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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)199号 判決 1999年7月14日

原告

ジェネラル インストラメント コーポレーション

代表者

【A】

訴訟代理人弁理士

【B】

被告

特許庁長官 【C】

指定代理人

【D】

【E】

【F】

【G】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成6年審判第4048号事件について、平成10年2月10日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文1、2項と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、1989年5月25日にアメリカ合衆国でした特許出願に基づく優先権を主張して、平成2年5月24日、名称を「ケーブルテレビジョンにおけるコンバータ遠隔制御方法とケーブルテレビジョンコンバータ、ケーブルテレビジョンヘッドエンド装置」とする発明(以下「本願特許発明」という。)につき、特許出願(特願平2-132779号)をしたが、平成5年10月4日に拒絶査定を受けたので、平成6年3月7日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を、平成6年審判第4048号事件として審理した上、平成10年2月10日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年3月2日、原告に送達された。

2  本願特許発明の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨

ケーブルテレビジョンヘッドエンドからダウンロードされたファームウエアの受信手段と、この受信手段にファームウエアを記録するために設けられた格納手段と、ファームウエアの完全性の確認手段と、ファームウエアによって指令された1

以上の機能をコンバータに付与するために、ファームウエアにアクセスし実行するため前記格納手段に結合されたプロセッサと、コンバータのためのデフォルト機能ソフトウエアを記憶させておくため、プロセッサに結合された持久性メモリーと、ファームウエアの完全性証明のない場合に、前記プロセッサがファームウエアの替わりにデフォルト機能ソフトウエアを実行させるために設けられる前記確認手段に対する応答手段と、からなることを特徴とする遠隔操作による機能変更可能なケーブルテレビジョンコンバータ。

3  審決の理由

審決は、別紙審決書写し記載のとおり、本願発明が、特開昭59-15348号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例の記載事項の認定、本願発明と引用例発明との相違点の認定、この相違点に関する判断は、いずれも認める。

審決は、本願発明と引用例発明との一致点についての認定を誤り(取消事由1~4)、この結果、本願発明に関する進歩性の判断を誤ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  一致点の誤認1(取消事由1)

審決が、引用例発明の「データ取得回路」を、本願発明の「ファームウエアの受信手段」に対応すると認定した(審決書6頁2~7行)ことは誤りである。

すなわち、「ファームウエア」とは、システムに恒久的にインストールされた状態のコンピュータ・プログラム(日経BP社発行「マグロウヒル パソコン百科事典」甲第13号証)、あるいは、プログラムを固定記憶装置等の中にあらかじめ組み込んでハードウエア化したもの(オーム社発行「OHM電気電子用語事典」甲第14号証)を意味し、ソフトウエアとハードウエアとの中間に位置するものとされていて、技術的概念としてソフトウエアとは明らかに峻別される位置付けがなされている(日外アソシエーツ発行「コンピュータ用語大事典」甲第15号証、日本経済新聞社発行・日経文庫「コンピュータ用語事典」甲第16号証、共立出版株式会社発行「コンピュータ・通信小事典」甲第17号証及びオーム社発行「先端ソフトウェア用語事典」甲第18号証、以下、これらの甲第13~第18号証の事典及び事典を総称して「本件各事典」という。)。

そして、「恒久的にインストールされる」あるいは「固定記憶装置などの中にあらかじめ組み込まれた」とは、具体的には、ROM(リードオンリーメモリ:読み出し専用メモリ)にインストールすることを意味している。

そうすると、本願発明の「ファームウエア」は、プログラムとして有する機能は引用例発明の「ソフトウエア」と同様であるものの、「ROM等の非揮発性記憶装置に恒久的に固定されたコンピュータ・プログラム又はコンピュータ・プログラムの書き込まれたROM等の非揮発性記憶装置」を意味することが明らかであり、一般的な意味でのソフトウエアとは技術的に明確に区別される特別な意義を有する用語である。

他方、引用例発明の「データ取得回路」は、「ファームウエア」を受信しておらず、代わりに、コンバータのスイッチのオン、オフの度毎に伝送ネットワークから復帰させねばならない「ソフトウエア」を受信するようになっている。そして、このソフトウエアは、非揮発性メモリーに永く記録されているものではないから、ファームウエアとはいえない。

この点に関し、被告は、朝倉書店発行「マイクロコンピュータの事典」(乙第1号証、以下「本件事典」という。)に基づいて、「ファームウエア」が、「マイクロプログラム」を意味し、ダイナミックプログラム方式の場合は通常のRAMを使用することがあるから、本願発明における「ファームウエア」は、上記のような意味の用語ではないと主張するが、本件事典における上記のRAMは、ダイナミックプログラム方式という限定された条件下において言及されるにすぎず、一般的に認識される「マイクロプログラム」の適用形態ではない。

また、被告は、本願発明の「ファームウエア」と引用例発明の「ソフトウエア」とは、その機能から見れば対応すると主張するところ、「ファームウエア」と「ソフトウエア」とのプログラムとして有する機能が同様であっても、本願発明では、「ファームウエア」を使用することにより、コンバータの電源投入の度毎にソフトウエアをダウンロードする必要はないから、必要最小限の帯域幅で対応でき、しかも、高品質のプログラムアクセスが実現できるという効果があり、この点において引用例発明と相違する。

2  一致点の誤認2(取消事由2)

審決が、引用例発明の「メモリの『ダウンロードされたソフトウエアを蓄積する領域』」を、本願発明の「ファームウエアを記憶するために設けられた格納手段」に対応すると認定した(審決書6頁3~8行)ことは誤りである。

すなわち、「ファームウエア」と「ソフトウエア」とは、前示のとおり、構成や作用効果も異なるものであるから、引用例発明の「ダウンロードされたソフトウエアを蓄積する領域」が、本願発明の「ファームウエアを記憶するために設けられた格納手段」に対応するものではない。

3  一致点の誤認3(取消事由3)

審決が、引用例発明の「CRC回路」を、本願発明の「ファームウエアの完全性の確認手段」に対応すると認定した(審決書6頁4~9行)ことは誤りである。

すなわち、引用例発明の「CRC回路」が、多項式を使用して個々のパケットをチェックするものであることは認めるが、多数のパケットからなるファームウエアパッケージ全体をチェックすることはない。

これに対し、本願発明においては、ファームウエアのパッケージが、多数のセグメントの形で受信されるので、ファームウエアの完全性の証明もセグメント数をカウントすることによりなされる。例えば、本願発明に係る第5図フローチャートでは、114,116,118におけるタイムアウト過程が、ヘッドエンドからのファームウエア検索要求(112)によるタイムアウト期間内にファームウエアが完全にダウンロードされていることを要求している。しかも、セグメントの計数(手段)は、セグメント数がヘッドエンドからのファームウエア検索要求による範囲内にあることを必要としている。

したがって、本願発明では、ダウンロードされた全ファームウエアにつき、それぞれ違った過程で完全性の証明がなされることになり、この点において引用例発明と相違する。

4  一致点の誤認4(取消事由4)

審決が、引用例発明の「CPU」を、本願発明の「ファームウエアによって指令された1以上の機能をコンバータに付与するために、ファームウエアにアクセスし実行するための前記格納手段に結合されたプロセッサ」に対応すると認定した(審決書6頁4~12行)ことは誤りである。

すなわち、引用例発明のCPUは、ケーブルテレビジョンヘッドエンドからダウンロードされたファームウエアを実行するものではなく、また、本願発明で開示されるように、1又はそれ以上のコンバータ機能を提供するファームウエアを実行するプロセッサでないことも明らかである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であって、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、引用例発明の「データ取得回路」、メモリの「ダウンロードされたソフトウエアを蓄積する領域」、「CRC回路」及び「CPU」が、それぞれ本願発明の「ファームウエアの受信手段」、「ファームウエアを記憶するために設けられた格納手段」、「ファームウエアの完全性の確認手段」及び「ファームウエアによって指令された1以上の機能をコンバータに付与するために、ファームウエアにアクセスし実行す>るための前記格納手段に結合されたプロセッサ」に対応すると、審決が認定した(審決書6頁2~15行)点に誤りはない。

1  取消事由1について

原告は、「ファームウエア」が、「ROMあるいは非揮発性RAMのような持久性メモリーで永く記録して多く使用されるコンピュータプログラム類あるいはコンピュータ命令に言及する場合に、当業者で使用される限定された意味の用語」であると主張するが、本願明細書の記載を参照しても、ファームウエアが上記限定された意味の用語であるとする根拠は見出せない。

また、本件事典には、ファームウエアに関して、「マイクロプログラムが一般のプログラムのもつ基本的性質を持っていること」、「マイクロプログラムはハードウエアとソフトウエアの両方の性質をもち、両者の中間に位置するので、ファームウエア(firm ware)と名づけて独立の領域に分類されている」こと、そして、マイクロプログラムは、プロセッサLSI内蔵ROM、外部ROM、外部ROM/RAMにそれぞれ格納される適用形態があること、この外部ROM/RAMとして、「ダイナミックマイクロプログラム方式のときは書きかえのできる不揮発性RAMまたは通常のRAMなどを使用する」ことが記載されており、当該「通常のRAM」が、揮発性を有し、電源投入時に書込みの必要なメモリを示していることは明らかであるから、ファームウエアとは、原告の主張する限定された意味の用語ではない。

他方、引用例発明の「ソフトウエア」は、ケーブルテレビジョンのヘッドエンドからダウンロードされ、有料テレビアンスクランブラサービス、情報、コンピュータゲーム、ソフトウエアサービスなど1以上の機能をコンバータに付与するものであり、当該機能は、本願発明の「ファームウエア」が奏する機能と同様のものであり、両者に差異は認められない。

2  取消事由2について

原告の主張は、本願発明の「ファームウエア」が、引用例発明における「ソフトウエア」に対応しないことを根拠とするものであって、前提において失当である。

3  取消事由3について

引用例発明の「CRC回路」は、「データをチェックしてパケットにエラーがないこと、およびプロトコルも正しいことを確かめる」もので、ここにいう「プロトコル」が通信に関する種々の制御情報について、情報の表現形式や授受のタイミングなどを厳密にした「通信規約」を意味することは明らかである(乙第2号証)。

一方、原告が本願発明について主張する「タイムアウト期間内にファームウエアが完全にダウンロードされるか否か」、「セグメント数がヘッドエンドからのファームウエア検索要求による範囲内にあるか否か」は、いずれもプロトコルが正しいことを確かめるものであり、そうすると、引用例発明の「CRC回路」は、本願発明の「ファームウエア」に対応するソフトウエアのエラーの有無及びプロトコルが正しいことを確かめることによって完全性を確認している点で、本願発明の「ファームウエアの完全性の確認手段」と差異はない。

しかも、本願発明の特許請求の範囲の記載である「ファームウエアの完全性の確認手段」には、「セグメントの数をカウントする」との限定はなされておらず、当該主張は特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって失当である。

4  取消事由4について

原告の主張は、本願発明の「ファームウエア」が、引用例発明における「ソフトウエア」に対応しないことを根拠とするものであって、前提において失当である。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由1、2及び4(一致点の誤認1、2及び4)について

審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例の記載事項の認定、本願発明と引用例発明との相違点の認定、この相違点に関する判断は、いずれも当事者間に争いがない。

原告は、本願発明の「ファームウエア」が、プログラムとして有する機能としては引用例発明の「ソフトウエア」と同様であることは認めるものの、これは、「ROM等の非揮発性記憶装置に恒久的に固定されたコンピュータ・プログラム又はコンピュータ・プログラムの書き込まれたROM等の非揮発性記憶装置」を意味するものであり、他方、引用例発明の「データ取得回路」は、コンバータのスイッチのオン、オフの度毎に伝送ネットワークから復帰させねばならない「ソフトウエア」を受信するものであり、このソフトウエアは、非揮発性メモリーに永く記録されているものではないから、本願発明の「ファームウエア」とは異なると主張する。

ところで、本願明細書(甲第5号証)には、[発明の背景]として、「本発明はケーブルテレビジョン装置、特にダウンロードが可能なファームウエアにより、遠隔操作にて機能変更が出来るコンバータに関するものである。」

(同号証明細書7頁9~11行)、「ケーブル局によって端末のファームウエア機能の一部またはすべてを実質的に変更出来れば非常に便利である。」(同9頁3~4行)、「本発明によれば、ヘッドエンド10によりダウンロードされた異なるファームウエアパッケージに対し、コンバータ40は異なる機能を備えることになり、サービスのレベルが高くなるとコンバータの機能も増加することになる。」(同14頁6~8行)、「ファームウエアダウンロードプロセスは常時更新される。コンバータが新しいパッケージを受けると、古いファームウエア(もしあれば)は効果的に消され、実行できない。」(同23頁17~19行)と、[発明の効果]として、「ケーブルテレビジョンシステムにおいて、ケーブル局のヘッドエンドからユーザーのコンバータにコントロールプログラムを送り、遠隔操作でコンバータの機能を変更するシステムである。送出されたプログラムが完全に受信されたか、もし不完全に受信されたときはそれを取り繕い、またコンバータに記憶された後も、常時その完全さを確認する手段が整っている。このためヘッドエンド側にとっては、ユーザーの希望でコンバータの機能を変更するに当たり、装置の改善及び置替え等のため、ユーザー宅に出張する手間がはぶけ、また盗視聴を実質的に不可能にする様プログラムが組み込まれているメリットがある。」(同26頁29行~27頁8行)と、それぞれ記載されている。

これらの記載及び前示本願発明の要旨によれば、本願発明は、遠隔操作による機能変更をすることが可能なケーブルテレビジョンコンバータに関するものであり、視聴サービスの内容を変更するためコンバータ機能に変更を加える場合であっても、ユーザー宅に出張する手間が省略できる等の作用効果を達成したものと認められるところ、ケーブルテレビジョンヘッドエンドからダウンロードされたファームウエアは、ファームウエアによって指令された1以上の機能をコンバータに付与するために、常時更新される必要があるから、記憶された「ファームウエア」は、当然、その機能として「書換え可能」なことを要件として具備しなければならないものと認められる。

したがって、本願発明の「ファームウエア」が、「ROM等の非揮発性記憶装置に恒久的に固定されたコンピュータ・プログラム又はコンピュータ・プログラムの書き込まれたROM等の非揮発性記憶装置」を意味するものであるとする原告の主張は、前示のような本願発明の要旨及び本願明細書の記載に基づかないものであって、到底採用することができない。

原告は、本件各事典(甲第13~第18号証)に基づいて、「ファームウエア」が、システムに恒久的にインストールされた状態のコンピュータ・プログラムであって、固定記憶装置等の中にあらかじめ組み込んでハードウエア化したものを意味し、ソフトウエアとハードウエアとの中間に位置するものとされており、具体的には、ROMにインストールすることを意味していると主張する。

しかし、「ファームウエア」の一般的な講学上の意味が、原告主張のとおりであるとしても、本願発明における「ファームウエア」が、その機能として書換え可能なことを要件としており、ROM等の非揮発性記憶装置に恒久的に固定されたものに限定されるものでないことは、前示のとおりであるから、原告の主張は、それ自体失当なものといわなければならない。

また、原告は、「ファームウエア」と「ソフトウエア」とのプログラムとして有する機能が同様であっても、本願発明では、「ファームウエア」を使用することにより、コンバータの電源投入の度毎にソフトウエアをダウンロードする必要はないから、必要最小限の帯域幅で対応でき、しかも、高品質のプログラムアクセスが実現できるという効果があり、この点において引用例発明と相違すると主張する。

しかし、原告の主張する上記効果は、ダウンロードされた「書換え可能なプログラム」を記憶する装置の種類により生じるものと解されるところ、この点に関する本願発明の要旨は、前示のとおり、「ダウンロードされたファームウエアの受信手段・・・にファームウエアを記録するために設けられた格納手段」と規定されるのみであって、その記憶の態様については特定されていないから、上記の作用効果も、本願発明がその要旨に基づいて常に達成されるものとはいえず、また、引用例発明においても、記憶装置を適宜選択することにより達成し得る設計的事項であると認められるから、いずれにしても原告の主張を採用する余地はない。

以上のとおり、本願発明の「ファームウエア」は、書換え可能なプログラムであり、前示当事者間に争いのないとおり、引用例発明の「ソフトウエア」と、プログラムとして有する機能が同様である点を考慮すれば、引用例発明の「ソフトウエア」に対応するものといわなければならない。

したがって、本願発明の「ファームウエア」が、引用例発明の「ソフトウエア」と異なることを前提とする、原告の前記取消事由1、2及び4(一致点の誤認1、2及び4)に関する主張は、いずれも採用できないことが明らかであり、引用例発明の「データ取得回路」、メモリの「ダウンロードされたソフトウエアを蓄積する領域」及び「CPU」が、それぞれ本願発明の「ファームウエアの受信手段」、「ファームウエアを記憶するために設けられた格納手段」及び「ファームウエアによって指令された1以上の機能をコンバータに付与するために、ファームウエアにアクセスし実行するための前記格納手段に結合されたプロセッサ」に対応するとする審決の認定(審決書6頁2~15行)に誤りはない。

2  取消事由3(一致点の誤認3)について

引用例発明の「CRC回路」が、多項式を使用して個々のパケットをチェックするものであることに関しては、当事者間に争いがなく、また、引用例(甲第3号証)の「加入者局がパケツトを受信する毎に、データ取得回路はCRC回路(後で第8図を参照して説明する)においてそのデータをチエツクしてパケツトにエラーがないこと、及びプロトコルも正しいことを確かめる。」(同号証12頁右下欄12~16行)との記載も参照すると、引用例発明の「CRC回路」は、データすなわちコンピュータプログラムであるソフトウエアにエラーがないことを確かめる機能を奏するものと認められる。

他方、本願発明の、「ファームウエアの完全性の確認手段」に関しては、本願明細書(甲第5号証)に、「ファームウエアが原形のままであるかを確かめる手段」(同号証明細書9頁16~17行)、「ファームウエア送信サイクルの終了時点で、記憶手段に格納されたファームウエアパッケージが完全であるかどうか判断する。」(同12頁3~4行)と記載されており、本願第5図(甲第12号証の1)フローチャートにおいて、タイムアウト過程(114、116、118)で、ヘッドエンドからのファームウエア検索要求によるタイムアウト期間内にファームウエアが完全にダウンロードされていることを要求しているとともに、セグメントの計数手段は、セグメント数がヘッドエンドからのファームウエア検索要求による範囲内にあること(120)を必要としている。

これらの記載及び図面によれば、本願発明の「ファームウエアの完全性の確認手段」は、ダウンロードされたコンピュータプログラムであるファームウエアが原形のままであることを確かめる手段と認められる。

原告は、引用例発明の「CRC回路」が、多項式を使用して個々のパケットをチェックするのに対し、本願発明においては、ファームウエアのパッケージが、多数のセグメントの形で受信されるので、ファームウエアの完全性の証明もセグメント数をカウントすることによりなされるから、ダウンロードされた全ファームウエアにつき、それぞれ違った過程で完全性の証明がなされることになり、この点において引用例発明と相違すると主張する。

しかし、ファームウエアの完全性の確認に関して、本願発明の特許請求の範囲には「ファームウエアの完全性の確認手段」と記載されるのみであって、その具体的手段は限定されていないから、原告が主張する「ファームウエアのパッケージは、多数のセグメントの形で受信されるので、ファームウエアの完全性の証明もセグメント数をカウントすることによりなされる」構成は、特許請求の範囲の記載に基づくものではなく、主張自体失当であって、これを採用する余地はない。

したがって、審決が、引用例発明の「CRC回路」が本願発明の「ファームウエアの完全性の確認手段」に対応すると認定した(審決書6頁4~9行)ことに誤りはない。

3  以上のとおり、原告主張の取消事由にはいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の指定につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 清水節 裁判官 鶴岡稔彦)

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