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東京家庭裁判所 昭和42年(家)6476号 審判 1967年10月31日

国籍 フランス国 住所 東京都

申立人 ジャン・ポール・ルナン(仮名) 外一名

国籍 オーストラリア国 住所 申立人に同じ

事件本人 メリー・ヨハンソン(仮名) 一九六六年一二月七日生

主文

申立人らが事件本人を養子とすることを許可する。

事件本人は、本件養子縁組により申立人ジャン・ポール・ルナンの氏ルナン(Renan)を称する。

理由

一、申立人らは、主文と同旨の審判を求め、その事由として述べるところの要旨は、

(一)  申立人らは、一九五六年二月五日婚姻したフランス国籍を有する夫婦である。

(二)  事件本人は、一九六六年一二月七日オーストラリヤ国籍を有するローザ・ケイ・ヨハンソン(Rosa.K.Jo-hanson)を母として東京聖母カソリック病院において出生したオーストラリヤ国籍を有する未成年者である。

(三)  申立人らの間には実子がなく、かねて養子をほしく思つていたところ、聖母病院から事件本人をあつせんされ、事件本人と面接し気に入つたので一九六七年四月八日以来事件本人を引き取つて養育中であり、事件本人を準正養子(De la legitimation adoptive)としたいので本件申立に及んだ

というにある。

二、審案するに、社会福祉法人日本国際社会事業団作成の家庭調査報告書、申立人らの婚姻証明書の写し、事件本人の実母ローザ・ヨハンソンの養子縁組承諾書の写し、家庭裁判所調査官寺戸由紀子の調査報告書並びに申立人らに対する各審問の結果によれば、

(一)  申立人ジャン・ポール・ルナン(以下、ルナンという。)は、一九二九年七月二日フランス国ナルボンヌで生まれ、申立人マドレーヌ・リー・ルナン(以下、ルナン夫人という。)は一九三三年四月四日フランス国ボルベックで生まれ、いずれもフランス国籍を有する者であること、

(二)  申立人ルナンは、一九五六年二月五日フランス国ボルベックにおいて申立人ルナン夫人と婚姻し、その頃から○○○社に勤務することとなり、いずれも一九六四年八月一五日来日し、以来、申立人ルナンは、東京所在の○○○・アジヤ太平洋地域総支社の営業副部長として勤務していること、

(三)  事件本人は、一九六六年一二月七日オーストラリヤ国籍を有するローザ・ケイ・ヨハンソン(Rosa. K. Johanson)を母として、東京聖母カソリック病院において出生したオーストラリヤ国籍を有する未成年者であること、

(四)  申立人ルナンおよび申立人ルナン夫人の間には婚姻以来実子がなく、今後も実子をえる可能性がないので、かねて養子をほしく思い、上記東京聖母カソリック病院に対し同病院において出生する白人の子で、養子に出す希望のある者があれば、あつせんしてほしい旨を依頼していたところ、たまたま事件本人の上記実母は、事件本人分娩後、事件本人を養育することができず、事件本人を養子に出すことを希望し、事件本人を同病院に委ねて、オーストラリヤに帰国したため、同病院より事件本人をあつせんされ、事件本人と面接し、気に入つたので、事件本人を養育するに適当な住居に移転したうえ一九六七年四月八日事件本人を引き取り以来これを監護養育していること、

(五)  申立人らは、事件本人をフランス民法の認める準正養子(De la legitimation adoptive)にしたい意向をもつていること、

(六)  申立人らは、事件本人を養子とすることを決意した後、養子縁組の手続を社会福祉法人日本国際社会事業団に依頼し、同事業団は、事件本人の実母より本養子縁組を承諾する旨の文書をえていること

を認めることができる。

三、上記認定の事実からすると、養親となるべき申立人両名はフランス国籍を有し、養子となるべき事件本人はオーストラリヤ国籍を有しており、本件はいわゆる渉外養子縁組事件であるので、まずその裁判権並びに管轄権について考察すると、申立人らおよび事件本人はいずれも東京都内に住所を有するものと認められるから、本件養子縁組事件については、日本国裁判所が裁判権を有し、かつ、当家庭裁判所にその管轄権があることは、明らかである。

四、次に本件養子縁組の準拠法について考察すると、法例第一九条第一項によれば、養子縁組の要件については、各当事者につきその本国法によるべきものであるから、本件養子縁組は、養親となるべき申立人らについてはフランス法が、養子となるべき事件本人についてはオーストラリヤ法が、それぞれ適用されることになる。

よつて、本件養子縁組の要件をフランス法およびオーストラリヤ法によつて審査する。

(一)  申立人らは、事件本人を準正養子(De la legitimation adoptive)にしたい意向を有して有ること、前記認定のとおりであるが、フランス民法は一九六六年の改正法によつて、従前の普通養子、血縁断絶養子および準正養子の類別を廃し、新たに完全養子(De l'

そしてオーストラリヤ未成年者養子縁組法(一九五八年九月三〇日未成年者の養子縁組に関する法を統合する法律第一条ないし第二〇条)も未成年者の養子縁組を認めており、これは、フランス民法の完全養子とほぼ同一のものと解せられるので、本件養子縁組を成立させることが可能である。

(二)  また、未成年者養子縁組の成立には、フランス民法(第三五三条ないし第三五四条)も、オーストラリヤ未成年者養子縁組法(第四条ないし第一一条)も、ともに裁判所の養子決定を要するのであるが、この養子縁組のため裁判所の養子決定を要するかどうかの問題は、養親たるべき者の側、養子たるべき者の側双方に関する成立要件であるから、上記の如く、養親たるべき者がフランス人、養子たるべき者がオーストラリヤ人である本件養子縁組については、フランス民法とオーストラリヤ未成年者養子縁組法によつて裁判所の養子決定が必要であると解される。そしてフランス民法およびオーストラリヤ未成年者養子縁組法の要求する裁判所の養子決定と、日本国民法の要求する家庭裁判所の許可審判とは、法制上異なる面をもつことは否定できないが、養子縁組が未成年者の福祉に合致するものであるか否か、および、実体法の要求する各要件を充足するものであるかどうかを審査する機能を営む点においては大差がないのであるから、フランス民法およびオーストラリヤ未成年者養子縁組法の要求する裁判所の養子決定は、日本国においては、家庭裁判所の許可審判をもつて代用しうるものと解され、したがつて当裁判所は本件養子縁組については、家事審判法第九条甲類第七号によつて有する未成年者養子縁組に対する許可の審判権限の類推適用によつて、許可、不許可を決することができるものと解する。

(三)  次に、フランス民法は、養親は養子よりも一五歳以上年長でなければならないとし、(同法第三四四条第一項)またオーストラリヤ未成年者養子縁組法は、養親は養子よりも二一歳以上年長でなければならないとしている(同法第五条)。この点も、養親たるべき者の側、養子たるべき者の側双方に関する成立要件と解され、養子たるべき者がオーストラリヤ国人である本件養子縁組については、結局より厳格な年齢差を要求するオーストラリヤ養子縁組法の養親は養子より二一歳年長という要件を充たすことが必要となるが、本件においては、前記二において認定した如く、養子たるべき事件本人が一〇ヵ月、養親たるべき者の一方が三六歳他方が三二歳であるので、この要件を充たしていることは明らかである。

(四)  また、フランス民法は、養親たるべき者の年齢要件として、一般に三五歳以上であることを要し(同法第三四三条第一項)養親が婚姻後五年を経た別居していない夫婦である場合には、少なくともその一方が三〇歳以上であることを要するものとしている(同法第三四三条、第三四三条の一)のに対し、オーストラリヤ未成年者養子縁組法は、養親が二五歳以上であることを要するものとしている(同法第五条)。

この要件は、専ら養親たるべき者に関する要件であると解されるので、養親たるべき者がいずれもフランス国人である本件養子縁組については、フランス民法により一般に養親は三五歳以上、婚姻後五年を経た別居していない夫婦であれば、少くともその一方が三〇歳以上であることを要することになるが、前記二において認定した如く、本件養子縁組の養親の一方は三六歳、他方が三二歳であり、養親は婚姻後一一年余を経た別居していない夫婦であり、いずれも三〇歳を超えているから、この要件をも充足していることは明らかである。

(五)  次に、フランス民法は、養子たるべき者について、父母または親族会が当該養子縁組に有効な同意を与えているか、国の被後見人(孤児)であるか、または同法第三五〇条の定める要件にしたがつて裁判所によつて遺棄された子と認定された子であること(同法第三四七条)および原則として一五歳未満で、少くとも六ヵ月前後養親たるべき者の家庭に収養されていること(同法三四五条第一項)を要求しているのに対し、オーストラリヤ未成年者養子縁組法は、未成年者(二一歳未満)であるか、成年者でも事実上の養子として幼時から育てられた者であつて(同法第四条第二項)、親や後見人等の同意のあること(同法第五条第一項)のみを要求している。しかしながら、この要件は、養子たるべき者の側および養親たるべき者の側双方の要件と解されるので、より厳格な要件を規定するフランス法によるべきであるが、前記二において認定した如く、本件養子縁組については、養子たるべき事件本人は年齢一〇ヵ月で、しかも六ヵ月以上既に申立人ら夫婦の家庭において収養されており、またその実母が養子縁組について有効な同意を与えているので、この要件をも充足している。

五、以上、フランス民法およびオーストラリヤ未成年者養子縁組法によつて審査するに、申立人らが事件本人を養子とすることに妨げとなるべき事情はなく、しかも本件養子縁組の成立は、前記二において認定した事実に徴し、かつ、社会福祉法人日本国際社会事業団作成の家庭調査報告書および家庭裁判所調査官寺戸由紀子の調査報告書によつて、事件本人の福祉に合致するものと認められ、本件申立は理由があるので、これを許可することとし、主文のとおり審判する次第である。

なお、養親の本国法たるフランス民法第三五七条(完全養子縁組の効果に関する規定)によると、完全養子縁組は、養子に養親の氏を、夫婦双方の養子縁組の場合には、夫の氏を付与するものであり、したがつて、本件養子縁組の結果、事件本人は当然に申立人ジャン・ポール・ルナン氏のルナン(Renan)を称することになるので、この旨を明らかにするため、とくに主文においてその旨を掲記することとした。

(家事審判官 沼辺愛一)

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