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東京高等裁判所 平成11年(ネ)4182号 判決 1999年11月24日

控訴人(原告) 若松運輸株式会社

右代表者代表取締役 関口稔

右訴訟代理人弁護士 秋田良一

被控訴人(被告) 全日本運輸一般労働組合千葉地域支部

右代表者執行委員長 本田英次

被控訴人(被告) 全日本運輸一般労働組合 千葉地域支部若鉄運輸分会

右代表者分会長 藤枝宏嗣

右両名訴訟代理人弁護士 守川幸男

同 白井幸男

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して一〇〇万円及びこれに対する平成一〇年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

第二事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり付加訂正するほか、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決一丁裏一三行目の「明らかに認められる事実等」の次に「(争いのない事実には証拠を掲記しない。)」を加え、同二丁表九行目の「要望書」を「『要請書』と題する書面」に訂正する。

二  原判決二丁裏八行目の「傷つる」を「傷つける」に、同九行目の各「アイテック」をいずれも「アイ・テック」にそれぞれ訂正し、同一一行目の「被告らの」の前に「控訴人は、」を加える。

三  原判決三丁裏六行目の「組合潰し」を「脱退の強要」に、同四丁表七行目の「配付」を「配布」に、同四丁裏八行目の「受注」を「発注」にそれぞれ訂正する。

四  原判決四丁裏一三行目の「組合崩し」を「脱退の強要」に、同五丁表八行目の「不誠実の」を「不誠実な」に、同丁裏三行目及び一二行目の「過ぎない」を「すぎない」に、同六、七、八行目の「ボーナス」を「一時金」にそれぞれ訂正する。

第三当裁判所の判断

当裁判所も、本件全資料を検討した結果、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は、以下のとおりである。

一  組合活動と使用者の名誉・信用の毀損の成否

本件要望書において、具体的事実を摘示して控訴人が不当労働行為を行った旨を明らかにした表現は、「(平成九年)九月一四日(に被控訴人運輸分会を)結成したところ、会社(控訴人)は、脱退の強要・団体交渉の拒否・組合活動を理由に出勤停止処分にしたり・配車差別による賃金ダウン・年末一時金を組合員だけに支給しないと云う攻撃を企ています。」という部分があり、形式的には、これが控訴人の名誉・信用を毀損するものであることは疑いを容れない。

しかしながら、労働組合が使用者の取引先に対して配布した要望書の内容・表現が、結果的に使用者の名誉・信用を毀損する場合であっても、表現内容の真実性、表現自体の相当性、表現活動の動機、態様、影響等一切の事情を総合し、正当な組合活動として社会通念上許容された範囲内のものであると判断される場合には、違法性が阻却されると解すべきである。そこで、本件要望書に具体的に摘示された事実(①控訴人の組合員に対する被控訴人運輸分会からの脱退の強要、②団体交渉の拒否、③組合活動を理由とする懲戒処分{出勤停止処分}、④配車差別による賃金ダウン、⑤被控訴人運輸分会の組合員に対する年末一時金の不支給)の真実性を検討した上で、表現自体の相当性、表現活動の動機、態様、影響等を総合し、本件送付の違法性の有無を判断する。

二  表現内容の真実性

1  控訴人による脱退の強要

《証拠省略》によれば、被控訴人運輸分会は、控訴人から支給される賃金が少ないこと等の不満を抱く有志により結成され、平成九年九月一四日に結成大会が開催されたこと、右結成直後の時点で被控訴人運輸分会に加入した組合員は四五人(結成大会参加者は二八人)であったが、一週間で一六人に減少し、平成一〇年一〇月一三日の時点では七人まで減少したこと、控訴人の取締役である関口公子は、右結成大会の最中から、各組合員の携帯電話に架電し、組合から脱退しないと車両の仕事をなくすなどと言って被控訴人運輸分会からの脱退を働きかけ、同被控訴人の書記長宅まで抗議の電話を架けたこと、控訴人側から各組合員に対する脱退を説得する電話は、組合員総数の約八割にものぼったこと、平成一一年二月二六日、千葉県地方労働委員会は、控訴人が被控訴人運輸分会の組合員に対し、組合からの脱会を強要した旨を認定し、控訴人に対し、同被控訴人からの脱会を強要することを禁止する命令を発したこと(千労委平成九年(不)第四号)が認められる。

以上の事実によれば、控訴人から被控訴人運輸分会の組合員に対し、かなり強力な脱退工作が繰り返し行われたことが推認されるから、本件要望書に記載された控訴人による「(被控訴人運輸分会からの)脱退の強要」という事実は真実であるということができる。

2  団体交渉の拒否

《証拠省略》によれば、控訴人は、被控訴人運輸分会が結成された後の平成九年一〇月六日、上部団体の役員を含めた団体交渉には応じられないとしてこれを拒否したこと、そこで、被控訴人千葉地域支部は、千葉県地方労働委員会に団体交渉のあっせんを申請した結果、同年一一月一九日付けで、控訴人は上部団体を含めた組合と団体交渉を行うことなどを内容とするあっせん案が成立したこと(千労委平成九年(あ)第二号)、しかし、控訴人は、平成一〇年一月二〇日、平成九年の冬季一時金問題に限定して団体交渉に応じたものの、その後は、団体交渉の会場となった千葉市内のホテルサンガーデンの会場使用料の半額(一万三、四千円)や光熱費などを負担しなければ団交に応じないとの態度を示し、被控訴人らとの団交を拒否していること、平成一一年二月二六日、千葉県地方労働委員会は、控訴人に対し、正当な理由なく団体交渉を拒否してはならないとの命令を発したこと(千労委平成九年(不)第四号)が認められる。

以上のような団体交渉の会場費や光熱費の負担に応じなければ団体交渉に応じないとの控訴人の態度は、使用者としての団交義務を誠実に果たしているとはいえないし、控訴人の団体交渉の拒否について正当な理由があると認めることはできない。したがって、本件要望書に記載された「(控訴人の)団体交渉の拒否」という事実は真実であるということができる。

3  組合活動を理由とする懲戒処分(出勤停止処分)

《証拠省略》によれば、平成九年九月一四日の被控訴人運輸分会の結成から平成一〇年四月三〇日までの間において、控訴人の同被控訴人の組合員に対する出勤停止を内容とする懲戒処分の数は、延べ五四回、日数にして二〇九日に及んでいること、この中には、従業員用のメールボックスへのビラ配布が控訴人の施設内の組合活動に当たるとして、また、電話で団体交渉の確認や催促をした行為が就労時間内の組合活動に当たるとして、それぞれされた懲戒処分も含まれていること、千業地方裁判所は、平成一一年一月四日、平成一〇年(ヨ)第三八三号未払賃金仮処分申立事件において、債権者藤枝宏嗣に対する控訴人の懲戒処分は、懲戒事由の存在が認められないから無効であると判断し、控訴人に対し賃金の仮払を命じていること、平成一一年二月二六日、千葉県地方労働委員会は、被控訴人の組合員である藤枝宏嗣及び高橋良に対する懲戒処分(右藤技については、控訴人役員宅及びその周辺へのビラ配布、前記従業員用メールボックスへのビラ配布を理由とするもの。高橋については、前記電話による団体交渉の確認や催促を理由とするもの。)は、組合を嫌悪しての不利益取扱いであり不当労働行為に当たると認定し、控訴人に対し処分の撤回等を命じたこと(千労委平成九年(不)第四号)が認められる。

以上の事実によれば、控訴人がした懲戒処分の対象となる行為には、懲戒事由に当たらないもの、あるいは、当該就業規則違反行為の態様に照らし出席停止処分とすることが相当でない軽微なものが含まれていると解されるから、控訴人がした出席停止処分には、組合活動を理由とする不当労働行為に当たるものがあると推認することができる。よって、本件要望書の「(控訴人は)組合活動を理由に出席停止処分にした」という事実も真実であるということができる。

4  配車差別による賃金ダウン

《証拠省略》によれば、被控訴人運輸分会の組合員は、同被控訴人結成後、担当車両をシングルトレーラーや重量トレーラーから一〇トントラックに変更されたり、担当車両の乗務から外されるなどしたこと(代わって、非組合員がその車両の乗務をするようになった。)、そして、控訴人の修理工場で車両整備作業や草むしり等の雑用をさせられることが多くなり、その結果、特車手当や長距離手当等の各種手当を受けられなくなるなど、手取賃金が減少したこと、平成一一年二月二六日、千葉県地方労働委員会は、控訴人が被控訴人運輸分会の組合員に対し配車差別を行ったことは不当労働行為に当たると認定し、控訴人に対し、配車差別などの不利益取扱いの禁止を命じたこと(千労委平成九年(不)第四号)が認められる。

これに対し、控訴人は、不況下で長距離輸送の仕事が減少し、賃金の良いトレーラーを運転する機会が少なくなったため、配車を変更せざるを得なくなったと主張しているが、以上の事実によれば、被控訴人運輸分会の組合員と非組合員との間において配車差別があったといわざるを得ず、これを仕事量の減少という理由のみにより正当化することはできない。したがって、被控訴人運輸分会の組合員らは、組合員であることを理由に配車差別を受け、その結果、手取賃金が減少したものであるから、本件要望書に記載された「(控訴人の)配車差別による賃金ダウン」という事実も真実であるということができる。

5  年末一時金の不支給

《証拠省略》によれば、控訴人は、例年、冬期及び夏期において、従業員に一時金を支給しており、平成九年一一月一〇日付け「平成九年度冬期賞与支給について」と題する社報でも、支給額は「前年並」とする旨を明らかにしていたこと、しかし、控訴人は、被控訴人運輸分会の組合員に対しては、平成九年の冬期一時金につき支給される具体的な金額を提示しないまま、「1 賞与の内容については、会社の方針に従います。2 賞与の支給内容に関しては、一切の異議申立をしないことを制約します。」との記載のある誓約書に署名押印して提出することを求め、この誓約書を提出しない限り一時金を支給しない旨を通告し、これに従わなかった組合員に右の一時金を支給しなかったこと、他方、非組合員に対しては、支給される具体的な金額を示し、誓約書の提出も求めず、全員に右の一時金を支給したこと、千葉地方裁判所は、平成一〇年一〇月二一日、同年(ヨ)第三八一号一時金仮払い仮処分命令申立事件において、控訴人に対し、被控訴人運輸分会の組合員らに対し右の一時金の仮払を命じたことが認められる。

以上のように、控訴人は、被控訴人運輸分会の組合員に対してのみ、平成九年の冬期一時金につきいかなる支給を受けようとも異議を述べない旨の誓約書の提出を求め、提出がない限り右の一時金を支給しない旨を通告したものであるが、このような控訴人の対応は、同被控訴人の組合員の控訴人に対する批判を封じようとする不当なものであるといわざるを得ない。そして、右の通告に対し誓約書を提出しなかった同被控訴人の組合員らは、右の一時金の支給を受けることができなかったものであるから、本件要望書に記載された「(控訴人は)年末一時金を組合員だけに支給しない」という事実も真実であるということができる。

三  違法性の有無

1  前記二で認定したように、本件要望書に記載された控訴人の不当労働行為を示す事実は、ことさら真実を歪曲して虚偽の事実を述べたものではないことが明らかである。その表現も、控訴人の行為の不当性を過度に強調するようなものではなく、概ね客観的な事実をありのまま記載しているということができる。

また、被控訴人らは、右の事実に続けて、平成一〇年二月一七日及び同月二六日に二四時間ストライキを決行し、デモも行ったこと、今後もさらなるデモを行う予定であるとした上で、「(控訴人との)取り引き関係者の各位様には大変ご迷惑をおかけしますがご理解とご協力をお願いし、関係各位様に応分の努力をして頂き若松運輸(控訴人)の組合つぶしをやめさせて正常な労使関係を築きあげるようご指導くださいますようご要請申し上げ、近日中に関係各方面に正式にご要請に伺いますのでよろしくお願い申し上げます。」と記載している。このような本件要望書の記載を全体として見ると、被控訴人らは、控訴人の取引先に対し、労使関係の現状を報告した上で、控訴人の組合員に対する従前の不当労働行為に対抗すべく今後もストライキやデモを計画しており、取引先に迷惑をかけるかもしれないことへの理解と協力を求めるとともに、取引先からも控訴人に対し、正常な労使関係を築くよう指導することを要請すべく、本件送付を行ったと認めることができるのであって、控訴人に対する嫌がらせや誹謗中傷を意図して行ったものとは認め難い。

さらに、被控訴人らが本件要望書を控訴人の取引先に送付したのは、平成一〇年二月下旬から同年三月上旬までの短期間に一回のみであり、その後控訴人の取引先に対し同様の行為は見られない。本件送付は、右のように一時的なものであることからして、控訴人の営業にそれほど影響を及ぼすものということはできない。

以上のように、表現内容の真実性、表現方法の相当性、表現活動の動機、態様、影響等を総合すると、被控訴人らの本件送付は、正当な組合活動として社会通念上許容された範囲内のものと解されるから、違法性はないというべきである。

2  もっとも、通常の労使紛争において、使用者の取引先にまで労働組合の主張を記載した文書を送付することは尋常であるとはいえず、その態様いかんによっては、実質的に控訴人の営業を妨害し、正当な組合活動の範囲を逸脱する場合もあり得る。しかしながら、これまで認定した本件要望書の記載内容、本件送付の動機、態様、影響、さらに、使用者側において度重なる不当労働行為があり、これを改める姿勢が見られないような場合、取引先からも使用者側に適切な助言がされることを期待して労働組合の主張を記載した文書を送付することもあり得ないではないことなどを考慮すると、被控訴人らの本件送付が、正当な組合活動の範囲を逸脱するものということはできない。

また、控訴人は、本件送付後、アイ・テック運輸からの発注がなくなったのは本件送付が原因であると主張し、控訴人代表者もこれに沿う供述をしている。しかし、平成一〇年二月一七日と同月二六日に行われたストライキの際も輸送の遅れなど取引に支障を生じさせるような問題は生じなかったことが認められるし、本件要望書の内容や本件送付の態様に照らしても、これが取引先をして控訴人に対する発注を停止させるほどのものとは考えられない。したがって、本件送付のみを理由に、アイ・テック運輸が控訴人への発注を停止したと認めることは困難であり、他に本件送付とアイ・テック運輸の発注停止との因果関係を認めるに足る的確な証拠を見いだすことはできない。

3  したがって、本件送付に違法性はないから、被控訴人らの行為は不法行為に当たるということはできず、控訴人の被控訴人らに対する損害賠償請求は理由がない。

三  結論

よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 小林正 萩原秀紀)

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