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東京高等裁判所 平成11年(ネ)1154号 判決 1999年9月21日

控訴人(附帯被控訴人)

株式会社アートバンク

右代表者代表取締役

来田淳

控訴人(附帯被控訴人)

株式会社キーフォトス銀座

右代表者代表取締役

鈴木順三

右両名訴訟代理人弁護士

堀口磊臧

被控訴人(附帯控訴人)

寺越慶司

右訴訟代理人弁護士

木澤克之

藤原浩

石島美也子

鈴木道夫

(以下、各当事者を右の順にそれぞれ「控訴人アートバンク」「控訴人キーフォトス」、「被控訴人」という。)

主文

本件控訴を棄却する。

本件附帯控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は、これを五分し、その一を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判所

一  控訴の趣旨

原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。

右敗訴部分に係る被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一審、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

本件控訴を棄却する。

控訴費用は被控訴人らの負担とする。

三  附帯控訴の趣旨

原判決中、被控訴人敗訴部分を取り消す。

控訴人らは、被控訴人に対し、連帯して金一六五万円及びこれに対する平成七年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、第一審、二審とも控訴人らの負担とする。

仮執行の宣言

四  附帯控訴の趣旨に対する答弁

本件附帯控訴を棄却する。

附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の第二事案の概要記載のとおりであるから、これを引用する。

一  当審における控訴人らの主張の要点

1  争点1(同一性保持権侵害の成否)について

原審被告株式会社アド・エヌ(以下「アド・エヌ」という。)は、本件著作物の利用(以下、原判決と同様に「本件利用」という。)により、本件著作物に原形をとどめないほどの改変を加えており、表現手法も被控訴人のそれとは全く異なっているのであって、被控訴人を含めてこれが被控訴人の著作物だと感得する者は誰もおらず、また、本件利用により作成された原審被告キジマ(以下「キジマ」という。)の製品カタログの表紙(以下「本件表紙絵」という。)には、被控訴人の著作物と表示されているわけではないから、右表紙の存在によって、被告人の作風が変わったとか、被控訴人が変なものを作ったとか、世の中の人々に誤認されることはない。同一性保持権は、著作物に改変が加えられ、それによって著作者の創作意図とは異なったものがその者の著作物として人々に受け取られることを防止することによって、著作者の人格的な利益を保護しようとするものであるから、右状況の下では、被控訴人の同一性保持権は何ら侵害されていない。

著作権法は、「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」については同一性保持権は認められないことを定めている(同法二〇条二項四号)。本件著作物は、特定の顧客の特定の目的に供するためのものではなく、不特定多数の顧客の不特定の商業広告の素材として提供されていたものであり、その利用においては、利用者の創作意図があるだけで、被控訴人の創作意図は全く考慮されない。したがって、本件著作物をその目的に従って単なる素材として利用したにすぎない本件表紙絵は、被控訴人の著作物ではなく、その作成のための本件著作物の利用(本件利用)により、被控訴人の著作者人格権が侵害されるということはあり得ない。現に、従前になされた本件著作物の同様の使用例(カラオケの広告及び墓地の広告)につき、被控訴人は何の問題にもしていない。

原判決は、アド・エヌによる本件利用行為が本件著作物につき被控訴人の有する同一性保持権を侵害している旨の判示はしているものの、同一性保持権侵害行為に該当すべき控訴人らの行為が何であるのかについては一言も言及することなく、控訴人らに連帯責任を負わせている。仮にアド・エヌによる本件利用が同一性保持権侵害行為に該当するとしても、控訴人らは、何らの利用行為もしておらず、同一性保持権侵害行為に該当する行為がないのであるから、他を論ずるまでもなく、責任がないことは明らかである。

2  争点2(承諾の有無)について

本件著作物の商業広告の素材として提供されたものであることは前述のとおりであり、素材として利用される以上、作品の改変は不可避である。そして、具体的改変作業は試行錯誤の連続であり、結果がどういう表現になるのかは、承諾請求の段階では利用者自身(本件の場合はアド・エヌ)にも確定的には明らかにはなっていないのであるから、この段階で、改変内容を正確に伝えよと仲介する立場にある者(本件では控訴人ら)に要求するのは、不可能を強いるというものである。

被控訴人は、右のような事情を理解、認識したうえ、本件著作物が素材として改変利用されることを承諾していたのであるから、本件利用を承諾したものというべきである。

3  争点3(控訴人らの過失の有無)について

控訴人アートバンクは、従前同様、誤解を生ずるおそれのある電話等による口頭による方式を避けて、控訴人キーフォトスから送られてきた「ポジ貸出打診書」(以下、原判決と同様に「本件打診書」という。)の内容を、何ら加除改変することなく、そのまま被控訴人にファックスで伝達するとの方式によって伝達しているのであり、被控訴人がこの方式を問題にしたことは、本件以前も本件以後も一度としてなかったのである。控訴人アートバンクの注意義務が果たされていたことは明らかである。

原判決は、控訴人キーフォトスによって本件打診書に記載された控訴人アド・エヌからの改変希望の内容が、誤解を生じやすい不明確な文言のものであったとの前提で、控訴人アートバンクに責任があるとしている。しかし、もし本件打診書が誤解を生じやすいものであるなら、被控訴人が確認のための行動をとるはずであるのに、被控訴人は、右改変希望について何ら釈明を求めることも確認を求めることもなく回答しているのである。「誤解を生じやすい」とした原審の認定は、その前提を誤っている。

4  争点4(損害の有無及び額)について

被控訴人の損害の発生及びその額については、原審以来何らの具体的な主張立証もなされていない。この状態の下で賠償を認めることはできないはずである。

仮りに、本件打診書の記載内容が「誤解を生じやすい」ものであったことにより控訴人らに責任があると認められたとしても、そのときは、右打診書の記載内容が右のように不明確であったにもかかわらず、これに回答する前に控訴人らあるいはアド・エヌに対し、改変利用の限界について確認し、説明をしておかなかったこと、及び、これに対する承諾書に不明確な記載をしてアド・エヌに誤解を与えたことにおいて、控訴人にも落度があり、これらの落度が損害の発生に寄与していることは明らかである。損害額の五割は相殺されるべきである。

二  当審における被控訴人の主張の要点

原判決が、被控訴人の主張する損害額金二〇〇万円のうち、金一六五万円について認めなかったのは、不当である。

第三  当裁判所の判断

当裁判所も、被控訴人の本件請求について、控訴人らに対し、慰謝料三〇万円及び弁護士費用相当額五万円の合計三五万円を連帯して支払うよう求める限度で理由があり、その余は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりである。

一  控訴について

1  争点1(同一性保持権侵害の成否)について

証拠(各項目ごとに括弧内に摘示する。当事者間に争いがない事実も含む。)によれば、次の事実を認めることができる。

本件著作物は、中央に、首を捻り右正面を向いて大きく口を開け歯をむき出したティラノサウルスが大きく描かれ、ティラノサウルスの口の付近に、小さな翼竜が飛んでいるところが描かれているイラストであり、その描写は、ティラノサウルスの輪郭、目、鼻孔、口腔、舌、歯、足、爪等から肌の襞の模様や陰影に至るまで細部にわたって写実的かつ緻密に描いているものである。(甲二、一八)

アド・エヌは、控訴人アートバンクから、その代理店である控訴人キーフォトスを介して、本件著作物のポジを借り受けると、本件著作物中の翼竜を切除し、ティラノサウルスの輪郭や色調を変え、写実的かつ緻密な描写をぼかすなどしたうえで、キジマの製品カタログの表紙を作成した。(争いのない事実)

本件利用の具体的内容は、翼竜を切除し、ティラノサウルスについて、全体の色調を黄、赤系統の色調に変更し、首から背にかけて連続した突起物を加えるなどして輪郭を変え、写実的かつ緻密に描かれていた目、鼻孔、口腔、舌、歯、足、爪等をぼかし、肌の襞の模様や陰影をはっきりと判別できず、かえって別個の模様を浮き上がらせるようなものにしている。しかし、本件著作物における、首を捻り右正面を向いて大きく口を開け歯をむき出したティラノサウルスという基本的な構図、その輪郭、目、鼻孔、口腔、舌、歯、足、爪等の細部の描写自体は残存したままである。(甲三)

右認定の事実によれば、アド・エヌは、本件利用によって、本件著作物の表現を変更しあるいは一部切除してこれを改変したものと認めるのが相当である。したがって、本件利用は、著作者である被控訴人の承諾又は著作権法の定める適用除外規定に該当する事由がない限り、本件著作物について被控訴人が有する同一性保持権を侵害するものというべきである。

控訴人は、本件表紙絵が被控訴人の著作物だと考える者はいないからこれにより被控訴人の同一性保持権は何ら侵害されていない旨主張する。

本件表紙絵は、前記認定のとおりのものであるから、本件著作物と比べて相当に表現内容が変わっていることは確かである。しかし、ティラノサウルスの基本的な構図のみならず、その目・鼻孔・口腔・舌・歯・足・爪等の細部の描写は残存しており、本件著作物とは無関係な著作物が創作されたものということはできない。また、著作権法二〇条にいう同一性保持権は、著作者が、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないというものであって、第三者が本件表紙絵をみて被控訴人の作品であると認識できるかどうか、右表紙に被控訴人の氏名が表示されているかどうかは問題とならない。控訴人らの右主張は、独自のものであって、採るを得ない。

本件著作物が、不特定多数の顧客の不特定の商業広告の素材として提供されていたものであることを根拠とする、控訴人らの主張も失当である。本件著作物は、用途制限「扱いC」と指定され、利用申込みの都度、貸出の可否について、著作者たる被控訴人の判断を必要とするものであったのであり、控訴人らの顧客が、被控訴人の承諾がないのに自由に改変して利用することができるというものではないことは自明だからである。右用途制限の存在と、本件著作物が不特定多数の顧客の不特定多数の商業広告の素材として提供されることは決して両立しないものではなく、控訴人らの右主張は右用途制限の存在を無視した立論であって、前提において既に失当である。

本件著作物を利用する行為をしたのは、アド・エヌであり、控訴人らは何らの利用行為もしていないから控訴人らに同一性保持権侵害はあり得ないとする控訴人らの主張も失当である。アド・エヌによる本件利用は、控訴人らの行為があることによりできたものであり、これらがなければ出来ていなかったことは、後に3で述べるとおりであり、控訴人らは、そこで認定されている行為によりアド・エヌによる本件利用を生じさせたのであるから、これらの行為が同一性保持権を侵害する行為としての評価を受けるのである。

2  争点2(承諾の有無)について

証拠(各項目ごとに括弧内に摘示する。当事者間に争いがない事実も含む。)によれば、本件利用の経緯について、次のとおりの事実を認めることができる。

総合広告代理店であるアド・エヌは、オートバイ部品メーカーであるキジマから、製品カタログの制作の依頼を受けた。アド・エヌのデザイン担当者であった輿石豊は、右カタログの表紙のデザインを行うに当たって、適当な素材を探していたところ、控訴人キーフォトスから送付されていた控訴人アートバンク作成の「ザ・ベストイラストレーションVo1・3増補改訂版」に掲載されていた本件著作物が最もイメージに合う作品であったことから、平成六年一一月二五日、控訴人キーフォトスに対し、本件著作物の使用目的、本件著作物をコンピュータで合成処理したいとの希望、そのためイラストの一部を切除したいとの希望、予定している具体的な合成の方法等を電話で伝えて、本件著作物の借受けを打診した。(甲四、丁一、三、四)

控訴人キーフォトスは、本件著作物が、用途制限「扱いC」、すなわち、利用申込みの都度、貸出しの可否について、著作者たる被控訴人の判断を必要とするものであったため、本件打診書に所定事項を記入したうえ、欄外に、本件著作物を模した簡略な絵を描き、その内の翼竜に対応した部分に丸印を付け、そこから引かれた矢印の先に「P.S.この飛んでいる恐竜を、つぶして使用したいとの事ですが、いかがなものでしょうか?(合成使用したい為)」と付記したうえ、平成六年一一月二五日、本件著作物を管理している控訴人アートバンクに、本件打診書を送付した。控訴人アートバンクは、本件打診書に、「※おいそがしいところ、どうぞよろしくお願い申しあげます」と書き添えたうえ、同日、被控訴人にこれを送付した。(甲四、乙一、争いのない事実)

被控訴人は、本件打診書に記載された顧客、仲介者、使用媒体、使用期間、著作権料について了解し、控訴人アートバンクに対し、貸出承諾書(以下、原判決と同様に「本件承諾書」という。)に、本件打診書欄外の付記に対する返答として、「翼竜をカットすることについて、異存はありません。」とだけ付記したうえ、同日、控訴人アートバンクに送付した。控訴人アートバンクは、被控訴人から送られた本件承諾書のうち、宛先欄の「殿」の文字を斜線で消し、文書の左上に控訴人キーフォトスの担当者名を書き加えて、同控訴人に送付した。(甲五、乙二)。

控訴人キーフォトスは、同日、アド・エヌに合成使用につき被控訴人からの承諾を得られた旨連絡し、写真貸出票に「※合成用の為、飛んでいる恐竜をカットする。→OK/作家寺越氏本人より」と記載したうえ、本件著作物のポジを貸し出した。(丁一)

アド・エヌは、借り受けた本件著作物について本件利用を行い、製品カタログを完成させてキジマに引き渡し、キジマは、これを広く業者向けに頒布した。

(争いのない事実)

右認定の事実によれば、被控訴人が本件著作物の改変の内容として、本件打診書で明確にされている翼竜の切除及びこれに伴う合成(ここにいう「合成」とは、「合成写真」の例に見られるような、二つ以上のものを合わせて一つのものにする、というだけの普通の意味での「合成」である。)として予測される範囲のものについて承諾を与えたことは認められるものの、その範囲を超える改変、特に、本件著作物の特徴である写実性、緻密さが失われるようなティラノサウルス自体の色調、輪郭、細部等についての大幅な変更をすることまで承諾したとは、とても認めることができない。このことは、控訴人らの指摘するカラオケの広告(乙第五号証)及び墓地の広告(乙第六号証)において、本件著作物中のティラノサウルスの周辺部にカラオケのマイクや墓石が配されたり大きな改変がなされているものの、ティラノサウルス自体の写実性、緻密さは全く損なわれていないことからも裏付けられるものである。

アド・エヌによる改変作業の結果がどういう表現になるのかは、承諾請求の段階ではアド・エヌ自身にも確定的には明らかにはなっていなかったのであり、被控訴人は、右のような事情を理解、認識したうえ、本件著作物が素材として改変利用されることを承諾していたとして、これを根拠に、被控訴人は本件利用を承諾していたとする、控訴人らの主張は採用できない。

具体的な表現が最終的にどのようなものになるかを承諾請求の段階で確定的に明らかにすることができないことは、控訴人ら主張のとおりであろう。しかし、そのことは、決して、最終的に行われる改変の結果を、承諾請求の段階で一定範囲に制限することと両立し得ないものではない。これは論ずるまでもないことである。そして、前記認定のとおり、本件著作物は、利用申込みの都度、貸出しの可否について、著作者たる被控訴人の判断を必要とするものであったのであるから、本件著作物に関しては、利用申込みの都度、希望されている本件著作物の利用の改変内容について説明して貸出しの可否を問い、被控訴人の承諾を求める必要があったのであり、現に、控訴人らは、承諾を求めるために本件打診書を被控訴人に送付しているのである。控訴人らは、広告業界に控訴人ら主張のような事情があればあるほど、本件著作物に関しては、利用者の行うべき改変と著作者である被控訴人の承諾との間にずれを生じさせないようにより注意深くあらねばならなかったのである。

3  争点3(控訴人らの過失の有無)について

控訴人アートバンクは、イラストレーターからの委託に基き、料金をとってイラスト作品を顧客に貸し出すことを業として行っているものであり、控訴人キーフォトスは、控訴人アートバンクの代理店としてイラスト作品貸出しに係る代理店業務を行っているものであるから、両者は、協力して、その管理するイラストに係る権利について善良なる管理者の注意をもって事務処理をすべき義務を負っているものと解され、顧客から、その管理するイラストであって、本件著作物のように利用申込みの都度イラストレーターにより貸出しの可否の判断がなされることにされているもの(「扱いC」のもの)につき改変利用の希望があり、これをイラストレーターに取り次ぐ場合には、顧客の希望する改変の内容、方法、範囲について正確に把握し、これを、誤解の生じないように正確にイラストレーターに伝えて承諾の可否について打診し、イラストレーターが了解を与えた場合には、その内容を誤解の生じないような形で正確に顧客に伝えることにより、顧客による著作者人格権等の侵害が発生することにないよう細心の注意を払うべき義務があったものと解すべきである。

ところが、前記2認定のとおり、控訴人キーフォトスは、アド・エヌから、本件著作物の使用目的、本件著作物をコンピュータで合成処理したいとの希望、そのためのイラストの一部を切除したいとの希望、具体的な合成の方法等を聴取しておきながら、本件打診書の欄外に、本件著作物を模したイラストを描き、その内の翼竜に対応した部分に丸印を付け、そこから引かれた矢印の先に「P.S.この飛んでいる恐竜を、つぶして使用したいとの事ですが、いかがなものでしょうか?(合成使用したい為)」と付記しただけで控訴人アートバンクにこれを送ったのであるから、アド・エヌの希望する改変の内容、方法、範囲について、誤解の生じないように正確に被控訴人に伝えて承諾の可否について打診するための行動をとったとはいえず、かえって、アド・エヌの希望する改変が翼竜の切除と恐竜自体の改変を伴わない合成のみであるかのように誤解される状況を作り出しているのであり、また、被控訴人から、右付記に対する返答として、「翼竜をカットすることについて、異存はありません。」とだけ付記された本件承諾書の送付を受けたにもかかわらず、その内容を誤解の生じない形で正確にアド・エヌに伝えず、被控訴人からアド・エヌの希望どおりの改変の承諾を得られたかのような連絡をしたのである。控訴人キーフォトスの右行為が前記義務に違反することは明らかというべきである。

また、控訴人アートバンクは、控訴人キーフォトスから受け取った本件打診書の記載内容が、翼竜の切除が顧客の希望に入ることについては誤解のおそれはないものの、その理由として、「(合成使用したい為)」との文言も含んでいて、翼竜の切除以外の改変も予定されていることがうかがわれ、しかもその内容が必ずしも明確でないものであったにもかかわらず(「合成使用」の用語が、デジタルデータ化した上での組合わせ、変形、色変換の作業を指すものとしても使用されうることは、控訴人ら自身の主張するところである。)、控訴人キーフォトス及びアド・エヌに尋ねて詳細を確認することもせず、漫然と、被控訴人に送付し、被控訴人から「翼竜をカットすることについて、異存はありません。」とだけ付記された返答を受け取ったのにも、何らの確認行為もしないで漫然と控訴人キーフォトスにこれを送付したものである。控訴人アートバンクの右行為が前記義務に違反することは明らかというべきである。

以上のとおり、右の述べた控訴人らの行為は、いずれも、本件著作物に関して被控訴人が有する同一性保持権の侵害の発生を防止すべき義務に違反してなされたものであって、控訴人らのいずれにも過失があり、アド・エヌによる同一性保持権侵害行為(本件利用)がこれらがなければ発生しなかったことは明らかであるから、控訴人らの右行為は、被控訴人の有する本件著作物に関する同一性物保持権を侵害する共同不法行為を構成するものである。

4  争点4(損害の有無及び額)について

控訴人らは、その共同不法行為によって被控訴人の本件著作物についての同一性保持権を侵害したのであるから、被控訴人に生じた損害を連帯して賠償する責任を負わなければならない。

被控訴人は、自然科学の分野において、資料に基き、生態学的に正確かつ緻密で、しかも、写実的なイラストを得意とし、その精密かつ的確な描写によって評価を得ているイラストレーターである(甲八ないし一五)。

本件著作物も、右のようなイラストの一つであり、ティラノサウルスを細部まで写実的かつ緻密に描いたものであったところ、本件利用によって、その身上とする写実的かつ緻密な描写という特徴が全く失われてしまったのであるから、被控訴人は、自己の意に反するこのような改変によって、名誉感情を毀損され、精神的な損害を被ったものと認められる。そして、右改変の状況及び本件に現れた諸事情を考慮すると、被控訴人の被った精神的な損害に対する慰藉料としては、金三〇万円が相当であると認められる。

また、本件事案の内容等、諸般の事情を考慮すると、控訴人らによる不法行為と相当因果関係のある損害としての弁護士費用は、金五万円とするのが相当である。

控訴人らは、被控訴人にも落度があったのであるから、損害額の五割は相殺されるべきである旨主張する。

しかしながら、アド・エヌが希望する改変利用の内容が、控訴人キーフォトスによって、誤解を生じやすい文言のものとされたことは、前記2認定のとおりであり、このような場合に、著作者人格権の侵害が発生することのないように未然に防止すべき義務は、少なくとも主としては控訴人らにあるというべきであって、仮に被控訴人に何らかの意味で完全ではないところがあったとしても、それを理由に過失相殺するのが相当であるとは思われない。控訴人らの主張は、採用することができない。

二  附帯控訴について

賠償の認められるべき損害の額として相当と認められる額が三五万円であることは、前記一4で述べたとおりであり、三五万円を超える額を損害額として認めることはできない。

三  以上認定判断したところによれば、被控訴人の本件請求について、控訴人アートバンク及び控訴人キーフォトスに対し、慰謝料三〇万円及び弁護士費用相当額五万円の合計三五万円及びこれに対する不法行為発生後である平成七年九月一日から支払済みまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求める限度で認容し、その余を棄却した原判決は相当であって、本件控訴及び本件附帯控訴はいずれも理由がない。そこで、これらをいずれも棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六七条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・山下和明、裁判官・山田知司、裁判官・宍戸充)

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