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東京家庭裁判所 昭和54年(少)11993号 決定 1979年10月08日

少年 K・D(昭三九・三・一〇生)

主文

少年を保護処分に付さない。

理由

一  本件送致事実は、「少年は、A(一五歳)と共謀のうえ、昭和五四年六月二八日午後六時ころ、東京都江東区○○×丁目××番○○○駅自転車置場において、B所有の第一種原動機付自転車一台(時価五万円相当)を窃取したものである。」というにある。

二  そこで、右非行事実の存否について判断する。

少年の当審判廷における供述およびAの陳述を録取した当庁家庭裁判所調査官の調査報告書ならびに本件事件記録を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、「少年とAは、中学生のころからの親友であるが、昭和五四年六月二八日午後四時ころ、たまたま江東区○○のインベーダーハウスで顔を会わせ、二人でインベーダー遊びをしてから、外に徒歩で遊びに出た。特に行くあてはなかつたが、○○の町内をブラブラ歩いていて、×丁目の児童公園の近くを通りかかつた際、少年はバイクのキーを拾つた。このことはAも見ていた。少年は、街路を歩きながら、Aに対し、何とはなしに、ヤマハのパッソルというバイクは、一〇円玉とか右のような鍵ですぐエンジンがかかるという話を友達から聞いたことがある旨を話した。その際少年には、右のキーでバイクを盗ろうという気は毛頭なく、またAに対しバイクの窃盗をすすめるような意図もまったくなかった。右の話を聞いたAから、その鍵をくれと言われたので、少年は別に自分としては持つている必要もなかつたので、そのキーをAに渡した。その後、二人は再びインベーダーハウスに戻つてゲームをし、しばらくして引きあげようということになり、Aが少年の自転車を運転し、少年が荷台に乗つて、同所を出発した。二人乗りの自転車が○○×丁目の団地の自転車置場の前に来たとき、Aは、自転車を降りて一人でその自転車置場のほうへ行き始めたので、少年は、Aはもしかしたらバイクを盗るつもりかもしれないと思い、Aにやめておけという趣旨のことを言つた。その後、Aは手ぶらで帰つて来て、再び前同様の二人乗りで進行し、地下鉄の○○○駅の自転車置場の前に来た際、Aは、自転車を降りて一人で自転車置場のほうへ向かつた。少年は、このときもAはバイクを盗るつもりなのかもしれないと思い、やめておけという趣旨のことをAに言つたが、Aはそれにかまわず自転車置場の中へはいつて行き、少年からは姿が見えなくなつた。少年は、やむなく、自分の自転車にまたいで、その自転車置場の前の路上を自転車でぐるぐる回りながら、Aが帰つて来るのを待つていた。その間、少年には、Aと一緒にバイクを盗ろうという意志もなければ、そこでAの窃盗が見つからないように見張りをするという気持もまつたくなかつた。そのうちに、Aが本件送致にかかるバイクを窃取して来た。」というのが、本件の真相であると認められる。

Aの司法警察員に対する供述調書中には、Aと少年が本件バイクを一緒に盗んだ旨の記載があるが、その記載にかかる事実関係は極めて抽象的で、具体性にとぼしいうえ、Aは家庭裁判所調査官に対しては少年はバイクの窃盗とは関係がない旨を述べているので、Aの司法警察員に対する右供述記載は、少年の本件非行事実を認定する証拠とすることはできない。また、少年の司法警察員に対する供述調書中にも、少年とAが相談して少年が拾つたキーで本件バイクを盗んだ旨の記載があるが、少年は、当審判廷において、警察では、「君はAがバイクを盗ろうとしているのを知つて近くで待つていたんだから窃盗の共犯だよ。」と言われたので、やむなく認めたが、少年としては窃盗の共犯というのには納得できないと供述し、また、少年は、警察において供述調書として何か書いていたが、それを読み聞かせてもらつたことはなく、ただ最後に署名しろと言われたから署名したと供述しており、少年の供述の態度その他諸般の事情を総合して考慮すれば、少年のこれらの供述には真実味があり、したがつて、少年の司法警察員に対する自白調書も、本件非行事実認定の証拠となしえないものといわなければならない。その他、少年の本件非行事実を認めるにたる証拠は存在しない。

三  前記の認定事実によれば、少年は、Aの本件バイク窃取行為に関し、共同して実行したことも、また共同して実行する意志も、事前または現場における共謀も、これを教唆する意志も、幇助する意志もまつたくなかつたものであつて、少年は本件窃盗の実行共同正犯でないことはもちろん、共謀共同正犯でもなく、その教唆犯でも幇助犯でもないというべきである。よつて、少年には非行はなく、少年を保護処分に付することができないものであるから、少年法二三条二項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 梶村太市)

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