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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)6号 判決 1991年5月28日

アメリカ合衆国

ニュージャージ州 〇八五四〇 プリンストン インデペンデンス・ウェイ 二

原告

アールシーエー ライセンシング コーポレーション

右代表者

デニス エイチ アールベック

右訴訟代理人弁理士

田中浩

荘司正明

木村正俊

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官 植松敏

右指定代理人

今井健

宮崎勝義

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和六二年審判第一一一〇号事件について昭和六三年八月二四日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

二  被告

主文一、二項と同旨の判決。

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

出願人 アールシーエー コーポレーション

出願日 昭和五四年四月二六日(昭和五四年特許願第五二四三五号)

優先権主張 一九七八年五月一日アメリカ合衆国出願

発明の名称 「カラー映像管」

拒絶査定 昭和六一年九月五日

審判請求 昭和六二年一月一九日(昭和六二年審判第一一一〇号事件)

名義変更届 昭和六三年一〇月二〇日(昭和六二年一二月八日原告への権利譲渡)

審判請求不成立審決 昭和六三年八月二四日

二  本願発明の要旨

中央ビームと二本の外側ビームからなる三本の電子ビームを発生して、これらのビームを同一平面内にあるビーム通路に沿って、垂直および水平偏向磁界が形成されるようにされた偏向領域を通して、スクリーンに向けて投射するためのインライン型電子銃と、それぞれ外側ビームの経路を囲んで水平および垂直偏向磁界の双方の一部の右二本の外側電子ビームに対する作用を弱めるための環状分路部材と、右二本の外側電子ビームの経路と中央電子ビームの経路との間にそれぞれ配置され水平方向磁界の一部の右中央電子ビームに対する作用を弱めるが垂直偏向磁界の右中央電子ビームに対する作用には影響を与えないようにされた互いに平行な細長い棒状素子とを有し、これら棒状素子の長さは右環状分路部材の直径よりも長くされているカラー映像管(別紙図面一参照)。

三  審決の理由の要点

1  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

2  一方、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開昭五二-五九五二七号公報(以下、「引用公報」という。)には「偏向磁界制御素子付カラー受像管」に係る発明が記載されており(別紙図面二参照)、その二頁左上欄一三行ないし右上欄七行に、従来技術が「このような現象を「コマ収差がある」と名付けている。これを補正するために、従来は第3図に示されるような磁界制御素子を、電子銃の電子ビーム放出孔の直後に設けている。第3図(別紙図面二第3図)において二つのワッシャ8、9は両サイドビーム孔12、14付近の水平および垂直偏向磁界を弱め、中央ビーム孔13付近の垂直偏向磁界を強めるように働く。また二つのデイスク10および11は中央ビーム孔13付近の水平偏向磁界を強めるように働く。この結果両サイドビームに対する偏向感度が中央ビームに対する偏向感度より悪くなり、偏向磁界を非斉一磁界にした事による中央ビームの偏向感度の劣化を補正し、画面上にはコマ収差のないパターンが得られる。」と、同頁左下欄三行ないし八行に、発明の目的が「本発明の目的は、前記した従来技術の欠点をなくし、両サイドビームに対する偏向感度と中央ビームに対する偏向感度が異なるカラー受像管と偏向ヨークの組み合わせに対して、両サイドビームと中央ビームに対する偏向感度の差を解消する手段を提供することにある。」と、同頁左下欄一五行ないし右下欄六行に、水平偏向磁界に対する磁界制御素子について「この場合、水平偏向磁界に対する磁界制御素子は垂直偏向磁界に対してはほとんど変化をおよぼさないようにする事が必要であり、水平偏向磁界と平行な方向には長く、垂直偏向磁界と平行な方向には短い幾何学的寸法を有しなければならない。また垂直偏向磁界に対する磁界制御素子は水平偏向磁界に対しては、ほとんど影響をおよぼさないようにする事が必要であり、垂直偏向磁界と平行な方向には長く、水平偏向磁界と平行な方向には短い幾何学的寸法を有しなければならない。」と各々記載され、図面の第3図(別紙図面二第3図)に環状磁界制御素子を有する従来技術が、また第6図(同図面第6図)に両サイドビーム孔付近に設けられた垂直偏向磁界制御素子の間隔よけも大きい長さを有して中央ビーム付近に設けられた水平偏向磁界制御素子の実施例が記載されていることからみて、引用公報には「二つの環状磁界制御素子からなる垂直及び水平偏向磁界制御素子を両サイド電子ビーム放出孔の直後に設け、二つのディスクからなる磁界制御素子を中央ビーム孔付近に設けた、カラー受像管」の発明(以下、「第一引用発明」という。)及び「両サイドビーム付近に設けられ垂直偏向磁界と平行な方向には長く水平偏向磁界と平行な方向には短い幾何学的寸法を有する垂直偏向磁界制御素子と、水平偏向磁界と平行な方向には長くその長さは垂直偏向磁界制御素子の間隔よりも大きく垂直偏向磁界と平行な方向には短い幾何学的寸法を有する水平偏向磁界制御素子とを有する、カラー映像管」の発明(以下、「第二引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

3  本願発明と第一引用発明とを対比すると、両発明は、本願発明における、「二本の外側電子ビームの経路と中央電子ビームの経路との間にそれぞれ配置された磁界制御素子が環状分路部材の直径よりも長い長さを有する互いに平行な細長い棒状素子である」のに対し、第一引用発明の「中央ビーム孔付近に設けられた磁界制御素子が二つのディスクであって、その大きさが限定されていない」点でのみ相違しており、その余の点では一致していると認められる。

4  本願発明と第一引用発明との相違点の検討

ところで、第二引用発明は本願発明及び第一引用発明と共通の目的を有しており、第二引用発明の、「水平偏向磁界と平行な方向には長く垂直偏向磁界と平行な方向には短い幾何学的寸法を有し、両サイドビーム孔付近に設けられた垂直磁界制御素子の間隔より長さが大きく、中央ビーム付近に設けられた水平偏向磁界制御素子と、垂直偏向磁界と平行な方向には長く水平偏向磁界と平行な方向には短い幾何学的寸法を有する垂直偏向磁界制御素子」と、本願発明の「二本の外側電子ビームの経路と中央電子ビームの経路との間にそれぞれ配置された水平偏向磁界制御素子が、互いに平行な細長い棒状素子である」とは、同一の事項であると認められる。

引用公報の記載によれば、第二引用発明の水平偏向磁界制御素子と垂直偏向磁界制御素子とは総合して機能するものとは認められないので、これらの磁界制御素子は各々独立して別個に使用し得るものであると認められる。

したがって、本願発明及び第一引用発明と同一の技術分野に属し同一の技術課題を有する第二引用発明の水平偏向磁界制御素子を第一引用発明に適用することによって本願発明をすることはカラー受像管の技術分野における通常の知識を有する者が容易にできたものと認められる。

5  以上のとおりであるので、本願発明は特許法二九条二項の規定により特許を受けることができない。

四  審決の取消事由

審決の理由の要点1ないし3は認める。同4のうち、第二引用発明は本願発明及び第一引用発明と共通の目的を有することは認め、その余は争う、同5は争う(審決がその理由の要点4において本願発明と第二引用発明について対比した事項が被告主張のとおりであることは争わない。)。

審決は、本願発明と第一引用発明との相違点についての判断をするに当たって、本願発明と第二引用発明の水平偏向磁界制御素子を技術的に同一視した誤認及び第二引用発明の磁界制御素子の機能に関する誤認の結果、第二引用発明の水平偏向磁界制御素子を第一引用発明に適用することによって本願発明をすることは容易にできたものとの誤った判断をしたものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。

1  第二引用発明及び本願発明における水平偏向磁界制御素子の同一性に関する認定の誤り(取消事由(1))

第二引用発明における水平偏向磁界制御素子15、16(別紙図面二第6図)と本願発明における水平偏向磁界制御素子47(別紙図面一第7図)とは、共に中央ビーム付近に中央ビームを挟む形で配置された薄板状及び棒状の部材である点で構造的には一見相似た形態をとっている。しかし、第二引用発明における右素子は、中央ビーム放出孔付近を通るべき水平偏向磁界の磁束の大部分を吸収してその付近の水平偏向磁界強度を弱め、中央ビームの水平偏向感度を弱めて左右のコマ収差を補正するが、垂直偏向磁界に対しては殆ど影響を及ぼさず、そのため垂直偏向磁界制御素子によって一旦吸収された中央ビーム放出孔付近で強化されて放出される垂直偏向磁束をそのまま中央ビームに伝え、その垂直偏向感度強化作用を妨げずに消極的に上下コマ収差を補正する働きを助ける機能を果たしている。一方、本願発明の水平偏向磁界制御素子(本願明細書ではラスタ補正部材と称する。)は、中央ビーム通路付近において第8図(別紙図面一第8図)に示すように垂直方向に伸びる水平偏向磁界を変形させて中央ビームに対する水平偏向磁界の作用を弱め、中央ビームのラスタの水平方向の寸法を小さくするという点では、第二引用発明の制御素子と共通するが、外側の二本のビームに対する分路部材46(第二引用発明の素子22~25に対応する。)によって中央ビーム通路に集中される垂直偏向磁界を元の変形を受けない形状に拡げる作用、すなわち中央ビームに対して強化されようとする垂直偏向磁界を弱めようとする機能を呈するものである。なお、この弱めようとする機能は、素子の長さが環状分路部材の直径よりも長いことによって得られるものである。

このように、両発明における水平偏向磁界制御素子は、中央ビームに働く垂直偏向磁界に対する作用が一方は消極的な強化作用であるのに対し他方は弱化作用という形で、機能的に全く相反するものであるから、この機能の違いを看過あるいは無視して同一の事項と認定することは明らかに誤りである。

2  第二引用発明の水平及び垂直偏向磁界制御素子の機能の独立性に関する認定の誤り(取消事由(2))

第二引用発明は、引用公報第4図(別紙図面二第4図)のバタンに示されるような外側ビームに比べて中央ビームの垂直偏向が小さく水平偏向が大きいコマ収差の補正を、同第6図(同図面第6図)に示す形状の六個の磁界制御素子15、16、22~25によって行うものであり、具体的には磁界制御素子15、16により中央ビーム孔付近の水平偏向磁界を弱めて(垂直偏向磁界には殆ど影響を与えずに)中央ビームの左右方向偏向を小さくし、また、磁界制御素子22~25により両サイドビーム孔の垂直偏向磁界を弱めて(水平偏向磁界には殆ど影響を与えずに)両サイドビームの上下方向偏向を小さくするとともに中央ビーム孔付近の垂直偏向磁界を強めて中央ビームの上下方向偏向を大きくするように働く、磁界制御素子15、16は、磁性体から成るものであるが、前記1で速べたように、中央ビームに対する右の磁界制御素子22~25の垂直偏向磁界強化作用に対しては変化を及ぼさないように、換言すれば右の垂直偏向磁界強化作用に対して消極的な助成作用を行うように働いている。そして、これら両磁界制御素子15、16及び22~25の呈する作用の総合的結果として、同第4図(同図面第4図)のコマ収差が補正されるものであるから、それぞれを組み合わせることなく個別に単独に使用したのでは、所望のコマ補正は行うことができない。

したがって、第二引用発明の水平及び垂直偏向磁界制御素子が各々独立して使用し得るとした審決の認定は誤りである。

3  本願発明の容易想到性について(取消事由(3))

(一) 原告は、電子ビームのコマ収差の補正を目的とするという点において、本願発明、第一及び第二引用発明が共通していること自体を争うものではない。しかし、第一引用発明が補正の対象とするのは、引用公報第2図(別紙図面二第2図)のごとく、中央ビームによる長方形パタンが両サイドビームによる長方形パタンに比べて左右及び上下方向とも小さい形のコマ収差であるのに対し、第二引用発明が補正の対象とするのは、同公報第4図(別紙図面二第4図)のごとく、中央ビームによる長方形パタンが両サイドビームによる長方形パタンに対し左右方向に大きく上下方向に小さい形のコマ収差である。このように補正の対象となるコマ収差の形状が異なると、それに応じて補正手段である磁界制御素子の構成や配置も異なってくるのである。かかる補正手段を異にする発明間で一方の手段を他方に適用するということ自体が技術常識から考えて不合理である。

(二) また、各補正を要する右第2図と第4図のパタン及び第一、第二引用発明は公知であるが、第二引用発明を用いることなく第4図のパタンを補正するという課題が与えられたとすれば、パタン7aの左右方向長さを縮め上下方向長さを増大させることと、パタン6aの左右方向長さを増大させ上下方向長さを縮めることが必要となるところ、パタン7aの場合は、左右方向の縮小は第3図(別紙図面二第3図)の第一引用発明の素子10、11の除去、小形化または相互間隔を拡げるなどの方法で孔13付近の水平偏向磁界を弱めることにより、また上下方向の拡大は第一引用発明の素子8、9の外径を大形化して孔13付近の垂直偏向磁界を増強することにより、特別な部材の使用を要せずに可能であることは容易に判るが、パタン6aの場合には、左右方向への拡張には第一引用発明の素子8、9の直径方向の厚さを薄くして孔12、14付近の水平偏向磁界を強め、上下方向の縮小には同じく第一引用発明の素子8、9の直径方向の厚さを厚くして孔12、14付近の垂直偏向磁界を弱める要があり、双方の要求を満足させようとすれば互いに相反する形態を採らねばならず実現不可能となる。したがって、この点からも、第一引用発明に第二引用発明の水平偏向磁界制御素子を適用するという考え及びそれが容易になし得るとする考えは妥当なものではない。

(三) 次に、第二引用発明における水平及び垂直偏向磁界制御素子は、前述のとおり、双方の作用の総合的結果として第4図のパタンの補正を行うものであって、特に素子22~25による中央ビームに対する垂直偏向磁界強化作用を妨げない形で素子15、16が中央ビームに対する水平偏向磁界弱化作用を呈するという両素子の相関関係から明らかなように、互いに独立して別個に働くものではないから、その一方を単独に取り出して第二引用発明に容易に適用できたとする考えも正しくない。

(四) 更に、第二引用発明における水平偏向磁界制御素子と本願発明の水平偏向磁界制御素子とは、前述のとおり、後者の長さが環状分路部材の直径よりも長いという構造的特徴によって一旦部材46で強化された中央ビームに対する垂直偏向磁界を弱める作用を行う点で、積極的に弱める作用のない第二引用発明の素子とは相違するので、第二引用発明の水平偏向磁界制御素子を第一引用発明に適用して本願発明をすることが容易ということは技術的に認めにくい。

(五) 以上によれば、第二引用発明の水平偏向磁界制御素子を第一引用発明に適用することによって本願発明をすることは、カラー映像管の技術分野における通常の知識を有する者が容易にできたとする審決の認定は誤りである。

第三  請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三は認める。同四は争う。

審決の認定、判断は正当であり、審決にはこれを取り消すべき違法はない(なお、審決が、その理由の要点4において、本願発明の水平偏向磁界制御素子と対比し同一の事項であると認めたのは、第二引用発明中の「水平偏向磁界と平行な方向には長く垂直偏向磁界と平行な方向には短い幾何学的寸法を有し、中央ビーム付近に設けられた水平偏向磁界制御素子」である。)。

二1  取消事由(1)について

第二引用発明における水平偏向磁界制御素子15、16は、磁界制御素子22~25の吸収によって変形された垂直偏向磁界の磁束を元の変形を受けない状態となるように拡げてほぼ均一の磁界を生じさせるように機能するものである。

これに対し、本願明細書には「分路部材46と組合わせて細長い部材47を使用すると、この部材47が垂直偏向磁界を元の変形を受けない形状に拡げようとするので、分路部材46は中央ビームラスタに対して何等の影響も与えなくなる。」との記載が存在し(一〇頁一九行ないし一一頁三行)、本願発明の水平偏向磁界制御素子は、分路部材46によって一旦吸収された垂直偏向磁界の磁束を拡張する機能を有するものであり、換言すれば、補正部材47の中央ビーム孔13に面する全表面に瓦ってほぼ均一に分布するように拡げ、もって補正部材46の吸収によって変形された垂直偏向磁界の磁束を元の変形を受けない状態にしてほぼ均一の磁界を中央ビームに作用させるものである。

したがって、両発明の水平偏向磁界制御素子の中央ビームに働く垂直偏向磁界に対する作用は、ともに直偏向磁界を拡げて元の変形を受けない状態にしてほぼ均一の磁界を生じさせるという点で機能が同じであるから、第二引用発明と本願発明における水平偏向磁界制御素子は互いに同一の事項であるということができ、審決の認定に誤りはない。

なお、原告は、第二引用発明では強化作用であり本願発明では弱化作用であるというが、これは磁界制御素子による磁界拡張効果すなわち垂直偏向磁界の磁束をほぼ均一化したその結果により生ずることであって、中央ビームに対する垂直偏向磁界を均一化させるという点では同一の機能であり、強化作用或いは弱化作用といっても結果は同じである。

2  取消事由(2)について

第二引用発明においては、原告の主張するように、水平及び垂直の両磁界制御素子の呈する作用の総合的結果として引用公報第4図(別紙図面二第4図)に示されたラスタパタンのコマ補正が行われるとしても、水平偏向磁界制御素子それ自体の機能は、前述のとおり、磁界制御素子22~25によって変化を受けた垂直偏向磁界を変化を受けない状態にするもの、つまり磁界拡張効果によりほぼ均一な垂直偏向磁界を中央ビームに作用させるものにすぎないから、水平偏向磁界制御素子はこの磁界制御素子22~25の垂直偏向磁界の作用と格別密接な関係を有するとはいえない。

したがって、第二引用発明の水平偏向磁界制御素子の有する機能を単独でラスタパタンの補正手段として使用することは、当業者であれば予測できることである。

3  取消事由(3)について

(一) 引用公報第4図(別紙図面二第4図)に示されているようなラスタパタンのコマ補正に当たって本願発明のように構成することは、次の技術的事項を基にすれば、当業者が容易になし得ることといえる。

(イ) 本願発明及び第一、第二引用発明は、いずれもインライン型映像管に発生するラスタパタンのコマ補正を行うことを目的としている点で共通している。

(ロ) コマ収差によるラスタパタンの形状が、引用公報第2、4、5図(別紙図面二第2、4、5図)に示されるように種々の形状となって現れ画一的なものでないから、右の形状に応じてその都度ラスタパタンのコマ補正を水平及び垂直偏向の両面から行う必要がある。

(ハ) ラスタパタンのコマ補正を両サイドビームに対する補正と中央ビームに対する補正との両方から行うことが第一引用発明及び第二引用発明に示されている。

(ニ) 両サイドビームに対する補正手段として環状の補正部材を使用することが第一引用発明に、また、中央ビームに対する補正手段として細長い棒状の補正部材を使用することが第二引用発明にそれぞれ示されている。

(ホ) 第二引用発明における中央ビームに対する補正部材15、16は、両サイドビームに対する補正部材22~25の吸収によって変形を受けた垂直偏向磁界を変形を受けない状態、すなわちほぼ均一の磁界を生じさせるものであって、これは本願発明の中央ビームに対する補正部材47、47と実質的に同一の機能を有するものである。

(二) コマ収差によるラスタパタンの補正手段として、第一引用発明には両サイドビームの水平及び垂直の両偏向磁界を弱めることが示され、その手段として磁界制御素子8、9を使用することが示されており、この素子を使用すれば両サイドラスタパタンの垂直、水平の両偏向を縮めることができることが開示され、また、第二引用発明には中央ビームに対する垂直偏向磁界をほぼ均一化するための手段として水平偏向磁界制御素子15、16を使用することが示されており、この素子を使用すれば両サイドビームの補正手段である磁界制御素子である22~25による垂直偏向磁界の変形の影響を中央ビームに与えないようにすることも開示されているのであるから、右二つの技術手段を採用して引用公報第四図に示されているようなラスタパタンを含む種々のコマ補正を行うことは当業者であれば予測できることである。

そうすると、第二引用発明における磁界制御素子15、16を第一引用発明における磁界制御素子8、9と組み合わせて本願発明のようになすことは当業者が容易にできることといえる。

第四  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨、審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二  本願発明の概要

いずれも成立に争いのない甲第二ないし第四号証(本願発明の出願当初の明細書及び図面、昭和五七年六月二八日付及び昭和五八年六月三〇日付各手続補正書。以下、これらを総称して、「本願明細書」という。)によれば、本願発明は、インライン型電子銃を有するカラー映像管において、等しいラスタ寸法(コマ補正)得るための電子銃の改良に関する発明であること、インライン型電子銃は、ある共通の平面に配列された三本の電子ビーム(以下、「ビーム」という。)を発生してこれらのビームを共通平面内にある収斂するビーム通路に沿って管のスクリーン近傍の収斂点または小面積の収斂領域に指向させるように設計された電子銃であるが、インライン型電子銃を備えたカラー映像管に付随する問題は、コマ歪、すなわち管の外部に設けられた偏向ヨークによってスクリーン上に描かれるラスタの寸法が、三本のビームの中の外側の二本のビームがヨークの中心に関して偏心していることによって互いに異なるという問題であること、この問題の解決のための方法として、各種の発明がなされたが、最近開発されたトロイダル垂直偏向巻線と鞍型水平偏向巻線を有するヨークを用いたインライン型映像管では、外側ビームに比して中央ビームの垂直偏向が小さく水平偏向が等しいか或いは大きくなっているという、これらの発明によるインライン型映像管コマ補正構成では解決できないようなラスタパタンが生ずるものであるところ、本願発明は、前記発明の要旨のとおり補正部材(環状分路部材、棒状素子)を組み合わせる構成を採用することによって、このようなラスタパタンのコマ補正を行うものであることが認められる。

三  取消事由に対する判断

引用公報には審決の認定のとおりの記載があること、及び、本願発明と第一引用発明とを対比すると、両発明は、本願発明における、「二本の外側電子ビームの経路と中央電子ビームの経路との間にそれぞれ配置された磁界制御素子が環状分路部材の直径よりも長い長さを有する互いに平行な細長い棒状素子である」のに対し、第一引用発明の「中央ビーム孔付近に設けられた磁界制御素子が二つのディスクであって、その大きさが限定されていない」点でのみ相違しており、その余の点では一致していることについては、当事者間に争いがない。

1  取消事由(1)について

(一)  第二引用発明における水平偏向磁界制御素子15、16(別紙図面第6図)と本願発明における水平偏向磁界制御素子47(別紙図面一第7図)とは共に中央ビーム放出孔13付近に中央ビームを挟む形で配置された薄板状及び棒状の部材である点で構造的に相似た形態をとっていることについては、原告も認めるところである。

(二)  原告は、特に中央ビーム放出孔付近における垂直偏向磁界に関する機能的な差異を理由に、両発明における水平偏向磁界制御素子の同一性を否定するので、その点につき検討する。

まず、第二引用発明における水平偏向磁界制御素子の機能についてみるに、前掲甲第五号証によれば、引用公報には「第6図は本発明による磁界制御素子の一実施例を示す斜視図である。これは第4図のようなパターンのコマ収差を補正する働きがある。第6図において12および14は電子銃の両サイドビームの放出孔を示し、13は中央ビームの放出孔を示す。また15、16、22、23、24および25は、本発明による磁界制御素子である。このような構成配置の場合には本来中央ビーム放出孔13付近を通るべき水平偏向磁界の磁束の大部分は磁界制御素子15および16によって吸収され、この付近の水平偏向磁界強度は磁界制御素子がない場合に比べてかなり弱くなる。また両サイドビーム放出孔12および14付近の水平偏向磁界は磁界制御素子15および16から比較的離れているため、ほとんど変化しない。したがって、磁界制御素子15および16は中央ビームの水平偏向感度を弱める働きをし、第4図のようなパターンのコマ収差のうち、左右のコマ収差を補正することができる。……なお、磁界制御素子15および16は垂直偏向磁界方向に対しては厚さが薄く、垂直偏向磁界に対しては、ほとんど影響を及ぼさない。」との記載(二頁右下欄七行ないし三頁左上欄一四行)が認められ、この記載と当業者に争いのない「この場合、水平偏向磁界に対する磁界制御素子は垂直偏向磁界に対してはほとんど変化をおよぼさないようにする事が必要であり、水平偏向磁界と平行な方向には長く、垂直偏向磁界と平行な方向には短い幾何学的寸法を有しなければならない。」との引用公報の記載によれば、第二引用発明における水平偏向磁界制御素子の機能は、中央ビーム放出孔付近の水平偏向磁界強度を弱め、同放出孔付近の垂直偏向磁界強度に対してはほとんど影響を与えるものではないことが認められる。

一方、前記のように、本願発明の特許請求の範囲には、本願発明のカラー映像管が中央ビーム孔付近の水平偏向磁界に対する水平偏向磁界制御素子として、「二本の外側電子ビームの経路と中央電子ビームの経路との間にそれぞれ配置された水平偏向磁界の一部の右中央電子ビームに対する作用を弱めるが垂直偏向磁界の右中央電子ビームに対する作用には影響を与えないようにされた互いに平行な細長い棒状素子」を有することが記載されており、この記載と前掲甲第二ないし第四号証によれば、本願発明及び第二引用発明における中央ビーム放出孔付近の水平偏向磁界に対する水平偏向磁界制御素子は、中央ビーム放出孔付近の水平偏向磁界の強度を弱め垂直偏向磁界強度に対して影響を与えるものでない点において、機能的に異なるところはないものということができる。

もっとも、前掲甲第二ないし第四号証によれば、本願明細書には「第二のラスタ補正部材47は、中央ビーム通路と外側の二本のビーム通路との間に設置された二個の棒状またはレール状素子である、これらの部材47は互いに平行で、その長手方向が三本のビーム通路を含んでいる平面に対して垂直となるように配列されている。部材47は、その長さが部材46の外形よりも長くかつビームに近接して配置されているので、第8図に示すように、垂直方向に延びる水平偏向磁界を変形させて、中央ビームに対する水平偏向磁界の作用を弱める。第4図の従来例では、分路部材54は中央ビームに対して影響を及ぼしている。この影響は、水平に延びる垂直偏向磁界の部分を中央ビーム通路に集中させることである。このような磁界の集中は中央ビームによるラスタの垂直方向の寸法を大きくしてしまう。しかし、分路部材46と組合わせて細長い部材47を使用すると、この部材47が垂直偏向磁界を元の変形を受けない形状に拡げようとするので、分路部材46は中央ビームラスタに対して何等の影響も与えなくなる。この磁界拡張効果は、前に述べた従来のC字状増強部材の機能の検討から予測されるものと逆である。したがって、ラスタ補正部材46と47を組合せたことによる正味の効果は、三本のビームのラスタが一致するように、外側ビームのラスタの垂直および水平方向の寸法を小さくし、かつ、中央ビームのラスタの水平方向の寸法も小さくすることである。」との記載(一〇頁五行ないし一一頁一一行)が認められ、同記載からすれば、本願発明における水平偏向磁界制御素子の機能として、中央ビーム放出孔付近の水平偏向磁界強度を弱める機能が認められるほか、原告が主張する分路部材46によって中央ビーム通路に集中される垂直偏向磁界を元の変形を受けない形状(集中前の形状)に拡げる機能をも有するものとされていることが窺われる、しかし、本願発明の特許請求の範囲には、環状分路部材の機能として外側電子ビームに対する水平および垂直偏向磁界の作用を弱めることが、棒状素子(水平偏向磁界制御素子)の機能として水平偏向磁界の中央ビームに対する作用を弱めるが垂直偏向磁界の中央ビームに対する作用には影響を与えないことが、それぞれ明記されているが、原告が主張する分路部材46によって中央ビーム通路に集中される垂直偏向磁界を元の変形を受けない形状に拡げる水平偏向磁界制御素子の機能についてはなんら記載されていない。この原告主張の機能については、本願明細書の発明町詳細な説明の項によるもその技術的意義が明らかでなく、前記のような特許請求の範囲に記載された水平偏向磁界制御素子の機能との技術的な関連も不明であり、もしこれと異なる機能を主張するのであれば、特許請求の範囲の記載に基づかない主張としてすでに失当というほがない。強いて、原告主張の機能の技術的意義について検討すると、本願発明における補正の対象であるコマ収差の形状は外側ビームに比して中央ビームの垂直偏向が小さく水平偏向が等しいか或いは大きくなっているラスタパタンであることは前記二に認定したとおりであるところ、中央ビーム放出孔付近の水平偏向磁界強度を弱める機能は中央ビームによるラスタの水平方向の寸法を小さくする作用効果を生ずるものであるから本願発明にとっての重要な機能であるということができるが、中央ビーム通路に集中される垂直偏向磁界を元の変形を受けない形状に拡げる機能は垂直偏向磁界の集中によって中央ビームによるラスタの垂直方向の寸法が大きくなるのを防止する効果を生ずるものであるから、本願発明におけるラスタパタンのコマ補正を助ける方向にではなく、かえってその補正に反する方向に働く、本願発明にとっては無益な作用効果であると認められる。このことは、前掲甲第二号証によれば、本願明細書には「比較的正確なラスタパタンの一致を得るための調整は、補正部材46と47の厚さを変えることによって行うことができる。たとえば、外側ビーム補正部材46を厚くすると、中央ビームのラスタに比して外側ビームのラスタが小さくなる。逆に、中央ビーム補正部材47の厚さを増すと、外側ビームラスタに比して、中央ビームのラスタの水平偏向が小さくなる。したがって、ラスタパタンの小さな補正は、補正部材46と47の厚さを適当に増減することによって行うことができる。」との記載(一一頁一六行ないし一二頁五行)が認められ、これによれば、本願発明においては、ラスタパタンの補正量の調整にあたって、補正部材46による外側ビーム放出孔付近の水平及び垂直偏向磁界強度を弱める機能と補正部材47による中央ビーム放出孔付近の水平偏向磁界強度を弱める機能についてのみが考慮され、中央ビーム通路に集中される垂直偏向磁界を元の変形を受けない形状に拡げるという補正部材47の機能については全く考慮されていないことからも窺われる。したがって、仮に、本願発明における水平偏向磁界制御素子に中央ビーム通路に集中される垂直偏向磁界を元の変形を受けない形状に拡げる機能が存在するとしても、同機能は本願発明にとっての技術的に意義を有する機能ではないといわざるを得ない。

以上によれば、第二引用発明における水平偏向磁界制御素子と本願発明における水平偏向磁界制御素子とは、構造的に相似た形態であり、且つ、その重要な機能の面において共通するものであるから、互いに同一の事項であるとした審決の認定に誤りはなく、この点に関する原告の主張は理由がない。

2  取消事由(2)について

原告は、第二引用発明の水平及び垂直偏向磁界制御素子が各々独立して使用し得るとした審決の認定は誤りである旨主張する。

しかしながら、引用公報に「この場合、水平偏向磁界に対する磁界制御素子は垂直偏向磁界に対してはほとんど変化をおよぼさないようにする事が必要であり、水平偏向磁界と平行な方向には長く、垂直偏向磁界と乎行な方向には短い幾何学的寸法を有しなければならない、また垂直偏向磁界に対する磁界制御素子は水平偏向磁界に対しては、ほとんど影響をおよぼさないようにする事が必要であり、垂直偏向磁界と平行な方向には長く、水平偏向磁界と平行な方向には短い幾何学的寸法を有しなければならない。」と記載されていることについては当事者間に争いがなく、引用公報に「磁界制御素子15および16は中央ビームの水平偏向感度を弱める働きをし、第4図のようなパターンのコマ収差のうち、左右のコマ収差を補正することができる。……なお、磁界制御素子15および16は垂直偏向磁界方向に対しては厚さが薄く、垂直偏向磁界に対しては、ほとんど影響を及ぼさない。」との記載(三頁左上欄二行ないし三頁左上欄一四行)が存することは前認定の通りである。そして更に、前掲甲第五号証によれば、引用公報には、「磁界制御素子22、23、24および25は両サイドビームの垂直偏向感度を弱め、中央ビームの垂直偏向感度を強める働きをし、第4図のようなパターンのコマ収差のうち、上下のコマ収差を補正することができる。……なお、磁界制御素子22、23、24および25は水平偏向磁界方向に対しては厚さが薄く、水平偏向磁界に対しては、ほとんど影響を及ぼさない。」との記載(三頁右上欄四行ないし一八行)及び「第9図に、第5図のようなパターンのコマ収差を補正するための新らしい磁界制御素子の他の実施例を示す、……第9図において、磁界制御素子27、28、29および30により両サイドビーム放出孔12、14付近の水平偏向磁界強度が弱まり、したがって第5図のようなパターンのコマ収差のうち、左右のコマ収差を補正することができる。また、磁界制御素子31および32により、中央ビーム放出孔13付近の垂直偏向磁界強度が弱まり、したがって第5図のようなパターンのコマ収差のうち、上下のコマ収差を補正することができる。」との記載(三頁右上欄一九行ないし左下欄一二行)存在することが認められる。

以上によれば、第二引用発明におけるコマ収差の補正は、磁界制御素子15、16及び22~25の呈する作用により同第4図のコマ収差が補正されるものではあるが、これらの各磁界制御素子は、該素子の配置された位置により、それぞれ独立に機能して水平または垂直偏向磁界強度を変化せしめて上下または左右のコマ補正を行うものであり、したがって、種々の形状のラスタパタンに対して上下或いは左右のコマ収差を補正するように個別に使用し得るものであると認めるのが相当であり、第二引用発明の水平及び垂直偏向磁界制御素子が各々独立して使用し得るとした審決の認定に誤りはない。

3  取消事由(3)について

(一)  本願発明が、インライン型映像管に発生するラスタパタンのコマ補正を行うための発明であって、補正部材を用いて中央ビームと外側ビームによるラスタパタンが等しい寸法でない状態を補正部材を用いて等しい寸法のラスタパタンにコマ補正するという目的ないしは技術課題を有するものであることは前記二に認定したことから明らかであり、第一引用発明及び第二引用発明も、補正部材を用いてビームのコマ収差の補正をすることを目的とするという点において本願発明と共通の目的を有する発明であることは、原告も争わないところである。

ところで、当事者間に争いのない審決認定にかかる引用公報の記載内容と成立に争いのない甲第五号証(引用公報)とを合わせ考察すれば、第一引用発明は引用公報において従来技術として述べられているところの発明であり、第二引用発明は引用公報における発明の一実施例(具体的には、引用公報第6図(別紙図面二第6図)に記載のもの)であることが認められるところ、引用公報には、従来技術である第一引用発明の補正部材に関する記載として「このような現象を「コマ収差がある」と名付けている。これを補正するために、従来は第3図に示されるような磁界制御素子を、電子銃の電子ビーム放出孔の直後に設けている。第3図において二つのワッシャ8、9は両サイドビーム孔12、14付近の水平および垂直偏向磁界を弱め、中央ビーム孔13付近の垂直偏向磁界を強めるように働く。また二つのデイスク10および11は中央ビーム孔13付近の水平偏向磁界を強めるように働く。この結果両サイドビームに対する偏向感度が中央ビームに対する偏向感度より悪くなり、偏向磁界を非斉一磁界にした事による中央ビームの偏向感度の劣化を補正し、画面上にはコマ収差のないパターンが得られる。」との記載が、第二引用発明の水平偏向磁界制御素子に関する記載として「このような構成配置の場合には本来中央ビーム放出孔13付近を通るべき水平偏向磁界の磁束の大部分は磁界制御素子15および16によって吸収され、この付近の水平偏向磁界強度は磁界制御素子がない場合に比べてかなり弱くなる。また両サイドビーム放出孔12および14付近の水平偏向磁界は磁界制御素子15および16から比較的離れているため、ほとんど変化しない。したがって、磁界制御素子15および16ば中央ビームの水平偏向感度を弱める働きをし、第4図のようなパターンのコマ収差のうち、左右のコマ収差を補正することができる。」との記載がそれぞれ存在することは前記のとおりであり、また、前掲甲第五号証によれば、第二引用発明の垂直偏向磁界制御素子に関する記載として「また第6図のような構成配置の場合には、本来両サイドビーム放出孔12および14付近を通るべき垂直偏向磁界の磁束の大部分は磁界制御素子22、23、24および25によって吸収され、この付近の垂直偏向磁界強度は磁界制御素子がない場合に比べてかなり弱くなる。また、一たん吸収された磁束は、中央ビーム放出孔13付近で放出され、この付近の垂直偏向磁界強度は磁界制御素子がない場合に比べてかなり強くなる。したがって、磁界制御素子22、23、24および25は両サイドビームの垂直偏向感度を弱め、中央ビームの垂直偏向感度を強める働きをし、第4図のようなパターンのコマ収差のうち、上下のコマ収差を補正することができる。」との記載(三頁左上欄一五行ないし右上欄八行)の存在することが認められ、ラスタパタンのコマ補正は両外側ビームに対する補正と中央ビームに対する補正との両方から行うことが、第一引用発明及び第二引用発明に示されていると認めることができる。そして、両外側ビームに対する補正手段として環状の補正部材を使用することが第一引用発明に、また、中央ビームに対する補正手段として細長い棒状の補正部材(水平偏向磁界制御素子)を使用することが第二引用発明にそれぞれ示されていること、第二引用発明の水平及び垂直偏向磁界制御素子が各々独立して使用し得ること、及び、第二引用発明における右細長い棒状の補正部材は、本願発明における水平偏向磁界制御素子とは、構造的に相似た形態であり、且つ、その重要な機能の面において共通するものであることも既に認定したとおりである。

よって、両外側ビーム孔付近の水平及び垂直偏向磁界を弱め中央ビーム孔付近の垂直偏向磁界を強めるように働く二つのワッシャ8、9と中央ビーム孔付近の水平偏向磁界を強めるように働く二つのデイスク10、11を磁界制御素子とする構成の第一引用発明において、本願発明の第6A図及び第6B図(別紙図面一第6A図及び第6B図)のようなラスタパタンを補正するため、二つのワッシャ8、9はそのままにし、中央ビーム孔付近の水平偏向磁界を強めるように働く二つのデイスク10、11に代えて中央ビームに対する水平偏向磁界を弱める働きを有する第二引用発明の水平偏向磁界制御素子15、16を適用して本願発明をすることは、当業者の容易になし得る事柄であるといわざるを得ない。

(二)  なお、第一引用発明と第二引用発明とでは補正の対象のラスタパタンの形状が異なり、それぞれのラスタパタンのコマ補正の構成や配置が相違していることは前認定のとおりであるが、ラスタパタンのコマ補正は両外側ビームに対する補正と中央ビームに対する補正との両方から行うことが第一引用発明及び第二引用発明に示されており、更に、第二引用発明の水平及び垂直偏向磁界制御素子は各々独立して使用し得るものである以上、ラスタパタンの形状に応じて両外側ビームに対する補正の方法と中央ビームに対する補正の方法とをそれぞれ適宜選択することは、当業者にとって必ずしも困難なことでも不合理なことでもないと解するのが相当であり、この点に関する原告の主張(取消事由3(一))、は理由がない。

また、第二引用発明を用いることなく第4図のパタンの補正をなすことが実現不可能なことを根拠に、第一引用発明に第二引用発明の水平偏向磁界制御素子を適用することは容易に想到し得るものではないとする原告の主張(取消事由3(二))は、第二引用発明の水平偏向磁界制御素子を使用しないことを前提として、第一引用発明の環状の補正部材のみによって第4図のパタンの補正をなすことの実現不可能性を主張するものであるから、その前提において失当であり、採用できない。

更に、取消事由3の(三)及び(四)の原告主張も、第二引用発明の水平及び垂直偏向磁界制御素子が各々独立して使用し得ること及び、第二引用発明における水平偏向磁界制御素子と本願発明における水平偏向磁界制御素子とは、構造的に相似た形態であり、且つ、その重要な機能の面において共通する同一の事項であると認められること前記のとおりであるから、いずれも理由がないものといわなければならない。

4  以上によれば、本願発明の構成は、第一引用発明及び第二引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、本願発明の進歩性を否定した審決の認定に原告主張の誤りはなく、これを違法として取り消すことはできない。

四  よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担及び附加期間の定めにつき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条及び一五八条二項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 田中信義 裁判官 杉本正樹)

別紙図面一

<省略>

別紙図面二

<省略>

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