターシステムの保守管理をしたり、システムを拡張するなどシステムエンジニアとして専門的な業務に従事していたこと」に改め、同一〇行目の「将来、」を「本件事故当時においては、訴外会社の」を各加え、同末行の「訴外会社は」を「訴外会社の給与規程には」に、同三一頁初行の「行われていたこと」を「行われる旨」に、同八行目の「限定」を「限定される旨規定」に各改め、同一〇行目の「右認定」の前に「ところで、死亡による逸失利益を算定するに当たっては、原則として事故時に被害者の得ていた収入を基礎として算定すべきであるが、死亡当時安定した収入を得ていた被害者において、生存したならば将来昇給等による収入の増加を得たであろうことが、証拠に基づいて相当な確かさをもって推定できる場合においては、右昇給等の回数、金額等を予測し得る範囲で控えめに見積もって、これを基礎として将来の得べかりし収入額を算出することは許されるものと解せられるところ、」を加え、同末行の冒頭から同行目の末尾までを「定期昇給をしていた可能性は否定できないが、訴外会社の前記給与規程が現実にどのような基準で運用されていたのか、訴外会社における定期昇給額、昇級率等の昇給方式についての定めの存否、その内容等は証拠上明らかでなく、また、訴外会社における智子と同年齢、同能力、同職務の者の具体的昇給額又は昇級率等も証拠上明らかではない本件においては、一般的な昇給に関して定めた前記給与規程及び前記事実のみでは、昇級についての抽象的な期待利益が存するものの、将来における智子の昇給の回数、金額等につき予測することは困難である。また、一審原告らは、本件事故の前年度の訴外会社における智子の年収と平成七年度賃金センサス旧大新大卒・金融保険業・一〇〇〇人以上の男子労働者(二五歳から二九歳まで)の年収が比較的近い数値であること等から、右平成八年賃金センサスの全年齢平均年収額八七六万〇五〇〇円を、智子の逸失利益の算定の基礎収入とすべきである旨主張するが、なるほど、」に改める。

9  原判決三二頁九行目から同一〇行目にかけての「ことができる」から同三三頁七行目の末尾までを次のとおり改める。

「ことができるが、いわゆる外資系企業におけるシステムエンジニアという専門職にある智子が訴外会社で将来得たであろう収入を業種、業態が異なる前記賃金センサス金融保険業等の全年齢平均年収額に準じて考えることの合理的な根拠に乏しく、また、両者の賃金体系も証拠上明らかでなく、将来智子が少なくとも右年収額と同額程度の収入を得たであろうことを窺わせる証拠は全くなく、一審原告らが主張するように訴外会社と業種の異なる前記賃金センサスを参考にし、智子の逸失利益算定の基礎収入を推定することは相当ではない。

そこで、他に適切な証拠のない本件においては、智子の逸失利益の算定に当たっては、智子の事故前の収入である年収五七六万九一七七円を基礎収入とするのが相当であり、右年収に生活費控除率を五〇パーセントとして、ライプニッツ式計算法により年五パーセントの割合による中間利息を控除して逸失利益を算定すると、四四九七万八八一一円(小数点以下切り捨て、以下同様である。)となる(別紙計算式(1))。」

10  原判決三三頁八行目の「次に、」の次に「智子は、」を加え、同九行目の「平成」から同一〇行目の末尾までを「平成八年賃金センサス産業計・全労働者六〇歳から六四歳の平均年収四一六万八三〇〇円の」に改め、同末行の「できるから」の次に「(前示のように、一審原告らが主張する賃金センサスを適用することは相当ではなく、他に的確な証拠のない本件においては前記賃金センサスによるのが相当である。)」を加え、同三四頁二行目から同三行目にかけての「三〇二万八四四三円となる」を「二六五万七二九一円となる(別紙計算式(2))」に改め、同四行目冒頭から同五行目末尾までを削る。

11  原判決三四頁九行目の「主張するが、」の次に「中間利息を控除する場合に、一般にその利率を年五パーセントとしているのは、将来得べかりし収入が現在価格で一時に支払われる場合には様々な有利と思われる利殖、運用をすることができること、他方では支払う側の負担等を考慮し、民事法定利率を参酌したものであり、特に、」を加え、同三五頁初行から同二行目にかけての「三パーセント」から同二行目の「できず」までを「変動し五パーセントを超えることも十分に考えられ」に改め、同三五頁七行目の「主張するが、」の次に「右いずれの方式を採用すべきかは、一律に決せられるべきものではなく、結局損害の公平な負担という見地から決められるべきものであるところ、」を、同行目の「特に、」の次に「本件のごとき」を各加える。

12  原判決三五頁一〇行目の「三二四万三一八〇円」を「一〇〇万八六〇三円」に、同三六頁八行目の「支払われていること」から同末行の「一〇四六万九七〇〇円」までを「支払われていることが認められ、訴外会社での智子の定年時における年収について的確な証拠のない本件においては、智子は、定年時に少なくとも死亡前年の年収額である五七六万九一七七円を得たものと認められ、右収入を本件退職金算定の基礎年収とするのが相当である(前示のように一審原告らが主張する賃金センサスによるのは相当ではなく、また、前記賃金センサス平成八年度の産業計・全労働者の五五歳から五九歳までの年収は五六六万三三〇〇円であるから、本件においては前記智子の死亡前の年収を本件退職金算定の基礎収入とするのが相当である。)。

右年収五七六万九一七七円」に、同三七頁三行目の「三二四万三一八〇円となる」を「一〇〇万八六〇三円となる(別紙計算式(3))」に各改め、同五行目冒頭から同六行目末尾までを削る。

13  原判決三七頁七行目の「一八〇〇万円」を「二〇〇〇万円」に、同八行目の「などの」を「及び前示の昇給の期待その他の」に、同一〇行目の「一八〇〇万円」を「二〇〇〇万円」に、同末行の「一億〇四四六万一一八七円」を「八一五〇万二六四七円」に、同三八頁三行目の「六四九四万三〇六七円」を「四一九八万四五二七円」に各改める。

14  原判決三八頁六行目の「六四九四万三〇六七円」を「四一九八万四五二七円」に、同七行目の「三二四七万一五三三円」を「二〇九九万二二六三円」に、同末行の「各三〇〇万円」を「各二〇〇万円」に、同三九頁三行目の「三〇〇万円」を「二〇〇万円」に各改める。

二  以上によれば、一審原告らの本件請求は、一審原告らが、一審被告らに対し、連帯して二四九九万二二六三円ずつ及び平成八年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。

三  よって、一審原告らの一審被告らに対する本件請求は、右の限度で理由があり、その余は理由がなく、一審被告らの本件控訴は一部理由があるから、原判決を本判決主文のとおり変更し、一審原告らの本件控訴は理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条、六五条、六四条、六一条を、仮執行の宣言につき同法二九七条、二五九条一項、三一〇条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 筧康生 滿田忠彦 澤田英雄)

別紙 計算式

(1) 576万9177円×(1-0.5)×15.5928=4497万8811円

(2) 416万8300円×(1-0.5)×(16.8678-15.5928)=265万7291円

(3) 576万9177円×1/12×51.79×(1-0.5)×0.2203-173万4000円=100万8603円

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