大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京簡易裁判所 平成10年(ハ)34291号 判決 1999年9月06日

主文

一  原告の請求を棄却する

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、金二三万二五〇一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成一〇年一一月一六日)から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  争いのない事実及び証拠によって認められる前提事実

1  原告は、平成一〇年三月まで、「○○」の名称で洋品店を経営していた。

2(一)  原告は、平成八年一一月一日から平成九年五月二四日までの間、丙山夏子(以下、夏子という。)に対し、別表「年月日」「商品名及び数量」「商品値段」欄記載のとおり、コート等の用品を総額三六二万八〇五四円で売り渡した。

(二)  原告は、平成八年一一月九日から同年一二月二三日までの間、夏子から、別表「修理代」欄記載のとおり、洋品等の修繕依頼を受け、これを修繕して引き渡した。

右修繕代金は、金一万五六〇〇円である。

(三)原告は、平成八年一一月一日から平成九年五月二四日までの間、夏子から、洋品等の修繕依頼を受け、これを修繕して引き渡した。

右修繕代金は、金二万五三三九円である。

3  原告は、夏子から、平成九年五月二四日までに、右2(一)の売掛代金の一部として金一九一万一〇〇〇円の弁済を受け、かつ、金三六万二九八五円相当の返品を受けた。

(右1〜3の事実は、甲一、二、七、及び弁論の全趣旨によって認める。)

4(一)  ところが、夏子は、平成九年七月二日死亡した。

(二)  夏子の相続人は、配偶者と直系尊属である母被告と父一郎である。

5  夏子の相続人である被告は、平成九年七月一五日東京家庭裁判所に相続放棄の申述(同裁判所平成九年(家)第一〇四八八号)をなし、右申述は、同年七月二二日受理された。

6  本件は、原告が、夏子の右売買等残代金一三九万五〇〇八円の債務につき、相続人である被告に対し、その相続分六分の一である金二三万二五〇一円の支払を求めた事案である。

(右4〜6の事実は、当事者間に争いがない。)

二  争点(再抗弁)

原告は、平成一〇年一月一一日、亡夏子が居住していた東京都品川区東五反田<番地略>××三〇一号室(以下、三〇一号室という。)に無断で立ち入り、夏子の相続財産である洋服、家具等を持ち去った。被告の右行為は民法九二一条三号に定める「隠匿」・「私に消費」に該当すること明白である。したがって、被告の前記相続放棄は無効であり、被告は夏子の権利義務を継承したものであると主張するので、右事由の成否が争点である。

第三  争点に対する判断

一1  乙二〜八並びに証人戊田ハル、被告本人の各供述及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり認めることができる。

(一) 夏子は、夫太郎に気付かれることもなく三二歳の若さで突然死亡するにいたったが、夏子の夫太郎も平成九年一〇月一二日病死した。

(二) 被告は、夏子の遺品を引き取ろうとしたが、三〇一号室の鍵を持っていなかったので、三〇一号室への立入りを求めるべく、平成九年一〇月下旬ころ、太郎の遺族に連絡をとろうとしたが、所在が判らなかったので、太郎の友人である川崎に連絡をたのんだ結果、太郎の遺族側が希望する立会の日として、川崎を介して、同年一一月上旬の午後三時と指定してきた。

被告は、長男と別れた夫の三人で指定された日時に三〇一号室に行き、太郎の弟の丙山次郎、妹の丁川冬子及び川崎と合流した。

双方の親族は、夏子及び太郎の相続財産を点検、確認したうえ、太郎の遺族は、被告が後記(四)の品物を引き取ることを了承した。しかし、当日被告が乗ってきた乗用車に遺品全部を積むことが出来なかったので、被告は太郎の弟に残りの品物を送ってくれるよう依頼したが、拒否され、かつ、三〇一号室の鍵を交付されることもなかった。

なお、夏子の遺品の点検した際、指輪、宝石等の装飾品は見当たらなかった。

(三) 被告は、その後残りの遺品を搬出するため、川崎を介して太郎の弟に連絡をとったが、連絡がつかなかったけれども、太郎の友人の高浜なる者から、平成九年一二月一三日引取に来るようにとの連絡があり、被告は早速被告の妹二人を同道して三〇一号室に出向き、高浜立会いの上残りの遺品を持ち帰った。

(四) そして、被告が引き取った遺品は、ワンピース、ブラース、スカート等の洋服類約五〇着、毛皮二点(一点は被告が夏子に貸与していたもの)、靴約五〇足、下着類約五〇点、化粧品類若干、茶碗、グラス等の食器類約一〇点、三面鏡(結婚前から夏子が実家で使用していたもの)、中古絨毯(被告が夏子に貸与していたもの)各一点であり、以上の品物は夏子が日頃着用もしくは使用していたものであり、無価値とはいえないまでも、それ程の経済的価値を有するものとは思われないこと、そして被告が持ち帰った遺品のうち着古した下着類、履き古した靴等約三分の一は、不要品として廃棄処分したほか、被告の妹二人に洋服二着ずつを夏子の形見として分け与え、残りの遺品は被告の家に夏子が愛用した思い出の品としてそのままの状態で保存されている。

右(二)〜(四)の認定に反する甲一二は、直ちに措信できない。

2  右の事実によれば、被告は、夏子の相続財産につき、亡夫太郎の相続人等の事前の了解のもとに持ち帰ったものであり、そして遺品の多くは被告の家に保管されているのであるから、被告の右行為を指して民法九二一条三号の事由に該当するとは到底いえない。

また、一部の廃品処分行為及び洋服若干を形見分けしたことを目して、背信的な行為と評価することは相当でない。

二  以上認定のとおり、被告は相続放棄の結果、本件売買代金等債務について支払義務はなく、原告の本件請求は理由がない。

別表<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例