大判例

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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)283号 判決 1999年9月21日

原告

東陶機器株式会社

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁護士

増岡章三

増岡研介

片山哲章

同弁理士

【B】

被告

【C】

訴訟代理人弁理士

【D】

被告補助参加人

株式会社セラ・コーポレーション

代表者代表取締役

【E】

訴訟代理人弁理士

【F】

同弁護士

舟橋直昭

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、補助参加によるものも含め原告の負担とする。

事実

第1  原告が求める裁判

「特許庁が平成9年審判第19074号事件について平成10年6月30日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

被告は、発明の名称を「簡易蒸気風呂用の蒸気発生器」とする特許第2660791号発明(以下「本件発明」という。)の特許権者である。なお、本件発明は、平成5年3月29日に特許出願され、平成9年6月13日に特許権の設定登録がされたものである。

原告は、平成9年11月7日に本件発明の特許を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は、これを平成9年審判第19074号事件として審理した結果、平成10年6月30日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年8月17日にその謄本を原告に送達した。

2  本件発明の特許請求の範囲(別紙図面A参照)

別紙審決書の理由写しのⅠ記載のとおり

3  審決の理由の要点

別紙審決書の理由写しのⅡ以下のとおり(審判手続における甲第1ないし第3号証を、以下「引用例1」,「引用例2」,「引用例3」という。)

4  審決取消事由

審決は、本件発明の空気取入口の構成についての判断を誤り、その結果、本件発明が未完成であるにもかかわらずこれを完成しているものと誤って判断し(取消事由1)、また、引用例1ないし3記載の技術内容についての認定判断を誤り、その結果、本件発明の進歩性を誤って肯定したものであって(取消事由2)、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)取消事由1(空気取入口の構成についての判断の誤り)

審決は、本件発明は装置外に蒸気を供給するものであるから、装置内に空気が導入されなければならないと認めながら、本件発明は空気の導入に関しては何ら特徴を有するものではなく、この点は従来技術の適用によって当業者が適宜になしえたことであるから、これが明細書に記載されていないからといって、発明が未完成となるものではない旨判断している。

しかしながら、空気取入口をどのように構成するかは蒸気発生器の作用効果を大きく左右するものであるから、これを単なる設計事項にすぎないとする審決の判断は誤りである。

(2)取消事由2(引用例1ないし3記載の技術内容についての認定判断の誤り)審決は、引用例1ないし3には、湯又は水を微細化する装置が記載されているが、「供給された湯を受け止めて拡散させることで蒸気を発生させる羽根車」の構成(以下「本件発明の要件である羽根車の構成」という。)は記載も示唆もされていない旨説示しているが、誤りである。

a 審決は、引用例1記載の考案について、「水の粉砕は主として回転する円板から、これとは別体の、静止している粉砕体に水が衝突することでなされるものであり、回転体14(判決注・「羽根片14」の誤記である。)が水の微細化に寄与する程度は大きくないと解され」る旨説示している。

しかしながら、引用例1に、水が「第2の羽根片14により粉砕され」(3頁20行)と記載されているとおり、引用例1記載の考案において羽根片14が水の微細化に寄与していることは明らかである(別紙図面B参照)。

b 審決は、引用例2には本件発明の要件である羽根車の構成は記載されていない旨説示している。

しかしながら、引用例2の第4図に図示されているロート状の回転板10の裏側に設けられている羽根11は、本件発明の要件である羽根車の構成を少なくとも示唆するというべきである(別紙図面C参照)。

c 審決は、引用例3記載の発明について、「植毛はその遠心効果によりミスト化するもので受け止めた時点でミストが発生する構造ではない」旨説示している。しかしながら、引用例3記載の発明は、高速回転しているミスト生成体12の上方から温水が降りかかる構成のものであるから、ミスト生成体12が温水を受け止めて拡散することで蒸気を発生させていることは明らかである(別紙図面D参照)。

d 以上のとおりであるから、引用例1ないし3記載の技術的事項を適宜に組み合わせて、本件発明の要件である羽根車の構成を得る程度のことは、当業者ならば何の困難もなくなしえたことが明らかである。したがって、本件発明の進歩性を肯定した審決の判断は誤りである。

第3  被告の主張

原告の主張1ないし3は認めるが、4(審決取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  取消事由1(空気取入口の構成についての判断の誤り)について原告は、空気取入口の構成は蒸気発生器の作用効果を大きく左右するものであるから、これを単なる設計事項とするのは誤りである旨主張する。

しかしながら、本件発明は、その蒸気発生器が完全密閉構造であることを要件とするものではない。そして、蒸気発生器内に空気を導入する程度の構成は当業者ならば当然に設計しうる事項にすぎない。したがって、この構成が明細書に記載されていないとしても、本件発明が未完成となるものではないとした審決の判断に誤りはない。

2  取消事由2(引用例1ないし3記載の技術内容についての認定判断の誤り)について

(1)原告は、引用例1記載の考案において羽根片14が水の微細化に寄与していることは明らかである旨主張する。

しかしながら、本件発明の要件である羽根車は、供給された湯を受け止めて拡散する構成のものであるのに対し、引用例1記載の考案における羽根片14は、水の吐出孔12と一体的に回転するものであるうえ、放射状に配置されているから、吐出孔12から「供給された湯を受け止めて拡散させる」作用をほとんど行うことができないものである。

(2)原告は、引用例2の第4図に図示されている羽根11は、本件発明の要件である羽根車の構成を示唆する旨主張する。

しかしながら、同図に図示されている構成は、ロート状の回転板10の中心孔に供給された湯を、回転板10の回転による遠心力によって外周方向へ飛散させるものであるから、ロート状の回転板10の裏側に設けられている羽根11は、遠心力によって飛散された湯を吹き出す作用を行うものにすぎない。

(3)原告は、引用例3記載のミスト生成体12は温水を受け止めて拡散することで蒸気を発生させている旨主張する。

しかしながら、引用例3の第1図に図示されている構成は、タービン室5から供給された温水をミスト生成体12のブラシに付着させ、ミスト生成体を高速回転することによって温水を遠心放射するものであるから、これを温水を受け止めて拡散することで蒸気を発生させる構成ということはできない。

(4)以上のように、引用例1ないし3には本件発明の要件である羽根車の構成は記載も示唆もされていないから、これらに記載されている技術的事項を適宜に組み合わせて本件発明の要件である羽根車の構成を得ることは当業者ならば容易になしえたとする原告の主張は、失当である。

理由

第1  原告の主張1(特許庁における手続の経緯)、2(本件発明の特許請求の範囲)及び3(審決の理由の要点)は、被告も認めるところである。

第2  甲第3号証(特許公報)によれば、本件発明の概要は次のとおりであると認められる(別紙図面A参照)。

1  技術的課題(目的)

本件発明は、簡易蒸気風呂用の蒸気発生器に関するものである(2欄13行,14行)。

家庭用の浴槽等を蒸気風呂として利用するための技術は従来から存在するが、これらの技術は、水をヒータによって加熱したり、湯にエアーを吹き込んだりして蒸気を発生させるものであって、運転に多大なエネルギーを要するのみならず、構造が複雑となる欠点がある(3欄1行ないし9行)。

本件発明の目的は、より簡便かつ少ないエネルギーで、蒸気風呂として十分な量の蒸気を発生することができる構成を創案することである(3欄10行ないし14行)。

2  構成

上記の目的を達成するために、本件発明はその特許請求の範囲記載の構成を採用したものである(1欄2行ないし2欄10行)。

3  作用効果

本件発明によれば、従来のヒータ式あるいはエアー吹込み式に比べて、装置の構造が簡便となるうえ、多大なエネルギーを必要とせずに蒸気風呂として十分な量の蒸気を発生させることが可能である(8欄30行ないし38行)。

第3  以上を前提として、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。

1  取消事由1(空気取入口の構成についての判断の誤り)について装置内に供給された湯を拡散することによって蒸気を発生し、これを装置外に供給する構成が完全密閉の構造でなければ実現できないものでないことは技術的に明らかである。また、そのような構成によって奏される作用効果が、空気取入口をどのように構成するかによって大きく左右されると考えるべき合理的な理由も考えられない。

したがって、本件発明において空気の導入は従来技術の適用によって当業者が適宜になしえたことにすぎないと解するのが相当である。これが明細書に記載されていないからといって、発明が未完成となるものではないとした審決の判断に誤りはない。

2  取消事由2(引用例1ないし3記載の技術内容についての認定判断の誤り)について

本件発明の羽根車は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されているように、「供給された湯を受け止めて拡散させることで蒸気を発生させる」構成のものであるが、「受け止めて拡散させる」という以上、この構成は、羽根車が供給された湯と衝突することによって蒸気を発生させる作用を行うものではなく、供給された湯はいったん羽根車に受容され、その後に羽根車の回転により湯が放射状に放出されることによって蒸気を発生させる作用を行うものと解するのが相当である。このことは、特許請求の範囲の請求項2に、「羽根車が、供給された湯を受け止めて回転される請求項1記載の簡易蒸気風呂用の蒸気発生器」(甲第3号証1欄8行,9行)と記載されていることによっても裏付けることができる。羽根車が供給された湯を受け止めて回転する構成が、羽根車が供給された湯と衝突することによって蒸気を発生させるとの技術的思想と相容れないものであることは明らかであるからである。

そこで、引用例1ないし3に上記のような作用を行う羽根車の構成が記載ないし示唆されているか否かを検討する。

(1)原告は、引用例1記載の考案において羽根片14が水の微細化に寄与していることは明らかである旨主張する。

しかしながら、甲第4号証によれば、引用例1記載の考案の要件である「複数個の羽根片」は「回転板の上面及び下面に設けられ(中略)吸水管によって吸い上げられた水を粉砕する」(明細書1頁10行ないし12行)ものとされているが、この吸水管も「回転板と一体に回転するように設けられ」(同7行,8行)るものであるから、水の粉砕は、ほとんど「駆動モータによって回転駆動するように設けられた回転板」(同6行,7行)の回転による遠心力によって行われることに疑問の余地はない(別紙図面B参照)。

したがって、このような構成における羽根片14が「供給された湯を受け止めて拡散させることで蒸気を発生させる」作用に何らかの寄与をしていると解することは技術的に困難である。

(2)原告は、引用例2の第4図に図示されている回転板10の裏側に設けられている羽根11は、本件発明の要件である羽根車の構成を示唆する旨主張する。

しかしながら、甲第5号証によれば、引用例2の第4図に図示されている構成は、ロート状の回転板10の中心孔に下方から供給された湯を、回転板10の回転による遠心力によって外周方向へ飛散して蒸気を発生するものであることが明らかである(別紙図面C参照)。

したがって、ロート状の回転板10の裏側に設けられている羽根11は、すでに発生している蒸気を「噴射口2より噴射」(2頁左下欄11行,12行)する作用を行うものにすぎず、「供給された湯を受け止めて拡散させることで蒸気を発生させる」作用を行うものでないことは明らかである。

(3)原告は、引用例3記載の発明は、高速回転しているミスト生成体12の上方から温水が降りかかる構成のものであるから、ミスト生成体12が温水を受け止めて拡散することで蒸気を発生させていることは明らかである旨主張する。

確かに、甲第6号証によれば、引用例3記載の発明は、「温水を(中略)タービンと同軸する逆円錐状のミスト生成体を構成するブラシに付着させ、これが高速回転に依る遠心効果で微粒化し拡散する」(1頁左下欄7行ないし9行)構成のものであるから(別紙図面D参照)、逆円錐状のミスト生成体あるいはこれを構成するブラシが、本件発明と同じく「供給された湯を受け止めて拡散させることで蒸気を発生させる」作用を行っているとみることは可能である。

しかしながら、たとえ逆円錐状のミスト生成体あるいはこれを構成するブラシが上記の作用を行っているとしても、そこに「羽根車」の構成を示唆するものがあると認めることはできない。

3  以上のとおりであって、引用例1ないし3には本件発明の要件である羽根車の構成が記載ないし示唆されているとはいえないから、本件発明の進歩性を肯定した審決の認定判断は正当であって、審決には原告主張のような誤りは存在しない。

第4  よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は、失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成11年8月3日)

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

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