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東京家庭裁判所 昭和43年(家)13189号 審判 1976年1月28日

申立人 武田文子(仮名) 外二名

相手方 田村貞次(仮名)

主文

一  別紙(一)目録、(二)目録(但し204を除く)、(三)目録の各物件は相続人間の遺産分割協議により分割ずみであるから、本件において分割すべき遺産に包含されない。

二  別紙(四)目録(但し442を除く)、(五)目録のうち501((二)目録の204の物件はこれと同一である。)、502ないし506、(六)目録の各物件は被相続人の遺産に包含されない。

理由

一  (1) 申立人らは、本籍が相手方と同所である被相続人田村忠(昭和三五年六月二〇日死亡)の遺産が別紙(一)ないし(六)目録の物件であるとして、その遺産分割を申立てた。田村忠の死亡により同人の妻田村フサ及び嫡出子である申立人三名、相手方及び西村京子が遺産相続したのであるが、その後田村フサが同五〇年二月二六日死亡した。同人の相続人は嫡出子たる申立人ら三名及び相手方の合計四名である。

(2) 申立人らは別紙(一)ないし(六)目録の物件はすべて被相続人田村忠の遺産であり、遺産分割すべき物件であると主張するのに対し、相手方はこれを争い(一)ないし(三)目録の物件は協議により分割ずみであり、(四)目録、(五)目録のうち507 508を除くもの、(六)目録の各物件は被相続人田村忠以外のものの所有であつて遺産に包含されないと主張し、分割手続を進めるべき遺産の範囲について当事者は激しく争つている。

二  遺産分割審判において分割すべき、被相続人の遺産の範囲を確定することは重要な前提事項に当り、これを確定しなければその分割手続を進めることができない。ところで家事審判手続を規定する家事審判法及び非訟事件手続法には、民事訴訟法第一八四条の準用を定めた規定はない。民訴法第一八四条は民事訴訟手続に関する規定であつて、民事訴訟とは異なる手続である非訟手続の一種の家事審判手続においては一般的に類推することはできないけれども、家事審判手続における遺産分割審判は実質からみて対立する当事者間の法律上の利害関係につき、一種の裁判によりこれを決するものであるから、かかる事件の裁判手続は民事訴訟手続と類似する面があり、その進行については、民訴法第一八四条を類推適用することができると解するのが相当である。特に本件当事者間においては遺産に関する争いが激化しているので、できる限り、その紛争に内蔵される個々の事項について整理できるものは整序したうえその解決を図る必要がある。その意味で、申立人らが遺産であると主張する物件の遺産性、即ちこの審判の前提事項に該当する中間の争いにつき、本件中間審判をすることとする。

三  (1) 申立代理人は(二)目録のうち204の建物を被相続人田村忠の遺産であると主張し、その遺産目録に掲記しているが、記録全部を調べてみると、右建物は後記三(2)に記載する昭和三七年一月二目付遺産分割協議書により田村フサの取得とされた物件中に包含されていないところであり、且つ同建物の登記簿謄本によれば、この建物は田村忠の死亡による遺産相続開始当時他人の所有であつたから、同人の遺産には含まれないことが明らかである。そして(二)目録のうちの204の建物は(五)目録のうち501の建物と表示上同一物件であつて、(二)目録のうち204の建物の記載は削除すべきものであると認められる。

(2) 記録を調べてみると次のとおり認められる。

申立人三名、相手方、西村京子及び田村フサは被相続人田村忠の遺産について、昭和三七年一月二日付及び同年二月五日付の各遺産分割協議書により、遺産の一部分割をした。その結果、(一)目録の不動産は相手方の取得とし、その旨の登記を経由し、(二)目録(但し204を除く)の不動産は田村フサの取得とし、その旨の登記を経由し、(三)目録の不動産は、301ないし308は西村京子、309を申立人井上智子、310 311を申立人市川陽子、312を申立人武田文子の取得とし、何れもその登記を経由した。申立人らは右分割協議は相手方の詐欺に基づくからその意思表示を取消す旨主張するけれども、そのような詐欺の事実を認めるに足りる証拠はないから、申立人らの右主張は採用できない。

田村フサは前掲のとおり昭和五〇年二月二六日死亡したところ、当庁昭和五〇年(家)第四七三八号遺言執行者解任申立事件の記録によれば、田村フサは東京法務局所属公証人玉井又之亟作成昭和三八年第三一五七号遺言公正証書により(二)目録の不動産を申立人ら三名に遺贈し、その登記を経由したことが認められる。

そうしてみると(一)目録、(二)目録(但し204を除く)、(三)目録の物件については被相続人田村忠の遺産相続として協議分割され、田村フサの取得分については同人の終意処分によりその帰属が決定せられた。従つていずれも本件において分割審判をなすべき対象には包含されない。

(3) つぎに(四)目録の物件の遺産性について。

(四)目録の物件は442を除いて昭和三五年六月二〇日より前に○○不動産株式会社のため所有権移転登記がなされて居り、右442の不動産は表示の登記があるだけで、所有者田村忠との記載があるが、同人のための権利の登記はない。ところで申立人らは、○○不動産株式会社は被相続人田村忠がその資産を維持管理する目的を以て昭和二四年一二月二一日設立し、同人の資産を信託的に譲渡し、管理せしめたものであるから、(四)目録の不動産は真実は田村忠の所有であつたし、同人に返還する特約付のものであつたと主張する。しかし、記録によれば、右会社は不動産の評価、鑑定、管理、賃貸借、売買、斡旋並に貸付、宅地造成並に譲渡、駐車場、倉庫業、運輸業、これに附帯する事業を目的とする会社であることが認められ、被相続人田村忠の財産を信託的に譲渡し同会社をしてこれを管理せしめたことを認めるに足りる証拠はなく、証人井上誠、同武田賢の陳述中右認定に抵触する部分はたやすく措信できない。それゆえ(四)目録(但し442を除く)の物件は、田村忠の遺産には包含されないものと認められる。

(4) さらに(五)(六)目録の物件の遺産性について。

(五)目録、(六)目録の各物件はいずれも同目録の各物件の対応する下欄に記載のとおり被相続人忠の死亡当時同人以外のもののための所有権移転登記があり、その各登記名義人がその権利者であると推定されこれを覆すに足りる証拠はない((五)目録501ないし503の各物件は当時の所有者たる田村フサから後に申立人三名に遺贈され、その登記を経由している)から右はいずれも被相続人田村忠の遺産に包含されない。((五)目録507 508の現況私道の土地が田村忠の遺産であるのに過ぎない。)本件及び関連事件の記録上このように認められる。

四  (付記)

前項の説示のように、(五)目録507 508の物件が被相続人忠の遺産であると認められるので、本件の本案審判をするにはこれについて分割審判手続を進めなければならないところ、その現況は私道であるというのであるから、その価額は必ずしも高額ではないものと推認される。しかしそれを分割する審判をするためには、本件において(一)ないし(三)目録において明らかなように遺産として莫大な不動産があり、前示のとおり既にその大部分について一部分割がなされているにも拘わらず、すべての遺産につき鑑定評価のうえ法定の方法により計算し、具体的にその分割手続をしなければならない。そうすると、すべての遺産について鑑定評価するだけでも、莫大な鑑定費用を要するものと推認されるだけでなく、これに比すると分割すべき遺産は私道の土地二筆などのわずかな物件にすぎず分割審判により相続人らがうける経済的利益は僅少であると推認される。そうであるとすれば、本件における当事者の紛争についてもしこの中間審判が確定するときは、右のようなわずかな未分割の遺産に関する本案の審判事件を場合によつては、再度家事調停に付し、当事者間を調停することもできるし、追つてそのような措置をとることが相当であると思料されるわけである。

五  よつて中間審判により主文のとおり宣言する。

(家事審判官 長利正己)

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