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東京高等裁判所 平成11年(ネ)3728号 判決 1999年10月27日

控訴人(被告・参加事件被告)

有限会社茨城計測

右代表者代表取締役

丹下潤一

右訴訟代理人弁護士

丹下昌子

小沼典彦

被控訴人(原告・参加事件被告)

豊島直美

被控訴人(原告・参加事件被告)

川崎光夫

右両名訴訟代理人弁護士

大和田一雄

木名瀬修一

被控訴人(参加事件原告)

住友海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

植村裕之

右訴訟代理人弁護士

土屋耕太郎

主文

一  原判決主文第四項を取り消す。

二  被控訴人住友海上火災保険株式会社の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じて、控訴人に生じた費用は、これを二分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人住友海上火災保険株式会社の負担とし、被控訴人住友海上火災保険株式会社に生じた費用は、被控訴人住友海上火災保険株式会社の負担とし、被控訴人豊島直美及び同川崎光夫に生じた費用は、これを二分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人住友海上火災保険株式会社の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  主文第四項を取り消す。

2  被控訴人住友海上火災保険株式会社の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

本件は、平成八年一二月一四日午前七時四五分ころ発生した交通事故により、豊島紀彦及び打越義博が死亡したことに関し、豊島紀彦の相続人(父母)である被控訴人豊島直美及び被控訴人川崎光夫が、控訴人に対し、自動車損害賠償保障法三条に基づき、打越義博の相続人(父母)である打越義也及び打越マキ子に対し、民法七〇九条に基づき、それぞれ損害賠償(被控訴人豊島直美につき二六七二万四七三四円、被控訴人川崎光夫につき二二九二万四七三四円。ただし、打越義也及び打越マキ子については、各自、右金額の二分の一の金額)を求めたところ(本訴請求)、控訴人との間で自動車総合保険契約を締結していた被控訴人住友海上火災保険株式会社が、本件事故については自動車総合保険契約第一章第八条(4)及び(5)に規定する免責事由がある旨主張し、控訴人並びに被控訴人豊島直美及び被控訴人川崎光夫に対し、保険金支払債務が存在しないことの確認を求めた(当事者参加請求)事案である。

原判決が、被控訴人豊島直美及び被控訴人川崎光夫の本訴請求を一部認容し、被控訴人住友海上火災保険株式会社の当事者参加請求を全部認容したところ、控訴人が、当事者参加請求について控訴を申し立てた。

以上のとおり、本件控訴は、控訴人が、被控訴人住友海上火災保険株式会社の当事者参加請求が認容されたことに対してのみ不服を申し立てたものなので、当裁判所は、右当事者参加請求に関係する部分についてのみ判断する。

一  前提となる事実(当事者間に争いのない事実は証拠を掲記しない)

1  控訴人は、水理の模型実験・調査等の港湾コンサルタント業務、土木工事等を業とする株式会社である(記録上明らかである。)。

2  控訴人は、平成八年四月一九日、被控訴人住友海上火災保険株式会社(以下「被控訴人住友海上火災」という。)との間で、控訴人所有の普通貨物自動車(水戸四四は一〇三六。以下「本件自動車」という。)を被保険自動車とする自動車総合保険契約を締結した。

右自動車総合保険契約には自動車総合保険普通約款が適用されるところ、自動車総合保険普通約款には、次のとおり規定されている(乙一三)。

第一章第八条

当会社は、対人事故により次の各号のいずれかに該当する者の生命または身体が害された場合には、それによって被保険者が被る損害に対しては、保険金を支払いません。

(1)ないし(3) 略

(4) 被保険者の業務(家事を除きます。以下同様とします。)に従事中の使用人(以下「本件免責約款」という。)

(5) 略

3  豊島紀彦(以下「豊島」という。)及び打越義博(以下「打越」という。)は、平成八年一二月一四日、次の交通事故(以下「本件交通事故」という。)で死亡した。

(一) 日時 平成八年一二月一四日午前七時四五分ころ

(二) 場所 茨城県鹿島郡大洋村大字台濁沢三〇八番地の三国道五一号線路上

(三) 加害車両 本件自動車

運転者  打越

同乗者  豊島

(四) 被害車両 大型貨物自動車(水戸八八あ二四二八)

運転者  岩井恵一

(五) 事故態様 打越が、本件自動車を運転して、右国道五一号線を大洗方面から鹿島方面へ向けて進行中、センターラインをはみ出して対向車線に進出して進行したため、対向車線を鹿島方面から大洗方面に進行してきた被害車両と正面衝突した(甲一、二)。

4  被控訴人豊島直美は、豊島の母、被控訴人川崎光夫は、豊島の父であり、本件事故に基づく豊島の損害賠償請求権を二分の一宛相続した。

5  控訴人は、本件自動車の保有者であり、自己のために本件自動車を運行の用に供していたから、自動車損害賠償保障法三条に基づき、本件事故により豊島が被った損害を賠償する責任が存する。

二  主たる争点

1  本件事故により豊島らが被った損害額

右争点に関する各当事者の主張は、原判決「事実」の「第二 当事者の主張」一3及び二3記載のとおりであるから、これを引用する。

2  豊島が控訴人の使用人といえるか

(一) 被控訴人住友海上火災の主張

(1) 本件事故において、本件自動車を運転していた打越及び本件自動車に同乗していた豊島は、いずれも控訴人に所属する人夫であるところ、豊島は、控訴人が請け負っている仕事現場に赴く途中で、本件事故により死亡したものである。

したがって、本件事故は、「被保険者の業務に従事中の使用人」が事故により死亡した場合に該当するから、被控訴人住友海上火災は、本件免責約款により免責される。

(2) 本件免責約款の趣旨は、自動車が業務に使用される場合、その運行によって業務に従事する危険度が一般に高いため、使用者と使用人という密接な関係に着目して、その危険を定型的に自動車保険の対象から除外して、このような企業内の事故については、労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)の分野に委ね、併せて不当な保険金請求を防止することにしたものである。

したがって、本件免責約款に規定する「使用人」とは、必ずしも被保険者と形式的な雇用関係を締結している当事者たる労働者に限られるものではなく、形式上の契約関係如何にかかわらず、事実上ないし実質上、被保険者との間に労働関係(支配従属関係)が存在している労働者を含むものである(大阪高裁昭和五六年七月一五日判決・金融商事判例六四七号二五頁)。

(3) 控訴人は、豊島及び打越が控訴人の使用人ではなく、ウスイ工業こと臼井竜夫(以下「臼井」という。)の使用人である旨主張するが、以下のとおり、豊島及び打越が控訴人の使用人であることは明らかである。

① 臼井は、昭和六二年五月一日、控訴人に入社し、以後、現在に至るも控訴人の社員であり、控訴人のテトラポットの製造・据付等の作業に従事し、控訴人から給料の支給を受けている。

② 臼井は、平成七年一二月二五日付で、茨城県竜ケ崎税務署長宛にウスイ工業の名称で給与支給事務所等の開設届出書(乙二)を提出しているが、右開設届出書によれば、個人事業の概要は「人材派遣業」であり、事務所の所在地は、控訴人の工場所在地である「牛久市小坂町鹿ヶ作一九五一―八」とされている。

③ 臼井は、ウスイ工業の設立にあたり、一銭の出捐もしていない。ウスイ工業は、控訴人の工場の一画にある場所を事務所としていたものであり、ウスイ工業としての看板を掲げておらず、専属の事務所職員はもとより専用の電話回線もなく、控訴人から自動車の貸与を受け、仕事も一〇〇パーセント控訴人の工事現場の仕事をしていたものである。また、豊島及び打越は、控訴人の工事現場においては、控訴人の従業員と同様に、控訴人の図面、仕様書、 工程表に基づいて作業に従事し、工事上及び安全上の事項に関しては、控訴人の工事現場責任者ないしは控訴人の社員である臼井の指示に従い、控訴人の保有する機械等を使用して作業に従事していた。

④ 豊島及び打越の給料は、ウスイ工業から支払われているが、控訴人から、ウスイ工業からの給与支払日に合わせて、ウスイ工業の銀行口座に、工事現場に派遣した人数分の請負代金が支払われ、これがそのまま豊島及び打越らの従業員に支払われているものである。なお、ウスイ工業の従業員は、タイムカードなども控訴人の従業員と同じものを使用していた。

⑤ 臼井は、本件事故当時、ウスイ工業として労災保険に加入しておらず、本件事故後に、控訴人がその加入手続をしている。そして、ウスイ工業は、平成一〇年二月ころ、廃業している。

⑥ 右①ないし⑤の事実によれば、ウスイ工業には独立した企業としての実体がなく、豊島及び打越は、事実上、控訴人の社員の一員として、控訴人の企業組織に組み込まれていたものであり、控訴人は、豊島及び打越らのウスイ工業の社員に対し、実質的な支配従属関係を及ぼし得る立場にあった。したがって、豊島及び打越は、控訴人の使用人にあたり、被控訴人住友海上火災は、本件免責約款により免責されるものである。

(二) 控訴人の主張

(1) 豊島及び打越は、控訴人に所属する人夫ではなく、臼井の使用人である。

本件事故は、控訴人が、臼井に対し、控訴人の請け負った仕事現場に置いてある控訴人のクレーンの整備点検作業を依頼し、その依頼に基づいて、臼井の使用人である豊島及び打越が現場に赴く途中で起きた事故である。

したがって、被控訴人住友海上火災は、本件免責約款により免責されない。

(2) 自動車総合保険普通約款の解釈にあたって解釈上の争いが生じた場合は、約款解釈上の原則に従って約款作成者の不利益に解するべきであり、みだりに拡大解釈や類推解釈がされてはならない。また、免責は、できるだけ狭い範囲に限られることが望ましい。

本件免責約款により免責が認められるのは、企業内の事故については労災保険の分野に委ね、自動車保険の対象外としたことによるものであることは事実としても、具体的事故について労災保険が適用されるからといって、当然に免責条項が適用されるという必然性はないのであり、しかも、労災保険は、慰謝料についてはてん補しないなど損害の全額を担保するわけではない。自動車保険において、使用人の範囲を緩やかに解するとすれば、自動車保険によって担保される損害の範囲が限定され、被害者の保護が十分にされないことになるから、使用人の範囲は厳格に解釈されるべきであり、使用人は、直接雇用関係にある者に限定されると解すべきである。

なお、被控訴人住友海上火災は、本件免責約款が設けられた理由として、馴れ合いによる不正請求を排除する旨をあげているが、本件免責約款は、「家事」に従事中の事故を除いているから、右理由は、付随的なものといわざるを得ない。

(3) 豊島及び打越が控訴人に所属する人夫ではなく臼井の使用人であることは、以下の事実から明らかである。

① 控訴人の代表者丹下潤一(以下「丹下」という。)は、臼井が、控訴人の社員の中で一番古く、しかも機械関係に非常に強いことから、その才能を伸ばすために、臼井を一人立ちさせようとして、控訴人の下請企業であるウスイ工業の設立を勧めた。

臼井は、平成七年九月二六日、控訴人の一〇〇パーセント下請の企業としてウスイ工業を設立した。ウスイ工業の作業内容は、控訴人から依頼されて、テトラポットを製造すること、クレーンの点検・整備をすることであった。ウスイ工業は、本件事故当時、設立後約一年を経過していたに過ぎず、控訴人からの下請仕事だけで能力的に精一杯であり、経済的にも十分な状況にあった。ウスイ工業は、法人登記がされていないが、これにより控訴人の下請企業であることが左右されるものではない。

なお、丹下は、臼井が完全に一人立ちするまでの生活保証の意味で、ウスイ工業設立後も臼井を控訴人の社員として給料を支払っていた。

② 臼井は、控訴人とは別個独立に社員を雇っていたものであり、その中に豊島及び打越がいた。

ウスイ工業の社員の給料は、ウスイ工業が控訴人から支払われる請負代金をもとに臼井自身が社員に支払っていた。豊島及び打越は、控訴人から給料を受領したことはない。なお、臼井は、控訴人代表者に世話になっていたこともあり、従業員が十分経験を積むまで、ウスイ工業の下請代金を従業員の給料相当分であると決めて請求していたものである。

臼井は、控訴人とは独自に勤務時間を定め、控訴人の賃金規定とは別に、従業員の能力、経験、年齢等を考慮して給料を決め、従業員のタイムカードを見て具体的な給料の額を算出し、支払っていたものである。

③ 豊島及び打越は、作業現場で控訴人の代表者から、臼井を介して工事に関する指示を受け、控訴人の作成した工程表に基づいて作業を行うが、それは、元請・下請の関係からいって当然である。

④ 臼井は、税理士に依頼し、平成七年九月二六日、竜ケ崎税務署長宛に個人事業の開業の届出をし、さらに、同年一一月五日、給与支払い事務所の開設の届出をした。また、臼井は、税金についても控訴人とは別に申告している。

⑤ 臼井は、本件事故の六日後である平成八年一二月二〇日、竜ケ崎市労働基準局の指示のもと、同基準局に対し、控訴人とは別個に、豊島及び打越についての労災保険の手続を申請し、打越については労災保険金の支給を受けた。竜ケ崎市労働基準局は、豊島については、本件裁判の推移をみたうえで、労災保険の給付を行うか否かを決定するとの態度である。

第三  当裁判所の判断

一  争点1(本件事故により豊島らが被った損害額)

争点1についての判断は、原判決「理由」三記載のとおりであるから、これを引用する。

二  争点2(豊島が控訴人の使用人といえるか)について

本件免責約款が定められた趣旨は、使用者と使用人との間には通常の第三者との関係以上の密接な社会的、経済的関係があることから、交通事故による損害賠償についても、労災保険制度等を使用してなるべく雇用関係の枠内で処理をさせ、併せて不当な保険金請求を防止することにしたものである。

しかし、労災保険と自動車保険とでは、精神的損害のてん補等の面で必ずしも保障内容が同一でなく、民法七一五条や労災保険における使用人概念をそのまま本件免責約款の解釈に適用して、使用人の概念を拡大することは、本件免責約款の適用範囲を不当に拡大し、結果的に被害者の救済に反することになりかねない。

したがって、本件免責約款に規定する「使用人」とは、必ずしも被保険者と形式的な雇用関係を締結している労働者のみに限られるものではないが、被保険者(例えば元請負人)と当該「使用人」との間に直接の使用者(例えば下請負人)がいるため、被保険者と当該「使用人」との間に直接の雇用関係が存在しない場合には、事実上ないし実質上、被保険者と使用人との間に支配従属関係が存在しているだけでなく、被保険者と使用人の直接の使用者とが実質上一体と見られ、直接の使用者は、単に、形式だけ使用者として名前を連ねているのみで当該使用人に対して使用者としての実体を有しない場合など、特段の事由がある場合に限り、当該労働者は、被保険者の「使用人」ということができるというべきである。

2 前記第二、一1の事実、証人臼井竜夫の証言、控訴人代表者尋問の結果、各項中に掲記した各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、控訴人と豊島及び打越等の使用関係について、次の事実を認めることができる。

(一)  控訴人は、昭和五六年九月一四日、水理の模型実験・調査等の港湾コンサルタント業務、土木工事等を業として設立された株式会社であり、丹下が代表取締役を務めている。

(二)  臼井は、昭和六二年五月一日、控訴人の従業員として採用され、本件事故当時も控訴人の従業員の身分を有していた。

(三)  丹下は、平成七年九月ころ、臼井が古参の社員であり、また、機械関係に強かったことから、臼井を独立させて一人前に育て上げようと考え、臼井に対し、個人企業を作って独立することを勧めた。

臼井は、遅くとも同月二六日ころ、ウスイ工業を設立し、控訴人からクレーンの保守点検整備等を請け負って個人として仕事を始めた(乙二、一六の1)。

臼井は、右のとおり事業を開始したことに伴い、控訴人の事務員保田某に依頼して書面を作成してもらったうえ、同年一二月二五日、竜ケ崎税務署に対し、ウスイ工業の名称で人材派遣業を事業内容とする個人事業の開廃業届出書(届出の区分を開業とするもの。乙二)、給与支払事務所等の開設届出書(乙一)を提出した。しかし、控訴人は、ウスイ工業を株式会社等とすることはなく、また、労働保険についての労働保険関係成立届も提出しなかった。

(四)  臼井は、当初、控訴人に雇用されていた者もウスイ工業の社員として採用したが、主として、独自に従業員を集めてウスイ工業の仕事を始めた。

丹下は、臼井を援助する目的で、いわば親代わりのようなつもりで、ウスイ工業の経営が安定するまで、生活保障として控訴人から給与を出すこととした。そのため、臼井は、ウスイ工業の経営を始めた後も、控訴人の従業員の身分を有し、控訴人から一か月三〇万円を超える給料を得ていたが、右のような扱いをすることにより控訴人が何らかのメリットを受けていたという形跡はない(乙一七の1、3、5、7、10、12、14、16、18、20、22、24)。

(五)  臼井は、ウスイ工業を設立するにあたって、開業資金を出捐することはなく、事務所については控訴人の牛久工場の住所を使用させてもらったが、独自の事務所を構えたわけではなく、当然、事務所の看板を掲げるというようなことはなく、専用の電話もなかった。

また、臼井は、自動車、工具・器具等を控訴人から借りて仕事に当たったが、工具・器具等についてはその管理の徹底を期するため、他の下請業者も控訴人の工具・器具等を使用していた。ウスイ工業が人材派遣を目的とした会社であるうえ、右のような状況にあったため、そもそも、ウスイ工業の設立にあたり、臼井が費用を出捐して準備すべき工具・器具等は少なかった。

(六)  臼井は、ウスイ工業を設立後、専ら控訴人の仕事を行っていたもので、他から工事の下請けを依頼されてこれに従事したことなどはなかった。ウスイ工業の仕事の方法は、控訴人から依頼された現場に、臼井及びウスイ工業の従業員が赴き、元請業者等の指示を受けながら、控訴人の請け負った仕事を完成させるというものであり、現場が元請業者によって管理されているため、ヘルメット等は皆同一の物を使うことになり、外見上は、控訴人の従業員なのかウスイ工業の従業員なのかの区別がつかない状態であったが、これは、他の下請会社も同じであった。

(七)  ウスイ工業では、従業員の給料を日給月給の方法で支払うこととし、従業員ごとの単価(日給)は、臼井が、丹下の了解を得たうえ、大体中間値を一万四〇〇〇円程度とし、当該従業員の年齢、仕事ぶり等を基にして決めていた。また、勤務時間については、同一の現場で働くという制約があることから、控訴人の従業員とウスイ工業の従業員とで差はないのが普通であったが、そのような制約がない場合には、必ずしも、同一の勤務時間というわけではなかった。

(八)  ウスイ工業の従業員は、控訴人の従業員と同じタイムレコーダーを用いてタイムカードに打刻しており、臼井は、これを基に給与の計算をして控訴人に月々の請求をし、控訴人は、右タイムカードをチェックして請求に誤りがないかを確認したうえ、その請求額を一旦ウスイ工業の口座に振り込み、その口座からさらに同額を各従業員の口座に振り込む操作をしていた。そのため、控訴人が振り込んだ額がそのままウスイ工業の従業員の口座に振り込まれ、臼井ないしウスイ工業において手数料等が徴収されるということはなかった(乙一〇、一六の1ないし22、一七の1ないし38)。

なお、このようなやり方は、保志工業等の他の下請業者においても一部で行われることがあった。

(九)  本件事故は、控訴人から借りていた本件自動車を打越が運転中に起きたものであるが、当日、打越及び豊島は、控訴人が下請負した工事現場に、右工事現場が休みであったのを利用して、クレーンの保守点検に出掛ける途中であった。

(一〇)  ウスイ工業は、本件事故当時、雇用保険の申請に必要な手続きをとっていなかったが、事故後六日目の平成八年一二月二〇日、労災保険の保険関係成立届(乙七の1)を竜ケ崎労働基準監督署に提出し、豊島及び打越について、本件事故についての労働保険給付の申請をした。右申請は、丹下が、労働基準監督署の指示を受けるなどして、ウスイ工業名でしたものである。右申請の結果、打越については、保険金が支給されたが、豊島については、本訴の推移をみるということで、給付を留保されている。

(一一)  臼井ないしウスイ工業は、本件事故に関し、何らの損害賠償等も請求されておらず、臼井は、平成一〇年三月一六日、個人事業の開廃業等届書(届出の区分を廃業とするもの。乙一四)を提出して、ウスイ工業を廃業した。

3  右2の事実により、豊島が控訴人の使用者にあたるか否かを検討するに、確かに、ウスイ工業は、事務所、電話、器具・工具、事務員など企業であれば通常保有していると思われるものを保有しておらず、代表者の臼井が控訴人の社員としての身分を保有し続けているうえ、仕事の内容も、控訴人の仕事だけをしているに過ぎないうえ、従業員の給料については、控訴人がウスイ工業に振り込んでくる給料をそのまま従業員に振り込み、ウスイ工業において手数料等を取得していないなど、控訴人から独立した企業としての実体を有していないのではないかとの疑問が存する。しかし、臼井は、ウスイ工業を設立するにあたり、独自に従業員を募集してこれを雇用し、自らの判断で従業員の給料の額を決定し、ウスイ工業名でその支払をしていること、勤務時間についても、控訴人と同一の現場で働くなどの制約がない場合には、必ずしも、控訴人と同一というわけではなかったこと、ウスイ工業は、人材派遣業として届け出ており、その実際の仕事内容も、臼井が、従業員を連れて控訴人の請け負った現場に赴き、元請けの指示に従って仕事をするというものであり、控訴人の管理の必要性から自前の器具・工具等の使用をすることがなかったことなどからすると、必ずしも、ウスイ工業において、事務所、電話、器具・工具、事務員など企業であれば通常保有していると思われるものを保有していないからといって、個人企業としての実体がないとはいい難いこと、請負代金を従業員の給料に従って支払を受けることは、ウスイ工業だけでなく保志工業等の他の下請業者の場合もあったこと、控訴人が臼井ないしウスイ工業の名前を借りて仕事をすることにより何らかのメリットを得ているとの事情もないこと等を考慮すると、臼井ないしウスイ工業が控訴人からの独立性が乏しいとは認められるにしても、それは、丹下が、いわば親代わりとして、臼井が独立するのを援助していたからに過ぎないというべきであり、臼井ないしウスイ工業が控訴人から独立した実体のない個人企業であり、控訴人と一体であるとまでは認められない。

以上のとおり、豊島は、控訴人の使用人であるとは認められないから、被控訴人住友海上火災は、本件免責約款により免責されるものではない。

三  よって、被控訴人豊島直美及び同川崎光夫の請求は、控訴人に対し、被控訴人豊島直美について二二七二万四七三四円及びこれに対する平成八年一二月一四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を、被控訴人川崎光夫について二一九二万四七三四円及び右と同様の遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があり、その余は、理由がなく、被控訴人住友海上火災の当事者参加請求はいずれも理由がない。

よって、右と結論を異にする原判決主文第四項は不当であるから、これを取り消し、被控訴人住友海上火災の当事者参加請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条、六四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官塩崎勤 裁判官小林正 裁判官萩原秀紀)

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