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東京高等裁判所 平成11年(ネ)3209号 判決 1999年11月29日

控訴人(原審原告)

サミット・テクノロジー・インコーポレーテッド

右代表者

【A】

控訴人(原審原告)

サミット・テクノロジー・アイルランド・ビー・ヴィー

右代表者

【A】

右両名訴訟代理人弁護士

近藤惠嗣

被控訴人(原審被告)

株式会社ニデック

右代表者代表取締役

【B】

右訴訟代理人弁護士

松本直樹

赤堀文信

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

本判決の上告及び上告受理の申立てのための付加期間を三〇日と定める。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の外科的装置を製造し、販売してはならない。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文一、二項と同旨

第二  当事者の主張

当事者の主張の要点は、以下に付加するほかは、原判決の事実及び理由欄の「第二 事案の概要 四 争点に関する当事者の主張」記載のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人ら

被告装置が、本件発明の構成要件A、Bを充足することは、当事者間に争いがなく、また、構成要件C、Eの充足性について、被控訴人はこれを争うが実質的な反論を行っていない。したがって、本件では、構成要件Dの充足性のみが問題となるところ、原判決は、以下のとおり、構成要件Dの解釈を誤って解釈し、被告装置がこれを充足しないとしたものである。

1  原判決が、構成要件Dにおける「進行的に変化」の解釈において、「『進行的』とは、その文言のとおり、時間の経過と共に、順次、一定の方向に変化することを意味し、変化を『連続的』に限定する必要はなく、『段階的』な変化も含むものと解され、まして、レンズ又は絞りを角膜に対して動かすことに限定する理由はない。」(原判決二二頁九行~二三頁一行)と認定したことは正当であるが、構成要件Dの「角膜上の前記光スポットの面積を進行的に変化させることにより、除去されるべき前記ゾーンの全てを前記光スポットによって走査する」の解釈において、「角膜上の前記光スポットの面積を進行的に変化させること『のみ』により」とし、この解釈に基づいて、「光スポットの面積を進行的に変化させることのみでは、右ゾーン全体を走査することができないものは、文言上、構成要件Dを充足するということはできない。」(同二四頁六~八行)と判断したことは誤りである。

すなわち、本件発明の本質は、光スポットの面積を進行的に変化させることで角膜の各部分がレーザーに照射される時間を変化させることにあるから、光スポットの面積の進行的変化は、除去されるべき角膜の全ゾーンを走査するための必要条件であるが、光スポットの面積の進行的変化を伴う限り、同時に光スポットの位置を変化させることは、何ら本件発明の本質を損なわないものである。

2  原判決が、「原告らは、訂正請求において、本件発明が、光スポットの面積の進行的変化のみによって、放射状に厚みが変化するレンズ状の薄片が除去されるゾーン全体を走査するものである旨の主張を行い」(原判決二六頁五~七行)と認定したことも誤りである。

すなわち、被控訴人が無効審判において引用したレスペラント特許は、本件発明に対して特許法二九条の二の先願の関係となるところ、同特許は、本件発明のように光スポットの面積の変化について全く開示していなかったが、一定の大きさの光スポットが移動する範囲を変化させて切除される角膜の厚さを変化させるものであった。ところが、訂正前の本件明細書には、「面積」ではなく「領域」という用語が用いられており、「領域の進行的変化」が「移動範囲の進行的変化」を包含すると解釈されるおそれがあったことから、控訴人らは、本件発明に係る訂正請求において、「領域」を「面積」と訂正することにより、レスペラント特許の発明と本件発明とが、特許法二九条の二の意味における同一発明に該当しないことを明確にしたものである。

したがって、訂正請求の趣旨は、「面積」の変化を必須のものとすることにあるが、訂正後においても、光スポットの「面積」の進行的変化のみによって、除去されるべき全ゾーンが走査されなければならないことは要求されていない。

3  また、原判決が、「訂正後、請求項3は、本件発明の技術的範囲に含まれなくなり、本件発明の実施態様ではなくなったものである。」(原判決二八頁六~七行)と述べたことも誤りである。

すなわち、請求項3を削除しなければならないとの請求人(被控訴人)の主張に対して、被請求人ら(控訴人ら)は、意図的に請求項3を維持し、そのことを答弁書に明記したものであって、過誤により請求項3が残存したものではなく、したがって、被控訴人、控訴人ら、特許庁のいずれもが、請求項3の存在を認識した上で、本件発明に係る訂正が認められたものである。

しかも、本件が適用される昭和五〇年特許法においては、必須要件項が構成要件を明らかにしており、その解釈に当たっては、実施態様項を含むように解釈することが要請されるから、本件においても、必須要件項である請求項1のみを切り離して解釈することは許されず、実施態様項である請求項3を含むように構成要件Dを解釈しなければならない。

したがって、光スポットの面積の変化が全てのゾーンの走査に不可欠であれば、その他の走査方法が併用されていても、構成要件Dは充足されるのである。

4  以上のとおりであるから、被告装置は、光スポットの面積の変化により照射時間の差を生じさせるという本件発明の本質をそのまま利用し実現しており、本件発明の実施例における円形のスポットを、短冊状の複数のスポットに分けて行っているにすぎないものである。

したがって、被告装置は、実質的にみても本件発明の技術的範囲に属することが明らかであり、特許請求の範囲を限定解釈する理由はないのである。

二  被控訴人

1  構成要件Dの文理自体が、面積の「進行的変化」により「前記ゾーンの全てを」走査することを要求しており、他にも変化することは妨げないが、他の変化がなくてはゾーンの全てを走査しないというのであれば、前記の「進行的変化」に該当しないことが明らかである。「前記ゾーンの全て」とは、紫外線レーザ光が当たることによって除去される部分であるから、そこが何らかの形で照射されるのは必然的なことであり、控訴人ら主張のように、他の変化を伴って初めて全てを走査するものでもこの要件を満たすとしたのでは、構成要件D自体が全くの同義反復の無内容なものになってしまう。

2  レスペラント特許では、境界円に囲まれた一定の領域を設定して、そこをくまなく照射するために微小スポットを移動し、次にその領域の大きさを変化させていくという手法が開示されているが、微小スポットが領域内をくまなく移動するとは、実効的には、領域の大きさにまでスポット自体を広げておくというのと同じであるから、領域の大きさを変化させることにより切削量のカーブを作り出すものである。

これに対して、本件発明の訂正前の特許請求の範囲の記載でも、「領域」の大きさを変化させるとしていたから、レスペラント特許の手法と区別ができないものであった。そこで、控訴人らは、「領域」を「面積」と訂正し、スポットの各瞬間の「面積」をゾーンの全体に及ぶように変化させていくことにより切削量のカーブを得る手法だけを意味するものとした。

右の訂正の経緯からすれば、本件訂正は、レスペラント特許と異なり、スポットの面積変化自体が、除去ゾーンの全てに及ぶものに限定する趣旨であったことが明白である。

3  原判決は、前示のとおり、「訂正後、請求項3は、本件発明の技術的範囲に含まれなくなり、本件発明の実施態様ではなくなった」と判示しているが、そうではなく、請求項1の面積の進行的変化により除去されるべきゾーンの全てを走査する走査手段に加えて、場所を変化させる走査手段を持つことを、請求項3は要件として外的に付加しているものと解釈することが可能である。

しかし、被告装置は、このように解釈した請求項3にも、当然、該当するものではない。

4  構成要件Dの「進行的変化」は、本来、前後動を指してのことでありこれに該当しない被告装置は侵害ではない。仮に、進行的変化が、原判決のいうように一方向の変化を意味するとしても、被告装置はこれに該当しない。すなわち、被告装置における面積の変化は、大きくなったり小さくなったりしているものであり、そうした変化の中から勝手な時点を取り出して、一方向の変化が生じているとするのは誤った解釈である。

理由

一  当裁判所も、控訴人らの本訴請求は理由がないものと判断する。

その理由は、当審における主張について、次に項を改めて説示するほか、原判決の「第三 当裁判所の判断」と同じであるから、これを引用する。

二  当審における主張について

1  控訴人らは、原判決が構成要件Dの解釈を誤った旨主張する。

しかし、原判決が、構成要件Dの「角膜上の前記光スポットの面積を進行的に変化させることにより、除去されるべき前記ゾーンの全てを前記光スポットによって走査する」の解釈において、「光スポットの面積を進行的に変化させることのみでは、右ゾーン全体を走査することができないものは、文言上、構成要件Dを充足するということはできない。」(原判決二四頁六~八行)と判断したことは、原判決が認定説示した、構成要件Dに関する文理的な解釈(同二二頁五行~二四頁八行)及び控訴人らによる本件発明の訂正請求の経緯(同二四頁九行~二六頁一〇行)に照らして、正当なものといわなければならないから、控訴人らの主張を採用する余地はない。

また、控訴人らは、訂正前の本件明細書に、「面積」ではなく「領域」という用語が用いられており、「領域の進行的変化」が「移動範囲の進行的変化」を包含すると解釈されるおそれがあったことから、「領域」を「面積」と訂正し、レスペラント特許の発明と本件発明との区別を明確にしたものであり、訂正請求の趣旨は、「面積」の変化を必須のものとすることにあるが、訂正後においても、光スポットの「面積」の進行的変化のみによって、除去されるべき全ゾーンが走査されなければならないことは要求されていない旨主張する。

しかし、前示訂正請求書の記載(原判決二四頁一〇行~二五頁一一行)によれば、控訴人らは、本件発明が、除去されるべきゾーンの全てにわたり、光スポットの面積を漸進的に増減変化させながらゾーンの全体的面積を走査する走査手段を具備することのみを訂正請求したことが明らかであり、その訂正の前後を問わず、請求項1において、光スポットが右ゾーンの全体を走査するために他の手段を要することは全く開示されていないものと認められる。そして、訂正請求書に基づく訂正請求の内容が、右のとおり客観的に解釈される以上、控訴人らが、先願の関係にあるレスペラント特許に係る発明と本件発明とを区別するために、どのような主観的意図により訂正請求を行ったものであるとしても、前記控訴人らの主張は失当というほかなく、到底これを採用することはできない。

さらに、控訴人らは、被控訴人、控訴人ら、特許庁のいずれもが、請求項3の存在を認識した上で、本件発明の訂正が認められたものであり、しかも、本件が適用される昭和五〇年特許法における必須要件項の解釈に当たっては、実施態様項を含むように解釈することが要請されるから、本件においても、必須要件項である請求項1のみを切り離して解釈することは許されず、実施態様項である請求項3を含むように構成要件Dを解釈しなければならない旨主張する。

しかし、必須要件項である請求項1における構成要件D自体が、訂正後において、前示のとおり、光スポットの面積を進行的に変化させることのみでは、ゾーン全体を走査することができないものを含まないことを明確にする以上、これを前提とする実施態様項にすぎない請求項3の解釈、あるいは、同請求項が本件発明に含まれるか否かによって、前記構成要件Dの解釈が左右されるものでないことは当然であり、したがって、被告装置が、構成要件Dを充足しないことも明らかであるから、控訴人らの右主張も、これを採用する余地はない。

三  以上によれば、控訴人らの本訴請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は正当であって、控訴人らの本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の指定につき、民事訴訟法六一条、六五条一項本文、六七条一項本文、九六条二項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

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