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東京高等裁判所 平成10年(ネ)2499号 判決 1999年7月19日

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  控訴人が被控訴人に対し労働契約上の権利を有することを確認する。

3  被控訴人は控訴人に対し、四二二七万九一二九円及び平成一〇年五月一日から本判決確定に至るまで毎月二三日限り六三万三八七〇円を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二  事案の概要

事案の概要は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

一  原判決書四頁六行目冒頭から同五頁四行目末尾まで、同八行目の「庁」をそれぞれ削り、同一〇行目の「関係」の次に「等」を加え、同一一行目の「経済部分室に」、「内政部分室に」、同六頁一行目及び二行目の各「分室」をそれぞれ削り、同五行目の「年休」を「年次有給休暇(以下「年休」という。)」に改める。

二  同七頁三行目の「原告は」から同六行目の「なお、」までを削り、同八頁四行目の「原告は」から同九頁四行目末尾までを次のとおり改める。

「三橋社会部長は、七月二三日、控訴人の休暇により社会部の業務に支障が出るおそれがあるとの理由を告げて、最初の二週間は休暇を認めるが、残りは九月にとってほしいと要請した。控訴人は右要請を受け入れなかったが、翌二四日、休暇の終期を繰り上げて八月二四日に変更する旨三橋社会部長に申し出た。三橋社会部長は、翌二五日控訴人に電話し、上層部と相談した結果であるとして同様の要請を繰り返したが、控訴人はこれを受諾しなかった。」

三  同九頁八行目から九行目にかけての「業務に支障を来すおそれがある」を「業務の正常な運営が妨げられるおそれがあり、また、事前の調整なしに長期の休暇を各人の希望するまま認めていてはどこの部局においても職場の正常な運営が困難になる」に、同一〇行目の「同月二八日」を「同月二四日」に、同一一行目の「業務の正常な運営を妨げるものであるとして」を「九月以降の時期に変更するよう命じ」にそれぞれ改める。

四  同一一頁三行目の「日時を」の次に「同月一四日午後二時から三時までと」を加え、同四行目の「拒否したため」を「右期日に異議を述べ」に改め、同一三頁二行目の「甲第二号証」の次に「、第三号証」を加え、同一四頁一〇行目の「吉田記者」を「科学技術記者クラブに所属する吉田伸八記者(以下「吉田記者」という。)」に改め、同一八頁八行目及び同二〇頁六行目の各「分室」をそれぞれ削る。

第三  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のあるとおりであるから、これをここに引用する。

第四  当裁判所の判断

一  争点1(本件時季変更権の行使の適否)について

1  前記争いのない事実等、証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実を認めることができる。

(一) 被控訴人は、昭和二〇年一一月に創立されたニュースの提供を主たる業務目的とする通信社であり、平成四年ころの職員総数は約一五〇〇人である。被控訴人においては、官公庁、企業に対する専門ニュースサービスを主体としているため、新聞、放送等のマスメディアに対する一般ニュースサービスの比重は軽く、収入面でみると全収入の一五パーセント程度のものであり、これに従事する人員も同業の他社や大手の新聞社に比較して少数であつた。

控訴人が所属する社会部はニュース取材を担当する本社編集局に属し、前記の一般ニュースサービスのための取材を中心としており、その人員規模は、同業の他社や最大手の新聞社と比較して小さく、外勤記者の記者クラブ単独配置やかけもち配置もかなり行われていた。

記者クラブ所属の記者が長期欠勤や長期出張により不在で取材活動を行うことができない場合には不在の記者の所属部内で代替する建前になっており、控訴人の場合についてみれば同じ社会部の記者で科学技術記者クラブに所属する吉田記者がその担当事務の点で控訴人の職務を代替することが考えられていたが、他社に比べて記者の人数が少ないこともあってその建前は必ずしも厳密なものではなく、記者の配置状況、事務の繁閑、担当事務の分野、専門的知識の要否等の状況に応じて他の部の記者が協力して部分的に職務を代替することも行われており、控訴人が所属していた通産省記者クラブでも、社会部分室(記者は控訴人一人)のほかに経済部(記者四人)及び内政部(記者一人)があり、単独配置の控訴人が休暇等で不在となる場合には、社会部内の記者であり、かつ担当分野や専門的知識の面で代替者として適性のある科学技術記者クラブの吉田記者が控訴人の職務を代替するばかりでなく、通産省記者クラブのほかの部の記者が事務の繁閑、担当事務の分野、専門的知識の要否等の状況に応じて可能な範囲内で適宜協力して職務を一部代替することもよく行われていた。

(二) 控訴人は、昭和四二年四月に被控訴人に入社し、大阪支社、本社第一編集局スポーツ部、同経済部に順次配属され、モスクワ支局特派員勤務を経た後、本社第一編集局社会部に勤務している記者であり、科学技術庁の科学技術記者クラブを経て、昭和六三年四月から通産省記者クラブ社会部分室に所属(単独配置)し、つくば市にある筑波学園クラブにも所属している。

控訴人は、右記者クラブ所属の記者として通産省所管の原子力発電所の事故関係及び公正取引委員会の処分関係のみならず、筑波学園クラブの発表ものや学園都市内にある各研究機関をも担当し、そのほかにも消費者問題、欠陥商品問題等、社会部が扱うべき諸問題を担当してきた。控訴人は、科学技術記者クラブ時代に原子力発電所及び原子力の安全規制関係を担当し、原子力発電用原子炉に事故が起こった場合の事故原因の技術的解説記事や安全規制問題に関する解説記事を執筆していた関係で、その方面を中心に科学技術に関する専門的知識の集積があり、これらの分野について相当の専門的知識、経験を有していた。

(三) 控訴人は、昭和五五年六月二三日、当時の関口社会部長に対し、口頭で、同年八月二〇日ころから約一箇月間の年休を取って欧州の原子力発電問題を取材したい旨の申入れをした上、同年六月三〇日、同部長に対し、休暇及び欠勤届(同年八月二〇日から九月二〇日まで。ただし、うち所定の休日等を除いた年休日数は二四日である。)を提出し、年休の時季指定をした。

関口社会部長は、科学技術記者クラブの常駐記者は控訴人一人だけであつて一箇月も専門記者が不在では取材報道に支障を来すおそれがあり、代替記者を配置する人員の余裕もないとの理由を挙げ、控訴人に対し、二週間ずつ二回に分けて右休暇を取ってほしいと回答した上、同年七月一六日付けで八月二〇日から九月三日までの休暇は認めるが、九月四日から同月二〇日までの期間(ただし、控訴人が休暇の始期を遅らせたときは、九月四日からその遅らせた日数だけ後の日から同月二〇日までの期間)中の勤務を要する日に係る時季指定については業務の正常な運営を妨げるものとして、時季変更権を行使した。

その後、控訴人の所属する労働組合である労働者委員会と被控訴人との間で時季指定と時季変更権の行使に関し、団体交渉が行われたが、妥協点を見いだせなかつた。控訴人は、本件時季変更権の行使を無視して同年八月二二日から同年九月二〇日までの間、欧州の原子力発電問題を取材する旅行に出発して、その間の勤務に就かなかつた。

そこで、被控訴人は、同年一〇月三日、控訴人が時季変更権の行使された同年九月六日から同月二〇日までの間の勤務を要する一〇日間について業務命令に反して就業しなかったことが、懲戒規程四条六号所定の懲戒事由である「職務上、上長の指示命令に違反したとき」に該当するとして、控訴人を懲戒処分としての譴責処分に処した。

(四) 控訴人は、平成二年及び平成三年の夏にも年休の時季指定をして平成二年に約一か月間、平成三年に約三週間の長期連続休暇を取った。被控訴人は、控訴人の昭和五五年の年休の時季指定に対する被控訴人の時季変更権の行使を違法とする東京高等裁判所の判決が昭和六三年一二月一九日に言い渡されていたことから、平成二年及び平成三年の夏にされた控訴人の時季指定については時季変更権の行使を差し控えた。

(五) 平成四年六月二三日、前掲の最高裁判所判決が言い渡された。右判決は、被控訴人の右時季変更権の行使が適法である旨判示し、これが不当労働行為に該当するか否かについてさらに審理を尽くさせるとして事件を東京高等裁判所に差し戻した。

控訴人は、右最高裁判所判決の言渡しを受けた直後の記者会見で、「会社を辞めるまで、意地でも毎年一か月の夏休みを取ろうと思っている。」と述べ、これが報道各紙に掲載された。

(六) そして、控訴人は、平成四年七月一七日、三橋社会部長に同月二七日から八月二八日までの有給休暇届を提出して本件時季指定をした。

右最高裁判所判決直後の記者会見での発言により控訴人が本件時季指定をすることを懸念していた三橋社会部長は、とりあえずその場は控訴人から提出された有給休暇届を受け取り、控訴人が辞去した後、社内で編集局や総務局の幹部と対応策について協議をした。その結果、控訴人が休暇を取った場合に社会部内でその職務を代替することが想定される吉田記者は、九月一二日に予定されているアメリカ合衆国のスペースシャトル打ち上げに関する事前取材の準備で八月中多忙になることが予想され、ほかの社会部の非常勤記者三名についてもそれぞれ一週間程度の夏休みは取らせるようにしたいこと、控訴人の担当職務はそれなりの専門的知識が必要であり、ほかの誰にでも代替が勤まるというものではないことから、控訴人が長期間にわたって不在になるとその間の社会部全体の業務に支障が出るおそれがあるとの認識に達した。そこで三橋社会部長は、七月二二日夕方から控訴人に連絡を取ろうとしたが、その日は連絡が取れず、翌二三日に控訴人から電話があったので、前記社内での協議結果を踏まえ、吉田記者の事情や代替要員確保の困難性等を訴え、とりあえず二週間の休暇を取り、残りは九月に取ってほしい旨要請した。これに対し控訴人は、職務の代替は社会部だけでするのではなく経済部でもしてくれるし、夏の間はあまり動きはない等と見解を述べ、要請に従うことを拒絶した。翌二四日にも三橋社会部長と控訴人との間で電話でのやりとりがされたが、控訴人の意向は休暇の終期を八月二四日にすることはよいが休暇を二回に分けることはできないというものであったため、社内で再度協議した結果、控訴人にはまず二週間の休暇を取ってもらい、残りは九月に取得させることで意見が一致したため、その旨を翌二五日控訴人に伝えることになった。二五日、三橋社会部長は控訴人に対し、被控訴人の上層部と相談した結果であるとして右趣旨を伝えたが、控訴人はこれを納得せず、物別れに終わった。控訴人は申請したとおり七月二七日から年休を取り家族とともに九州の実家に帰郷した。

この間、被控訴人は、七月三〇日にされた通産省の「原発事故の評価尺度」に関する発表についての解説記事を吉田記者に担当させたのを初めとして同記者や地方局の記者に控訴人の担当職務を代替させる等社会部の業務に支障が出ないよう措置を採った。

(七) 被控訴人は、八月四日付け藤原総務局長名の文書で本件時季変更権を行使し、控訴人に対し八月一〇日から業務に就くよう命じ、八月八日には藤原総務局長が控訴人に電話をかけ一〇日から出社するよう促した。しかし、控訴人は八月一〇日同局長に出社しない旨の電話をかけ、同日から八月二四日までの間の勤務を要する一二日間について業務命令に違反して就業しなかった。そこで被控訴人は、九月九日に控訴人を懲戒解雇(本件懲戒解雇)した。

以上の事実が認められる。

被控訴人は、社会部では、同部の記者が休暇等で取材活動を行うことができない場合に備えて、その記者の職務を代替する「相方」としての記者が決められており、控訴人の相方は科学技術記者クラブに所属する吉田記者であった旨主張し、乙第一号証、第八六号証及び証人三橋清二の証言中にはこれに沿う部分がある。しかし、社会部内でそのような定めがされていたことを示す客観的な証拠はなく、被控訴人が控訴人の本件時季指定を受けた際に控訴人の相方である吉田記者の職務の状況を調査し、あるいは本件時季変更権を行使した際に吉田記者との間で控訴人の代替ができるか否かの調整をしたことを窺わせる証拠もない。かえって、通産省記者クラブでは三つの部が一部屋に配置されていたため互いの連絡と協力が容易であり、そのため人数の多い経済部の記者が社会部分室の記者に差し支えが生じた場合の代替を可能な範囲内ですることがあり、平成二年及び平成三年の夏に控訴人が長期休暇をとった際にも経済部の記者が職務の一部分を代替したことが窺われる。これらの事実に照らすと、右乙第一号証の記載等は信用することができず、吉田記者が控訴人の相方と定められていたとの事実を認めることはできない。なお、控訴人は、社会部分室の記者が不在のときは経済部の記者が公正取引委員会の処分関係をカバーすることになっていた旨主張し、控訴人本人尋問においてその旨供述しているが、そのことを被控訴人が了承し、被控訴人の職務上の制度としてこれを承認していたとまで認めるに足りる証拠はない。

2  控訴人は、社会部の年休の決裁権者である三橋社会部長が「じゃあ、何の問題もないですね。ゆっくりお休み下さい。」と述べて控訴人の有給休暇届を異議なく受理した旨主張する。しかし、その前月に昭和五五年夏の年休取得に関する前記最高裁判所判決が言い渡され、判決理由の中で、控訴人の申し出た有給休暇届について概ね二週間ごとの二回に分けて取得させるとした被控訴人の時季変更権行使の正当性が認められていたことからすれば、被控訴人がこれに力を得て控訴人の有給休暇届について同様の時季変更権行使を行うことはむしろ自然な対応というべきであり、そのような状況下にあって、三橋社会部長が控訴人の時季指定をそのまま認めるということは常識的にみて考えにくく、右控訴人の主張に沿う控訴人本人の供述は信用できず、控訴人の右主張は採用できない。

3  次に控訴人は、本件時季変更権の行使は著しく遅滞した時期にされたから不適法であると主張する。しかし、三橋社会部長は、七月二三日の時点で、とりあえず二週間の休暇を取り残りは九月に取ってほしい旨控訴人に要請し、翌二四日、二五日と同様の趣旨を述べ、二五日にはこれが被控訴人の上層部との相談の結果である旨を伝えていること、控訴人は三橋社会部長に対し、最初の一〇日間は九州の実家に帰るがそれ以降は自宅にいる旨伝え、現実にもそのような過ごし方をしていたのであるから、八月四日に本件時季変更権行使をしたことによりその後の控訴人の私生活に重大な支障が生じることはなかったと考えられること、その時点でも勤務をすることを命じた初日まで六日間を残していたのであるから、八月一〇日から勤務に就くことに特別な支障があったとは考えられないことにかんがみると、本件時季変更権の行使は、これを不適法としなければ労基法三九条の趣旨に反するというほどの時期に遅れたものであるということはできず、控訴人の右主張は理由がない。

4  ところで、年休の権利は、労働基準法三九条一、二項の要件の充足により法律上当然に生じ、労働者がその有する年休の日数の範囲内で始期と終期を特定して休暇の時季指定をしたときは、使用者が適法な時季変更権を行使しない限り、右の指定によって、年休が成立して当該労働日における就労義務が消滅するものである(最高裁判所昭和四八年三月二日第二小法廷判決・民集二七巻二号一九一頁、同昭和四八年三月二日第二小法廷判決・民集二七巻二号二一〇頁参照)。そして、同条の趣旨は、使用者に対し、できる限り労働者が指定した時季に休暇を取得することができるように、状況に応じた配慮をすることを要請しているものと解すべきであつて、そのような配慮をせずに時季変更権を行使することは、右の趣旨に反するものといわなければならない(最高裁判所昭和六二年七月一〇日第二小法廷判決・民集四一巻五号一二二九頁、同昭和六二年九月二二日第三小法廷判決・裁判集民事一五一号六五七頁参照)。

しかしながら、労働者が長期かつ連続の年休を取得しようとする場合においては、それが長期のものであればあるほど、使用者において代替勤務者を確保することの困難さが増大するなど事業の正常な運営に支障を来す蓋然性が高くなり、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を図る必要が生ずるのが通常である。しかも、使用者にとっては、労働者が時季指定をした時点において、その長期休暇期間中の当該労働者の所属する事業場において予想される業務量の程度、代替勤務者確保の可能性の有無、同じ時季に休暇を指定する他の労働者の人数等の事業活動の正常な運営の確保にかかわる諸般の事情について、これを正確に予測することは困難であり、当該労働者の休暇の取得がもたらす事業運営への支障の有無、程度につき、蓋然性に基づく判断をせざるを得ないことを考えると、労働者が、右の調整を経ることなく、その有する年休の日数の範囲内で始期と終期を特定して長期かつ連続の年休の時季指定をした場合には、これに対する使用者の時季変更権の行使については、右休暇が事業運営にどのような支障をもたらすか、右休暇の時期、期間につきどの程度の修正、変更を行うかに関し、使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ない。もとより、使用者の時季変更権の行使に関する右裁量的判断は、労働者の年休の権利を保障している労働基準法三九条の趣旨に沿う、合理的なものでなければならないのであって、右裁量的判断が、同条の趣旨に反し、使用者が労働者に休暇を取得させるための状況に応じた配慮を欠くなど不合理であると認められるときは、同条四項ただし書所定の時季変更権行使の要件を欠くものとして、その行使を違法と判断すべきである(最高裁判所第三小法廷平成四年六月二三日判決・民集四六巻四号三〇六頁参照)。

5  前記の事実関係によれば、控訴人は被控訴人の本社編集局社会部の記者として通産省記者クラブ社会部分室に単独配置され筑波学園クラブにも所属している経験豊富な記者であり、原子力発電所の事故が発生した場合の事故原因、安全規制問題等についての技術的解説記事、公正取引委員会の処分関係、筑波学園クラブの発表ものや学園都市内にある各研究機関を担当し、そのほかにも消費者問題、欠陥商品問題等、社会部が扱うべき諸問題に及び、科学技術記者クラブ時代を通じて蓄積した原子力発電所、原子力の安全規制関係その他の科学技術に関する知識と経験も有していたことが認められるから、社会部の中から控訴人の担当職務を支障なく代替し得る勤務者を見いだし、長期にわたってこれを確保することは相当に困難であったということができる。たしかに、控訴人が休暇等で不在の場合には通産省記者クラブのほかの部の記者が協力して部分的に職務を代替することも行われていたが、建前としては不在の記者の所属部において代替者を確保することになっており、実際上も担当分野や専門的知識の面を考えると、公正取引委員会の処分関係は経済部の記者が代替するとしても、原子力関係については科学技術記者クラブの吉田記者が控訴人の職務を代替することが合理的であり、ほかの部の記者が代替し得る職務には右のような専門性の点で限界があるといわなければならないから、被控訴人としては、控訴人が長期間にわたって不在になるのであれば、その間の控訴人の行うべき職務の状況を予測し、吉田記者やそのほかの代替者の休暇取得予定等をも勘案しながら代替の可否及びそれによる社会部内の業務全体の支障の有無を検討することが不可欠であったといわなければならない。

ところが、控訴人は、夏の間は担当分野の仕事が少なく、職務の代替は社会部だけでするのではなく経済部でもしてくれる等の自己の見通しのもと、社会部内の業務に支障が生じないよう被控訴人との間で事前に十分な調整を行うことなく、年休開始日の一〇日前である七月一七日になって、七月二七日から八月二八日までの本件時季指定をした。これに対し被控訴人は、吉田記者の事情や代替要員確保の困難性等を訴え、とりあえず二週間の休暇を取り、残りは九月に取ってほしい旨要請し、控訴人がこれに応じないため、八月四日付け藤原総務局長名の文書で、控訴人が指定した期間は社会部員が交替でそれぞれ一週間程度の夏休みを取る時期と重なるため人員が極めて窮屈な時期であり、控訴人が五週間も休暇を取れば社会部全体の業務の正常な運営が妨げられるとの理由を付して、本件時季変更権を行使し、本件時季指定に係る右期間(ただし控訴人からは八月二四日までとする意向が示されていた。)のうち、後半部分の八月一〇日以降についてのみ時季変更権を行使しており、当時の状況の下で、控訴人の本件時季指定に対し相当の配慮をしている。

以上にかんがみると、被控訴人において、本件時季指定に係る時季が社会部員の多くが夏の年休を取得する期間と重なるため、当時の被控訴人の従業員及び執務体制等の下で控訴人が担当していた前記職務を社会部等において支障なく代替することが困難であり、業務を正常に運営することが妨げられるおそれがあると判断したことは相当なものとして是認することができるから、被控訴人が、控訴人の本件時季指定に係る休暇の一部について本件時季変更権を行使したことは、労働基準法三九条の趣旨に反する不合理なものであるとはいえず、同条四項ただし書所定の要件を充足するものというべきであるから、これを適法なものと解するのが相当である。

6  控訴人は、平成二年及び平成三年の年休の時季指定は無条件で認められており、控訴人の年休取得により業務に支障は生じなかったから、本件時季指定によっても被控訴人の事業の運営に支障が生じることはないと主張する。しかし、本件時季変更権行使の適否はこれが行われた時点における事実関係に基づいて判断されるべきであるから、右主張当時の事情は直接本件時季変更権行使の適否に結びつくものでない。また先にみたように、使用者が時季変更権を行使するについては、当該労働者の休暇の取得がもたらす事業運営への支障の有無、程度につき、蓋然性に基づいて判断せざるを得ないから、右休暇が事業運営にどのような支障をもたらすかの判断や右休暇の時期、期間につきどの程度の修正、変更を行うかに関して、使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ない。しかも、<証拠・人証略>によると、被控訴人の社会部では夏に連続して一〇日以上の休暇を取る者はわずかであり、多くは七日以下の休暇しか取らず、それ以上の休暇を取る場合でも二回に分けて取るなどしていることが認められ、また、具体的な代替策を講じないまま控訴人のような専門的知識と経験の豊富な記者が一か月もの期間不在となった場合に、被控訴人の業務に何らの支障が生じなかったということは容易に信じがたいといわなければならない。そうすると、従業員の年休取得が集中する夏期であるにもかかわらず、被控訴人が右両年に時季変更権を行使しなかったのは、被控訴人が昭和五五年にした時季変更権の行使を違法とする東京高等裁判所判決が昭和六三年一二月に言い渡されたことを踏まえたものであると考えるのが自然である。これらの事実に照らすと、平成二年及び平成三年の夏に被控訴人が時季変更権の行使をしなかった事実をもって、本件時季指定による休暇の取得により被控訴人の事業の運営に支障が生じるおそれがなかったと即断することはできず、また労働者の休暇の取得がもたらす事業運営への支障の有無、程度の判断は各労働者ごとにその職務内容や職場の状況等に基づいて個々に判断すべきものであるから、仮に控訴人以外の従業員の中に平成二年、平成三年当時約一か月程度の有給休暇を取得した者がいたとしても、そのことによって本件時季変更権の適否に関する前記判断が左右されることはない。

7  以上によれば、被控訴人の本件時季変更権の行使は適法である。

二  争点2(職務怠慢の事実の有無)について

1  被控訴人は、控訴人は七月二四日に行われた公正取引委員会の課徴金納付命令の記者会見に出席せず取材送稿を怠り、同日午後四時のNHKニュースでこれを知った三橋社会部長が、経済部の記者に代替させて顧客への配信をした旨主張する。そして、右記者会見に出席せず取材送稿をしなかった事実関係は控訴人もこれを認めて争わない。これに対する控訴人の言い分は、右記者会見は二ユース性が乏しく緊急性のないものであったので、後で資料を見て処理しようと考えてほかの取材に出かけたというものであるが、<証拠略>及び弁論の全趣旨によると、このような記者会見には記者が出席して取材送稿を行うというのが被控訴人の方針であり、控訴人独自の判断でこれをしないことは被控訴人の容認しないものであると認められる。しかし、これ以外には被控訴人から控訴人が取材送稿を怠った事実の具体的指摘はなく、控訴人の責任で報道各社が取り上げた重要なニュースを被控訴人のみが配信し損ねたとの事実(特落ち)を認めるに足りる証拠はない。

2  次に被控訴人は、七月二二日から二五日にかけて、三橋社会部長が控訴人にポケットベルで何度か呼出しをかけたが応答がなく、連絡がつかなかった旨主張する。しかし右主張に係る事実関係は、<証拠・人証略>によると、三橋社会部長が七月二二日にポケットベルで呼出しをしても控訴人からすぐには連絡がなく、そのため何度も呼出しを繰り返したところ、三橋社会部長が帰宅した後の午後一〇時二五分ころになって控訴人から会社に電話があり、翌日には前記認定のとおり電話で話をすることができ、その後も七月二四日、二五日に電話で話をすることはできたが、控訴人とはなかなか連絡が取れなかったというものであることが認められ、控訴人とまったく連絡が取れなかったというものではない。

3  被控訴人は、平成三年五月七日、控訴人が当時の天野社会部長に対し科学欄向けの原稿の執筆を拒否する旨通告して以後執筆をせず、また同日デスクが控訴人にペプシコーラに関する後追い取材を指示したのに超勤を拒否するとしてこれに従わなかった旨主張する。そして、その外形的な事実関係自体は控訴人もこれを争わない。しかし、<証拠略>によれば、右主張に係る行為は労働者委員会所属の組合員二名に対する配置転換(大槻則一につき同月一日付け、長沼節夫につき同月一一日付け)を巡る会社と労働者委員会との対立関係の中で被控訴人に対する抗議行動の一環としてされたものであり、そのことで被控訴人が控訴人を懲戒処分に付した事実を認めるに足りる証拠はない(なお、平成三年二月二一日にスト権を確立して行った争議行動の一環である旨の控訴人の主張を認めるに足りる証拠はない。)。

4  更に被控訴人は、控訴人の勤務がいい加減であるとして、アからオに分けて主張している。しかし、これら主張に係る事実関係については、控訴人は、日曜当番で出勤すべきであるのにこれを失念していたことが一度あること(ア)、平成三年三月一一日に通産省が関西電力美浜原子力発電所の事故原因について記者発表した際の記事原稿で事故原因が「振れ止め金具」の不備にあったとすべきであるのにこれを「振り止め金具」と誤記したことについて事実を認めるものの、それ以外の事実関係は争っており、原稿の誤字、用字用語の誤りに関しては控訴人作成の原稿が証拠として提出されているものの、そのほかは関係者の証言や陳述書の類が中心で、しかも相反する証言等が併存するため個々の事実関係を確定することは困難であり、これを理由として被控訴人が控訴人を懲戒処分に付したとの事実も認めることができない。また、日常的に多数の記事が出稿される中で用字用語の誤りは後を絶たず、訂正記事を掲載することが再三生じており、用字用語の誤りは独り控訴人に限ったものではなかったことが認められる。この点、<証拠略>は、ほかの記者と比較して控訴人に特に誤りが多かった旨証言しているものの、控訴人がワードプロセッサーで作成した原稿と手書きした原稿とを比較検討してみると、手書きの原稿ではワードプロセッサーで作成した原稿に見られるような用字用語の誤りは見当たらないから、これだけの証拠により控訴人に特に用字用語の誤りが多かったと即断することはできない。

ところで、<人証略>を総合すると、控訴人は、正義感が強く自己の信念に基づいて行動し、妥協を快しとせず、そのため独自の優れた記事を配信することもある反面、取材方針や記事の内容等についてデスクと対立することも多く、こうした控訴人の性格や気性は、ともすれば出退勤における時間管理やデスクとのこまめな連絡という点で被控訴人の方針や規律にそぐわない行動として現れ、特定の取材対象を熱心に追求するあまり、ほかの取材等がともすれば不十分となり、またデスクや上司の意向や指示に素直に従わずこれが上司との軋轢を生むことになるなど、組織の一員としての融和性や適合性といった点で問題点があり、これが被控訴人の側からすると、控訴人の投げやりな勤務態度や主観的な判断による恣意的な行動として評価、判断される結果となったとみることができる。しかし、質の高い記事を社会に提供することが記者の使命であると考えるならば、社会事象を見すえ、徹底した取材と裏付けをもとに的確な分析を加えた記事を読者に提供することは、記者に求められる重要な任務であるということができ、その面での控訴人の能力は、主観的で独善的であり内容も不正確であるとする批判がある反面、その能力を高く評価する者もいることを考えると、控訴人の能力の一面のみを捉えて一方的に否定できるものではなく、被控訴人という組織の一員としての一般的な遵守事項や職務の遂行において欠けるところがあることを強調して控訴人を否定的にのみ評価することは正当なものとはいえない。そして、ほかに控訴人の職務遂行上特に不都合があったとか、他の記者と比較して特段能力が劣っていたり社内の規律を乱したというような具体的な事実関係も、これを認めるに足りる証拠はない。

三  争点3(本件懲戒解雇の効力)について

1  先に判示したとおり、本件時季変更権の行使は適法であるから、控訴人は、時季変更権を行使された八月一〇日から同月二四日までの間の勤務を要する一二日間について就業すべき義務を負っていたのであり、被控訴人から就業するよう業務命令を発せられていたにもかかわらず、右一二日間について勤務をしなかったのであるから、控訴人の右行為は、懲戒規程四条六号所定の「職務上、上長の指示命令に違反したとき」に該当するといわなければならない。しかし、被控訴人が控訴人の職務怠慢の事実として主張する諸事実は、前記二で判示したとおり具体的な裏付けのないものが多くその全てをそのまま認定することはできない上、証拠上認めることができる事実関係によっては、控訴人に懲戒規程四条三号所定の「職務怠慢で勤務に誠意が認められないとき」に該当するということはできない。

2  本件懲戒解雇は、時季変更権を行使した八月一〇日から同月二四日までの間の勤務を要する一二日間について控訴人が業務命令に違反して勤務をしなかったことが、懲戒規程五条所定の懲戒解雇事由である「再三の懲戒にもかかわらず改心の情がないとき」(一二号)及び「前条に該当する行為でも特に悪質と認められたとき、もしくは会社に与えた損害が大なるとき」(一四号)に該当し、控訴人の職務怠慢の事実が懲戒規程五条一四号に該当するとしてされたものである。しかし、前記のとおり控訴人に懲戒規程四条三号所定の職務怠慢の事実を認めることはできないから、本件懲戒解雇の理由のうち後段部分に理由がないことは明らかである。また、懲戒規程五条一二号にいう「再三」とは「二度や三度」のことであり、一、二面に止まらず何回もという意味合いの強い用語であるところ、控訴人は、昭和五〇年一〇月一九日、上司の退去命令に従わず、かつ退去しようとした上司の腕を取って引き戻す行為をしたとして懲戒規程により懲戒処分としての戒告処分を受けたことがあり、昭和五五年の夏の休暇のことでも懲戒処分としての譴責処分に付されているので、過去に二度懲戒に付されたことになるが、昭和五五年の夏の休暇の件については現に裁判でその効力が争われていたことを考えると、右要件を充足していたとみることはできないから、懲戒規程五条一二号には該当しないというべきである。

3  そこで、控訴人が業務命令に違反して勤務しなかったことが懲戒規程五条一四号に該当するか否かについて判断する。前記のとおり、控訴人は、昭和五五年夏に約一か月間の年休の時季指定をし、被控訴人から時季変更権を行使された右期間の後半の勤務日について業務命令に違反して勤務せず、これを理由として被控訴人から譴責処分を受けたことについて、右処分の無効確認等を求める裁判を提起していたところ、平成四年六月二三日、事前に会社と調整することなく長期かつ連続した年休の時季指定をした場合には、会社が事業運営への支障の有無、程度を判断して時季変更権を行使することができる旨判示し、被控訴人の右時季変更権の行使を正当なものとして是認した最高裁判所の判決が言い渡された。控訴人は、右判決を受け、被控訴人との事前の調整を経ないまま長期かつ連続した年休の時季指定をした場合には被控訴人が昭和五五年のときと同様な時季変更権の行使をすることが容易に予想できたにもかかわらず、右最高裁判所判決の言渡し後間もない七月一九日、被控訴人との事前の調整を経ないまま、あえて約一か月間の年休の時季指定(本件時季指定)をした。しかも、控訴人は、右最高裁判所判決直後の記者会見で「会社を辞めるまで、意地でも毎年一か月の夏休みを取ろうと思っている。」と述べ、これが報道各紙に大きく報道されたため、控訴人がその年の夏にも一か月間の年休の時季指定をするのか否か、これをした場合の被控訴人の対応がどうなるのかといったことが報道機関のみならず関係方面の注目するところとなっていた(このことは容易に推測できる。)。このような状況の下で、右最高裁判所判決の判示を無視して被控訴人との事前の調整を経ないままされた控訴人の本件時季指定を、被控訴人がそのまま認めるか否かは、単に一従業員の年休の時季指定という範疇を越え、被控訴人の労務管理及び人事政策に対しこれを否定する要素を含み重大な影響を及ぼしかねない大きな問題に変容していたものと理解することができる。そして、藤原総務局長が控訴人に対し、八月四日に本件時季変更権を行使するとともに八月一〇日以降就業すべき旨の業務命令を発し、同月八日にも、一〇日以降出社しないと面倒なことになる旨述べて控訴人に出社するよう促したにもかかわらず、控訴人がこれを無視して同日から同月二四日までの勤務すべき日において勤務をしなかったことを考慮すると、控訴人が藤原総務局長の業務命令に違反して八月一〇日以降勤務しなかったことは、職務上、上長の指示命令に違反した行為(懲戒規程四条六号)の中でも特に悪質と認められたときに当たり、かつ被控訴人に与えた損害としても大なるものがあるといわなければならず、控訴人の右行為は懲戒規程五条一四号に該当すると認めるのが相当である。

4  控訴人は、本件懲戒解雇は、適正手段に違反し無効であると主張する。しかし、本件懲戒解雇に際し、被控訴人が控訴人に弁明の機会を設けたことは窺えないが、控訴人が藤原総務局長の業務命令に違反して八月一〇日以降勤務しなかったことは簡明な事実であり、控訴人は前記最高裁判所判決直後の記者会見で「会社を辞めるまで、意地でも毎年一か月の夏休みを取ろうと思っている。」と述べ、同局長が八月四日に本件時季変更権を行使するとともに八月一〇日以降就業すべき旨の業務命令を発し、同月八日にも、一〇日以降出社しないと面倒なことになる旨述べて控訴人に出社するよう促したにもかかわらず、これに従わず、同月一〇日、同局長に電話で出社しない旨伝え、その後も同局長が出社して話し合いに応じるよう説得したが応じなかったものであり、また団体交渉は被控訴人の指定した日時について労働者委員会から異議があったため開催されなかったという事情の下では、被控訴人が控訴人に弁明の機会を設けなかったことをもって、本件懲戒解雇の効力を否定しなければならないほどの重大な手続上の暇疵があったということはできない。

5  控訴人は、本件懲戒解雇に当たって控訴人の記者としての実績が考慮されていないので相当性の原則に違反し無効であると主張する。しかし、前記のとおり、控訴人の本件業務命令違反は被控訴人の労務管理及び人事政策の根幹を揺るがす重大なものであるから、控訴人が被控訴人の業務命令に従う旨を表明する等して被控訴人の労務管理及び人事政策に対する障害が除去是正されるならいざ知らず、単に控訴人が二五年余りの勤務により被控訴人に貢献したというだけでは、本件懲戒解雇が重きにすぎるということはできない。

6  本件懲戒解雇が平等取扱いの原則に違反する旨及び不当労働行為である旨の控訴人の各主張についての判断は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」「三 争点3(本件懲戒解雇の効力)について」の「5」(一)ないし(四)及び「6」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

(一) 原判決書六四頁三行目の「乙第六九号証の一、二」を「甲第八四ないし第八七号証、乙第六九号証の一、二」に、同六五頁四行目の「乙第五〇号証の二」を「甲第九一号証、乙第五〇号証の二」に、同六六頁一〇行目の「されており」から同一一行目の「なっている」までを「された」に、同六七頁二行目の「のうち」から同五行目の「認められるのであるから」までを「であり、控訴人の年休の時季指定より短く、またその間に王位戦及び碁聖戦の結果を取材して記事の配信に支障を生じないように手当がされている。また同記者は控訴人と所属部が異なり、仕事の繁閑、代替性の難易等も控訴人の場合と同一には論じることができず、年休の時季指定に関して訴訟を提起し、前記最高裁判所判決が出されたのにこれを無視して同様の時季指定を繰り返した控訴人の事情に類比すべき事実関係は認められないのであるから」にそれぞれ改める。

(二) 同六七頁一一行目の「ものであり」を「ものであるところ、そのうち職務怠慢の事実を認めることができないことは前記認定のとおりであるにしても、控訴人が業務命令に違反して就業しなかった点は前記のとおり上長の指示命令に違反する行為の中でも特に悪質であると認められ、かつ破控訴人に与えた損害も大きいと認められるから、」に、同六八頁一行目「認められない以上」を「認められない。したがって」にそれぞれ改める。

7  以上によれば、本件懲戒解雇は、合理的な理由があり、社会通念上相当なものとして是認することができるというべきである。

第五  結論

よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(平成一一年三月三一日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 宮岡 章)

裁判官生田瑞穂は転補のため署名押印することができない。

(裁判長裁判官 新村正人)

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