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東京高等裁判所 平成元年(ネ)3665号 判決 1990年12月13日

控訴人

鈴木孝

右訴訟代理人弁護士

西畠正

山口広

被控訴人

日本国有鉄道清算事業団

右代表者理事長

石月昭二

右訴訟代理人弁護士

鵜澤秀行

右訴訟代理人

神原敬治

熊井信吉

中野順夫

永島隆

橋爪克博

田口肇

福本芳秋

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「一 原判決を取り消す。二 控訴人が被控訴人に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。三 被控訴人は控訴人に対し、金九三万六五〇三円及びこれに対する昭和六二年二月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに昭和六二年三月以降毎月二〇日限り金二〇万四四四八円を支払え。四訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに第三項につき仮執行の宣言を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、以下のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人)

1  故意の殴打行為が存在しないことについて

本件では、控訴人自身も、酒井助役の右手を引っ張った控訴人の右手が、外れた勢いで酒井助役の顔面に当たった可能性を認めているのであるから、争点は控訴人が故意に殴打行為をしたか否かに絞られるところ、これが認定の根拠となり得るものは、(証拠略)(志村行雄(以下「志村」という。)の報告書)、(証拠略)(酒井光男(以下「酒井」という。)の供述書)並びに原審における証人志村及び証人酒井の証言しか考えられない。しかしながら、以下の諸点からして、右各証拠はいずれも信用できない。

(一) 志村は、昭和六一年二月、武蔵溝の口駅に駅長として赴任して以来、控訴人を含む国労組合員の直接的管理者であり、また、酒井は、昭和六〇年三月、同駅助役として赴任し、以来、控訴人ら国労組合員に対して、志村を補佐して人事管理を行う立場にあった。これに対して、控訴人は、本件事件当時、国労溝の口分会の分会長の役職に就いており、分会員に対して、上部機関からの指令、指示を伝え、その実行を指導するとともに、自ら率先して実行に当たるべき立場にあった。そして、本件当時、国鉄のいわゆる分割民営化を巡って、全国的に国鉄当局と国労とが厳しく対立していたが、国労八王子支部内においても、西鉄道管理局と右支部とが対立し、支部から各分会に対して、ワッペン闘争・氏名札着用拒否等の闘争指令が次々と出されている状況にあった。そして、武蔵溝の口駅においても、志村・酒井と控訴人とが、規律保持を名目とした当局の締め付けや組合活動を巡って日常的に厳しく対立していた。本件事件当日の「殴打行為」の時点においても、志村は、労使間で対立している問題について控訴人に話し掛け、控訴人と議論になっているのである。このような対立関係にある者の供述の信用性については、特に慎重な判断を要するというべきである。

(二) ところが、志村の報告書と酒井の供述書は、表現の詳細に至るまで見事に一致していて、控訴人に不利な方向への作為性が目立ち、同人らの法廷での供述とも一致しておらず、また、志村・酒井の法廷での供述は、あいまいで供述自体が変遷しており、また、第三者的証人であって信用性の高い当審における証人宇佐美秀夫の証言や同人の陳述録取書(<証拠略>)と重要な点で矛盾し、結局、いずれも信用できないというべきである。

(三) また、志村・酒井供述のように、控訴人と酒井とが正面から押し合っている最中に、いきなり控訴人が、右手を離して、極端に肘を曲げることなく「フック気味に」右手拳で殴打するということは、物理的に極めて困難である。もし、殴打行為の直前に控訴人と酒井とが押し合っていたのであれば、殴打のために酒井の左手首を握っていた右手を控訴人が離した瞬間、支えのはずれた酒井の体は控訴人により接近し、酒井の顔面と控訴人の顔面とはほとんど接する状態になるのが自然である。この位置で控訴人が「フック気味に」顔面を殴打するには、いったん一歩後退して右手拳を突き出さなければならないが、酒井は、控訴人が止まったままでその位置から殴打したと供述しているのである。逆に、控訴人が止まったままで酒井の顔面を殴打するには、極端に右肘を曲げていなければ不可能であるが、志村・酒井ともに、殴打の際控訴人の右肘が極端に曲がっていたとは供述していない。

したがって、志村、酒井の供述にそのまま従うと、控訴人の殴打行為は極めて不自然なものとなり、経験則に反する態様のものとなる。

(四) これらの志村、酒井の供述に比較すると、控訴人の供述は、これに従って現場の状況を再現してみても特に矛盾する点もなく、自然な流れを示し、信用性が高いというべきである。なお、(証拠略)(伊藤忠彦の供述書)、(証拠略)(松村順市の供述書)及び(証拠略)(佐藤澄男の報告書)は、いずれも控訴人が殴打行為を自認した事実を証明するものではない。

結局、控訴人は故意の殴打行為を行ったものではなく、酒井の顔面に手が当たったとしても、それは単なる偶発的な過失行為にすぎないと認めるのが相当である。

2  懲戒権濫用について

(一) 本件事件の性格と原因について

本件は、控訴人の勤務時間外に、駅長である志村が、控訴人に対し、敢えて労使間で対立している問題を話題として持ち出し、話を交わしていたのを側で聞いていた酒井が、控訴人を駅長室の外に連れ出そうとして実力行使したために誘発された行為であって、控訴人と志村との会話及び酒井と控訴人とのトラブルのいずれについても、これは単なる私的なトラブルととらえるべきであって、業務上の注意をしている上司と職員との関係としてとらえることはできない。

また、本件の直接的原因は、酒井の挑発的な対応にあるのであって、酒井の顔面に控訴人の手が当たったとしても、酒井の実力行動に対する控訴人の最低限の抵抗の偶発的結果にすぎない。そのほか、本件の結果が病院に通院の要がないほど軽微であったこと、控訴人には組合活動以外の被処分歴がないこと等の事情を懲戒権の行使に当たっては充分考慮すべきであった。

(二) 控訴人の過去の処分歴や勤務態度について

被控訴人は、本件処分に当たって、控訴人の過去の処分歴を斟酌しているが、この処分歴としては、<1>昭和六〇年九月一二日の訓告(昭和六〇年四月ないし八月のワッペン着用、氏名札不着用)、<2>昭和六一年三月二八日の戒告(昭和六〇年八月の分割民営化反対のストライキ参加)、<3>昭和六一年五月三〇日の訓告(昭和六一年四月一〇日ないし一二日の間のワッペン着用)が挙げられる。しかし、これらはいずれも控訴人が分会長になった後の行為を対象としており、その組合内の立場から、控訴人が闘争に参加することが当然であった時期のものである。しかもこれらの処分は、控訴人のみならず、全国数万人の組合員が処分対象とされていて、控訴人が目立って悪質であったわけではない。また、何ら控訴人個人の職場規律違反とは関連のないものであった。

ところが、本件は、あくまでも控訴人の個人的な、しかも私的な行為を対象としていて、過去の処分の処分対象行為とは性格を全く異にしているのである。したがって、この処分歴を、同種の非違行為を繰り返した事例と同様な意味で、処分量定上の考慮要素とすることは許されない。

また、控訴人が過去に、個名点呼に当たって「はい」と答えずに「出勤」と答えたり、あるいは返答をしなかったり、勤務時間中にワッペンを着用したり、ネクタイや氏名札を着用しなかったり、更には業務時間外の健康診断に応じなかったといったことがあったとしても、そこで問題となったことは、いずれも国労と国鉄当局との対立にかかわる問題であって、分会長という組合の役職にある以上、控訴人が率先して、組合の指示に従い、行動に移すことは当然のことであったといえるから、このような勤務態度を控訴人個人の職場規律違反の態度としてとらえ、処分の量定を加重する要素として考慮することは許されない。また、控訴人のこのような行動は、他の多くの組合員もやっていたことであり、控訴人が特に目立った行動をしたわけではない。むしろ、始業時点呼に反対する行動を理由に国労組合員に対して大量処分がされたときも、控訴人に対しては処分がされていないほどである。仮にこのような処分歴や支部指令に従った行動を採ったことを理由にして通常より重い処分をすることが許されるというならば、国労組合員について何か問題が起こった場合、他の組合員に比べて明白に重い処分をしてよいということになってしまう。

(三) 本件処分と不当労働行為意思の存在

本件「暴行」事件は、故意か過失かはともかく、瞬間の出来事であった。しかも、被害者の酒井の負傷は極めて軽微なものであった。控訴人の業務中の事件でもなく、酒井等の業務にも殆ど見るべき業務上の支障もなかった。「暴行」事件に至る経緯も、酒井が突然コピー機のスイッチを切って、控訴人を力つくで駅長室から追い出そうとしたことに起因している。このような軽微な事件であるから、特に事件に至る背景等が問題とされなければならない。

本件事件当時、国鉄の経営は悪化し、赤字を抱えていたことは事実であるが、当局がこの時期に特に職場規律の確立を持ち出してきた真の狙いは、赤字―職場規律の確立を口実に、国労が各職場において長年にわたる活動によって獲得してきた各種慣行を破棄し、国労の職場での活動力を押さえつけることにあった。国鉄の運行業務に直接結び付くものでもない氏名札、ネクタイ着用等に固執し、国労組合員の反発を呼んで現場の無用の混乱を招いたのはむしろ当局であった。そして、人活センターを設置し、進路希望アンケート・職員管理調書等の国労攻撃によって国労組合員を威圧し、全国的に国労組合員が激減するという事態を生じさせた。

前記の控訴人に対する過去の訓告・戒告処分も、このような流れの中で、見せしめ的に行われたものである。溝の口駅分会では、当局により、本件解雇の以前から、活動家の配転や賃金・仕事面での差別等分会攻撃が行われていたが、本件解雇の一カ月前頃から国労分会員の国労からの離脱が始まり、本件事件である分会長の免職、分会書記長の配転・組合事務所の撤去、駅長による分会員への面接等を経て分会員の大量脱退が起こり、分会は壊滅してしまった。

本件解雇は、このような一連の流れの中でとらえるべきものであって、分会つぶしの目的でされたものというべきである。

(被控訴人)

1  本件は、当審における宇佐美証人の証言に照らしても、控訴人の暴力行為が存在したことが明らかな事案である。

なお、志村と酒井の陳述書は、控訴人による暴行行為の発生の当日、記憶の新しいうちに作成されたものであるから、その表現が一致するのは当然である。法廷においても、両人は、基本的事柄については明確に答えており、本件暴行の事実は充分認定できる。

なお、控訴人の主張するように、控訴人が酒井の手をどけようとして手に力をいれたとしても、控訴人の肘が酒井の胸の辺りに当たることまではあるとしても、右手の甲が酒井の顔面に当たるというようなことはあり得ない。

2  本件処分がされたのは、控訴人が酒井に対して暴行を働いたからであって、それ以外のことは何ら意図されておらず、これを裁量権の逸脱濫用であるということはできない。

なお、国民の喫緊の世論として、国鉄の企業体質の合理化が要請されている当時の情勢の下で、それら国民世論に答えるべく、国鉄が、国労を含めたすべての組合に対して、従来漫然と看過されてきた悪慣行の是正を求め、職員に対し適正な職場規律の維持を求め職場内での違法行為の除去を求めて職場規律の弛緩を改善していったことは、国鉄当局の当然の責務であった。これらの正当な行為を目して国労攻撃であるとか、国労への支配介入であるというのは当たらない。国鉄が、その職員に対して、同人がいずれの組合に属するか、その活動が組合活動としてされたかを問わず、法令ないし就業規則に照らして非違行為があった場合には、懲戒を含めた適切な処分を執るべきことは当然のことといわなければならない。なおまた、国労は、他の労働組合と対比すると、いわゆる分割・民営化に関し、頑強な反対を維持して就業規則等に違反する所為に及んだなどの点において特異なものがあり、この組合の方針に同調した組合員が、職場における秩序維持上や上司に対する対応に当たって非違行為を行い、それが勤務成績に反映され、人事異動や勤務指定の際に考慮されるに至ったとしても、それは当然のことである。

三  証拠関係は、原審記録並びに当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がないと判断するが、その理由は、控訴審における主張に対応して以下のとおり付加するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決一〇枚目表一行目「及び同酒井光男」を「、同酒井光男及び当審における証人宇佐美秀夫」と、「原告本人尋問の結果」を「原審及び当審における控訴人本人尋問の各結果」と、同一二枚目裏八行目「原告本人尋問の結果」を「原審及び当審における控訴人本人尋問の各結果」と、「及び第一四号証」(52頁1段23行目の略)を「、第一四号証及び当審における控訴人本人尋問の結果により真正に成立したと認められる第五六号証」と改める。)。

1  控訴人の殴打行為の態様について

控訴人は、酒井・志村の供述は信用できず、本件は、せいぜい、コピー機のスイッチを強く抑えていた酒井の右手を取り外そうとして勢い余って控訴人の右手が酒井の顔面に当たったというもので、故意の殴打行為は存在しないと主張する。

しかしながら、甲第五二号証(宇佐美秀夫の陳述録取書)及び乙第四号証(同人の陳述書)並びに当審における証人宇佐美秀夫の証言によっても、コピー機の使用を巡って控訴人と酒井がもめた後、酒井がその場にしゃがみこみ、左手で左目の辺りを押さえ、痛いと言っていたことは間違いがなく、その状況は控訴人が坂井に暴力を振るったと判断しても敢えて不自然なものといえないようなものであったことが認められ、第三者的目撃者である宇佐美秀夫によって酒井らの供述が裏付けられる形になっている。ところが、他方、控訴人は、当審及び原審において、故意かどうかは別として、自己の手が酒井の顔に物理的に当たったかどうかという肝心の点については終始あいまいな供述を繰り返している。しかし、手が他人の顔にある程度の強さで当たればそれを当然認識し得るはずであるから、控訴人は、この辺りの経過について、故意にあいまいに述べているのではないかという疑いが拭いきれない。しかも、証人宇佐美秀夫の証言によれば、事件発生直後、同人が「だめじゃないか。」と控訴人に注意したのに対し、控訴人は、特段の弁解もせず、黙ってコピー用の書類を片づけて部屋を出ていっていることが認められる。その後の行動をみても、原判決掲記の(証拠略)によると、控訴人は事件発生直後出札室に来てそこに居合わせた職員らに対して、「まずいことをしちゃった。乗らないつもりだったのに乗っちゃった。」「転勤かな」などと述べ、更にそこに居た助役が「暴力をふるうことは許されない。」と述べたのに対して、特段の弁解もしないままであったこと、また、事件発生の翌々日、立川駅の公安室に出頭する途中において、国労の組合員に対し、「職場で助役を殴ってしまい、公安室で事情聴取されるので、不安だから付き添ってください。」と頼んだりしたなど、自分が殴打行為をしたか、少なくとも何かまずいことをしたことを匂わせる言動をしていることが認められる(原審における控訴の供述及び<証拠略>中右認定に反する部分は信用し難い。)。これらの事件発生後の控訴人の言動も、何ら故意の殴打行為をしていないという控訴人の供述の信用性を疑わせるに足るものである。これに対し、酒井・志村の供述は、これを評価するに当たり、控訴人とは対立的立場にいる点をある程度考慮すべきものといえなくはなく、また、第三者的目撃者である証人宇佐美秀夫の証言と酒井が殴打された後にしゃがみこんだ位置などにつき一致しない点があり、細部においてはあいまいな点がないわけではないが、いずれにせよ基本たる殴打行為そのものの存在については、終始一貫して明確に供述しており、この供述は、これを否定する控訴人の供述と比べると、前記宇佐美証言等に照らし、充分信用できるといわなければならない。なお、控訴人は、酒井らの供述のとおりの態勢から控訴人が酒井をフック気味に殴ったとしても、顔が近づきすぎて酒井の顔を殴ることは不可能であると主張し、その裏付けとして<証拠略>を提出するか、酒井の供述どおりに双方が押し合う態勢から控訴人が右手を離して顔面を殴打しようとした場合、双方がどのような態勢になるかは、控訴人が酒井の左手から右手を離す時点における双方の押し合いの程度や酒井の重心の置き方等により相当に異なるのであって、控訴人の主張するように、控訴人が酒井の手を離すことによって両者の顔がすぐまで接近するとは必ずしもいえない。控訴人の一方的な指示に従って再現された<証拠略>の写真は当時の状況を忠実に再現したものとはいえず、酒井らの供述どおりでも控訴人が酒井の顔を殴打するということは充分可能と考えられるから、右証書をもって酒井らの供述の信用性を揺るがすには足らないといわなければならない。

2  懲戒権の濫用について

本件事案は、駅長の事務室内で、上司である駅長が、控訴人が他の駅において取った行動や健康診断を受けなかったこと等につき注意をしたところ、それに対して反抗的な態度をしたことに端を発し、助役である酒井がそのような態度を取る控訴人にはコピー機を貸せないと、コピー機の使用を止めようとしたところ、それに抵抗した控訴人において酒井を殴打したというものである。

控訴人は、当時非番であったから、右は私的なトラブルと評価すべきで、上司と部下が職務上の関係でやりあったものととらえるべきでないと主張する。しかし、駅長事務室という公的場所において執務中の駅長が、当時非番であるといえ、その場にたまたま居合わせた部下である控訴人に上司として日頃の執務態度等について注意をするということは、特に異とするに足りない。そして、コピー機を管理する立場にある助役において、駅長の注意に対して反抗的な態度をとった控訴人に対してコピー機の使用をやめさせようとしたことも、その方法が最善であったかどうかは別として、コピー機を管理する立場にある者として許されないものではない(国鉄当局が組合側に従来からコピー機の使用を許諾してきたからといって、コピー機の使用につき組合に当然権利があるということにはならない。)。そして、その行動は駅長事務室という公の場での助役としての業務の執行と評価されるのであり、これを単純に、例えば勤務時間外に飲み屋で職員同士が喧嘩するような場合と同様の私的な行為であると評価するのは適当でない。むしろ、国鉄が管理している駅長事務室内において、上司からの注意に対して反抗的態度をとり、かつ、コピー機の使用について当局側の指示に従わず、反抗の上上司に暴力を振るったというものであるから、それは甚だしく職場の秩序ないし規律を乱す非行として、到底放置しえない事案であったといわなければならない。仮に、酒井の方にも若干挑発的な振る舞いがあったとしても、また、その暴行行為が一回だけで短時間にすぎず、けがの程度も軽微であり、酒井の業務にさほどの支障がなかったとしても、その評価に変わりはない。加えて、控訴人には過去に三回の処分歴があるのであって、これらがいずれも組合活動に関連するものであって、組合の指令に基づくものであったとしても、それは、やはり上司の指示に従わず、職場の規律を乱す内容のものであり、その意味では本件と同種の前歴であるということができるから、被控訴人が、これを本件の懲戒権の行使に当たってマイナスの要素として斟酌したとしても、何ら不当ではない。そして、また、当時は、当局側が、特に緊要の課題として、職場規律の確立を強く求めていた時期であったことも考慮すると、被控訴人においてこの非行に対し懲戒免職を選択したとしても、これを社会通念に照らして合理性を欠くとは到底いうことができない。この点に関する原判決の判示に不当な点はない。

3  不当労働行為について

前記のように、本件行為は、駅長事務室において当局の管理するコピー機の使用に関し当局の指示に従わず、これに反抗の上暴力を振るったという事案であって、職場の規律を甚だしく害する行為であり、懲戒免職を選択したことが社会通念上合理性を欠くとは到底いえないものであったのであるから、原審認定のように、当時国鉄と国労との間には厳しい緊張・対立関係にあり、控訴人が国労の溝の口分会長として、国鉄当局との闘争において指導的立場に立っていたとしても、本件処分を国鉄が国労攻撃のためにした不当労働行為であるとは、到底認めることができない。

二  以上、控訴人の主張はいずれも採用することができず、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であって本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 大坪丘 裁判官 近藤壽邦)

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