大判例

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東京高等裁判所 平成10年(ネ)1269号 判決 1998年10月30日

控訴人(被告)

乙川春男

右訴訟代理人弁護士

大久保博

大関亮子

高崎尚志

被控訴人(原告)

甲野花子

右訴訟代理人弁護士

羽成守

菅谷公彦

主文

一  原判決中控訴人敗訴部分を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、五六七五万六八一五円及びこれに対する平成四年一〇月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じこれを五分し、その三を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

本件事案の概要は、原判決事実及び理由の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

第三  争点に対する判断

一  当裁判所は、当審における当事者の主張立証を加えて本件全資料を検討した結果、被控訴人の請求は、控訴人に対し、五六七五万六八一五円及びこれに対する平成四年一〇月六日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容すべきであり、その余は理由がないから棄却すべきものと判断する。

その理由は、次のとおり加除訂正するほか、原判決事実及び理由の「第三争点に対する判断」に説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一九頁九行目の「甲一二、」の次に「甲二二、」を、同二〇頁八行目の「め、」の次に「東海大学大磯病院を経て」をそれぞれ加え、同二三頁三行目の「かきむしる」を「いじりまわす」と、同二四頁八行目の「CPK」から同一〇行目の「二〇」までを「CPK一二一四〇〇(基準値・男五五から二一〇)、Cr(クレアチニン)2.5(基準値・男0.6から1.2)、BUN(尿素窒素)二〇(基準値九から二一)」とそれぞれ訂正し、同二五頁九行目の「無尿となり、」の次に「急性腎不全が発現し、」を加え、同三〇頁九行目の「七時」を「六時」と、同三六頁一一行目の「ものとは認めがたい」を「蓋然性は低いものと考えられる」とそれぞれ訂正し、同三七頁二行目の「貧血状態」の次に「、低血糖状態」を加え、同二、三行目の「から、出血のためのせん妄状態」を削除し、同三八頁一〇行目の「GOT値」から同一一行目の「GOT値」までを「若干上昇したにとどまり、また、同月八日の太郎のCPK値が一二万一四〇〇と異常な高値を呈していることからすると、著増のGOT値及び異常な高値のCPK値」と訂正し、同三九頁四行目の「総合すると、」の次に「太郎が」を、同四〇頁三行目の「ミオクローヌ」の次に「ス」をそれぞれ加える。

2  原判決四一頁三行目と四行目との間に次のとおり挿入する。

「(3) 乙二四の1(乾道夫の「意見書」)及び乙二五(乾道夫の「意見補遺」。以下、これらをまとめて「乾意見」という。)によれば、「① 太郎の死亡原因は多臓器不全であり、これを惹起した原因は、病態経過中にみられた太郎のアルコール依存症、アルコール性肝障害に係る非協調的異常病態によるものと考えられる。② 本件事故と太郎の死亡原因との間に直接的因果関係は否定されるが、間接的因果関係までも否定するものではない。」とされている。

そして、乾意見は、① 寒川病院における観血的手術等の翌日である平成四年一〇月七日には、太郎に、不安、焦燥、不快感情、著名な発汗、吐き気、口渇、体温上昇など、太郎の既往症からみて、アルコール依存症の早期離脱症状を示唆する症状が発現し、翌八日まで継続していること、また、この時点では、臨床的にミオグロビン血症やミオグロビン尿も証明されていないこと、② 同八日までに、挫滅症候群の診断学的特徴である高カリウム血症、代謝性アシドーシス、腎不全などの全身的な異常所見のないこと、③ 同八日午前九時二二分ころに心停止を来たし、心肺蘇生術後に自発呼吸が発現するも、蘇生後脳症に陥り、以降、人工呼吸管理下にあったことなどから、太郎は、当時、挫滅症候群の病態にあったとするよりは、アルコール依存症の病態にあったものと考えられるとし、また、太郎の受傷当初の傷病(右膝関節出血性関節炎、右下肢裂創、右足リスフラン関節部開放性骨折・脱臼、コンパートメント症候群、右腓骨骨折)から考えて、初期創傷の処置治療が適切に行われ、太郎もまた治療に協調していたとするならば、継続的重症感染には至らず、右下腿切断及び右大腿切断は免れ得たものと考えられるとしている。

しかし、① 太郎が本件事故後にアルコール禁断症状を発現した可能性があることは否定できないが、太郎は、本件事故によって生じた右下肢のコンパートメント症候群により、右下肢に血流不全を起こしたため、耐え難い痛みがあったもので、太郎が本件事故によって受けた損傷は、太郎の観血的整復固定術を受けた後の不穏行動によるダメージよりもはるかに大きく、太郎の右足患部の挫滅及び創感染が、太郎の右不穏行動によって発生した蓋然性は低いものと考えられること、太郎の右不穏行動は、観血的整復固定術による出血後の一般的せん妄状態や、頻脈傾向、貧血状態、低血糖状態が続いたことがその原因である可能性があること、② 太郎のアルコール性肝障害の点については、太郎の平成四年一〇月七日のGOT値は一六二、GPT値は一一八であり、中等度に上昇しているが、この数値には太郎の右足患部の挫滅が影響していると考えられ、太郎の全身状態が比較的落ち着いた同年一一月三〇日には、太郎のGOT値及びGPT値はいずれも正常範囲に戻っていることからすると、太郎の肝機能障害の程度は軽度であったとみられること、肝機能障害が増悪すると、GOT値よりもGPT値が高くなるのが一般的であるところ、太郎の同年一〇月七日と同月八日の血液検査の結果を比較すると、GOT値が著しく上昇しているのに対し、GPT値は若干上昇したにとどまり、また、同月八日の太郎のCPK値が一二万一四〇〇と異常な高値を呈していることからすると、著増のGOT値及び異常な高値のCPK値は、太郎の右足患部の筋肉等の挫滅・壊死によって惹起されたものと判断するのが合理的であること、③ 太郎の同年一〇月七日の尿は、午前六時には暗赤色、午前九時三〇分には褐色で潜血反応が強い陽性を示しており、太郎の右足患部の筋肉の挫滅・壊死によるミオグロビン尿が、本件事故後のかなり早い時期から出現していたものと推認されること、④ 太郎の同月九日の血液検査の結果は、BUN、Cr、CPKのいずれも異常な高値を呈し、同日午後には、太郎は無尿となり、急性腎不全が発現したこと、⑤ 本件事故が発生したのは、同月六日午前七時一五分ころであるところ、太郎が寒川病院に入院したのは同日午後〇時二〇分であり、この間、海老名厚生病院において応急処置はされたものの、本件事故による受傷から入院まで約五時間が経過しており、開放骨折を伴う創全体にとって、汚染、感染等の面で決して良好な状態にあったとはいえないこと、以上は前記認定説示(引用原判決理由説示)のとおりであり、また、証拠(甲二二、証人高取健彦)によれば、血糖値(基準値六五から一一〇日mg/dl)が五〇mg/dlになると、頻脈、冷汗、顔面蒼白、四〇日mg/dlになると、血圧上昇、振せん、上腹痛などが出現し、三〇から四〇mg/dlでは、異常行動、見当識障害、傾眠などが出現するといわれていること、太郎は、同月八日午前九時二二分、心停止したが、そのころの太郎の血糖値は二三mg/dlと非常に低いところ、その原因は全く不明であること、太郎は、観血的整復固定術後から頻脈傾向であり、これは貧血が持続的に存在していたためと考えられ、この持続的な貧血に加えて、ある一定時間以上低血糖状態が持続し、しかも、その血糖値が二三mg/dlを呈していたことからすれば、ある時点で心停止が発現したとしても矛盾はないものと考えられることが認められ、以上の諸点にかんがみると、乾意見は、たやすく採用できないものといわなければならない。」

3  原判決四一頁一一行目の「前記認定」の次に「説示」を加え、同四二頁二行目の「かきむしる」を「いじりまわす」と、同三行目の「ないし」を「を生じ、あるいは右足患部の」とそれぞれ訂正し、同四行目の「悪化させた」の次に「可能性がある」を加え、同五行目の「原告」を「太郎」と訂正し、同八行目の「判断する。」の次に行を改めて「乙二二及び証人津田征郎の証言中には、『本件事故がなければ、太郎は開放骨折を来しておらず、その創口の汚染はあり得ないから、本件事故と太郎の死亡との間には相当因果関係がないとはいえないが、アルコールの禁断症状が発現する程度まで肝機能が悪化していることから、極めて感染しやすい状態になっており、一度感染を起こすと悪化の一途をたどる状態の体質にまでなっていたこと、さらに術後は消毒をして無菌状態にし、抗生剤を投与しなければならないにもかかわらず、自ら創口を汚染し、しかも抗生剤の入った点滴を外す行為に出たことなどを考慮した場合、太郎の死亡に対する本件事故の寄与の度合いは極めて低くなり、約三割程度と考えられる。』との記載及び証言部分があるが、右記載及び証言部分は、以上認定説示したところに照らし、また、甲二二及び証人高取健彦の証言と対比して、にわかに採用することはできず、他に以上の認定判断を覆すに足りる証拠はない。」を加える。

4  原判決四二頁一〇行目の「乙七、乙八」を「乙七ないし九」と改め、同四三頁一行目の「4.6メートル」の次に「(路側帯一メートルを含む。)」を、同一一行目の「被告は、」の次に「被告車両(幅1.39メートル)を運転し、」をそれぞれ加え、同四四頁一〇行目の「太郎」から同四五頁四行目の「推認されること」までを「本件事故発生の原因は、被告が見通しの悪い九〇度の右カーブを右側インコーナー寄りに対向車の走行すべき部分に進入して時速約三〇キロメートルのまま進行しようとしたことにあるものというべきであり、一方、太郎の運転していた被害車両の本件事故直前の時速、減速の有無等の状況は証拠上明らかではないが、太郎としては、見通しの悪い九〇度の左カーブを自己の走行すべき道路左側部分に侵入して走行してきた被告車両を直前で発見しても、対向車の走行すべき道路右側部分に侵入するなどして被告車両との衝突を回避することは困難であったものと認められる(本件事故の際に被害車両が横滑りして衝突したのは、太郎が被告車両を発見して何らかの回避措置を講じようとしたためであると推認される)」と改め、同四六頁一行目の「東海大学」の次に「大磯」を加える。

5  原判決五〇頁一一行目の「八二二一円」を「八二〇九円」と訂正し、同五一頁五行目の「四三歳である」の次に「(甲一、甲一一)」を加え、同五二頁九行目の「六二年」を「六一年六月」と訂正し、同五三頁一行目の「太郎は」の次に「、本件事故前には」を、同八行目の「事情」の次に「(寄与による減額の点を除く。)」を、同五四頁八行目の「前記認定」の次に「説示」をそれぞれ加え、同五六頁五行目から同一〇行目まで全部を「そして、右の療養補償給付の範囲については、純然たる治療費のみに限らず、これに準じる入院雑費や付添看護費も含まれるとみられるので、療養補償給付がされた限度で、右の治療費、入院雑費及び付添看護費の損害は填補されたものと認めるのが相当である(最高裁昭和六二年七月一〇日第二小法廷判決・民集四一巻五号一二〇二頁参照)から、寄与による減額後の治療関係費、付添看護費、入院雑費及び通院交通費の損害合計一八四四万四一一七円(2305万5147円×0.8)が填補されたことになる(これを上回る療養補償給付の部分については損害の填補として控除しない。)。」と、同一一行目から同五七頁一行目の「五三六九万〇二六五円」を「五一七五万六八一五円」と、同七行目の「五八六九万〇二六五円」を「五六七五万六八一五円」とそれぞれ訂正する。

二  よって、これと一部異なる原判決中控訴人敗訴部分を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官塩崎勤 裁判官橋本和夫 裁判官市川正巳)

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