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東京高等裁判所 平成11年(ネ)1562号 判決 1999年11月29日

控訴人(平成六年(ワ)第二五五〇〇号事件原告・平成八年(ワ)第七五五九号事件被告)

鈴木シゲ子

控訴人(平成六年(ワ)第二五五〇〇号事件原告・平成八年(ワ)第七五五九号事件被告)

鈴木富也

右二名訴訟代理人弁護士

小山香

被控訴人(平成六年(ワ)第二五五〇〇号事件被告・平成八年(ワ)第七五五九号事件原告)

桑原利美

外二名

右三名訴訟代理人弁護士

国保修敏

主文

一  原判決中、控訴人らと被控訴人らに関する部分を次のように変更する。

1  控訴人鈴木シゲ子に対し、被控訴人桑原利美は、三七五万円、同桑原義己は、三〇一万九五九六円、同桑原タミ子は、三六二万三一四五円及びこれらに対する平成六年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  控訴人鈴木富也に対し、被控訴人桑原利美は、三七五万円、同桑原義己は、三〇一万九五九六円、同桑原タミ子は、三六二万三一四五円及びこれらに対する平成六年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

3  控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

4  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

5  右1、2は、仮執行することができる。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを五分し、その一を控訴人らの連帯負担とし、その余を被控訴人らの連帯負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決中、控訴人らと被控訴人らに関する部分を次のように変更する。

二  被控訴人桑原利美、同桑原義己及び同桑原タミ子は、控訴人鈴木シゲ子に対し、各四二八万五七一五円及びこれらに対する平成六年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

三  被控訴人桑原利美、同桑原義己及び同桑原タミ子は、控訴人鈴木富也に対し、各四二八万五七一五円及びこれらに対する平成六年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

四  被控訴人らの請求を棄却する。

五  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

六  仮執行宣言。

(なお、控訴人らは、当審において、控訴人らの請求債権をもって、被控訴人らの請求債権と相殺する旨の意思表示をし、右相殺の主張が認容される場合には、相殺を認容された金額について請求を減縮する旨主張している。)

第二  事案の概要

本件は、主債務者桑原建設有限会社(以下「訴外会社」という。)の物上保証人及び連帯保証人である亡鈴木富衛(以下「亡富衛」という。)の相続人である控訴人らが所有不動産の抵当権を実行されたことにより六〇〇〇万円を弁済した旨主張し、他の連帯保証人である被控訴人らに対し、その負担部分に応じて求償をし、他方、被控訴人らが、別紙2のとおり訴外会社の債務を弁済したところ、訴外会社が無資力であることから、自己の負担部分を超えない弁済についても負担部分の割合に応じて他の連帯保証人に求償することができると主張し、連帯保証人である亡富衛の相続人である控訴人らに対し、それぞれ弁済額の各一六分の一(弁済額を連帯保証人の総人数八名の頭数で除した額の二分の一)の割合による金員を求償した事案である。

一  前提事実(当事者間に争いがない事実は証拠を掲記しない。)

1  (桑原建設有限会社の破産)

訴外会社は、昭和三八年五月二〇日、有限会社坂下ブロック六興商会として設立され、昭和五三年七月一〇日、桑原建設有限会社に商号変更された建設業、宅地建物取引業などを主な目的とする資本金三〇〇万円(昭和五三年二月に八〇〇万円に、同年三月に一〇〇〇万円にそれぞれ増資された。)の会社であったが、昭和六一年一一月二一日、福島地方裁判所会津若松支部において破産宣告を受け、最後配当がされた上、平成八年九月一九日、破産終結の決定がされた(乙二九、三〇)。

2  (被控訴人らの親族関係)

(1) 被控訴人桑原利美は、訴外会社の代表取締役である。

(2) 被控訴人桑原義己は、被控訴人桑原利美の長男であり、訴外会社の専務取締役である。

(3) 被控訴人桑原タミ子は、被控訴人桑原利美の妻であり、訴外会社の取締役である。

(4) 亡福地清(以下「亡清」という。)は、被控訴人桑原利美の兄であり、訴外会社の取締役として登記されている。

(5) 分離前の相被控訴人慶徳忠雄は、被控訴人桑原利美の義兄であり、訴外会社の監査役として登記されている。

(6) 分離前の相被控訴人福地俊夫は、亡清の次男で、被控訴人桑原利美の甥である。

(7) 分離前の相被控訴人慶徳ミエは、被控訴人桑原利美の姉で、慶徳忠雄の妻である。

3  (被控訴人らによる連帯保証の経緯)

訴外会社の会津信用金庫(以下「会津信金」という。)に対する信用金庫取引上の債務について、被控訴人桑原利夫、亡清及び慶徳忠雄は、昭和五五年七月三一日の一五〇〇万円の証書貸付以来、被控訴人桑原義己、同桑原タミ子、福地俊夫及び慶徳ミエは、昭和五八年六月二一日の四〇〇〇万円の証書貸付以来、それぞれ訴外会社の破産直前の昭和六一年一〇月三〇日まで、別紙1のとおり、連帯保証してきた(丙一の2)。

4  (亡富衛の物上保証及び連帯保証)

亡富衛は、昭和六一年三月三日、別紙物件目録一ないし五記載の各土地及び同六記載の建物(以下「本件不動産」という。)につき、訴外会社の会津信金に対する信用金庫取引による債務を担保するために、根抵当権者を会津信金、債務者を訴外会社、極度額を六〇〇〇万円とする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)を設定するとともに、右被担保債権につき連帯保証する旨会津信金との間で合意し、本件不動産について福島地方法務局坂下出張所昭和六一年三月一一日受付第八三〇号根抵当権設定登記手続をした(根抵当権設定契約等の日時について甲五)。

5  (亡清らによる連帯保証)

被控訴人桑原利美、同桑原義己、同桑原タミ子、亡清、福地俊夫、慶徳忠雄及び慶徳ミエ(以下「本件保証人ら」という。)は、昭和六一年四月一九日、会津信金に対し、次のとおり、連帯保証した(甲八の1、2)。

(一) 主債務者 訴外会社

(二) 種類 手形貸付

(三) 期間 昭和六二年四月三〇日までの取引により発生した債務

(四) 金額 限度額二億三〇〇〇万円及びこれに付帯する利息、損害金等

6  (会津信金による貸付)

会津信金は、訴外会社に対し、昭和六一年一〇月二日、三六〇〇万円の、同年一〇月三〇日、三八〇〇万円の各手形貸付をした(甲一、二、以下、併せて「本件主債務」という。)。

7  (控訴人らの相続)

亡富衛は、昭和六二年一一月三日、死亡し、妻である控訴人鈴木シゲ子及び子である控訴人鈴木富也が各二分の一の割合で本件不動産を相続した。

8  (本件不動産の競売)

会津信金は、平成元年四月二七日、本件根抵当権に基づき、本件主債務の残債権及び遅延損害金のうち六〇〇〇万円を請求債権として、本件不動産につき競売申立てをしたところ、本件不動産は、福島地方裁判所会津若松支部の同年五月一〇日付け競売開始決定に基づき、九三八〇万円で売却され、平成六年六月二七日、配当が行われ、会津信金に対して本件主債務の残元本全額及び遅延損害金合わせて六〇〇〇万円が配当金として交付され、控訴人鈴木シゲ子に対し一五八三万三六二〇円が、同鈴木富也に対し一五八三万三六一九円がそれぞれ剰余金として交付された(甲三、四、四九の1、2)。

二  主たる争点

1  亡富衛の負担部分はいくらか

(一) 控訴人らの主張

(1) 亡富衛と本件保証人らは、亡富衛が物上保証及び連帯保証した際、亡富衛の負担部分を零とする明示又は黙示の合意をした。すなわち、訴外会社や被控訴人桑原利美は、会津信金から金員を借り入れる際、本件不動産を担保物件からあえて外しており、かような事実からすれば、亡富衛の負担部分を零とする明示・黙示の合意があったというべきである。

したがって、各控訴人は、競売で配当された六〇〇〇万円につき、本件保証人ら七名に対し、平等の割合で、それぞれ四二七万五七一五円(控訴人両名合わせて八五七万一四二九円。一円未満四捨五入。)の求償権を行使することができる。

(2) 右(1)の合意が認められないとしても、共同連帯保証人間の負担部分は債務者相互間の実質関係によって決すべきであるところ、本件保証人らの関係は次のとおりであり、実質的にはいずれも主債務者というべきであるから、亡富衛の負担部分は零というべきである。

① 被控訴人桑原利美は、訴外会社の代表取締役であり、その他の本件保証人らも訴外会社の役員又はその親族であり、いずれも役員報酬を得てきたものである。また、被控訴人らは、いずれも訴外会社の財務状況を知り得る立場にあった。

② 被控訴人桑原利美、同桑原義己、同桑原タミ子、亡清、慶徳忠雄、福地俊夫及び慶徳ミエは、亡富衛が連帯保証・物上保証をする相当以前から、金融機関の借入れについて訴外会社の連帯保証人となっていた。

③ 訴外会社は、昭和五六年ころから売上高が減少して赤字に転落し、昭和五八年には累積赤字が増大し、昭和五九年三月には、会津信金から新たに物的担保を提供しない限り融資をしないと最後通告を受けており、昭和五九年度以降も実質的に赤字決算が倒産時まで継続していたものであり、同年三月ころには自己破産申立て等の法的手続きを取るべき状況にあった。

④ しかるところ、訴外会社及びその代表取締役等である本件保証人らは、右事情を知り又は知ることができる機会を有していながら、金融機関の借入を継続するために、昭和五六年以降、粉飾決算を繰り返して黒字決算を継続したうえ、右事情を知る機会が全くない亡富衛に対し、その事情を秘し、絶対に迷惑をかけない旨述べて、物上保証・連帯保証を求めた。

(二) 被控訴人らの主張

被控訴人桑原利美は、昭和五〇年ころから昭和五九年ころまで、亡富衛の農協からの借入金の利子支払、家計費の支払等の援助を行ってきた。右のような関係から、被控訴人桑原利美は、同年三月ころ、亡富衛に対し、訴外会社の会津信金からの借入金の担保とするため亡富衛所有不動産に極度額六〇〇〇万円の根抵当権を設定して欲しい旨依頼したところ、亡富衛の快諾を得て、右内容の根抵当権が設定された。当時、訴外会社は、小学校の新築工事等を受注しており、倒産必至というような状況ではなかった。

亡富衛が、昭和六一年三月三日、物上保証及び連帯保証をしたのは、亡富衛において、根抵当権を設定していた右不動産を売却することになったため、根抵当権を付け替える必要からしたものであり、亡富衛の根抵当権は、実質上、昭和五九年三月ころから続いていたものである。

以上の経過にかんがみるならば、亡富衛と本件保証人らとの間で、亡富衛の負担部分を零とする明示又は黙示の合意がされたことがないことは明らかである。

2  控訴人らの請求は権利の濫用に当たるか(控訴人らの請求に対する抗弁)

(一) 被控訴人らの主張

(1) 訴外会社の破産手続の経緯は以下のとおりである。

① 訴外会社は、昭和六一年一一月一〇日、福島地方裁判所会津若松支部において破産宣告を受けた。

② 亡富衛は、同年一二月一八日、右破産手続において、求償金二三二万六九六二円の債権届出をした(なお、亡富衛は昭和六二年一一月三日死亡し、控訴人らが右届出債権を相続した旨の届出をした。)。

③ 会津信金は、昭和六一年一二月一八日、貸金及び利息金等合計二億五九一三万四〇〇九円の債権届出をした。

④ 会津信金は、平成元年四月二七日、福島地方裁判所会津若松支部に対し、本件根抵当権に基づき競売申立をし、同年五月一〇日、競売開始決定がされた。控訴人らは、その直後から、会津信金に対し、不動産競売執行異議申立事件、根抵当権不存在確認等請求事件及び不動産競売手続停止仮処分申請事件を次々と申し立て、そのうち根抵当権不存在確認等請求事件が最高裁判所で上告棄却され、控訴人らの敗訴が確定したのは平成五年一〇月二八日であった。

⑤ その後、本件不動産は、平成六年三月二五日、第三者に競落され、同年六月二七日、右競落代金から六〇〇〇万円が会津信金に配当された。

⑥ 破産配当手続に入り、平成六年一一月九日、破産管財人の配当表が作成され、平成七年二月一〇日、最後配当がされ、控訴人らは、七二万八五一三円の配当をそれぞれ受けた。

右経過にかんがみれば、控訴人らは、本件根抵当権の被担保債権六〇〇〇万円につき、遅くとも根抵当権不存在確認等請求事件が最高裁判所で上告棄却され控訴人らの敗訴が確定した平成五年一〇月二八日以降、債権届出をして配当に加入できたし、またそうすべきであった。しかるに、控訴人らは、配当表が作成された平成六年一一月まで一年余りを漫然と過ごし、債権届出・配当加入をしなかった。仮に、控訴人らが配当加入していれば、届出債権金額合計が二億五四八二万七九一三円、配当すべき額が六〇九九万五六八八円、配当率が0.239360309である(丙三の1)から、控訴人らは、合計一四三六万一六一九円の配当を受けることができたはずであり、かかる控訴人らの債権届出・配当加入の懈怠による分まで含めて被控訴人らに対し求償するのは、権利濫用・信義則違反である。

よって、控訴人らの被控訴人らに対する求償金は、各二二八一万九一九〇円(被控訴人らそれぞれについては右金額の八分の一に当たる二八五万二三九八円)に制限されるべきである。

(2) 破産宣告当時、訴外会社は、亡富衛に対し、短期貸付金等合計三二八万四一五二円を有していた。右金員は、控訴人らが訴外会社に対し求償権を行使すれば当然に相殺されるべき金額であるから、その限度で、被控訴人らに対し求償権を行使することは信義則上許されない。

(二) 控訴人らの主張

控訴人らが主たる債務者に対する求償権を破産債権として届け出るか、他の連帯保証人に対する求償権を行使するかは控訴人らの自由であり、権利濫用には当たらない。

3  被控訴人らは負担部分を超えて弁済しなくとも控訴人らに求償し得るか

(一) 被控訴人らの主張

(1) 連帯保証における債務の最終的負担者は、主債務者であることから、連帯保証人が数人ある場合に、債権者に弁済をした連帯保証人は、弁済額のうち自己の負担部分の額を超える金額についてのみ、他の連帯保証人に対し求償し得るが原則である。しかし、主債務者が無資力であるときは、債務の最終的負担者は連帯保証人にならざるを得ないから、このような場合には、例外的に、民法四四四条を準用し、債権者に弁済をした連帯保証人は、弁済額が自己の負担部分の額を超えないときでも、他の連帯保証人に対し、弁済額の割合を乗じた額を超える弁済部分について求償し得るというべきである。

(2) 本件では、訴外会社が破産し、弁済した連帯保証人は主債務者である訴外会社から弁済を受けることができないから、被控訴人らは、控訴人らに対し、弁済額の割合を乗じた額を超える弁済部分について求償し得るものである。

(3) 被控訴人らは、連帯保証人として、会津信金に対し、別紙2のとおり保証債務を弁済し、これらは別紙3のとおり充当された。右充当された各債務の共同連帯保証人は別紙1記載のとおりである。

したがって、

① 被控訴人桑原利美は、亡富衛の相続人である控訴人らに対し、別紙3の証書貸付弁済分一六五万円については、合計四一万二五〇〇円(一六五万円を四名の連帯保証人で等分した額)、その余の手形貸付弁済分合計二三一一万七〇八三円については合計二八八万九六三五円(二三一一万七〇八三円を八名の連帯保証人で等分した額)の総合計三三〇万二一三五円(控訴人一人につき一六五万一〇六七円)を求償し得る。

② 被控訴人桑原義己は、亡富衛の相続人である控訴人らに対し、別紙3の昭和六〇年一〇月三一日付及び昭和六一年四月一九日付各手形貸付弁済分一一六八万六四六五円について、合計一四六万〇八〇八円(一一六八万六四六五円を八名の連帯保証人で等分した額。控訴人一人につき七三万〇四〇四円)を求償し得る。

③ 被控訴人桑原タミ子は、亡富衛の相続人である控訴人らに対し、別紙3の昭和六〇年一〇月三一日付及び昭和六一年四月一九日付各手形貸付弁済分二〇二万九六九五円について、合計二五万三七一一円(二〇二万九六九五円を八名の連帯保証人で等分した額。控訴人一人につき一二万六八五五円)を求償し得る。

(二) 控訴人らの主張

民法四六五条の規定からすれば、主債務者が無資力である場合にも、債権者に弁済をした連帯保証人は、弁済額のうち自己の負担部分の額を超える金額についてのみ、他の連帯保証人に対し求償し得るに過ぎない。

また、訴外会社は、破産手続において、31.3パーセントの配当をしているのであり、無資力とはいえない。

4  被控訴人らは求償権を放棄したか(被控訴人らの請求に対する抗弁)

(一) 控訴人らの主張

被控訴人らは、自らの経営責任を認め、訴外会社の破産手続において、同社に対する求償権について債権届出していない。右事実からすれば被控訴人らは、訴外会社に対する求償権及び控訴人らに対する求償権を放棄したというべきである。

(二) 被控訴人らの主張

被控訴人らが、訴外会社の破産手続において、配当のための債権届出をしなかったのは、他の債権者の手前遠慮しただけに過ぎない。

5  亡富衛の物上保証及び連帯保証の範囲(被控訴人らの請求に対する抗弁)

(一) 控訴人らの主張

(1) 亡富衛は、昭和六一年三月三日に物上保証・連帯保証しているところ、同日以前の債務は物上保証・連帯保証していない。被控訴人らがした弁済にかかる弁済金は、同日以前の債務に弁済充当されるべきものであるから、これをもって、控訴人らに求償することはできない。

(2) 亡富衛は、連帯保証の関係では、本件主債務についてのみ連帯保証したに過ぎないから、被控訴人らが、本件主債務以外の債務を弁済したからといって、控訴人らに求償することはできない。

(二) 被控訴人らの主張

亡富衛のした物上保証及び連帯保証は、訴外会社の会津信金に対する現在負っている又は将来負うことのある手形債務、証書貸付債務をすべて保証するものである(甲五、八の1ないし3)。

なお、被控訴人らは、連帯保証人として、会津信金に対し、別紙2のとおり保証債務を弁済し、これらは別紙3のとおり充当された。右充当された各債務の共同連帯保証人は別紙1記載のとおりである。

6  被控訴人らの請求は権利の濫用に当たるか(被控訴人らの請求に対する抗弁)

(一) 控訴人らの主張

前記1(一)(二)①ないし④の事情に照らすと、本件保証人らの控訴人らに対する求償権の行使は、権利濫用、信義則違反である。なお、被控訴人らは、個人資産を売却して訴外会社の債務を弁済したというが、個人資産売却の日、売却金額と弁済の日、弁済の額等が対応していないなど、不自然な点があり、個人資産の売却金すべてが訴外会社の債務の弁済に充てられたとするには疑問がある。

(二) 被控訴人らの主張

被控訴人らは、訴外会社倒産によって関係者に迷惑をかけたことは申し訳ないと思っている。しかし、被控訴人らは、個人資産を売却して、破産事件としてはかなり高い配当率(31.3パーセント)を確保したものである。また、現在無資産でやっと暮らしている被控訴人らとすれば、控訴人らの請求に対しては、防禦として求償権を行使せざるを得ないのであり、権利濫用とはいえない。

7  訴外会社の有する債権による相殺の当否等(被控訴人らの請求に対する抗弁)

(一) 控訴人らの主張

(1) 訴外会社は被控訴人桑原利美に対し、貸付金合計四二二八万〇六五九円、未収金五〇〇万円の債権を有していた。よって、同人の会津信金に対する代位弁済は実質的には右債務の一部弁済であり、同人はそもそも求償権を取得しない。また、仮に、求償権は発生したとしても、相殺適状になり当然に対当額で相殺されているはずであるから、その行使は権利の濫用というべきである。

(2) 仮に、求償権の行使が認められる場合は、控訴人らは、訴外会社に対する事前求償権を被保全債権として、債権者代位権に基づき、右訴外会社の被控訴人桑原利美に対する金銭債権をもって相殺する(相殺の意思表示がされた日・平成一〇年一〇月六日)。

仮に相殺が認められないとしても、訴外会社に対しては求償権の行使ができないのに保証人には求償できるというのは納得し難く、控訴人らは、信義則違反、権利濫用を理由として、被控訴人桑原利美の請求を拒絶し得る。

(3) 仮に、右(1)(2)の各主張が認められないとしても、控訴人らは、亡富衛の被控訴人桑原利美に対する三〇〇万円の貸金債権(貸付日・昭和五三年三月三日、弁済期同年四月三日)を自働債権として相殺する(相殺の意思表示がされた日・平成一〇年一〇月六日)。

(4) 仮に、右(3)の主張が認められない場合、被控訴人桑原利美が控訴人らに対し請求している一六五万一〇六七円は、不当利得になるから、控訴人らは、被控訴人桑原利美に対し、右不当利得返還請求権を自働債権として相殺する(相殺の意思表示がされた日・平成一〇年一〇月二〇日)。

(二) 被控訴人らの主張

控訴人主張の被控訴人桑原利美の訴外会社に対する貸付金債務のうち四二二八万〇六五九円は、訴外会社が支出した裏金を被控訴人桑原利美に対する貸付金として処理したに過ぎないものであり、被控訴人桑原利美は、実際には債務を負っていない。被控訴人桑原利美は、自宅を会津信金からの借入金で建設しており、未収金五〇〇万円は存在しない。また、被控訴人らは、訴外会社に対し、求償請求しているわけではないから、代位による相殺の主張は失当である。また、訴外会社は、既に破産手続が終結し、消滅しているものであって、その権利を代位行使する余地はない。

被控訴人桑原利美は、亡富衛に対し、三〇〇万円を返済済みである。

被控訴人桑原利美が控訴人らに対し請求している一六五万一〇六七円は、正当な求償債権であり、被控訴人桑原利美に不当利得はない。

8  本訴請求債権による相殺の当否

(一) 控訴人らの主張

仮に、被控訴人らの請求が認められるとすれば、控訴人らは、被控訴人らに対する本訴請求債権と被控訴人らの請求債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をする(相殺の意思表示がされた日・平成一一年六月一四日)。

(二) 被控訴人らの主張

控訴人らの相殺の主張は争う。

第三  当裁判所の判断

一  争点1(亡富衛の負担部分はいくらか)について

1  前記第二、一の事実によれば、本件根抵当権実行により会津信金に対し六〇〇〇万円の配当がされ、控訴人らは、右出捐により主債務者たる訴外会社を全額免責させたことが認められるから、控訴人らは、本件保証人らに対し、民法四六五条一項、四四二条に基づき、各自の負担部分につき求償権を取得するものである。したがって、控訴人らは、負担部分について特別の合意がされていない限り、本件保証人らに対し、出捐額六〇〇〇万円につき亡富衛に本件保証人らを加えた計八名で除した七五〇万円(控訴人ら一人につき三七五万円)の限度で、被控訴人らに対し、求償権を取得するというべきである。

2  そこで、控訴人ら主張の亡富衛の負担部分を零とする明示・黙示の合意がされたか否かについて判断するに、以下のとおり、本件全証拠によるも、右合意がされたことを認めることはできない。

(一) 確かに、証拠(甲一、二、一〇ないし一八)によれば、昭和五九年三月当時から、訴外会社や被控訴人桑原利美の会津信金に対する借入申込書には、担保物件として本件亡富衛の記載が無いことが認められる。

(二) しかし、亡富衛と本件保証人らとの間で、亡富衛の負担部分を零にすることが明示された文書は作成されていない。

また、右各証拠によれば、右各借入申込書は、被控訴人桑原利美が作成したものであり、他の連帯保証人がその作成に関与した形跡はないことが認められることからすれば、右(一)の事実は、被控訴人桑原利美以外の本件保証人らとの間で負担部分を零とする明示的・黙示的合意の存在を認めることには直ちに結びつかない。

さらに、亡富衛は、被控訴人桑原利美の要請により、昭和五九年三月からその所有不動産を物上保証に供し、同六一年三月三日にはあらためて本件不動産を物上保証に供し、その被担保債権につき連帯保証している(乙五、被控訴人桑原利美本人尋問)。

(三) 以上のとおり、右(二)の事実の存在を考慮すると、右(一)の事実をもってしては控訴人ら主張の合意がされたとは認められないというべきであり、他に、これを認めるに足りる証拠は存在しない。

3  控訴人らは、連帯保証人間の負担部分は、債務者相互間の実質関係によって決すべきところ、本件事実関係からすれば、本件保証人らは、実質的には主債務者というべきであるから、亡富衛の負担部分は零である旨主張する。

そして、第二、一の事実、証拠(甲二二ないし二四、二九、三四、三五、乙三〇、被控訴人桑原利美本人尋問の結果)によれば、被控訴人桑原利美、同桑原タミ子、同桑原義己、福地清及び慶徳忠雄は、昭和四七年六月ころ、訴外会社の前代表者らから、その出資持分を買い受けて経営権を取得し、被控訴人桑原利美が代表取締役に、同桑原タミ子、同桑原義己及び福地清が取締役に就任したこと、訴外会社の出資持分は、被控訴人桑原利美一五〇〇口(元々被控訴人桑原利美が所有していた五〇〇口を含む。)、同桑原タミ子及び同桑原義己各五〇〇口、福地清三〇〇口及び慶徳忠雄二〇〇口であったこと、右のとおり、出資持分を有する者は、いずれも被控訴人桑原利美の親族又は親戚関係にある者であり、訴外会社は、被控訴人桑原利美の同族会社というべきものであったこと、本件保証人らは、亡富衛が物上保証及び連帯保証をする相当以前から、金融機関の借入れにつき訴外会社の連帯保証人となっていたこと、訴外会社は、昭和五六年に被控訴人桑原利美が病気で入院したことが躓きとなって売上が減少し、昭和五八年ころには累積赤字が増大し、昭和五九年度から倒産時まで実質的な赤字決算が継続していたこと、被控訴人桑原利美が、金融機関の借入を継続するために、亡富衛に対し、連帯保証人兼物上保証人になることを懇請したことなど控訴人らの主張にそう事実が認められる。

しかし、右各証拠によれば、訴外会社は、昭和五五年当時、売上高が約六億円に達し、従業員も一時は二〇数名使用しており、業績が悪化した後も二〇名近くの従業員を使用していた普通の企業であることが認められるところ、訴外会社程度の小規模な同族企業では、その経営者や親族が資金繰等のため連帯保証や物上保証をすることは普通にあることであり、これをもって、企業とその経営者一族を同一視することはできないのであって、前記認定事実だけでは、本件保証人らが、実質的に主債務者であると認めることはできないし、訴外会社の法人格が形骸化しているとはいえない。

したがって、本件保証人らが実質的には主債務者であり、亡富衛の負担部分が零であるとは認められない。

4  以上の次第で、亡富衛の負担部分が零であったとは認められないから、控訴人らが被控訴人らに求償し得る金額は、亡富衛の出捐額六〇〇〇万円を、亡富衛及び本件保証人らの人数合計八名で除した七五〇万円(控訴人ら一人につき三七五万円)であると認められる。

二  争点2(控訴人らの請求は権利の濫用に当たるか)について

1  被控訴人らは、遅くとも控訴人らの提起した本件根抵当権不存在確認等請求事件が最高裁で上告棄却され、控訴人ら敗訴が確定した平成五年一〇月二八日以降、控訴人らは訴外会社の破産手続において債権届出・配当加入でき、そうすべきであったのに、配当表作成まで一年余りを漫然と過ごし、債権届出・配当加入を懈怠したから、控訴人らの求償権行使は権利濫用である旨主張し、証拠(丙二の1ないし4、三の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、概ねその主張にそう事実が認められる。

しかし、控訴人らが訴外会社に対する求償権を破産債権として届け出るか否かは基本的に控訴人らの自由であり、控訴人らが訴外会社に対する求償債権を破産債権として届出をすればそれ相当の配当が見込まれると認識しつつ、あえてこれをせずに被控訴人らに対して求償権を行使するというような特段の事情があれば格別(本件では右事実を認めるに足りる証拠はない。)、債権届出がされていないことそれ自体で、直ちに、他の連帯保証人に対する求償権行使が権利濫用になるとは認められない。

2  被控訴人らは、破産宣告当時、訴外会社が、亡富衛に対し、短期貸付金等合計三二八万四一五二円の金銭債権を有しており、控訴人らが訴外会社に対し求償権を行使すれば、当然に右金銭債権をもって相殺されるから、その限度で、他の保証人に対し求償権を行使することは権利濫用である旨主張し、これにそう証拠(乙二八)を提出する。

しかし、乙第二八号証は、訴外会社の第二四期(昭和六一年四月一日から同年一一月一〇日まで)決算報告書であるところ、被控訴人桑原利美に対する貸付金や未収金に関する被控訴人らの主張からすれば、訴外会社の帳簿上の記載が必ずしも正確でないことが窺われる上、その記載からは、貸付の日時、条件、弁済期等の詳細は一切不明であり、加えて被控訴人ら主張の貸付金を裏付ける借用証等の書証が提出されていないことを考慮すると、右決算報告書の記載のみで右貸付金の存在を認定することはできない。したがって、この点での被控訴人らの主張は、前提を欠き採用することができない。

三  争点3(被控訴人らは負担部分を超えて弁済しなくとも控訴人らに求償し得るか〔被控訴人らの請求原因〕)について

1 連帯保証における債務の最終的負担者は、主債務者であるから、連帯保証人が数人ある場合に、債権者に弁済をした連帯保証人は、原則として、弁済額のうち自己の負担部分の額を超える金額についてのみ、他の連帯保証人に対し求償し得るというべきである。しかし、主債務者が無資力であるときは、債務の最終的負担者は連帯保証人にならざるを得ないから、このような場合には、各連帯保証人の公平を図るという見地から、例外的に、連帯債務者の一部に無資力者がいる場合の負担割合を定めた民法四四四条を準用し、債権者に弁済をした連帯保証人は、弁済額が自己の負担部分の額を超えないときでも、他の連帯保証人に対し、本来の負担割合に応じた金額(本件では負担割合は平等であるから、弁済額を連帯保証人の数で除した金額)を求償することができるものと解するのが相当である。

2  訴外会社は、前記第二、一1のとおり、昭和六一年一一月二一日、福島地方裁判所会津若松支部において破産宣告を受け、最後配当がされた上、平成八年九月一九日、破産終結の決定がされたものであり、現在、訴外会社の登記簿謄本は閉鎖されていて(乙三〇)、いかなる形でも営業を行っていないと推認されるから、控訴人ら及び本件保証人らが訴外会社に求償して自ら弁済した金員を訴外会社から回収する余地は皆無である。そうすると、本件では、連帯保証人として訴外会社に代わってその債務を弁済した被控訴人らは、他の連帯保証人に対し、弁済額を連帯保証人の数で除した金額を求償し得ると認められる。

3  被控訴人桑原らが会津信金に対し、連帯保証人として別紙2のとおり保証債務の弁済をし、これらが別紙3のとおり充当されたことは、証拠(乙一、六の1ないし3)により認められる。

右各証拠によれば、右充当された各債務の共同連帯保証人は別紙1記載のとおりであると認められる。また、後記五のとおり、亡富衛は、右弁済の対象となった訴外会社の債務についても連帯保証していると認められる。

したがって、

① 被控訴人桑原利美は、亡富衛の相続人である控訴人らに対し、別紙3の証書貸付弁済分一六五万円については、合計四一万二五〇〇円(一六五万円を四名の連帯保証人で等分した額)、その余の手形貸付弁済分合計二三一一万七〇八三円については合計二八八万九六三五円(二三一一万七〇八三円を八名の連帯保証人で等分した額)の総合計三三〇万二一三五円(控訴人一人につき一六五万一〇六七円)を求償し得る。

② 被控訴人桑原義己は、亡富衛の相続人である控訴人らに対し、別紙3の昭和六〇年一〇月三一日付及び昭和六一年四月一九日付各手形貸付弁済分一一六八万六四六五円について、合計一四六万〇八〇八円(一一六八万六四六五円を八名の連帯保証人で等分した額。控訴人一人につき七三万〇四〇四円)を求償し得る。

③ 被控訴人桑原タミ子は、亡富衛の相続人である控訴人らに対し、別紙3の昭和六〇年一〇月三一日付及び昭和六一年四月一九日付各手形貸付弁済分二〇二万九六九五円について、合計二五万三七一一円(二〇二万九六九五円を八名の連帯保証人で等分した額。控訴人一人につき一二万六八五五円)を求償し得る。

四  争点4(被控訴人らは求償権を放棄したか)

控訴人らは、被控訴人らが、自らの経営責任を認め、控訴人ら及び訴外会社に対する求償権をいずれも放棄している旨主張するが、これを認めることはできない。

すなわち、被控訴人らが、自らの経営責任を自覚し、訴外会社を破綻させた者として、積極的には訴外会社に対し、自己の有する債権の弁済を求めないという意思から、訴外会社の破産手続において配当のための債権届出をしなかったことまでは認められるが、さらに、進んで、債権届出をしないとの一事から、被控訴人らが、他の連帯保証人等に対する求償権までも放棄したと認めることはできず、他に、これを認めるに足りる証拠は存在しない。

五  争点5(亡富衛の物上保証及び連帯保証の範囲)について

1  控訴人らは、亡富衛は昭和六一年三月三日以前の債務について物上保証及び連帯保証をしていない旨主張する。しかし、亡富衛が物上保証及び連帯保証をした際作成された「根抵当権設定契約証書」(甲五)には、「被担保債権の範囲」として、信用金庫取引による債権と記載され、また、根抵当権設定者兼連帯保証人が信用金庫取引約定書の各条項に従う旨が明記されていること、信用金庫取引約定書(甲八の3)には、訴外会社が差し入れる担保について、現在及び将来負担する一切の債務を担保する旨が記載されていることを考慮すると、亡富衛の物上保証及び連帯保証の被担保債権の範囲は、昭和六一年三月三日以降の債権のみならず、同日以前の債権にも及ぶと認められる。

2  また、控訴人らは、亡富衛は本件主債務についてのみ連帯保証したに過ぎない旨主張する。しかし、前記「根抵当権設定契約証書」(甲五)の亡富衛の署名押印欄には、「根抵当権設定者兼連帯保証人」と記載されており、訴外会社の署名した欄の「根抵当権設定者兼連帯保証人」との記載のうち「根抵当権設定者」との記載が抹消されていることと比較すれば、亡富衛が連帯保証をする趣旨が明確になっている上、右「根抵当権設定契約証書」の第一一条には、根抵当権設定者は債務者と連帯して保証債務を負う旨明記されていること及び「根抵当権設定契約証書」(甲五)、信用金庫取引約定書(甲八の3)に右1のとおりの規定が置かれていることからすれば、亡富衛が「連帯保証人」として、本件主債務以外の債務についても連帯保証したことが明らかであるから、控訴人らの主張は採用できない。

六  争点6(被控訴人らの請求は権利の濫用に当たるか)について

控訴人らは、被控訴人らの求償権の行使は権利濫用・信義則違反である旨主張するので判断する。

1  前記一で認定したとおり、訴外会社は、被控訴人桑原利美が代表取締役を務める被控訴人桑原利美の同族会社であり、出資持分も被控訴人ら及びその親族が全部を所有していること、そのため、本件保証人らは、訴外会社の代表取締役、取締役又はその親族であったこと、本件保証人らは、亡富衛が物上保証・連帯保証する相当以前から、訴外会社の連帯保証人となっていたこと、訴外会社は、昭和五八年には累積赤字が増大し、昭和五九年度以降も実質的に赤字決算が倒産時まで継続していたこと、金融機関の借入を継続するために、亡富衛に対し、連帯保証・物上保証を求めたことが認められることが認められ、加えて、亡富衛は、被控訴人桑原利美とは親族関係などはなく、全くの他人であること、亡富衛は、訴外会社に勤務したこともなく、その経営や営業にも関与したことはないため、訴外会社の営業状況等は被控訴人らから聞かなければ分からない状態におかれていたこと、訴外会社は、亡富衛が被控訴人桑原利美に懇請されて最初に物上保証をした昭和五九年三月ころ、既に手形の決済資金に窮し、金融機関からの借入がなければ手形不渡りを出すような危機的な状況であったが、被控訴人は、亡富衛に対し、そのような訴外会社の状況を説明しないまま、物上保証人等になることを依頼して承諾させたこと、また、被控訴人桑原利美は、訴外会社の売上を水増しし、安全側の原則に立った減価償却を行わないなど種々の方法で利益を上げているような決算処理を行い、その結果債務を膨らませていき、最終的に、訴外会社を倒産させたこと(甲三七ないし四四、四六ないし四七、六六、六七、被控訴人桑原利美本人)が認められる。

2  右1の事実によれば、訴外会社の代表取締役として、不明朗な決算処理を行い、債務を膨らませて訴外会社を倒産させた被控訴人桑原利美が、訴外会社の債務を弁済したからといって、訴外会社の事情を説明されないまま物上保証及び連帯保証をした亡富衛ないしその相続人である控訴人らに対し、求償権を行使することができるとするのは極めて不当であり、被控訴人桑原利美の請求は信義則に反し、権利の濫用として認められないというべきである。

被控訴人らは、被控訴人桑原利美が、昭和五〇年ころから昭和五九年ころまで、亡富衛の面倒を見てきたことを指摘するが、仮に、そのような事実があったとしても、その額は、せいぜい五〇〇万円程度であるというのであるから(被控訴人桑原利美本人尋問の結果)、会津信金の申し立てた競売により、一億円近くする本件不動産を失った控訴人らの損失には比べようもない上、亡富衛は、昭和五三年ころ、被控訴人桑原利美に対し、三〇〇万円を貸し渡していることからすると(甲二七、被控訴人桑原利美本人尋問の結果)、被控訴人桑原利美が、真実、昭和五〇年ころから昭和五九年ころまで、亡富衛の面倒を見たのか多大な疑問が残るといわざるを得ない。したがって、被控訴人らの主張が事実としても、右結論を左右することはできないというべきである。

また、被控訴人桑原利美は、私財をなげうって訴外会社の債務の弁済に努めた旨主張する。確かに、被控訴人らが、訴外会社の倒産後、私財を拠出して、訴外会社の債務の弁済に努めたことは認められるものの、これは、同族会社である訴外会社の経営者一族としての責務という点があり、これをもって、善意で物上保証及び連帯保証をした亡富衛に対する求償権の行使が正当化されるとは認められない。

以上の次第で、被控訴人桑原利美の請求は、争点7、8について判断するまでもなく、理由がない。

3  しかし、右1の事実をもってしても、被控訴人桑原義己、同桑原タミ子の請求が信義則に反し、権利の濫用に当たるとは認められない。すなわち、被控訴人桑原利美と異なり、被控訴人桑原義己、同桑原タミ子が訴外会社の前記のような不明朗な経営にどのように関与していたのかは必ずしも明確でなく、亡富衛に物上保証及び連帯保証させたことに関与した形跡もないから、被控訴人桑原利美の親族であるからといって直ちにその請求が権利の濫用に当たるとは認められない。

七  争点8(本訴請求債権による相殺の当否)について

控訴人らは、控訴人らの請求債権と被控訴人らの請求債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をしているところ、控訴人らの請求債権は、前記一のとおり、それぞれ三七五万円であり、被控訴人桑原義己の控訴人らに対する請求債権は、前記三のとおり、それぞれ七三万〇四〇四円であるから、これを対当額で相殺すると、控訴人らの請求債権は三〇一万九五九六円となり、被控訴人桑原義己の請求債権は零円となる。また、被控訴人桑原タミ子の控訴人らに対する請求債権は、前記三のとおり、それぞれ一二万六八五五円であるから、これを対当額で相殺すると、控訴人らの請求債権は三六二万三一四五円となり、被控訴人桑原タミ子の控訴人らに対する請求債権は零円となる。

八  結論

以上の次第で、控訴人らの請求は、被控訴人桑原利美に対し、それぞれ三七五万円、同桑原義己に対し、それぞれ三〇一万九五九六円、同桑原タミ子に対し、それぞれ三六二万三一四五円及びこれらに対する前記配当がされた日の翌日である平成六年六月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから右限度で認容し、その余は理由がないから棄却し、被控訴人らの請求は、いずれも理由がないから棄却すべきである。

よって、右と結論を一部異にする原判決は一部不当であるから、原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条、六四条、六五条を、仮執行宣言につき同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官塩崎勤 裁判官小林正 裁判官萩原秀紀)

別紙物件目録<省略>

別紙1〜3<省略>

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