大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成10年(ネ)3878号 判決 1999年7月27日

東京都千代田区<以下省略>

控訴人

新日本証券株式会社

右代表者代表取締役

埼玉県浦和市<以下省略>

控訴人

Y1

埼玉県新座市<以下省略>

控訴人

Y2

右控訴人ら三名訴訟代理人弁護士

松下照雄

鈴木信一

本杉明義

宮﨑拓哉

住所<省略>

被控訴人

右訴訟代理人弁護士

渡辺征二郎

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決の控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2  右取消しにかかる部分の被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二本件事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の第二記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の補正

1  原判決五頁六行目の「被告会社」を「控訴人新日本証券株式会社(以下『控訴人会社』という。)」に、「被告Y2」を「控訴人Y2(以下『控訴人Y2』という。)」に、一〇行目の「被告Y1」を「控訴人Y1(以下『控訴人Y1』という。)」にいずれも改める。

2  同六頁九行目の「株式のブローカー業等」を「有価証券の売買、その媒介、取次ぎ業等」に改める。

3  同別紙一の一覧表三頁の番号95の「三菱石油」を「三愛石油」に改める。

二  当審における控訴人らの主張

1  証券取引法五四条一項には、「有価証券の買付け若しくは売付け又はその委託について、顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとなっており、又は、欠けることとなるおそれがある場合には、大蔵大臣は、証券会社に対して業務の方法の変更を命じることができる。」旨のいわゆる適合性の原則が定められているが、証券会社は、同条に基づく義務を直接的に投資者に負担しているものではない。したがって、仮に、同条に基づく義務違反があっても、直ちに証券会社が顧客に対して損害賠償責任を負わない。

2  本件一連の取引は、被控訴人の意思に基づいてなされたもので、控訴人ら側に、顧客である被控訴人の自由意思を阻害するような事情はなかったし、控訴人Y2において本件取引の主導権を全面的に把握していたこともない。したがって、いわゆる「顧客の取引口座の支配」は存せず、過当売買が問題とされるべき事案でもない。したがって、本件は、被控訴人の自己責任の原則が重視されるべきである。

3  被控訴人は、預貯金等の金融資産五〇〇〇万円以上と三七八四万円相当の不動産を有する者であって、その資産の増加を目的として、株式を中心に証券投資を仕手系銘柄の株式の売買を含めて積極的に行っていたものである。

三  当審における被控訴人の主張

1  被控訴人の有する不動産は、被控訴人の居宅であって換金性があるものではなく、また、その他の金融資産もそれが亡夫の退職金、生命保険金等によって形成されたものであることからすると、株式投資に適したものではない。被控訴人には、いわゆる株式の回転売買をおこなって利益を稼ぐ必要や、また、短期での損切りないし他の銘柄株式への乗り替え等の投機的取引をする必要はなかった。

2  被控訴人は、いわゆる仕手系銘柄の株式については、それと知らずに控訴人Y2等に言われるままに取引したに過ぎない。

第三争点に対する判断

当裁判所も被控訴人の控訴人らに対する本件各請求は、原判決が認容した限度において正当としてこれを認容し、その余は棄却すべきものと判断するものであるが、争点に対する判断は、次のとおり補正、付加するほかは原判決の「事実及び理由」の第三記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二一頁四行目の「原告」から五行目の「(各一部)」までを「二三の一ないし五、二四の一ないし四、二六の一ないし五、三〇、三一、被控訴人、証人B、控訴人Y1本人(一部)、控訴人Y2本人(原審及び当審の各一部)」に改め、同二二頁一一行目の「なった際」の次に「同人から、」を加える。

2  同二四頁三行目の「シャープの株式二〇〇株」を「シャープの株式二〇〇〇株」に改める。

3  同二九頁六行目の「日本金属、倉敷紡績、帝人製機、椿本興業」を「倉敷紡績」に、同三二頁九行目の「被告Y2が買っている」を「控訴人Y2の勧めで被控訴人が買付けた右」にそれぞれ改める。

4  同五一頁六行目の「の勧めにより以前買い付けたシマノの株価」を「が強く勧めて買い付けさせた株についての価格の動き等」に、同五二頁九行目の「別表一の番号89から98までの株式・転換社債(九銘柄)」を「平成四年九月一四日に買い付けていた東海カーボンの株の売り(別表一の92)、三星ベルトの株の買付と売り(前同93、94)、平成三年一〇月九日に買い付けていた図研の株の売り(前同83、84)、雪印の株の買付、三愛石油の転換社債の応募買付けと売り(前同95)、山内製薬の転換社債の買付、THKの転換社債の買付、コスモ石油の転換社債の買付と売り(前同96)、平成四年六月一〇日に買付けていた中越パルプの株の売り(前同90)、岩崎通信機の株の買付、日本電装の転換社債の応募買付と売り(前同97)、中国ファンドの買付、トーモクの株の買付、THKの株の買付(前同98)」にそれぞれ改める。

5  同五五頁八行目の「原告・被告Y1・被告Y2各本人」を「三二、被控訴人・控訴人Y1各本人、控訴人Y2本人(原審及び当審)」に改める。

6  同五八頁四行目の「私法上も、」の次に「顧客の投資運用目的や投資方針を確認し、それに見合った原則的な投資運用策を示して、それについて顧客の基本的同意を取り付けるなどして、投資金を運用して」を、六行目の「相当である。」の次に左のとおりそれぞれ加える。

「 なお、控訴人らは、『適合性の原則の遵守義務を定める証券取引法五四条一項は、行政上の取締りの基準を定めた規定であるから、証券会社は同条に基づく義務を直接投資者に負っているものではないので、仮に、同条に基づく義務違反があったとしても、直ちに証券会社が顧客に対して損害賠償責任を負うものではない。』旨主張するが、いわゆる取締法規違反の行為は、直接的には行政上の処罰等の対象となっても、理論上は民事上の不法行為の故意、過失を直接構成するものではないけれども、その違反の有無は、不法行為の要件である違法性を判断するための要素の一つとなることは明らかであり、また、その取締法規の目的が間接的にもせよ一般公衆を保護するためのものであるときは、その取締法規違反の事実は、他の諸事情をも勘案して不法行為の成否を判断する主要な要素であり、一応不法行為上の注意義務違反を推認させるものである。したがって、控訴人らの右主張は、前記判断を何ら左右しない。」

7  同五九頁四行目の「その投資目的も」の次に「被控訴人が控訴人会社と取引を開始しようとした当初の目的は預金よりは利回りのよい金貯蓄であったこと等から見られるように」を加える。

8  同六二頁三行目の「『ど素人』」を「知識及び経験とも乏しい者といってもよいもの」に改める。

9  同六二頁七行目の「決断」から八行目の「機会を奪われ」までを削除する。

10  同六三頁三行目と四行目の間に次のとおり挿入し、四行目の「属性、」の次に「その投資資金の性質、投資運用目的、」を加える。

「 なお、控訴人らは、被控訴人は相当の金融資産及び不動産を有しているもので、本件一連の取引は、その資産を積極的に増加させることを目的になされたものである旨主張するが、被控訴人の所有する不動産は、その居住する土地建物であって投資資金として換金し得るものではないし、被控訴人の収入が主として寡婦年金に限られているところからすると、その金融資産も被控訴人及びその扶養すべき家族の現在及び将来の生活費に充てられることが予定されているもので、投機的株式投資の余裕資金となるようなものでないことは前認定のとおりであり、被控訴人が控訴人らが主張する相当の資産を有していても、それを投資資金として本件一連取引を資産の積極的増殖を目的としてしたものとは推認できない。」

11  同六九頁五行目の「暗示するようにまでなりながら、なお」を「暗に示したのみで、控訴人Y2らの積極的な意思の封殺ないし無視があった訳でもなかったのであるから、自らの意思で控訴人会社との取引を終了させられたにもかかわらず、右控訴人Y2の勧誘に軽率に応じて、それまでの損害の回復を図るために従前と同様な態様で漫然とその」に改める。

第四結論

以上のとおりであるから、被控訴人の本件請求は、控訴人らに対して、各自金一二〇九万九四九八円及びこれに対する控訴人会社及び控訴人Y1に対して継続的不法行為の終了日の翌日である本件一連取引の最終日の翌日である平成六年三月五日から、控訴人Y2に対する継続的不法行為の終了日の翌日である本件取引の最終日の翌日より後である平成六年七月一二日から、それぞれ支払済みまで民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める限度において理由があるので認容すべきであるが、その余は理由がないので棄却すべきである。

よって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鬼頭季郎 裁判官 慶田康男 裁判官 廣田民生)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例