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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)289号 判決 1999年11月30日

原告 西東昌一

訴訟代理人弁護士 大野幹憲

同 塩谷崇之

被告 弁理士会

代表者理事 竹内三郎

訴訟代理人弁護士 熊倉禎男

訴訟復代理人弁護士 渡辺光

同 岩瀬吉和

訴訟代理人弁護士 富岡英次

同弁理士 宇野晴海

同 大島厚

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

特許庁が昭和六三年審判第五三七六号事件について平成一〇年七月二四日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第二  当事者間に争いのない事実

一  特許庁における手続の経緯等

社団法人発明学会(以下「発明学会」という。)は、別紙記載のとおり、「特許管理士」の文字を横書きしてなり、指定商品を旧商品区分の第二六類「新聞、雑誌、その他の定期刊行物」とする登録第七六五七五九号商標(昭和四一年九月一六日登録出願、昭和四二年一二月一日登録査定、同年同月二七日設定登録)の商標権者であった。

発明学会は、昭和六一年五月一六日、いわゆる権利能力なき社団である特許管理士会に上記商標権を譲渡し、これに伴い、同年一〇月二七日、発明学会からそのころ特許管理士会の管理人であった古川美智子への商標権移転登録がなされ、さらに、その後行われた特許管理士会の管理人の変更に伴い、平成五年一一月八日、古川美智子から新しい管理人である原告への商標権移転登録がなされた。

被告は、古川美智子を被請求人として(被請求人の地位は後に原告に承継された。)、昭和六三年三月二五日、本件商標の登録を無効とするとの審判請求をし、特許庁は、昭和六三年審判第五三七六号事件として審理した結果、平成一〇年七月二四日、「登録第七六五七五九号商標の登録を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決をし、その謄本は同年八月一五日原告に送達された。

二  審決の理由

審決の理由は、別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに、「本件商標は、本来弁理士のみがなし得る業務をも扱うことのできる資格名称であると一般の国民に誤認させるものであり、その意味において弁理士に類似する名称と解され、これをその指定商品に使用することは、弁理士法が弁理士でない者の弁理士に類似する名称の使用を禁止していることに違反し、ひいては、特許制度の利用者である一般の国民が特許管理などの専門家である弁理士に寄せる信頼を害することとなるから、登録査定時において既に社会公共の利益に反していたものである」(審決書八頁五行~一三行)以上、商標法四条一項七号に違反して登録されたものとして、同法四六条一項によりその登録を無効とすべきである、とするものである。

第三  原告主張の審決取消事由の要点

一  取消事由一(「士」の有する意味の誤認)

審決は、本件商標の末尾に付された「士」について、「一般に法律の定める資格を有する者の名称と理解される」(審決七頁一五行~一六行)と認定したうえ、それを前提に本件商標をその指定商品に使用することは、登録査定時に既に社会公共の利益に反していたとの結論を導き出している。しかし、「士」についての審決の上記認定は誤りであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は、このことだけで既に違法であり、取り消されなければならない。

たしかに、被告の主張するとおり、末尾に「士」の付されたものとして辞書等で例示されている「資格」名称は、衆議院議員の俗称である「代議士」を除いて、「法律に定める資格」ではある。しかし、それは偶然によるものというべきであって、決して、「士」の付された「資格」名称のすべてが「法律に定める資格」を有する者を意味するということはない。辞書などでの定義によっても、「士」とは、あくまでも「一定の資格」をもった者というにとどまるのであり、一般国民が「士」の用語から理解するのも、「一定の資格」をもった者ということである。そして、ここに「一定の」とは、「ある基準があらかじめ定められこれをクリアした」又は「ある一定の試験又は検定がなされ、これをクリアした」との意であり、一般国民はこのように理解しているのである。そして、この「一定の」の示す水準には国家試験の水準から民間で定めた水準までの種々のものが含まれている。例えば、大臣や省庁の認定のものとしては、「ビル経営管理士」(建設大臣認定(平成六年))、「建設業経理事務士」(建設大臣認定(平成六年))、「伝統工芸士」(通商産業省告示(平成四年)財団法人伝統的工芸品産業振興協会)、「自動車安全整備士」(警察庁認定(昭和五五年)、財団法人日本交通管理技術協会)等があり、大臣や省庁による認定まではなされていないが公益法人など非営利団体に関する資格事業とされているものとしては、犬訓練士(日本警察犬協会本部)、衣料管理士(社団法人日本衣料管理協会)等があり、その他にも、株式会社その他の団体で主催する「士」の語が付された資格事業は、極めて多数存在している。

二  取消事由二(「特許管理士」の有する意味についての認定判断の誤り)

審決は、「本件商標は、本来弁理士のみがなし得る業務をも扱うことのできる資格名称であると一般国民に誤認させるものであり、その意味において弁理士に類似する名称と解され」(審決書八頁五行~八行)と認定判断し、これを前提に、本件商標をその指定商品に使用することが社会公共の利益に反するとの結論を導き出している。しかし、本件商標である「特許管理士」についての上記認定判断は、誤っており、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は、違法であり、取り消されなければならない。

(一)  「弁理士がなし得る業務」が「特許管理」全般に及ぶにしても(弁理士法一条)、「弁理士のみがなし得る業務」は、弁理士法第二二条の二に規定された範囲に限定され、この限定された範囲外の「特許管理」に関連する業務は、何人もこれを行ってよいものである。「特許管理」を支えている人々には、弁理士、弁護士、研究者、設計技師、企業家その従業員さらには特許資料収集のための調査員など広い範囲の人が含まれる。そうである以上、広い意味での特許管理の分野のその一部を「弁理士」が独占していたとしても、このことが、直ちに、本件商標である「特許管理士」が「本来弁理士のみがなし得る業務をも扱うことのできる資格名称である」と一般国民に誤認されることにつながるものではないことは、いうまでもない。したがって、広い意味での「特許管理」の中に「弁理士のみがなし得る業務」が含まれているからといって、「特許管理士」は「弁理士に類似する名称」である、ということになるものではない。

(二)  「弁理士」と「特許管理士」とでは、概念、位置づけ、役割が全く相違しており、国民、特に企業は、これらの相違を十分に認識してきたものである。

「弁理士」は、沿革的にも、また現在の「弁理士」に関する諸規定及びその実態からも、「特許代理人」である。このような趣旨から、法は、弁理士に特許出願等の代理の独占を許し、その他の者による報酬を得ての代理業を禁止した。他方、「特許管理士」は、沿革からも、また実態からも、このような代理業務を全く視野に入れず、むしろ厳しく排除して今日に至っている。そして、用語上の問題としても、「管理」の用語は、保管、運用について取り仕切ること、業務の処理など、専ら、内部におけるコントロールを意味し、この用語が外部者に対する関係での代理(本件ではとくに特許庁などに対する代理業務)を意味することはない。したがって、仮に「弁理士」を「特許代理」人と称し、他方に「特許管理」士と対比して一般人に示したときに、これらが一方が外部に対する関係で代理人であり、「特許管理」士が内部でのコントロールをする者といった区別は、一般常識人ならば当然できるものであり、両者が混同されるおそれはない。

審決のいわんとするところを、「弁理士」は、「特許代理」人以上のものであって、広義の「特許管理」部門一般に「報酬」をとって業務ができる「法的資格」であり、この意味で、「特許管理士」が「弁理士」と混同を生じるとの趣旨で理解するのであれば、特許部に所属する従業員は、すべて「給与」、場合によっては「報奨金」を会社から受けているのであるから、「特許管理」業務に就くことがことごとく弁理士法違反になるとの結論に至り、甚だしく不都合な結論に至る。

「特許管理士」は、主に企業の特許部に属する従業員又はこのような職への就職希望者についての能力検定にすぎないのであるから、企業の特許部員であることが弁理士業と矛盾しない以上、「特許管理士」という資格も「弁理士」とは明らかに異なり、相互に混同するおそれはないというべきである。

第四  被告の反論の要点

一  取消事由一(「士」の有する意味の誤認)について

通常の国語辞典および漢和辞典によれば、末尾に「士」の付された語は、「一定の資格や特別の職業をもつ人」、「一定の資格を持った者」、「一定の職業、または資格のある人」等の意味を有する者とされ、その用例として「弁護士」、「代議士」、「栄養士」及び「学士」等が示されている。したがって、一般国民は、末尾に「士」の付された名称について、上記例示からも顕著なように、国家が法律に基づいてその資格を特別に付与したものを表示しているものと理解する場合が多いということができる。「士」の文字が付された名称が、常に必ず法律上の根拠を有する資格のみを表示するものではないことは、上記一般国民の理解についての傾向が存在しないことを証明するものではない。

辞書等に掲げられている「士」が末尾に付された用語の例示として、「法律に定める資格」が多く例示されているのは、「士」が末尾に付された語としては、「法律に定める資格」を表示する名称として使用される例が最も普遍的なものとして一般国民に理解されているからであると考えるのが合理的である。一般国民が、「士」が末尾に付された資格名称について、常に「法律に定める資格」を想起するとは限らないとしても、まず、「法律に定める資格」を念頭に浮かべることこそが、ここでは問題なのである。

二  取消事由二(「特許管理士」の有する意味についての認定判断の誤り)について

(一)  弁理士法二二条の三にいう「弁理士と類似する名称」に該当するか否かは、商標における一般の類否判断の場合とは異なり、特許等の制度の利用者である一般国民にとって、当該名称が、弁理士のみがなし得る業務を行うものであるかのような誤認を生じさせるおそれがあるものであるか否かを基準として決定すべきである。すなわち、弁理士法二二条の三の規定の趣旨を勘案すれば、審決がいうように「法律の定める正しい資格名称およびその全てを具体的に認識していない一般の国民」(七頁一七行目~二〇行目)を頭に置いて、本件商標「特許管理士」が、このような一般国民をして、「弁理士のみがなし得る業務」を行うものであると誤認させるようなものであるか否かを判断基準とし、そのように誤認させるようなものである場合に「弁理士に類似する名称」であると認定する、という方法こそが、正当な判断方法となるものというべきである。

上記のような判断基準に立って、「特許管理」の語が、特許出願行為等の代理行為など、弁理士のみがなし得る業務を含むものであること、名称の末尾に「士」の文字をつけたものは、一般に法律の定める資格を有する者の名称と理解され易いことを考慮すれば、審決の認定に誤りのないことは明らかである。

原告は、特許の「管理」と「代理」は、一般常識人ならば、当然区別できると主張しているが、そのようなことはない。特許法における特許管理人は、「特許出願、請求その他特許に関する手続」(同法三条二項)を業務内容とし、「その特許に関する代理人であ」ることが明確に定められている(同法八条)。このように、特許法自体が、特許の「管理」と「代理」とを明確に区別していないくらいなのであるから、まして、一般常識人が特許の「管理」と「代理」とを判然と区別することができるはずがないのである。

(二)  実際、昭和五〇年一〇月一二日付け毎日新聞には、「特許管理士」が実用新案登録出願を代行し報酬を受け取るなど業として出願代行業務を行ったとして東京地検が弁理士法違反で略式起訴した旨記載されており、沖縄タイムスには、資格なく特許申請を行い弁理士法違反で摘発された事件に関して、民間資格の「特許管理士」という肩書きで、申請手続きを代行していた旨が記載されているのであって、一般国民の中に、「特許管理士」の肩書きを使用するものを弁理士と同等の資格を有するものと誤認するおそれがある者が実在する。さらに、この点に関して、ほかにも弁理士法違反等が問題となって、出願人との間に問題が発生した事案において、問題を生じさせた者が、「特許管理士」の肩書きを利用していた例が少なからず存在するのである。

第五  当裁判所の判断

一  取消事由一(「士」の有する意味の誤認)について

(一)  乙第一七号証(昭和四七年四月三〇日発行「角川国語辞典」二〇版)、乙第一八号証(昭和四七年一〇月一六日発行「広辞苑」第二版)及び乙第一九号証(昭和五三年一〇月五日発行「学研漢和大字典」)によれば、末尾に「士」の付された語の通常の意味は、「一定の資格や特別の職業をもつ人」、「一定の資格を持った者」、「一定の職業、または資格のある人」などといったものであり、その用語例として、「弁護士」、「栄養士」、「学士」、「代議士」等が挙げられていることが認められる。

ここにいう一定の資格に何が含まれるかについては、格別の制限が付されていないから、形式的には、国家資格(法令に根拠を有するもの)、民間資格(それ以外のもの)のいずれをも含み得ることになる。

しかし、末尾に「士」の付された名称の中で、一般国民にとって接する機会が多く、したがってまた一般国民にとって知られている度合いの大きいものの多くは、上記「弁護士」、「栄養士」、「学士」をはじめ、税理士、建築士、不動産鑑定士、土地家屋調査士、司法書士、行政書士など国家資格に係るものであり(なお、前記「代議士」は、原告主張のとおり衆議院議員の俗称であって、法令に基づく名称ではないが、衆議院議員が法令に基づく地位であることは明らかであるから、国家資格に係る名称であることに変わりはない。)、しかも、その状態が古くから続いてきていることは、当裁判所に顕著である。

また、末尾に「士」の付された名称のうち、国家資格に係るものは、国家が、公共の福祉その他政策上の目的のために、国民の職業選択の自由を制限してでも、一定の能力を有すると判定された者に限って一定の地位ないし権限を付与する必要があると認めて法令をもってそのように定めたものであり、そのために、国家資格に伴う地位ないし権限は、必然的に対世的かつ排他的なものとなる。これに対して、民間資格は、上記のような必要に基づくものでも、法令に根拠を有するものでもなく、したがってまた、対世的かつ排他的な地位ないし権限の付与を伴うものでもない。このように、国家資格と民間資格とでは、一般国民に対して現実に果たしている役割の重要性において比較にならない相異がある。

これらの事情の下では、一般国民は、末尾に「士」の付された名称に接した場合、一定の国家資格を付与された者を表していると理解することが多いのは当然のことである。

(二)  原告の主張は、要するに、末尾に「士」の付された名称の中には民間資格に係るものもあるという点のみをとらえ、末尾に「士」の付された名称が「法律に定める資格」に結び付くものではないというものであって、事の一面だけを見て他を見ようとしない議論というべきであり、失当である。

(三)  審決の「○○士と名称の末尾に「士」の文字を付けたものは、……一般に法律の定める資格を有する者の名称と理解されるものである。」(審決書七頁一一行目~一六行目)との認定は、「一般に」の語に着目するとき、上記(一)で述べたのと同じ趣旨のものと理解することができ、このように理解する限りにおいて審決の上記認定に誤りはない。原告主張の取消事由一は採用できない。

二  取消事由二(「特許管理士」の有する意味についての認定判断の誤り)について

(一)  弁理士法二二条の二第一項は、「弁理士ニ非サル者ハ報酬ヲ得ル目的ヲ以テ特許、実用新案、意匠若ハ商標若ハ国際出願ニ関シ特許庁ニ対シ為スベキ事項若ハ特許、実用新案、意匠若ハ商標ニ関スル異議申立若ハ裁定ニ関シ通商産業大臣ニ対シ為スベキ事項ノ代理又ハ此等ノ事項ニ関スル鑑定若ハ書類若ハ電磁的記録(電子的方式、磁気的方式其他人ノ知覚ヲ以テ認識スルコト能ハザル方式ニ依リ作ラルル記録ヲ謂フ次項ニ於テ亦同ジ)ノ作成ヲ為スヲ業トスルコトヲ得ス」と定めているから、弁理士の業務のうち、報酬を得る目的をもってなす特許等の出願手続、異議申立て等の手続の代理、これらの事項に関する鑑定、書類等の作成は、弁理士のみがなし得る業務である。

(二)  「特許管理」の語は、通常の用語例に従えば、「特許」を「管理」することを意味するものであるから、これに従えば、特許を管理するという広範な意味合いを有するものとして理解されることになる。そして、一般国民がこれと異なる理解をしていることを示す資料は本件全証拠を検討しても見出せないから、一般国民は、「特許管理」の語に接したとき、上記意味合いのものとして理解するものと認められる。この中に、業務としては上記弁理士のみがなし得るものが含まれることは論ずるまでもないことである。

(三)  なお、《証拠省略》によれば、「特許管理」という語は、企業用語としては、我が国において、昭和三二年ころから、企業による特許制度の利用に関して使われ始めるようになった造語であり、その意義は必ずしも明確なものではないが、企業が利潤を追求するに当たって適切な効果を生むように特許制度を利用することを目的とした企業の政策又は業務であって、広義では、企業経営政策の一部として企業全般の特許問題に対する姿勢を整えることを意味し、狭義では、企業の特許部あるいは特許課などの専任担当部門において日常処理される業務を意味するものと認められる。

そうすると、企業用語としての「特許管理」が上記狭義の意味で用いられるときには、それが代理でなされる限り弁理士のみがなし得る特許等の出願手続、異議申立て等の手続を行うことも含まれることになる。

いずれにせよ、一般国民が、企業用語としての「特許管理」の上記意味を的確に理解していることを示す資料は本件全証拠を検討しても見出せないから、企業用語としての「特許管理」の存在により、「特許管理」の語に接したときの一般国民の理解についての前記認定が影響を受けることはないということができる。

(四)  一般国民は、末尾に「士」の付された名称に接した場合、一定の国家資格を付与された者を表していると理解することが多いことは、前記一(一)認定のとおりである。これを本件でいえば、上記のような広範な意味を有する「特許管理」という語の末尾に「士」を付した場合、特許制度、弁理士制度に専門的な知識を有していない一般国民は、「特許管理士」の語から、特許等に関する出願や異議申立て等をも含めた広範な意味での特許管理を業務として行うことができる国家資格を有する者を想起あるいは連想することが多いものと認められる。

そして、このように想起あるいは連想される限り、そこでの「特許管理士」の業務の中に、弁理士のみがなし得るものとされているものも含まれることになるのは、むしろ自明というべきである。原告は、「管理」と「代理」の区別は一般常識人ならば当然できると主張するが、広範な意味での「管理」の概念の中に「代理」による「管理」が入り得るものであることは、特許法自体が「特許に関する代理人」を「特許管理人」と名付けている例(特許法八条)を挙げるまでもなく、明らかなことであるから、採用できない。

そうである以上、「特許管理士」の語は、本来、「弁理士」の語と、互いにあいまぎらわしく、混同を生じさせやすい性質を有するものというべきである。

(五)  《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

(イ) 発明学会は、昭和三九年以降、毎年のように弁理士試験に類似した特許管理士試験を実施して、その合格者に「特許管理士」の資格を付与し、この特許管理士によって構成される団体として特許管理士会を結成して、民間に特許管理士制度を創設した。

(ロ) 発明学会は、特許管理士の受験資格に特段の限定をしていなかったところ、初期のころ、その大半は企業における特許業務担当者であったが、中には企業と無関係に資格取得の手段として受験しようとする者もいた。昭和四一年ころには、特許管理士会の幹事の中に、複数の企業の顧問となって特許管理業務に従事する者が出現し、また、同じころ、特定の企業に属さずに特許管理の業務を営む目的で特許管理士の資格取得を目指す者も現われた。

(ハ) 昭和五〇年ころ、特許管理士の一人が、東京都内に事務所を構えて実用新案登録出願を代行して報酬を受け取っていたことから、東京地方検察庁に摘発され、弁理士法違反で略式起訴された。また、同じころ、別の特許管理士が、香川県において、「正田技術法務事務所」という名で、特許出願等の無料相談、指導等を業務として行っていた。さらに、平成八年九月ころには、別の特許管理士が、沖縄県で事務所を構えて、特許出願、実用新案登録出願の代行業務を行っていたことから、沖縄県警に弁理士法違反で摘発された。

上記認定の各事実の下では、民間資格である「特許管理士」の資格は、その当初から、本人の特許管理業務を代行して、弁理士のみがなし得る業務を行う危険性をはらんでいたものであり、現に、昭和五〇年ころから平成八年までの間に、特許管理士の名で特許管理業務を代行して捜査機関に摘発されるなどの事態が出来している、ということができる。

(六)  以上述べてきた諸事情を考慮すると、「特許管理士」の語は、本件商標の登録査定時において、既に、一般国民の間において、現実には弁理士にしか許されていない業務を行う資格を有する者と誤信され、弁理士と混同されるおそれがあったものと認められるから、そのころ既に、弁理士法二二条の三にいう「弁理士ニ……類似スル名称」に該当すると判断されるものであったということができる。

(七)  原告は、「弁理士」と「特許管理士」とでは、概念、位置づけ、役割が相違しており、国民、特に企業はこれらの相違を十分に認識し得るとして、これを前提に、「特許管理士」の語が「弁理士」と類似せず、混同するおそれもない旨主張する。

しかしながら、特許制度、弁理士制度について専門的知識を有し、特許管理士の業務内容について十分理解している者であればいざ知らず、そうでない者にとっては、「弁理士」と「特許管理士」との地位、業務の相違を的確に認識することは不可能である。そして、一般国民が上記の専門的知識や十分な理解を有していないことは当裁判所に顕著である。原告の上記主張は、誤った前提に立つものであって、採用できない。

原告は、審決の述べるところを、「弁理士」は、「特許代理」人以上のものであって、広義の「特許管理」部門一般に「報酬」をとって業務ができる「法的資格」であり、この意味で、「特許管理士」は「弁理士」と混同を生じるとの趣旨で理解するのであれば、企業の特許部に所属する従業員は、すべて「給与」、場合によっては「報奨金」を会社から受けているのであるから、「特許管理」業務に就くことがことごとく弁理士法違反になるとの結論に至り、甚だしく不都合な結論に至ると主張する。

しかしながら、弁理士法二二条の二第一項において弁理士のみがなし得る業務とされるものは、特許等の出願手続、異議申立て等の手続の代理等をすることであって、本人自らが特許等の出願手続、異議申立て等の手続をすることまでも禁じているものでないことは自明であり、特許部に所属する従業員は、企業自らが特許等の出願手続、異議申立て等の手続をする場合に、その補助者としての行為をしているにすぎない。そして、審決が企業従業員によるこのような形での特許等への関与と弁理士の業務との関係を何ら論拠にしていないことは、審決の記載自体で明らかである。原告の上記主張は、審決の述べるところを曲解して審決を非難することに帰し、失当であることが明らかである。

(八)  以上のとおりであるから、原告主張の取消事由二も採用できない。

第六  以上によれば、原告主張の取消事由は、いずれも理由がなく、その他、審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 宍戸充)

<以下省略>

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