大判例

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東京高等裁判所 平成10年(ネ)4139号 判決 1999年11月10日

控訴人

小川喜雄

右訴訟代理人弁護士

岡村共栄

被控訴人

右代表者法務大臣

臼井日出男

右指定代理人

住川洋英

須藤哲右

大矢勝昭

浅見光浩

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、一〇〇万円及びこれに対する平成五年三月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二事案の概要等

事案の概要及び当事者の主張は、原判決四頁五行目の「一三日」の次に「(以下「本件質問検査日」という。)」を、同五頁六行目の次に行を改めて

「1 そもそも、菊島係官による控訴人に対する税務調査は、控訴人が小田原民主商工会の会員であることを理由としてされたものであり、それ自体、憲法二一条に違反し違法である。」

をそれぞれ加え、同七行目の「1 」を「2 また、」と、同六頁一行目の「2 」を「3 ところが、」と、同七頁一〇行目の「3」を「4」とそれぞれ改め、同行目の「本件においては」の次に「、本件質問検査日当日」を加え、同八頁六行目の「4」を「5」と、同行目の「原告方を訪問した当日」を「本件質問検査日」と、同九頁九行目の「5」を「6」と、同一〇頁四行目の「税務署」を「税務署長」と、同一二頁一行目の「提出した」を「提出して右各年分(以下「本件各年分」という。)の所得税の確定申告(以下「本件各申告」という。)をした。」と、同六行目の「原告」から同七行目の「申告内容」までを「本件各申告の内容」とそれぞれ改め、同一三頁一一行目の「同日」の次に「(本件質問検査日)」を加えるほかは、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正し、付加し、又は削除するほかは、原判決の「第三 争点に対する判断」及び「第四 結論」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決一九頁五行目の「原告の」の次に「本件各年分の」を加え、同一〇行目から同一一行目にかけての「平成元年分から平成三年分」を「本件各年分」と改める。

2  原判決二〇頁八行目の「その際、菊島係官は」を「菊島係官は、右申出を了解し、その際、訴外勝也に対し」と改める。

3  原判決二一頁三行目の「市川花子」の次に「(以下、右三名を「荻島ら三名」という。)」を加え、同行目から同四行目にかけての「平成元年から平成三年まで」を「本件各年分」と、同八行目の「ここを認め」を「ことが認められたので」とそれぞれ改める。

4  原判決二二頁三行目の「発言した」から同四行目の「行ったが」までを「発言し、その場から荻島ら三名が退去することを拒否した。このような事態の中で、菊島係官は、なおも控訴人に対して荻島ら三名を退去させるように求めたが」と改め、同五行目の「同係官の」の次に「度重なる右求めに応じて荻島ら三名を退去させた上で」を、同九行目の「菊島係官は、」の次に「控訴人方における調査によって」をそれぞれ加える。

5  原判決二三頁一行目の「者」を「事業者約四〇〇名」と、同二行目の「文書」を「記載がある照会書(甲一)」と、同三行目の「送付した。照会書の文面は」を「右各事業者に送付した。右各照会書には」とそれぞれ改め、同八行目の次に行を改めて

「8 菊島係官は、その後も、控訴人に対する質問検査を実施すべく、同年一一月二五日午前中に抜打ちで控訴人宅を訪問し、居合わせた控訴人及び訴外勝也に対し、再度、第三者の立会いのない状態で質問検査に応じるように求めたが、同人らは、菊島係官が反面調査を実施したことを非難するとともに、荻島ら三名等にすべてを委ねてあり、荻島ら三名の立会いのない以上質問検査には応じられない旨述べてこれを拒否した。

二  本件各年分の税務調査の必要性の有無、菊島係官による第三者の立会いの下における質問検査の拒絶及び反面調査実施の適否」

を加え、同九行目の「二 」から同一〇行目の「細目」までを「1 税務調査につき税務職員の質問検査権限を定めた所得税法二三四条その他の法令においては、質問検査の方法、範囲、程度、時期、場所等の実施細目を特に定めてはいないから、これら」と改め、同行目の「これと」の次に「当該納税者等調査の」を加える。

6 原判決二四頁一行目の「選択」を「裁量」と改め、同三行目から同二五頁七行目までを削る。

7 原判決二五頁八行目の「ところで、」を「そして、税務職員に認められる所得税法上の右」と改める。

8 原判決二六頁二行目から同二七頁二行目までを削る。

9 原判決二七頁三行目の「ところで」を「また、納税者に対する質問検査によっては、当該納税者の適正な所得金額を把握することができない場合には、その取引先等に対する調査、すなわち、反面調査を実施せざるを得ない場合を生じるが」と、同八行目の「納税者」から同九行目の「場合に」までを「納税者に対する質問検査によっては適正な所得金額を把握するための資料が得られない場合には、納税者に対する調査の結果得られた資料の程度に応じて」と、同一〇行目の「の手段を選択する」を「を実施する」と、同一一行目の各「原告」をいずれも「納税者」とそれぞれ改める。

10 原判決二八頁一行目の「立会人」から同二行目の「原告」までを「反面調査が合理的な裁量の範囲内において適正に行われている限り、納税者」と、同四行目から同二九頁七行目までを

「2 これを本件についてみるに、前記認定のとおり、控訴人が所轄の小田原税務署長に対して本件各申告をするに当たって提出した本件各年分に係る各確定申告書には、いずれも所得金額の計算の欄に事業所得の所得金額が記載されているだけで事業所得に係る総収入金額が記載されていないのみならず、事業所得に係る総収入金額及び必要経費の内容を記載した内訳書が右各確定申告書に添付されていなかったというのであるから、これでは、右各確定申告書の提出を受けた小田原税務署長において、右各確定申告書に記載された控訴人の本件各年分の所得金額が適正であるか否かを把握することが到底できないものであることは明らかであるといわざるを得ず、本件各年分の控訴人の適正な所得金額を把握するためには、控訴人に対する質問検査をする必要性があるものと認めざるを得ない。控訴人は、菊島係官による控訴人に対する税務調査は、控訴人が小田原民主商工会の会員であることを理由とするものであると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

そして、また、前記認定によれば、菊島係官は、控訴人に対する質問検査を実施すべく、控訴人の意を受けた従業員である訴外勝也の指定した本件質問検査日当日、控訴人宅に臨場して、本件各年分の所得金額につき控訴人に対する質問検査を実施しようとしたところ、控訴人の意を受けた荻島ら三名が同所に待機していて、質問検査への立会いを執拗に求め、これに対して、菊島係官が、荻島ら三名が同席している限り質問検査を実施することは税務職員としての守秘義務違反となるからできないとして、控訴人に対して再三同人らを退去させるように求めたにもかかわらず、荻島ら三名はその場から退去せず、控訴人も同人らを退去させようとしなかったため、菊島係官は、控訴人に対する質問検査の実施は不可能と判断して控訴人宅を辞去し、結局、控訴人に対する質問検査を実施しなかったというのであり、右事実関係の下においては、菊島係官が控訴人に対する質問検査が実施できないものとして反面調査を実施することとしたことは、やむを得ない選択であり、何ら違法不当な点はないというべきである。

3 控訴人は、控訴人は自己の事業ないしその収支内容が第三者である荻島ら三名に開示されることを承諾しているのであるから、菊島係官が荻島ら三名の立会いの下では控訴人に対する質問検査を実施することが税務職員としての守秘義務に違反するものとして控訴人に対する質問検査を実施しなかったことは、反面調査を実施することの正当な理由とはなり得ず、違法である旨主張する。

しかしながら、税務職員の守秘義務(所得税法二四三条、国家公務員法一〇〇条一項参照)が定められている趣旨は、税務職員が税務調査等税務事務に関して知り得た納税者自身及びその取引先等の秘密を保護し、ひいては、税務調査等税務事務に対する国民ないし納税者の信頼及び協力を確保し、申告納税制度の下における税務行政の適正円滑な運用を確保することにあるものと解される。そして、税務職員が納税者に対して税務調査として質問検査を実施する場合には、特段の事情のない限り、納税者のみならず必然的に納税者の取引先等との間における納税者の所得発生原因となる取引内容等にも質問検査が及ばざるを得ないから、納税者が自己の事実ないし所得金額の内容を第三者に開示されることを承諾したとしても、第三者の立会いの下に納税者に対して質問検査を実施するときは、税務職員に守秘義務を課した趣旨が全うされないおそれがあり、納税者が第三者の立会いを了解したとの一事をもって税務職員の守秘義務が解除されるものと解するのは相当でない。したがって、納税者が税務職員による質問検査に際し第三者の立会いを求めて譲らない場合に、税務職員が納税者に対する質問検査を実施することができないとして、納税者の適正な所得金額を把握するために、その取引先等に対する反面調査を実施することは、税務職員に委ねられた正当な質問検査権の行使として何ら違法不当の問題を生じる余地はないものというべきである。控訴人の右主張は、採用することができない。

4 また、控訴人は、菊島係官が控訴人に対する質問検査を実施しようとしたのは本件質問検査日当日だけであり、しかも、菊島係官は、控訴人も荻島ら三名も冷静かつ物静かな雰囲気で質問検査を受ける意思を明確に示していたのに帳簿の提示すら求めず、僅か一〇分ないし一五分程度滞在しただけで調査を打ち切り、控訴人に対する質問検査をしないまま反面調査を実施したことが違法である旨主張する。

しかしながら、本件質問検査日当日の控訴人宅における菊島係官と控訴人及び荻島ら三名とのやり取りの状況は前記認定のとおりであって、とても冷静かつ物静かな雰囲気であったとはいい難いのみならず、右当日及びその前夜の状況に照らせば、荻島ら三名の立会いが認められない限り控訴人が菊島係官の質問検査に応じないこと、したがって、また、帳簿類に対する検査にも応じなかったであろうことは明らかであったというべきであるから、菊島係官が控訴人宅にいた時間が僅か一〇分ないし一五分程度であったこと等をもって、菊島係官がした反面調査が違法不当であるということはできない。

三  反面調査の実施方法について」

とそれぞれ改める。

11 原判決三〇頁一行目の「以上」の次に「、ばらつきが出るのを避け、できる限り控訴人の適正な所得金額に近い数値を得るために」を加え、同四行目から同九行目までを削り、同一〇行目の「反面調査」を「また、反面調査」と改める。

12 原判決三一頁一行目及び同二行目を

「したことは、事柄の性格上控訴人と被調査者との取引の有無を確認できないままに被調査者に対して取引の照会をするものであり、しかも、その文面から、右照会書は、反面調査における被調査者に控訴人との取引がある場合に、控訴人との取引に関する事項のみを抽出してその回答を求める趣旨のものであることが明らかであるから、右照会書の記載をもって違法不当とすることはできない。」

と、同三行目の「三」を「四」とそれぞれ改める。

二  よって、当裁判所の右判断と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一一年六月三〇日)

(裁判長裁判官 石井健吾 裁判官 櫻井登美雄 裁判官 加藤謙一)

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