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東京家庭裁判所八王子支部 平成9年(少ロ)1号 決定 1997年7月23日

少年 N・J(昭和57.5.18生)

主文

本件上訴権回復請求を棄却する。

本件抗告を棄却する。

理由

1  本件上訴権回復請求及び抗告申立ての理由の要旨は「自分は、父N・Mが頭書の医療少年院送致決定に対し抗告をしたので、重ねて抗告する必要はないと思い、自ら抗告の申立てをしなかったところ、高等裁判所の決定により、親権者でない父には抗告権がないことを知ったので、改めて上訴権回復請求をするとともに、処分不当を理由に、上記少年院送致決定に対し抗告の申立てをする」というものである。

2  少年法は、上訴権回復に関する規定はおかれていない。しかし、刑事訴訟法362条は、上訴権者が自己又は代人の責に帰することができない事由によって上訴の提起期間内に上訴をすることができなかったときは、原裁判所に上訴権回復請求をすることができると規定しているので、同条を類推適用して保護処分決定にも上訴権(抗告権)回復請求が許されると解すべきである。

3  ところで、本件記録及び基本事件記録によれば、以下の事実が認められる。

<1>  少年の父母は、平成元年5月22日協議離婚し、母J・K子が少年の親権者に指定されたが、少年は、その後、父N・Mと同居しており、父が事実上少年を観護養育していた。基本事件の審判には、父が出席した。

<2>  少年は、基本事件につき、平成9年5月20日、当裁判所で、医療少年院送致の言渡しを受けたが、その際、少年に対し抗告権が告知された。少年は、同年5月22日、関東医療少年院に入院した。

<3>  なお、審判後、少年の母J・K子の居住地が判明したため、当裁判所は、平成9年6月16日、同人に対し、審判の結果を通知した。

<4>  少年の父N・Mは、平成9年5月31日到達の書面をもって、郵便提出の方法により、処分不当を理由に抗告の申立てをした。なお、その論旨は、当裁判所が、少年の出院時期について、高校受験に配慮するよう処遇勧告をしなかったことを論難するものである。

<5>  抗告裁判所は、上告抗告に対し、親権者でない父に抗告権はなく、抗告の申立ては不適法であるとして、平成9年6月25日、抗告棄却の決定をするとともに、書記官をして、決定書を関東医療少年院に送付させ、同少年院職員に対し、少年に決定書を読み聞かせ、上訴権回復の申立てをするか否かを尋ねるよう指示した。その結果、少年は、本件上訴権回復請求及び抗告申立てに及んだ。

<6>  少年は、当裁判所の事実取調べに対し「自分は、医療少年院送致の決定自体に不満は持っていない。しかし、高校受験をするため、早く少年院を出たいとは思っており、抗告するつもりであったが、平成9年5月30日、父と面会した際、父が抗告すると聞いたので、自分は抗告しなくてもよいと思った」と述べた。

4  上訴権回復の制度は、当事者が、自己又は代人の責に帰することができない不測の障碍により、上訴期間内に上訴できなかった場合、上訴権の追完を認める手続きである。

ところで、上訴権(抗告権)を行使するか否かは、あくまでも、当事者の自由意思により決定されるべきものである。そして又、当事者が上訴する場合であれ、しない場合であれ、その意思決定に影響を与える事由は種々考えられるのであるから、動機付けの過程に錯誤があったというだけの理由で、上訴権回復請求を認容するということになれば、法的安定性は著しく害され、抗告期間を定めた法の趣旨が没却されることは明らかである。

少年が、上訴(抗告)をしなかった理由として挙げるところは、要するに、父が抗告したので、自分は抗告する必要がないと思っていた、ということに尽きる。確かに、少年は、父に上訴権のないことを知らなかったかもしれない。しかし、少年は、自分が抗告権を有しており、抗告期間内に、抗告権を自ら行使できることを十分承知していた。関係証拠を検討してみても、少年が、抗告をしないと決断する過程に、家庭裁判所や関係保護機関、父を含めた第三者からの働き掛けや介入などがあり、権利行使の機会が奪われ、あるいは、妨害されたと認むべき事情は全く見あたらない。

そうだとすれば、少年は、自己又は代人の責に帰することができない不測の障碍により、上訴期間内に上訴できなかったとはいえず、本件上訴権回復の請求は、その要件を欠き理由がなく、棄却を免れない。また、上訴権回復請求と共になされた抗告の申立ても、抗告期間を徒過した後の不適法な申立てであるから刑事訴訟法375条を類推適用していずれも棄却を免れない。

5  よって、主文のとおり決定する。

(裁判官 酒井良介)

〔参考〕 即時抗告審(東京高 平9(く)200号 平9.8.5決定)

主文

本件各即時抗告を棄却する。

理由

本件即時抗告の趣意は、申立人名義の即時抗告の申立書に記載のとおりであるから、これを引用する。

そこで検討するに、一件記録によれば、申立人は、医療少年院送致決定に対し、少年院からの出院時期につき高校受験に配慮するようにとの処遇勧告がされなかった点に不服を感じ、抗告しようとの意思を有していたが、少年院に面会に来た父が抗告をするというので、重ねて抗告する必要はないと考え、自らは抗告しないでいたこと、父は、右の勧告がされなかった点が不当であるとして、抗告申立期間内に郵便提出の方法により抗告したが、親権者でなく抗告権がなかったため、不適法として棄却決定を受けたこと、その時点では既に抗告申立期間が経過してしまっていたことが認められる。そうすると、申立人が抗告申立期間内に抗告をすることができなかったのは、結局のところ、父の抗告が適法であると誤解をしていたことによるものであり、自己又は代人の責に帰することができない事由によって抗告申立期間内に抗告をすることができなかったということはできない。しかしながら、本件の経過及び事案に鑑み、申立人の主旨につき一言すると、頭書保護事件の事案の内容、申立人の非行性の程度、保護環境等に照らすと、前記の処遇勧告をしなかったことが不当であるということもできない。

よって、刑訴法426条により本件各即時抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 香城敏麿 裁判官 佐藤公美 杉山愼治)

編注 特別抗告審(最高裁(一小) 平9(し)145号 平9.9.8棄却)

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